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第90話:ゼノンの側近たち
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第三階層、闘技場。
俺とセレスティアの、連携による反撃は、着実に成果を上げていた。
一体、また一体と、強化兵士たちが、機能を停止し、その巨体を床に沈めていく。
俺が、その圧倒的な回避能力で敵の注意を引きつけ、陣形を乱す。そして、セレスティアが、その乱れの最も弱い一点を、的確な投擲術と剣技で突き崩す。
その完璧なコンビネーションの前に、思考能力を持たない殺戮機械の群れは、もはやただの的でしかなかった。
「…最後の一体」
セレスティアの、冷静な声が響く。
最後の強化兵士が、俺のナイフによって脳幹を貫かれ、その動きを止めた時、闘技場には、死体ともガラクタともつかない、黒い鎧の山だけが残されていた。
俺たちの体には、傷一つない。
だが、その呼吸は、荒く、乱れていた。
強化兵士団との戦いは、体力よりも、精神力を、極限まで消耗させる戦いだったからだ。
「…少し、休みましょう」
セレスティアが、壁に寄りかかりながら、か細い声で言った。
俺も、それに頷き、その場に座り込んだ。
水筒の水を一口飲み、乾いた喉を潤す。
(…厄介な番犬だったな)
俺は、倒れた強化兵士たちを見渡した。
ゼノンは、こんなものを三十体も用意していたのか。その狂気と、執念に、改めて戦慄を覚えた。
そして、この先に待ち受ける、彼の側近たち。
四天王。
その実力は、この強化兵士団を、遥かに上回るはずだ。
短い休息の後、俺たちは再び立ち上がった。
闘技場の奥には、第四階層へと続く、新たな螺旋階段が、不気味な口を開けている。
俺たちが、その階段へと足を踏み入れようとした、その時だった。
どこからともなく、甲高い、拍手の音が響き渡った。
乾いた、相手を嘲笑うかのような、不快な音だった。
俺とセレスティアは、弾かれたように身構え、音のした方向を睨みつけた。
階段の入り口、その両脇の闇の中から、二つの人影が、ゆっくりと姿を現したのだ。
一人は、幻惑的な仮面をつけた、妖艶な女魔術師。
『幻惑』のイリヤ。俺たちが第二階層で遭遇した(ことになっている)門番だ。
そして、もう一人は、疾風の名にふさわしい、鋭く、研ぎ澄まされた気配を放つ、忍びのような装束に身を包んだ、小柄な男。
『疾風』のジン。
彼らこそが、黄昏の蛇の頂点に君臨する、四天王のうち、ボルガとサイラスを除いた、残る二人。
ゼノンの、最強の側近たちだった。
「お見事ですわ、『神の影』。そして、組織の裏切り者、セレスティア」
イリヤが、扇子で口元を隠しながら、くすくすと笑った。
「まさか、わたくしたちの可愛い番犬たちを、こうもあっさりと片付けてしまうなんて。ゼノン様も、さぞお喜びでしょう」
「だが、遊びはここまでだ」
ジンが、短く、そして鋭く言った。その声は、風切り音のように、冷たい。
「この先へは、一歩も通さん。この俺たちを、倒さない限りはな」
二人の幹部が、同時に、俺たちの前に立ちはだかった。
その威圧感は、強化兵士団の比ではなかった。
一人一人が、ガレスや、マーカスに匹敵、あるいはそれ以上の実力を持っているであろうことが、肌で感じられた。
(…最悪のタイミングだな)
俺は、内心で舌打ちした。
強化兵士団との戦いで消耗した、このタイミングで、最強の門番が二人同時に現れるとは。
これも、ゼノンの計算の内なのか。
セレスティアが、俺の隣で、長剣を構え直した。その額には、脂汗が滲んでいる。
「…先輩。ここは、私が」
彼女は、俺を先に行かせるために、一人で二人を相手にするつもりらしかった。
だが、俺は、その肩を、軽く手で制した。
「無茶を言うな。お前一人では、十秒も持たん」
「しかし!」
俺は、二人の四天王を、冷静に観察していた。
幻術師と、暗殺者。
タイプの全く違う、厄介な組み合わせだ。
正面から、二人同時に相手をするのは、得策ではない。
ならば、やるべきことは、一つ。
分断する。
そして、各個撃破する。
俺は、セレスティアの耳元で、囁くように、短く作戦を伝えた。
「…セレスティア。お前の相手は、あの女だ」
「イリヤを…ですか?」
「ああ。幻術師相手に、俺の直接攻撃は、相性が悪い。だが、お前なら、勝機がある。お前の武器は、剣じゃない。その頭脳と、情報だ。心理戦に持ち込め。相手の幻術を、逆手にとって、その精神を揺さぶれ」
「…分かりました。やってみます」
セレスティアの瞳に、覚悟の光が宿った。
「では、先輩は…」
「俺の相手は、あっちだ」
俺の視線は、疾風のジンに、真っ直ぐに注がれていた。
同じ、暗殺者。
影に生きる者同士。
決着のつけ方は、一つしかない。
「…どちらが、より速く、より静かに、相手の息の根を止められるか。それだけだ」
俺とセレスティアは、アイコンタクトを交わした。
そして、次の瞬間。
俺たちは、同時に、左右へと、弾かれたように飛び出した。
「あらあら、逃げるのかしら?」
イリヤが、嘲笑う。
「無駄だ。どこへ行こうと、お前たちの運命は、変わらん」
ジンが、呟く。
二人の四天王が、俺たちを追って、動き出す。
イリヤは、セレスティアを。
ジンは、俺を。
戦場は、二つに分かれた。
仲間たちは、俺を先に進ませるために、それぞれの場所で、強大な敵と対峙する。
俺は、ジンの気配を背中に感じながら、螺旋階段を駆け上がっていた。
ここから先は、チーム戦ではない。
一対一の、純粋な、実力勝負だ。
俺の仲間たちが、俺の帰る場所を守ってくれている。
俺の仲間たちが、俺のために、道を切り開いてくれている。
その想いを、裏切るわけにはいかない。
俺は、ナイフを握る手に、強く、力を込めた。
必ず、勝つ。
そして、ゼノンの元へ。
この戦いを、終わらせるために。
俺とセレスティアの、連携による反撃は、着実に成果を上げていた。
一体、また一体と、強化兵士たちが、機能を停止し、その巨体を床に沈めていく。
俺が、その圧倒的な回避能力で敵の注意を引きつけ、陣形を乱す。そして、セレスティアが、その乱れの最も弱い一点を、的確な投擲術と剣技で突き崩す。
その完璧なコンビネーションの前に、思考能力を持たない殺戮機械の群れは、もはやただの的でしかなかった。
「…最後の一体」
セレスティアの、冷静な声が響く。
最後の強化兵士が、俺のナイフによって脳幹を貫かれ、その動きを止めた時、闘技場には、死体ともガラクタともつかない、黒い鎧の山だけが残されていた。
俺たちの体には、傷一つない。
だが、その呼吸は、荒く、乱れていた。
強化兵士団との戦いは、体力よりも、精神力を、極限まで消耗させる戦いだったからだ。
「…少し、休みましょう」
セレスティアが、壁に寄りかかりながら、か細い声で言った。
俺も、それに頷き、その場に座り込んだ。
水筒の水を一口飲み、乾いた喉を潤す。
(…厄介な番犬だったな)
俺は、倒れた強化兵士たちを見渡した。
ゼノンは、こんなものを三十体も用意していたのか。その狂気と、執念に、改めて戦慄を覚えた。
そして、この先に待ち受ける、彼の側近たち。
四天王。
その実力は、この強化兵士団を、遥かに上回るはずだ。
短い休息の後、俺たちは再び立ち上がった。
闘技場の奥には、第四階層へと続く、新たな螺旋階段が、不気味な口を開けている。
俺たちが、その階段へと足を踏み入れようとした、その時だった。
どこからともなく、甲高い、拍手の音が響き渡った。
乾いた、相手を嘲笑うかのような、不快な音だった。
俺とセレスティアは、弾かれたように身構え、音のした方向を睨みつけた。
階段の入り口、その両脇の闇の中から、二つの人影が、ゆっくりと姿を現したのだ。
一人は、幻惑的な仮面をつけた、妖艶な女魔術師。
『幻惑』のイリヤ。俺たちが第二階層で遭遇した(ことになっている)門番だ。
そして、もう一人は、疾風の名にふさわしい、鋭く、研ぎ澄まされた気配を放つ、忍びのような装束に身を包んだ、小柄な男。
『疾風』のジン。
彼らこそが、黄昏の蛇の頂点に君臨する、四天王のうち、ボルガとサイラスを除いた、残る二人。
ゼノンの、最強の側近たちだった。
「お見事ですわ、『神の影』。そして、組織の裏切り者、セレスティア」
イリヤが、扇子で口元を隠しながら、くすくすと笑った。
「まさか、わたくしたちの可愛い番犬たちを、こうもあっさりと片付けてしまうなんて。ゼノン様も、さぞお喜びでしょう」
「だが、遊びはここまでだ」
ジンが、短く、そして鋭く言った。その声は、風切り音のように、冷たい。
「この先へは、一歩も通さん。この俺たちを、倒さない限りはな」
二人の幹部が、同時に、俺たちの前に立ちはだかった。
その威圧感は、強化兵士団の比ではなかった。
一人一人が、ガレスや、マーカスに匹敵、あるいはそれ以上の実力を持っているであろうことが、肌で感じられた。
(…最悪のタイミングだな)
俺は、内心で舌打ちした。
強化兵士団との戦いで消耗した、このタイミングで、最強の門番が二人同時に現れるとは。
これも、ゼノンの計算の内なのか。
セレスティアが、俺の隣で、長剣を構え直した。その額には、脂汗が滲んでいる。
「…先輩。ここは、私が」
彼女は、俺を先に行かせるために、一人で二人を相手にするつもりらしかった。
だが、俺は、その肩を、軽く手で制した。
「無茶を言うな。お前一人では、十秒も持たん」
「しかし!」
俺は、二人の四天王を、冷静に観察していた。
幻術師と、暗殺者。
タイプの全く違う、厄介な組み合わせだ。
正面から、二人同時に相手をするのは、得策ではない。
ならば、やるべきことは、一つ。
分断する。
そして、各個撃破する。
俺は、セレスティアの耳元で、囁くように、短く作戦を伝えた。
「…セレスティア。お前の相手は、あの女だ」
「イリヤを…ですか?」
「ああ。幻術師相手に、俺の直接攻撃は、相性が悪い。だが、お前なら、勝機がある。お前の武器は、剣じゃない。その頭脳と、情報だ。心理戦に持ち込め。相手の幻術を、逆手にとって、その精神を揺さぶれ」
「…分かりました。やってみます」
セレスティアの瞳に、覚悟の光が宿った。
「では、先輩は…」
「俺の相手は、あっちだ」
俺の視線は、疾風のジンに、真っ直ぐに注がれていた。
同じ、暗殺者。
影に生きる者同士。
決着のつけ方は、一つしかない。
「…どちらが、より速く、より静かに、相手の息の根を止められるか。それだけだ」
俺とセレスティアは、アイコンタクトを交わした。
そして、次の瞬間。
俺たちは、同時に、左右へと、弾かれたように飛び出した。
「あらあら、逃げるのかしら?」
イリヤが、嘲笑う。
「無駄だ。どこへ行こうと、お前たちの運命は、変わらん」
ジンが、呟く。
二人の四天王が、俺たちを追って、動き出す。
イリヤは、セレスティアを。
ジンは、俺を。
戦場は、二つに分かれた。
仲間たちは、俺を先に進ませるために、それぞれの場所で、強大な敵と対峙する。
俺は、ジンの気配を背中に感じながら、螺旋階段を駆け上がっていた。
ここから先は、チーム戦ではない。
一対一の、純粋な、実力勝負だ。
俺の仲間たちが、俺の帰る場所を守ってくれている。
俺の仲間たちが、俺のために、道を切り開いてくれている。
その想いを、裏切るわけにはいかない。
俺は、ナイフを握る手に、強く、力を込めた。
必ず、勝つ。
そして、ゼノンの元へ。
この戦いを、終わらせるために。
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