「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ

文字の大きさ
69 / 97

第71話:我が家の前に行列が

しおりを挟む
商業ギルドによるカーム村の観光地化計画は、恐るべき速さで進行した。
街道が整備され、乗り合い馬車が運行を開始すると、今まで辺境として忘れ去られていたこの村に、大陸中から人々が押し寄せるようになった。
ある者は聖人の奇跡にあやかろうとする敬虔な巡礼者。
ある者は伝説の英雄を一目見ようとする好奇心旺盛な若者。
そして、ある者はこの一大ブームに乗じて一儲けしようとする、抜け目のない商人たち。

カーム村は、その姿を急速に変えていった。
村の入り口には小綺麗な宿屋や食堂が次々と建ち並び、昼夜を問わず活気(あるいは喧騒)に満ち溢れるようになった。村人たちの中には、この急な変化に戸惑いながらも、観光客相手に自家製の野菜や工芸品を売り、思わぬ収入を得て喜ぶ者も現れ始めた。
村は豊かになっていた。だが同時に、かつてのあの穏やかで静かな空気は日に日に失われていった。

そして、その変化の矛先は、ついに俺の聖域であるはずの丘の上の我が家へと向けられた。

その日の朝。
俺がいつものように鳥のさえずりで目を覚まし、寝ぼけ眼のまま家の扉を開けた時。
俺は、目の前の光景を信じることができなかった。

我が家の、目の前に。
行列ができていた。

その列は俺の家の玄関前から始まり、丘の下の土産物屋まで長蛇の列となって続いていた。
列をなしているのは、見知らぬ顔、顔、顔。
彼らは皆、何かを期待するようなキラキラとした目で、俺の家を、そして扉から出てきた俺自身を食い入るように見つめている。

「……なんだ、これは」

俺の口から掠れた声が漏れた。
すると、行列の先頭にいた恰幅の良い男が、代表するように一歩前に出た。その手には商業ギルドが発行したらしい「聖地カーム村観光ツアー」と書かれたパンフレットが握られている。

「おお! 出られましたぞ! 聖人アラン様だ!」
男が叫ぶと、行列からわっと歓声が上がった。

「アラン様! 一目お会いしとうございました!」
「どうか、我が息子の病を癒す奇跡の御力を…!」
「アラン様が作ったという、あの伝説のスープを一口だけでも…!」

人々は口々に願い事を叫び、俺に向かって手を合わせた。
俺は、その異様な光景に完全に思考が停止した。
これは悪夢か?
俺はまだ寝ているのか?

状況を飲み込めずにいる俺の横から、ひょっこりとツアーガイドらしき男が現れた。
彼はメガホンもどきの筒を口に当て、大声で説明を始めた。
「はい、皆様、お静かに! こちらが聖人アラン様がお住まいになられている聖なる庵でございます! そして今、皆様の目の前におわすのがご本人、アラン様でございます!」

パシャッ、パシャッ、と、どこからか魔術式の記録水晶(カメラのようなもの)で撮影するような閃光が焚かれる。

「なお、アラン様は現在、瞑想による修行の真っ最中でございますので、直接お言葉を交わすことはご遠慮ください! 皆様にはアラン様が日々、聖なる農作業に勤しんでおられる、こちらの『奇跡の畑』を遠くからご見学いただきます!」

ガイドの男は俺の存在などお構いなしに、勝手に説明を進めていく。
観光客たちは、「おお…」「あれが、伝説の…」と感嘆の声を漏らしながら、俺が毎日汗水流して耕しているただの畑を、ありがたそうに眺め始めた。

俺は怒りを通り越して、もはや虚無感しか感じなかった。
俺の家は、見世物小屋になった。
俺の畑は、観光名所になった。
そして、俺自身は喋ることも許されない展示物になったのだ。

俺は無言で踵を返し、家の中へと戻った。
そして、力強く扉を閉めた。
ドン! という大きな音が俺の無言の抗議だった。

だが、そんな俺の抵抗など商業ギルドの計画の前では無力だった。
外からはまだガイドの男の能天気な声が聞こえてくる。
「はい、では、皆様! この後は麓にございます土産物屋『カーム堂』にて、ここでしか手に入らない聖人アラン様公認グッズのお買い物をお楽しみください! 特に、限定生産の『アラン様御神体フィギュア(ゴールドバージョン)』は数に限りがございますので、お早めに!」

俺は頭を抱えて、その場に蹲った。
壁に寄りかかると、ひんやりとした木の感触が俺の絶望を少しだけ和らげてくれた。

その日の午後。
俺が家の窓から恐る恐る外の様子を窺うと、行列はさらに長くなっていた。
そして、俺は信じられないものを見てしまった。
土産物屋の前で、昨日俺が子供たちのために作ったただの木彫りの小鳥が、一個銀貨五枚という、とんでもない値段で売られていたのだ。
しかも、「アラン様が聖なる魂を込めた、幸運の使い」というふざけたキャッチコピー付きで。

そして、あろうことか、それが飛ぶように売れている。
俺は本気で、この村からの引っ越しを考え始めた。
もう、ここも俺の安住の地ではないのかもしれない。

俺の平穏なスローライフは、金儲けを企む者たちの手によって完全に破壊された。
そこにあるのは観光客の喧騒と、金勘定の音と、そして全く似ていない俺の似顔絵が描かれた安っぽい土産物だけ。

俺は窓の外の喧騒から逃れるように、耳を塞いだ。
だが、心の奥底で何かがぷつりと切れる音がしたのを、確かに聞いていた。
俺の我慢も、そろそろ限界に近づいていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ
ファンタジー
「役立たず」の烙印を押され、パーティを追放されたアルフォンス。彼のスキルは戦闘に不向きな【土いじり】。失意の彼は都会を離れ、辺境の地で静かに農業を営むことを決意する。 しかし、彼が畑を耕すと、そこから不思議なダンジョンが生えてきた! ダンジョン内では、高級ポーションになる薬草や伝説の金属『オリハルコン』が野菜のように収穫できる。地味だと思われた【土いじり】は、実はこの『農園ダンジョン』を育てる唯一無二のチートスキルだったのだ。 噂を聞きつけ集まる仲間たち。エルフの美少女、ドワーフの天才鍛冶師……。気づけば彼の農園は豊かな村へ、そして難攻不落の要塞国家へと発展していく。 一方、彼を追放したパーティは没落の一途を辿り……。 これは、追放された男が最強の生産職として仲間と共に理想郷を築き上げる、農業スローライフ&建国ファンタジー!

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

実家の裏庭がダンジョンだったので、口裂け女や八尺様に全自動で稼がせて俺は寝て暮らす〜元社畜のダンジョン経営〜

チャビューヘ
ファンタジー
過労死寸前でブラック企業を辞めた俺が手に入れたのは、祖父の古民家と「ダンジョン経営システム」だった。 しかもバグで、召喚できるのは「口裂け女」「八尺様」「ターボババア」など日本の怪異だけ。 ……最高じゃないか。物理無効で24時間稼働。これぞ究極の不労所得。 元SEの知識でシステムの穴を突き、怪異たちに全自動でダンジョンを回させる。 ゴブリンは資源。スライムは美容液の原料。災害は全て収益に変換する。 「カイトさん、私……きれい?」 「ああ。効率的で、機能美すらある」 「……褒めてる?」 「褒めてる」 口裂け女は俺の言葉で即落ちした。チョロい。だがそれでいい。 ホワイト待遇で怪異を雇い、俺は縁側で茶をすする。 働いたら負け。それが元社畜の結論だ。 これは、壊れた男と健気な怪異たちが送る、ダンジョン経営スローライフの物語。

なんとなく歩いてたらダンジョンらしき場所に居た俺の話

TB
ファンタジー
岩崎理(いわさきおさむ)40歳バツ2派遣社員。とっても巻き込まれ体質な主人公のチーレムストーリーです。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

処理中です...