隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第20話 親友の指摘、あるいは自覚してしまった恋心

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昼休みの『高木撃退事件』は、あっという間にクラス中に広まった。
『氷の女王・雪城冬花、相沢優斗を「私の夫」と公言。邪魔する者には絶対零度の鉄槌を下す』
そんな尾ひれがつきまくった噂が、もはや学校の公然の事実として語られている。おかげで、午後の授業中、俺に向けられる視線は、もはや好奇や嫉妬を通り越して、畏怖のようなものに変わっていた。まるで、猛獣使いを見るような目だ。
俺は何もしていない。ただ、とてつもなく強くてクールな『未来の嫁』が隣にいるだけなのだが。

放課後、俺は陽平と一緒に帰り道を歩いていた。
さすがの陽平も、昼休みの雪城さんの迫力には度肝を抜かれたらしく、いつもより少しだけ静かだった。
「……なあ、優斗」
夕日が差し込む商店街を歩きながら、陽平がぽつりと呟いた。
「今日の雪城さん、マジで凄かったな。惚れ直しただろ?」
「惚れ直すも何も、最初から惚れてない」
俺が即答すると、陽平は呆れたように大きなため息をついた。
「お前、まだそんなこと言ってんのか。もういい加減、認めちまえよ」
「何をだよ」
「とぼけんな。お前さ、最近、雰囲気変わったよな」
陽平は立ち止まり、俺の顔をまじまじと見つめてきた。
「昔のお前は、もっとこう、日陰のきのこみたいな感じだったじゃん。常に目立たないように、気配消して生きてるみたいな」
「お前の俺に対するイメージ、本当にひどいな」
「でも、今は違う。なんか、堂々としてるっていうか、腹が据わってるっていうか。高木たちに絡まれた時も、前のお前なら半泣きで謝ってたはずだ」
「そこまでじゃないだろ!」
「いや、そこまでだ。でも、今日のお前は違った。ちゃんと、言い返そうとしてた。それって、雪城さんが隣にいてくれるからだろ?」
陽平の言葉は、的確に俺の核心を突いていた。
そうだ。彼女が来てから、俺は変わった。数学が少し得意になった。毎日美味い弁当が食べられるようになった。そして何より、自分に少しだけ自信が持てるようになった。
それは全て、雪城冬花という存在が、俺の隣にいてくれるからだ。

陽平は、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「お前、完全に雪城さんに絆されてるぞ」
「……絆されてる、か」
その言葉は、不思議としっくりきた。そうだ、俺は絆されているんだ。彼女の献身的なアプローチに、完璧なサポートに、そして時折見せる可愛らしい素顔に。
俺がその言葉を噛み締めていると、陽平は「いや、違うな」と首を横に振った。

「絆されてる、なんてレベルじゃねえ。お前、雪城さんのこと、本気で好きだろ」

ドクン、と心臓が大きく跳ねた。
陽平の真っ直ぐな視線が、俺の心の一番柔らかい場所を、容赦なく抉ってくる。
「ち、違う! 俺は別に、そんなんじゃ……!」
「嘘つけ。顔、真っ赤だぞ」
「これは、夕日のせいだ!」
我ながら苦しい言い訳をしながら、俺は必死に否定の言葉を探す。
だが、否定すればするほど、陽平の言葉が真実味を帯びていく。
頭の中に、週末のデートの光景がフラッシュバックする。
天使のように可愛かった、白いワンピース姿。
ホラー映画で、俺の腕に必死にしがみついていた時の、か弱い温もり。
そして、ネックレスをプレゼントした時の、涙と、満開の笑顔。

「未来の嫁だから、とか。そういう言い訳はもう通用しねえぞ」
陽平の声が、俺の逃げ道を塞いでいく。
「お前が惹かれてんのは、『未来の嫁』っていう肩書きじゃなくて、『雪城冬花』っていう一人の女の子そのものだ。そうだろ?」
「…………」
もう、何も言えなかった。
図星だった。
俺は、未来がどうとか、運命がどうとか、そんなことはもうどうでもよくなっていた。
ただ、今の俺の隣にいる、雪城冬花という少女が好きだ。
クールな仮面の下にある、優しくて、少し不器用で、嫉妬深くて、そして俺のことだけを真っ直ぐに見てくれる、彼女の全てが。
どうしようもなく、好きだ。

「……バレてたか」
俺がか細い声で認めると、陽平は「当たり前だ」と呆れたように笑った。
「親友なめんなよ。お前のことなんか、お見通しだっての」
その言葉が、なぜか少しだけ、心に沁みた。
「で、どうすんだよ? これから」
「どうするって……」
俺は途方に暮れた。そうだ。好きだと自覚して、それで終わりじゃない。
彼女は、俺のことを「未来の夫」として好きだと言ってくれている。だが、それは、この時代の、まだ何者でもない俺自身を見てくれているということなのだろうか。
俺と彼女の関係は、あまりにもいびつで、特殊すぎる。
「……わかんねえよ」
俺は正直に、本音を漏らした。
陽平は、そんな俺の肩をポンと力強く叩いた。
「まあ、せいぜい頑張れや。俺は、お前らがどうなるか、特等席で見物させてもらうぜ」
そう言うと、彼は「じゃあな!」と手を振り、分かれ道を曲がっていった。
一人残された俺は、茜色に染まる空を見上げながら、大きく息を吐いた。

好きだ。
その自覚は、俺の胸を甘く満たすと同時に、ずしりと重い課題を突きつけてきた。
この気持ちを、彼女にどう伝えればいい?
未来とか関係なく、一人の男として、彼女に認めてもらうには、どうすればいい?
答えなんて、どこにもなかった。

家に帰り、ベッドに倒れ込む。
ポケットのスマホが、ブブッと震えた。手に取ると、やはり彼女からのメッセージだった。
『今日もお疲れ様でした。明日の数学の小テスト、範囲は私が教えたところから出るそうですよ。頑張ってくださいね』
その事務的なメッセージの下に、ぴょこんと頭を下げる、ペンギンのスタンプが添えられている。
俺は、その小さなペンギンを眺めながら、自分の気持ちを再確認していた。
このどうしようもない恋心に、どう向き合っていけばいいのだろう。
途方に暮れていると、スマホがもう一度震えた。
彼女からの、追伸メッセージ。

『明日、あなたに会えるのを楽しみにしています』

その一文と、頬を染めて微笑む猫のスタンプ。
それを見た瞬間、俺の心臓は、今日一番大きな音を立てた。
もう、悩んでいる場合じゃない。迷っている暇なんてない。
俺は、この恋から、もう絶対に逃げられないのだ。
こうして、俺の日常を侵食してきた彼女との関係は、俺が自分の恋心をはっきりと自覚したことで、新しい章へと進もうとしていた。
まだ何も始まっていない、最高の恋の、本当の始まり。
俺はスマホを強く握りしめ、明日への決意を固めていた。
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