隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第94話 運命の罠、あるいは残酷な-選択

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鳴り続ける無機質な電子音。
それは俺たちの静かな要塞に響き渡る不協和音だった。
俺と冬花は息を殺して、ただその音が止むのを待っていた。
出るな。
出てはいけない。
これは罠だ。
俺たちは、お互いの手を血が滲むほど強く、強く握りしめ合った。
やがて、十数回のコールが続いた後、電話の呼び出し音はぷつりと途切れた。
静寂が戻ってくる。
俺は安堵のため息を漏らそうとした。
だが、その次の瞬間。

『―――メッセージを、どうぞ』

留守番電話に切り替わる無機質なアナウンス。
そして、その直後、スピーカーから今までに聞いたこともないような切羽詰まった声が、部屋中に響き渡った。
それは陽平の声だった。
『優斗かっ!? 頼む、聞いてるなら出てくれ! 大変なんだ!』
そのあまりにも必死な声。
俺の心臓がドクン、と嫌な音を立てて跳ねた。
陽平は続ける。その声は恐怖と混乱で上ずっていた。

『天宮さんが……! 天宮さんが、事故に遭ったんだ!』

その一言。
俺の頭の中が真っ白になった。
天宮さんが、事故に?
嘘だ。そんな馬鹿な。
『俺、さっきまで天宮さんと一緒にいたんだよ! バレンタインの買い物に付き合わされて……。それで、駅前のあの大きな交差点で……!』
駅前の交差点。
その言葉に、俺と冬花は同時にハッと顔を見合わせた。
違う。
違う。
そんな偶然あるはずがない。
『信号待ってたら、急に車が歩道に突-込んできて……! 俺はなんとか避けられたんだけど、天宮さんが……! 嘘だろってくらい、血が出てて、意識もなくて……!』
陽平の悲鳴のような報告。
そのあまりにも生々しい光景。
俺は立っていることすらできなくなりそうだった。
天宮さんの、あの太陽のような笑顔が脳裏に蘇る。
彼女が今、血を流して倒れている?
俺たちのせいで?
俺たちが運命を変えようとした、そのせいで?
『頼む、優斗! 来てくれ! 俺、もうどうしたらいいか分かんねえんだよ! 救急車は呼んだけど……。とにかく、早く来てくれ! お前しかいないんだ!』
そこでメッセージは途切れた。
後に残されたのは、重く、そして絶望的な沈黙だけ。

「……嘘だ」
俺の唇からか細い声が漏れた。
「そんな……。そんなことってあるかよ……」
これは罠だ。
分かっている。
運命が俺たちを外に誘い出すための、あまりにも残酷で、あまりにも巧妙な罠だ。
だが、もし万が一。
万が一これが本当だったら?
陽平のあの必死な声。あれが演技だとは到底思えなかった。
俺が行かなかったせいで、天宮さんがもし死んでしまったら?
その罪悪感を俺は一生背負って生きていかなければならないのか?
俺は頭を抱えた。
どうすればいい。
どうすれば正解なんだ。
冬花との約束。未来を守るための籠城。
だがそのためには、今目の前にある友人の命を見捨てるのか?

俺は隣にいる冬花の顔を見た。
彼女の顔は青ざめていた。
唇は血の気を失い、微かに震えている。
彼女もまた俺と同じように苦悩していた。
彼女にとっても天宮さんは、もうただのライバルではない。
文化祭を共に戦い抜いた、大切な友人なのだ。
その友人が自分たちのせいで、命の危機に瀕している。
その残酷な現実。
彼女はぎゅっと目を瞑った。その長い睫毛から、一筋の涙がぽろりとこぼれ落ちる。

「……行かなきゃ」

俺の口からその言葉がこぼれ落ちたのは、ほとんど無意識だった。
俺の心の中にある、お人好しでどうしようもない正義感がそう叫んでいた。
見殺しになんてできるわけがない。
たとえそれが罠だとしても。
たとえその先に俺自身の破滅が待っていたとしても。
天宮さんを、陽平を見捨てることなんて、俺には絶対にできなかった。
俺は震える足に力を込めて立ち上がった。
そして、部屋のドアノブに手をかける。
その瞬間だった。

「―――待って」

背後からか細い、しかし芯の通った声が俺を引き止めた。
冬花の声だった。
俺は振り返った。
彼女は涙を拭い、その深い碧色の瞳で俺を真っ直ぐに見つめていた。
その瞳には、もう迷いの色はなかった。
あるのはただ氷のように冷徹な決意の光だけ。
彼女は静かに、そしてはっきりと言った。
「それは運命の思う壺です」
「……分かってる!」
俺は叫んだ。
「分かってる! でも行かなきゃダメなんだ! 俺は……!」
「ええ。分かっています」
彼女は俺の言葉を遮った。
「あなたは優しい人だから。だから行こうとするでしょう。そしてまんまと罠にはまる」
彼女はゆっくりと立ち上がった。
そして、俺の目の前に立つ。
「ですが、本当にそれが正しい選択だと思いますか?」
彼女のその問い。
それは俺の激情に、冷水を浴びせかけるようなあまりにも冷静な問いだった。
「私たちは今、試されているんです」
彼女は続ける。
「私たちの覚悟の強さを。私たちの絆の深さを。運命は今、この瞬間も試している」
「ここで私たちが感情に流され外に出てしまえば、全てが終わりです。あなたの未来も、私の全ての努力も水の泡と消える」
彼女のその言葉。
それはあまりにも正しくて、あまりにも残酷だった。

俺はドアノブを握りしめたまま、動けなくなった。
行きたい。
行かなければならない。
だが、行ってはいけない。
その二つの矛盾した感情が俺の中で激しくぶつかり合う。
天宮さんの命と。
俺と冬花の未来。
そのあまりにも重すぎる二つを天秤にかける、残酷な選択。
俺は、どうすればいいんだ。
答えが出ない。
時間だけが無情に過ぎていく。
運命の時刻、午後二時十七分が刻一刻と迫っていた。
俺たちの最大の危機が、今まさに訪れていた。
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