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第48話:『国の宝』
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イザベラのヒステリックな叫び声が虚しく響き渡った後、中庭には気まずい沈黙だけが残された。彼女の狂乱は、自らの価値を地に貶め、そして婚約者であるエドワード王子の評価をも決定的に失墜させた。
国王アルフォンス三世は、その醜態を冷え切った目で見つめていたが、やがて威厳を取り戻すと、厳かな声で断罪の言葉を紡ぎ始めた。
「……もうよい。聞き苦しい」
その一言で、イザベラの叫びはぴたりと止んだ。彼女は、父である国王の、これまでにない冷徹な視線に射抜かれ、ようやく自分が犯した過ちの大きさに気づいたように、はっと息をのんだ。
「イザベラ・エルフィールド。そなたは、王族の前で礼節を欠き、聖女リナリアを公衆の面前で侮辱した。その罪、決して軽くない。エルフィールド伯爵共々、追って沙汰を下す。それまで、自邸にて謹慎しているがよい」
それは、事実上の勘当宣告に等しかった。イザベラの顔から血の気が失せ、その場にへなへなと崩れ落ちそうになるのを、侍女が慌てて支える。
次に、国王の視線は、震えながら立ち尽くす我が息子、エドワードへと向けられた。
「エドワード。そなたにも失望した。婚約者の暴走を諫めることもできず、あまつさえその愚行に加担しようとするとは。王族たる者の資格を疑うぞ」
「ち、父上……! 私は、ただ……」
「言い訳は聞かぬ!」
国王は、雷鳴のような声で一喝した。
「そなたとイザベラ嬢との婚約は、これをもって白紙に戻す。そなたも、追って沙汰があるまで、自室にて謹慎を命じる!」
婚約破棄。
その言葉は、エドワードとイザベラにとって、最後のとどめとなった。彼らがこれまで拠り所としてきた、未来の国王と王妃という地位が、今、完全に失われたのだ。
衛兵に両脇を固められ、罪人のように連行されていく二人の姿を、貴族たちは冷ややかな目で見送っていた。同情する者は、一人もいなかった。
嵐のような断罪劇が終わり、中庭には再び静寂が戻った。国王は、疲れたように息をつくと、改めて私とアシュレイ様の方へと向き直った。その表情は、先ほどまでの厳しさが嘘のように、穏やかで、そしてどこか申し訳なさそうな色を浮かべていた。
「リナリア嬢、そしてアシュレイ公爵。我が息子と、エルフィールド家の娘が、大変な無礼を働いた。この国の王として、心から詫びる」
国王自らが、深々と頭を下げようとする。
「陛下! おやめください!」
アシュレイ様が、慌ててそれを制した。
「陛下がお気になさることではございません。愚かな者たちの戯言、我々は少しも意に介しておりませんので」
その言葉に、国王は安堵したように顔を上げた。そして、私に向き直ると、決意を固めたように、力強く宣言した。
「リナリア・エルフィールドよ。そなたは、もはや単なる伯爵令嬢ではない。その奇跡の力は、この国にとって何物にも代えがたい『宝』である」
国の宝。そのあまりにも大きな称号に、私は戸惑いを隠せない。
「よって、本日この時をもって、そなたをエルフィールド伯爵家から完全に除籍し、王家の直接の庇護下に置くことを、ここに宣言する!」
国王のその言葉に、広間は再び大きな驚きのどよめきに包まれた。
伯爵家からの除籍。そして、王家の庇護。
それは、私がもはやエルフィールド家の道具ではなく、国王陛下直属の、特別な存在として認められたことを意味していた。
「今後は、王家の養女として、そなたに相応しい地位と待遇を約束しよう。そして、そなたのその力を、我が国と民のために役立ててくれることを、切に願う」
国王の言葉は、私に対する最大限の敬意と、そして庇護の約束だった。
しかし、その言葉の裏に隠された、もう一つの意味に気づいたのは、アシュレイ様だけだったかもしれない。
王家の養女となる、ということは。
それは、事実上、私がアイゼンベルク公爵家に嫁ぐための、全ての障害が取り除かれたことを意味していた。国王陛下自らが、私とアシュレイ様の結婚を、公に認める形となったのだ。
アシュレイ様は、完璧なポーカーフェイスを保っていたが、その紫の瞳の奥に、深い満足と喜びの色が浮かんでいるのを、隣にいる私だけは見逃さなかった。彼の計画は、完璧に、そして彼が想像していた以上の形で、成功したのだ。
私は、あまりにも大きな運命の変化に、ただ呆然と立ち尽くしていた。
数週間前まで、私は勘当され、雨の中に打ち捨てられた、孤独な少女だった。
それが今、聖女と呼ばれ、国の宝と称され、王家の庇護を受ける存在になった。
まるで、夢を見ているかのようだった。
けれど、私の腰に回されたアシュレイ様の力強い腕の感触だけが、これが紛れもない現実なのだと、私に教えてくれていた。
「リナリア嬢。改めて、礼を言う。そなたの出現は、我が国にとって、まさに天佑である」
国王は、心からの笑顔で、私にそう告げた。
その言葉を、私は、胸を張って受け止めた。
私の新しい人生が、今、この場所から、高らかに始まったのだ。
蘇った世界樹の若木が、まるで私の未来を祝福するかのように、銀色の葉を風にそよがせ、きらきらと輝いていた。
国王アルフォンス三世は、その醜態を冷え切った目で見つめていたが、やがて威厳を取り戻すと、厳かな声で断罪の言葉を紡ぎ始めた。
「……もうよい。聞き苦しい」
その一言で、イザベラの叫びはぴたりと止んだ。彼女は、父である国王の、これまでにない冷徹な視線に射抜かれ、ようやく自分が犯した過ちの大きさに気づいたように、はっと息をのんだ。
「イザベラ・エルフィールド。そなたは、王族の前で礼節を欠き、聖女リナリアを公衆の面前で侮辱した。その罪、決して軽くない。エルフィールド伯爵共々、追って沙汰を下す。それまで、自邸にて謹慎しているがよい」
それは、事実上の勘当宣告に等しかった。イザベラの顔から血の気が失せ、その場にへなへなと崩れ落ちそうになるのを、侍女が慌てて支える。
次に、国王の視線は、震えながら立ち尽くす我が息子、エドワードへと向けられた。
「エドワード。そなたにも失望した。婚約者の暴走を諫めることもできず、あまつさえその愚行に加担しようとするとは。王族たる者の資格を疑うぞ」
「ち、父上……! 私は、ただ……」
「言い訳は聞かぬ!」
国王は、雷鳴のような声で一喝した。
「そなたとイザベラ嬢との婚約は、これをもって白紙に戻す。そなたも、追って沙汰があるまで、自室にて謹慎を命じる!」
婚約破棄。
その言葉は、エドワードとイザベラにとって、最後のとどめとなった。彼らがこれまで拠り所としてきた、未来の国王と王妃という地位が、今、完全に失われたのだ。
衛兵に両脇を固められ、罪人のように連行されていく二人の姿を、貴族たちは冷ややかな目で見送っていた。同情する者は、一人もいなかった。
嵐のような断罪劇が終わり、中庭には再び静寂が戻った。国王は、疲れたように息をつくと、改めて私とアシュレイ様の方へと向き直った。その表情は、先ほどまでの厳しさが嘘のように、穏やかで、そしてどこか申し訳なさそうな色を浮かべていた。
「リナリア嬢、そしてアシュレイ公爵。我が息子と、エルフィールド家の娘が、大変な無礼を働いた。この国の王として、心から詫びる」
国王自らが、深々と頭を下げようとする。
「陛下! おやめください!」
アシュレイ様が、慌ててそれを制した。
「陛下がお気になさることではございません。愚かな者たちの戯言、我々は少しも意に介しておりませんので」
その言葉に、国王は安堵したように顔を上げた。そして、私に向き直ると、決意を固めたように、力強く宣言した。
「リナリア・エルフィールドよ。そなたは、もはや単なる伯爵令嬢ではない。その奇跡の力は、この国にとって何物にも代えがたい『宝』である」
国の宝。そのあまりにも大きな称号に、私は戸惑いを隠せない。
「よって、本日この時をもって、そなたをエルフィールド伯爵家から完全に除籍し、王家の直接の庇護下に置くことを、ここに宣言する!」
国王のその言葉に、広間は再び大きな驚きのどよめきに包まれた。
伯爵家からの除籍。そして、王家の庇護。
それは、私がもはやエルフィールド家の道具ではなく、国王陛下直属の、特別な存在として認められたことを意味していた。
「今後は、王家の養女として、そなたに相応しい地位と待遇を約束しよう。そして、そなたのその力を、我が国と民のために役立ててくれることを、切に願う」
国王の言葉は、私に対する最大限の敬意と、そして庇護の約束だった。
しかし、その言葉の裏に隠された、もう一つの意味に気づいたのは、アシュレイ様だけだったかもしれない。
王家の養女となる、ということは。
それは、事実上、私がアイゼンベルク公爵家に嫁ぐための、全ての障害が取り除かれたことを意味していた。国王陛下自らが、私とアシュレイ様の結婚を、公に認める形となったのだ。
アシュレイ様は、完璧なポーカーフェイスを保っていたが、その紫の瞳の奥に、深い満足と喜びの色が浮かんでいるのを、隣にいる私だけは見逃さなかった。彼の計画は、完璧に、そして彼が想像していた以上の形で、成功したのだ。
私は、あまりにも大きな運命の変化に、ただ呆然と立ち尽くしていた。
数週間前まで、私は勘当され、雨の中に打ち捨てられた、孤独な少女だった。
それが今、聖女と呼ばれ、国の宝と称され、王家の庇護を受ける存在になった。
まるで、夢を見ているかのようだった。
けれど、私の腰に回されたアシュレイ様の力強い腕の感触だけが、これが紛れもない現実なのだと、私に教えてくれていた。
「リナリア嬢。改めて、礼を言う。そなたの出現は、我が国にとって、まさに天佑である」
国王は、心からの笑顔で、私にそう告げた。
その言葉を、私は、胸を張って受け止めた。
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