外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ

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第47話:ざまぁのはじまり

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国王陛下が高らかに褒賞を約束したその瞬間、中庭の空気は祝祭のような熱気に包まれた。
貴族たちは、我先にと私とアシュレイ様を称賛し、新たな『聖女』の誕生に沸き立っている。その熱狂の渦の中で、完全に忘れ去られた二つの影があった。
姉のイザベラと、第二王子エドワード。
彼らは、中庭の隅で、まるで自分たちだけが見えない壁に隔てられたかのように、孤立して立ち尽くしていた。
イザベラの顔からは血の気が失せ、その美しい顔立ちは憎悪と信じられないという驚愕で醜く歪んでいた。エドワード王子もまた、握りしめた拳をわなわなと震わせ、目の前で繰り広げられる私への賞賛の嵐を、屈辱に満ちた目で見つめている。
彼らが私を貶めるために用意した舞台は、皮肉にも、私を最高位へと押し上げ、彼ら自身を奈落の底へと突き落とす断頭台へと変わってしまったのだ。

国王は、満足げに貴族たちの熱狂を見渡した後、再び私に向き直った。しかし、その視線は私の背後、呆然と立ち尽くすイザベラとエドワードの方へと、鋭く向けられた。
「……して」
国王の声は、先ほどまでの賞賛の色とは打って変わり、氷のように冷たい響きを帯びていた。
「先ほど、リナリア嬢の奇跡を妨げようとした者たちがいたな」
その一言で、広間の熱気は急速に冷え、再び緊張に満ちた静寂が訪れた。全ての視線が、イザベラとエドワードへと突き刺さる。
「イザベラ・エルフィールド、そして我が息子エドワードよ。前に出よ」
拒否することなど許されない、絶対的な王の命令。
二人は、まるで罪人のように、おずおずと国王の前へと進み出た。その足取りは、先ほどまでの傲慢さが嘘のように、力なく、覚束ない。
「そなたたちは、リナリア嬢の力を『不浄』と呼び、その奇跡を『まがいもの』と断じた。……その言葉、今ここで、改めて申してみよ」
国王の問いは、静かだったが、その奥には燃えるような怒りが秘められていた。国の秘宝を蘇らせた聖女を、公衆の面前で侮辱したのだ。それは、王家そのものへの反逆と受け取られても仕方のない行為だった。
エドワード王子は、完全に狼狽していた。王族としてのプライドもかなぐり捨て、ただ父の怒りの前に震え上がるばかりだった。
「ち、父上……! あれは、その……」
しどろもどろになり、何も言い訳の言葉が出てこない。
その情けない姿に、現実を受け入れられないイザベラが、ついに堪忍袋の緒を切らした。
「ありえないわ!」
金切り声に近い、ヒステリックな叫びが中庭に響き渡った。彼女は、もはや猫を被っている余裕などなかった。その美しい顔を憎悪に歪め、私を指さして叫ぶ。
「こんなこと、あるはずがない! この女は、出来損ないなのよ! 私の、エルフィールド家の恥だったはずなの! そんな女が、聖女ですって!? 冗談も大概にして!」
そのあまりの剣幕と、品性の欠片もない言葉遣いに、周囲の貴族たちはドン引きし、侮蔑的な視線を彼女に向け始めた。
「まあ、イザベラ様ったら……」
「なんてお下品な……」
「ご自分の妹君に対して、出来損ないと……」
これまで彼女をちやほやしていた令嬢たちでさえ、扇子で口元を隠し、軽蔑の目で彼女を見ている。
しかし、狂乱状態に陥ったイザベラには、もはや周囲の視線など見えていなかった。
「私の【祝福】こそが、本物の奇跡を起こす力! こんな……こんな壊れ物拾いの汚い力なんて、まがいものに決まっているわ!」
彼女はそう叫ぶと、自らのスキルを発動させ、手のひらからキラキラとした光の粒子を放った。しかし、蘇った世界樹が放つ神々しいオーラの前では、その光はまるで、太陽の前の蝋燭の灯火のように、あまりにもちっぽけで、空しく見えた。
その醜態は、彼女の破滅を決定的にした。
貴族たちの囁き声が、もはや隠しようもない侮蔑の色を帯びて広がっていく。
「……嫉妬、ですわね。ご自分の妹君の才能に対する、見苦しい嫉妬」
「あのような方が、第二王子妃に……? 王家の品位が疑われますわ」
「エドワード王子も、婚約者のあのような姿を、ただ見ているだけとは……。なんとも、お情けない」
エドワード王子は、イザベラの暴走と、周囲からの冷たい視線に挟まれ、顔面蒼白のまま、ただ立ち尽くすことしかできなかった。彼が今まで築き上げてきた、優雅で聡明な王子という虚像が、音を立てて崩れ落ちていく。
私は、その光景を、ただ静かに見つめていた。
もう、彼らの言葉は、私の心には届かない。
哀れだった。自分たちが積み上げてきた地位やプライドが、いかに脆い砂上の楼閣であったか。その事実を突きつけられ、現実から目を背け、ただ喚き散らすことしかできない二人の姿は、ひどく、滑稽で、そして哀れだった。
私の隣に立つアシュレイ様は、その醜態に一瞥をくれただけで、あとは全く興味がないというように、ただ私のことだけを気遣わしげに見守っている。
国王陛下は、イザベラの狂乱と、息子の情けない姿に、深く、深く失望のため息をついた。その目には、もはや怒りを通り越し、冷え冷えとした侮蔑の色が浮かんでいる。
ざまぁの鐘は、今、高らかに鳴り響いた。
彼らが自分たちの手で掘った墓穴へと、自ら転がり落ちていく。その始まりを、中庭にいた全ての者たちが、固唾をのんで見守っていた。
蘇った世界樹から放たれる甘い香りが、なぜか、彼らの未来を嘲笑っているかのように、中庭に満ちていた。
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