隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第58話 開幕の祝祭、あるいは女王の微笑み

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文化祭当日の朝。
俺たちのクラスは、ある種のランナーズハイのような独特の高揚感に包まれていた。
徹夜の共同作業の末、俺たちは奇跡的に、お化け屋敷を完成させたのだ。
雪城さんの冷静な指示と俺の無茶な提案、そしてクラス全員の諦めない気持ち。その全てが一つになった結果、クライマックスの効果音は元のものよりも遥かに恐ろしく、そしてドラマチックなものに生まれ変わっていた。
朝日が差し込む教室で、完成したお化け屋敷を見渡した時の、あの達成感。クラスのみんなでハイタッチを交わした時の、あの熱狂。
それは何物にも代えがたい、最高の瞬間だった。

「みんな、本当にお疲れ様! 絶対、最高の文化祭にしようね!」
天宮さんが、少しだけ眠そうな目をこすりながらも太陽のような笑顔でクラスを鼓舞する。
「よっしゃー! 俺、脅かし役一番手、気合入れていくぜ!」
陽平が血糊のついた衣装を身につけ、雄叫びを上げた。
クラス全体が、一つの家族のようになっていた。
その中心で、雪城冬花は静かに、しかし満足げにその光景を見つめていた。
俺はそんな彼女の隣に立ち、小さな声で言った。
「……すごいな、お前。本当に、やり遂げちまった」
すると彼女は俺の方を向いて、ふわりと柔らかく微笑んだ。
「いいえ。私一人では、無理でした」
彼女は続ける。
「あなたがいてくれたからです。あなたが、『作るしかない』と言ってみんなを、そして私を引っ張ってくれたから。だから、乗り越えられたんです」
その、あまりにもストレートな感謝と信頼の言葉。
俺の心臓は、朝からうるさいくらいに高鳴っていた。
「ありがとう、優斗さん。私の、最高の副委員長」
彼女がそう言って、悪戯っぽく笑う。
俺は照れ隠しに、「当たり前だろ、委員長」と返すのが精一杯だった。

文化祭が開幕すると、俺たちのクラスのお化け屋敷はすぐに長蛇の列ができた。
『2-Aの、氷の女王がプロデュースしたお化け屋敷は、ガチでヤバい』
そんな噂が、あっという間に校内に広まったらしい。
教室からは絶え間なく悲鳴と、時折爆笑が聞こえてくる。大成功だ。
俺は受付係として次々とやってくる客を捌きながら、その光景を誇らしい気持ちで眺めていた。
隣には同じく受付係の雪城さん。
彼女は客に対しては、いつも通りのクールなポーカーフェイスを貫いている。だが、俺は知っている。その仮面の下で、彼女がこの成功を心から喜んでいることを。

お昼を過ぎ、俺たちは交代で休憩を取ることになった。
「よし、今のうちに他のクラスの出し物、見て回ろうぜ!」
俺がそう言うと、彼女はこくりと嬉しそうに頷いた。
二人で、お化け屋敷と化した教室を出る。
途端に喧騒と、様々な食べ物の匂いが俺たちを包み込んだ。
これぞ、文化祭だ。
「どこから行く?」
「そうですね。計画書によれば、まずは3年生の演劇を見て、その後、書道部の展示を……」
「却下」
俺は彼女の言葉を、にやりと笑って遮った。
「え?」
「今日は計画書はなしだ。俺たちが今、行きたいところに行く。それでいいだろ?」
俺がそう言うと、彼女は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにその意味を理解したのだろう。
「……はい」
彼女は心の底から幸せそうに微笑んだ。
その笑顔は太陽みたいに明るいわけじゃない。でも、月明かりのように優しく、穏やかに俺の心を照らしてくれた。

俺たちは手を繋いで、人でごった返す廊下を歩いた。
射的で俺がまたしても惨敗し、彼女がいとも簡単に景品を撃ち落とす。
「未来のデータ通りですね」と、彼女はドヤ顔だ。
わたあめを買って半分こする。彼女の口元についたピンク色のわたあめを、俺が指でそっと取ってやる。彼女の顔が、わたあめよりも赤く染まる。
まるで、どこにでもいる普通のカップルのように。
俺たちは、ただ純粋に文化祭という祝祭を楽しんでいた。
この時間が、永遠に続けばいい。
俺は夏祭りの夜と同じように、またしてもそんなあり得ないことを願ってしまっていた。

一通り見て回った後、俺たちは中庭のベンチに座って少しだけ休憩していた。
「……楽しい、ですね」
彼女がぽつりと呟いた。
「ああ。最高だな」
俺も心からそう答えた。
彼女は俺の肩に、こてんと優しく頭を預けてくる。
俺は何も言わずに、その重みと温もりを受け止めた。
穏やかな、秋の日差し。
生徒たちの、楽しそうな笑い声。
そして、隣にいる愛おしい人の体温。
その全てが、完璧でかけがえのない宝物だった。

「……優斗さん」
彼女が俺を見上げて言った。
「私たちのお化け屋敷。そろそろ一番の見せ場の時間ですね」
「え? そうなのか?」
「はい。未来のデータによれば、この時間帯に最も客足が集中します」
彼女はそう言って、悪戯っぽく微笑んだ。
「そして、最も面白いお客様が、いらっしゃるはずですよ」
「面白い、お客様?」
俺が不思議そうに聞き返す。
だが、彼女はそれ以上は何も言わなかった。
ただ、「行きましょう。見届けなくては」と俺の手を引いて、立ち上がっただけだった。
彼女のその謎めいた言葉の意味。
そして、これから起こるささやかな、しかし俺たちの関係にとって決定的な出来事。
この時の俺は、まだ何も知らなかった。
ただ、彼女のその楽しそうな笑顔に、俺の心も浮き立っていた。
最高の文化祭は、まだ始まったばかりだった。
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