スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第73話:総攻撃

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俺たちの奇妙な反撃作戦――『収穫祭』は帝国軍の精神を確実に蝕んでいた。だが、それは同時にヴァルケンハインという恐るべき指揮官の最後のプライドと闘争本能に火をつける結果となった。
籠城開始から二週間が過ぎた、ある日の夜明け前。
俺の【神の農園】の監視網が、帝国軍の陣地にこれまでにない大規模な動きを感知した。

「……来るぞ」
俺は共に壁の上で見張りをしていたシルフィとリズベットに短く告げた。
東の空がわずかに白み始める。
その朝と夜の狭間の薄明りの中、地平線の彼方から黒い鉄の津波が、静かに、しかし圧倒的な威圧感を持ってこちらへと押し寄せてきた。

一万の帝国軍の全戦力。
ヴァルケンハインはもはや兵力の温存などという考えを捨て、その持てる力のすべてをこの一点に集中させてきたのだ。

「全軍、戦闘配置!」
俺の号令がアルカディア中に響き渡る。
祝祭の飾り付けは取り払われ、村は一瞬にして臨戦態勢へと移行した。義勇軍が壁の上に駆け上がり、弓を構える。ゴンスケ部隊が門の前に鉄壁の防陣を敷く。ガイア・ガーディアンたちが聖銀樹の下で、静かにその出撃の時を待つ。
村全体が、一つの巨大な迎撃兵器としてその全ての機能を起動させた。

帝国軍の進軍は、これまでのどの攻撃とも次元が違っていた。
先頭を進むのは巨大な鉄の盾を掲げた重装歩兵部隊。彼らは俺たちのバリスタの砲撃をものともせず、ただひたすらに前進してくる。
その後方からは百を超えるカタパルトが一斉に火を噴き、空を黒く埋め尽くすほどの岩塊が雨のように俺たちの城壁へと降り注いだ。

ドゴオオオオオン!
凄まじい轟音と衝撃が連続してアルカディアを襲う。
壁が大きく悲鳴のような音を立てて軋む。俺がスキルで必死に修復するが、その破壊の速度は修復の速度をわずかに上回っていた。
壁の数か所に、ついに大きな亀裂が走り一部が崩落を始めた。

「壁が、破られる!」
義勇軍の兵士が悲鳴に近い声を上げる。
「うろたえるな!」リズベットがその隣で一喝する。「壁がなけりゃアタシたちが壁になるだけだ! 敵の一人たりとも村の中には入れねえぞ!」
彼女の勇ましい声が兵士たちの恐怖を闘志へと変える。

だが、敵の猛攻はそれだけではなかった。
軍勢の中から巨大な、鉄でできた獣のような兵器がいくつも姿を現した。
それは帝国が誇る最新鋭の攻城兵器『アイアンビースト』。自己修復能力を持つ魔法金属で装甲され、その口からは城壁さえも溶かす錬金術の酸を吐き出す、歩く要塞だった。

「グルオオオ……」
アイアンビーストが、崩れた壁の裂け目から村の内部へと侵入しようとしてくる。
その酸のブレスが地面を溶かし、ゴンスケたちをいともたやすく無力化していく。

「くそっ、あんなモンまで隠し持ってやがったのか!」
リズベットが歯噛みする。
戦況は明らかに劣勢だった。
大陸最強の軍事国家がその総力を挙げて牙を剥いた時、その破壊力は俺たちの想像を遥かに超えていたのだ。

「……シルフィ、リズベット」
俺は隣に立つ二人の仲間たちに静かに声をかけた。
「ここが正念場だ。俺たちの本当の力を見せる時が来た」

二人は俺の言葉に力強く頷いた。
俺たちは壁の上から眼下の戦場へと同時に飛び降りた。

「森羅万象、彼の者らに裁きを!」
シルフィが天に向かって弓を構え、エルフの秘術の最大奥義を詠唱する。
彼女が放った一本の矢は天高く舞い上がると無数の光の矢となって、地上へと降り注いだ。
それは敵味方を識別し、敵だけを追尾し貫く聖なる光の雨『ジャッジメント・アロー』。
光の矢は帝国兵の鎧を紙のように貫き、アイアンビーストの装甲さえも融解させていく。

「燃え上がれ、アタシの魂! 神匠解放(ゴッドスミス・オーバーロード)!」
リズベットもまたその身に秘めた神の領域の力を完全に解放した。
彼女の体から黄金色のオーラが噴き出し、その手にしたウォーハンマーは太陽のように輝く巨大な光の槌へと姿を変える。
彼女は大地を蹴ってアイアンビーストの一体へと跳躍した。
「鉄くずが、でけえ顔するんじゃねえ!」
光の槌が振り下ろされる。
アイアンビーストの魔法金属の装甲が、まるで粘土のようにぐにゃりと歪み、そして大爆発を起こした。

シルフィとリズベット。
俺の最強の仲間たちがその真の力を解放し、戦場で神話の英雄のように舞う。
帝国軍の兵士たちはその人知を超えた光景に完全に度肝を抜かれ、その動きが止まった。

だが、それでも彼らの数はあまりにも多すぎた。
次から次へと後続の部隊が壁の裂け目から村の中へとなだれ込んでくる。
このままでは村が蹂虙される。

「……俺の番だな」
俺は静かにガイアズ・エッジを大地に突き立てた。
そして、このアルカディアのすべての力をこの一点に集約させていく。
聖銀樹の浄化の力。
ダンジョンの無尽蔵の魔力。
そして、この大地そのものが持つ星の生命力。

俺の体から金色のオーラが、天を突くほどの巨大な光の柱となって立ち上った。
「――今こそ示せ。我が神国の真なる威光を」
俺はスキル【神の農園】の最後の権能を解放した。

それはもはや農業や戦闘というレベルの力ではない。
国そのものを一つの巨大な生命体へと変える究極の創造魔法。
アルカ-ディアは、もはやただの要塞ではなかった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
大地が鳴動する。
俺たちが築き上げた巨大な城壁が、まるで生き物のようにその形を変え始めたのだ。
壁はさらに高く、さらに厚く自己増殖していく。
崩された箇所は瞬時に再生し、壁の表面からは無数の鋭い岩の槍が突き出し、敵兵を串刺しにしていく。
壁に設置されたバリスタはもはや人の手を介さず、自動的に敵を認識し迎撃を開始した。
アルカディアは難攻不落の『要塞国家』から、敵を喰らい排除する自律思考型の『城塞生命体』へと、その姿を変貌させたのだ。

帝国軍の兵士たちはその悪夢のような光景に、完全に戦意を喪失した。
自分たちが戦っている相手は人間ではない。
国そのものが一つの巨大な、意志を持った怪物なのだ。

「……馬鹿な」
後方でその全てを見ていたヴァルケンハインが、生まれて初めて心の底からの恐怖にその身を震わせていた。
「これが……これが、アルカディアの本当の姿だというのか……?」
彼の完璧だったはずの計算と理性が、完全に崩壊した。

アルカディアは、もはや人間の軍隊がどうこうできる存在ではなかった。
それは神の領域に足を踏み-入れた、新たなる世界の理。
その絶対的な真実を、帝国軍は思い知らされることになったのだ。
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