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第九十二話 最後の連携
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リリアーナの体が力なく俺の上に倒れ込む。彼女の生命の光が消えたことをその場にいた誰もが悟り、玉座の間は絶望的な静寂に包まれた。
「リリアーナーーーッ!」
カイウスの悲痛な絶叫だけが虚しく響き渡る。彼は崩れ落ちるように駆け寄り、意識のないリリアーナの体を抱きかかえた。その顔は蒼白だった。
「嘘だ……こんなこと、あっていいはずがない……!」
彼は震える手でリリアーナの頬に触れる。その肌は氷のように冷たかった。
だが、その絶望の底で一つの小さな奇跡が起きていた。
俺の胸がゆっくりと、しかし確かに上下し始めたのだ。
「……ん……」
俺の口からかすかな呻きが漏れる。そして、重い瞼をゆっくりと押し上げた。
ぼやけた視界に最初に映ったのは、涙を流しながら俺を見下ろすカイウスの顔だった。
「……アレン……君……」
「……うるさいな……王子様……。人が気持ちよく……眠っているところを……」
俺は掠れた声で悪態をついた。
その言葉に、父が、兄たちが、そしてセラが、安堵と驚愕の入り混じった表情を浮かべる。
俺は生きていた。リリアーナの命を懸けた祈りによって、死の淵から引き戻されたのだ。
俺はゆっくりと上半身を起こした。全身が鉛のように重く、まだ力は完全には戻っていない。だが、魂は確かにこの肉体へと繋ぎ止められていた。
そして俺の目に、カイウスの腕の中でぐったりとしているリリアーナの姿が映った。
その瞬間、俺の中で何かが激しく燃え上がった。
それは怒りだった。
この状況を作り出した全ての元凶に対する。そして何より、彼女にこれほどの犠牲を強いた自分自身の不甲斐なさに対する、どうしようもない怒りだった。
俺はよろめきながら立ち上がった。
「……まだだ」
俺の声は低く、そして冷たかった。
「まだ何も終わっていない」
俺の視線は、玉座の間の一点へとまっすぐに注がれていた。
そこには、カイウスの剣によって亀裂が入り、俺とリリアーナの力の衝突によって半壊しながらも、未だに邪悪な活動を止めない黒曜石の祭壇の残骸があった。
祭壇は魔人ゲルハルトという器を失ってもなお、この魔城の心臓部として脈動を続け、旧き神の混沌としたエネルギーをこの世界へと漏出させ続けている。リリアーナが倒れたのも、この邪悪な力の奔流が彼女の聖なる力を蝕んだからだ。
あれを完全に破壊しない限り、この悲劇は終わらない。
「……カイウス」
俺は初めて彼の名を呼んだ。敵としてではなく、共闘者として。
「……立てるか」
カイウスはリリアーナの亡骸を抱きしめたまま、虚ろな目で俺を見上げた。
「……立って何になる。リリアーナは、もう……」
「まだだと言っているだろう!」
俺は叫んだ。
「彼女の祈りを、彼女の命を無駄死にさせる気か! お前がここで立ち止まることを、彼女が望むとでも思っているのか!」
俺の言葉は刃となってカイウスの心を突き刺した。
「彼女を救う方法は、まだ一つだけ残されている!」
俺は祭壇の残骸を指差した。
「あれを完全に破壊する! あれこそがこの世界と、旧き神が眠る異界とを繋ぐ『門』だ! あの門を完全に閉じればこの魔城は崩壊し、リリアーナの魂を蝕む呪いも解けるはずだ! そうすれば……まだ間に合うかもしれん!」
それは何の確証もない俺の推測に過ぎなかった。だが、それが唯一残された希望の糸だった。
俺の言葉に、カイウスの虚ろだった瞳にわずかな光が宿った。
彼はリリアーナの体をそっと床に横たえると、震える足でゆっくりと立ち上がった。
そして炎の剣を再びその手に握りしめる。
「……どうすればいい」
彼の声にはまだ深い悲しみが滲んでいたが、その奥に王子としての最後の闘志が再び燃え上がっていた。
俺はカイウスの隣に立った。そして祭壇の残骸を二人で見据える。
「……俺が道をこじ開ける」
俺は残された最後の魔力と生命力を振り絞った。
再び『影ノ領域』を展開するほどの力はもう残っていない。だが、俺にはまだやるべきことがある。
俺の足元から無数の影の触手が蛇のように伸びていった。それは祭壇の残骸に絡みつき、その表面を覆う邪悪な魔力の障壁を無理やりこじ開けようとする。
ミシミシと空間が軋む音がする。
「ぐっ……おおおおっ!」
俺の全身から血が噴き出す。魂を直接削るような激しい苦痛。
だが、俺は歯を食いしばり耐えた。
そしてついに、影の触手が障壁にわずかな亀裂を生み出した。
それは人が一人通れるかどうかという、ほんの小さな隙間。
「――今だ、カイウス!」
俺は絶叫した。
「行けぇぇぇぇぇぇぇっ!」
その声がカイウスの最後の引き金を引いた。
彼は迷いを振り払うように雄叫びを上げた。
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
彼の全身が黄金色のオーラに包まれる。それは王家に伝わる生命力を力に変換する最後の秘術。
彼の炎の剣はもはや炎ではない、太陽そのものと見紛うほどの純粋な光の塊と化していた。
カイウスは光の流星となって、俺がこじ開けた闇の道へと突撃した。
父が、兄たちが、セラが、そして生き残った全ての者たちが固唾を飲んでその光景を見守っていた。
光と影。
王子と悪役。
二人の最後の連携。
それがこの帝国の、そしてリリアーナの運命を決定づける最後の一撃となる。
カイウスの光の剣が祭壇の核へと吸い込まれるように突き刺さっていった。
「リリアーナーーーッ!」
カイウスの悲痛な絶叫だけが虚しく響き渡る。彼は崩れ落ちるように駆け寄り、意識のないリリアーナの体を抱きかかえた。その顔は蒼白だった。
「嘘だ……こんなこと、あっていいはずがない……!」
彼は震える手でリリアーナの頬に触れる。その肌は氷のように冷たかった。
だが、その絶望の底で一つの小さな奇跡が起きていた。
俺の胸がゆっくりと、しかし確かに上下し始めたのだ。
「……ん……」
俺の口からかすかな呻きが漏れる。そして、重い瞼をゆっくりと押し上げた。
ぼやけた視界に最初に映ったのは、涙を流しながら俺を見下ろすカイウスの顔だった。
「……アレン……君……」
「……うるさいな……王子様……。人が気持ちよく……眠っているところを……」
俺は掠れた声で悪態をついた。
その言葉に、父が、兄たちが、そしてセラが、安堵と驚愕の入り混じった表情を浮かべる。
俺は生きていた。リリアーナの命を懸けた祈りによって、死の淵から引き戻されたのだ。
俺はゆっくりと上半身を起こした。全身が鉛のように重く、まだ力は完全には戻っていない。だが、魂は確かにこの肉体へと繋ぎ止められていた。
そして俺の目に、カイウスの腕の中でぐったりとしているリリアーナの姿が映った。
その瞬間、俺の中で何かが激しく燃え上がった。
それは怒りだった。
この状況を作り出した全ての元凶に対する。そして何より、彼女にこれほどの犠牲を強いた自分自身の不甲斐なさに対する、どうしようもない怒りだった。
俺はよろめきながら立ち上がった。
「……まだだ」
俺の声は低く、そして冷たかった。
「まだ何も終わっていない」
俺の視線は、玉座の間の一点へとまっすぐに注がれていた。
そこには、カイウスの剣によって亀裂が入り、俺とリリアーナの力の衝突によって半壊しながらも、未だに邪悪な活動を止めない黒曜石の祭壇の残骸があった。
祭壇は魔人ゲルハルトという器を失ってもなお、この魔城の心臓部として脈動を続け、旧き神の混沌としたエネルギーをこの世界へと漏出させ続けている。リリアーナが倒れたのも、この邪悪な力の奔流が彼女の聖なる力を蝕んだからだ。
あれを完全に破壊しない限り、この悲劇は終わらない。
「……カイウス」
俺は初めて彼の名を呼んだ。敵としてではなく、共闘者として。
「……立てるか」
カイウスはリリアーナの亡骸を抱きしめたまま、虚ろな目で俺を見上げた。
「……立って何になる。リリアーナは、もう……」
「まだだと言っているだろう!」
俺は叫んだ。
「彼女の祈りを、彼女の命を無駄死にさせる気か! お前がここで立ち止まることを、彼女が望むとでも思っているのか!」
俺の言葉は刃となってカイウスの心を突き刺した。
「彼女を救う方法は、まだ一つだけ残されている!」
俺は祭壇の残骸を指差した。
「あれを完全に破壊する! あれこそがこの世界と、旧き神が眠る異界とを繋ぐ『門』だ! あの門を完全に閉じればこの魔城は崩壊し、リリアーナの魂を蝕む呪いも解けるはずだ! そうすれば……まだ間に合うかもしれん!」
それは何の確証もない俺の推測に過ぎなかった。だが、それが唯一残された希望の糸だった。
俺の言葉に、カイウスの虚ろだった瞳にわずかな光が宿った。
彼はリリアーナの体をそっと床に横たえると、震える足でゆっくりと立ち上がった。
そして炎の剣を再びその手に握りしめる。
「……どうすればいい」
彼の声にはまだ深い悲しみが滲んでいたが、その奥に王子としての最後の闘志が再び燃え上がっていた。
俺はカイウスの隣に立った。そして祭壇の残骸を二人で見据える。
「……俺が道をこじ開ける」
俺は残された最後の魔力と生命力を振り絞った。
再び『影ノ領域』を展開するほどの力はもう残っていない。だが、俺にはまだやるべきことがある。
俺の足元から無数の影の触手が蛇のように伸びていった。それは祭壇の残骸に絡みつき、その表面を覆う邪悪な魔力の障壁を無理やりこじ開けようとする。
ミシミシと空間が軋む音がする。
「ぐっ……おおおおっ!」
俺の全身から血が噴き出す。魂を直接削るような激しい苦痛。
だが、俺は歯を食いしばり耐えた。
そしてついに、影の触手が障壁にわずかな亀裂を生み出した。
それは人が一人通れるかどうかという、ほんの小さな隙間。
「――今だ、カイウス!」
俺は絶叫した。
「行けぇぇぇぇぇぇぇっ!」
その声がカイウスの最後の引き金を引いた。
彼は迷いを振り払うように雄叫びを上げた。
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
彼の全身が黄金色のオーラに包まれる。それは王家に伝わる生命力を力に変換する最後の秘術。
彼の炎の剣はもはや炎ではない、太陽そのものと見紛うほどの純粋な光の塊と化していた。
カイウスは光の流星となって、俺がこじ開けた闇の道へと突撃した。
父が、兄たちが、セラが、そして生き残った全ての者たちが固唾を飲んでその光景を見守っていた。
光と影。
王子と悪役。
二人の最後の連携。
それがこの帝国の、そしてリリアーナの運命を決定づける最後の一撃となる。
カイウスの光の剣が祭壇の核へと吸い込まれるように突き刺さっていった。
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