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第87話:最後の厄災
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セレスティアが命を燃して発動させた空間転移は、文字通り光の速さだった。
俺たちの意識は一瞬の浮遊感の後、見慣れた、しかし煙の匂いが立ち込める故郷の大地へと、叩きつけられるように戻ってきた。
「……着いたのか」
俺は体勢を立て直し、周囲を見渡した。
そこはアルカディア村の中央広場、聖銀樹のすぐ傍だった。
だが、その光景は俺たちが旅立つ前の平和なそれとは、無残なほどに変わり果てていた。
空は邪神降臨の儀式の影響か、禍々しい紫色の暗雲に覆われている。
村のあちこちから火の手が上がり、黒煙が立ち上っていた。俺が築き上げた美しい家々は、そのいくつかが無残に破壊されている。
そして広場では、壮絶な攻防戦が繰り広げられていた。
「うおおおおおっ!」
義勇軍の隊長ゴードンが、ディバインメタル製の剣を振るい異形の魔物と斬り結んでいる。
村人たちも農具を手に必死に応戦していた。
そして彼らを守るように、オリハルコン装備のガイア・ガーディアン部隊が鉄壁の防衛線を築いていた。
だが、その数は俺が残していった時よりも明らかに減っている。何体かは完全に破壊され、残骸となって転がっていた。
敵は邪教団の狂信者たちと、彼らが召喚したおぞましい魔物の軍勢。
そして、その軍勢を率いているのは俺たちが偽りの本拠地で戦った者たちとは比較にならないほどの、強大なオーラを放つ三人の異形の影だった。
彼らこそが『黄昏の蛇』が誇る最高戦力。
教祖直属の三人の最上位幹部。
「……間に合ったのか……」
リズベットが息を呑む。
「いいえ! 間に合っていません!」
シルフィが絶叫した。彼女の視線は広場の中央、聖銀樹がそびえ立つその根元へと注がれている。
そこではフードを目深に被った教祖らしき男が、巨大な『邪神の心臓』を祭壇に置き、儀式の最終段階へと入ろうとしていた。
聖銀樹の聖なる生命力が心臓へと無理やり吸い上げられていくのが見えた。
聖銀樹が苦しむように、その銀色の葉をざわめかせている。
「……邪魔はさせん」
俺たちが教祖の元へと駆け出そうとした、その時。
三人の最上位幹部が俺たちの前に立ちはだかった。
一人は全身が昆虫のような鋭利な甲殻で覆われた剣士。
一人は無数の蛇の髪を持つ妖艶な魔女。
そして最後の一人は、山のように巨大な岩の体を持つ巨人。
「我らは教祖様を守護する三柱の『厄災』」
甲殻の剣士が機械のような無機質な声で言った。「ここから先へは一歩も通さん」
「あらあら、可愛いお客様たち。わたくしの可愛い蛇たちの餌食にしてあげるわ」
蛇の髪の魔女が蠱惑的に舌なめずりする。
「……砕け散れ」
岩の巨人が地の底から響くような重い声で呟いた。
彼ら三人が放つ圧力は、俺たちがこれまで戦ってきたどの幹部よりも強大で絶望的だった。
儀式の完成まで残された時間はわずか。
この三人を突破しなければ、世界は終わる。
「……どうする、お頭」
リズベットがウォーハンマーを握りしめ、ゴクリと喉を鳴らす。
俺は迷わなかった。
「――分担する」
俺は仲間たちに短く告げた。「リズベット! お前はあのデカブツを! そのパワーはお前の神匠の力で粉砕しろ!」
「へっ、望むところだ! あんなただの石ころ、アタシのハンマーの錆にしてやるぜ!」
リズベットが雄叫びを上げ、岩の巨人へと突進していく。
「シルフィ! お前はあの蛇女を! その邪悪な魔術はお前の聖なる力とエルフの知恵で封じ込めてくれ!」
「はい! アルフォンス! 必ず!」
シルフィもまた聖なる光を纏った矢を番え、蛇の髪の魔女と対峙する。
「フェンリルは俺と共にあの虫野郎をやる!」
「グルルルル!」
フェンリルが応えるように鋭く吠えた。
そして俺は最後に、力尽きるようにその場に崩れ落ちたセレスティアに視線を向けた。
彼女は最後の力を振り絞り、俺にか細い声で言った。
「……行って……ください……。あの人は……教祖は、わたくしが……たとえこの身が滅びようとも……足止めしてみせます……」
彼女の瞳には、贖罪の、そして最後の聖女としての強い光が宿っていた。
俺は彼女に短く頷いた。
「……頼んだぞ、セレスティア」
俺たちは散開した。
アルカディアの、そして世界の未来を賭けて。
三つの場所で同時に、最後の死闘の火蓋が切って落とされた。
俺とフェンリルは、甲殻の剣士、名を『ブレード』と名乗る男と対峙した。
彼の動きは音もなく、そしてあまりにも速かった。
瞬きをする間に彼は俺の懐に飛び込み、その両腕に仕込まれたカマキリの鎌のような超振動の刃を振り抜いてきた。
俺はそれをガイアズ・エッジで辛うじて受け止める。
キイイイイン!
耳をつんざくような不快な金属音。
オリハルコンでできた俺の剣にわずかな傷が入っていた。
「……ほう。今のを受け止めるか。だが、次はない」
ブレードは感情のない声で言うと、その姿を完全に消した。
光学迷彩。
気配さえも完全に断ち切っている。
だが、ここは俺の国だ。
俺は目を閉じ、大地の声に耳を澄ませた。
空気のわずかな流れ。
地面がかすかに軋む音。
――そこか!
俺は背後の何もない空間に向かって、ガイアズ・エッジを薙ぎ払った。
ガキン!
確かな手応え。
姿を現したブレードの刃と俺の剣が、火花を散らして激突していた。
「……なぜ分かった」
「言ったはずだ。ここは俺の庭だと」
俺とブレードの超高速の斬り合いが始まる。
その激しい攻防の死角から、銀色の閃光が走った。
フェンリルがブレードの装甲のわずかな隙間を狙って、その爪を突き立てていた。
「チィッ!」
俺とフェンリル。
二人掛かりの完璧な連携攻撃。
だが、ブレードはそれでも倒れない。
彼は傷を負いながらも、その機械のような正確な剣技で俺たちをじわじわと追い詰めていく。
戦いは拮抗していた。
だが、俺たちの背後では邪神復活の儀式が刻一刻とその完成へと近づいている。
焦りが俺の心を支配し始めていた。
このままでは間に合わない――!
俺は覚悟を決めた。
一か八かの賭けに出ることを。
俺はフェンリルに目配せで合図を送った。
そして俺はわざと大きく体勢を崩してみせた。
それはあまりにも無防備な隙。
「――終わりだ」
ブレードはその好機を見逃さなかった。
彼の超振動の刃が、俺のがら空きの心臓めがけて一直線に突き込まれる。
その刃が俺の胸に触れる寸前。
俺は笑った。
「――かかったな」
俺の最後の切り札が、今、発動する。
俺たちの意識は一瞬の浮遊感の後、見慣れた、しかし煙の匂いが立ち込める故郷の大地へと、叩きつけられるように戻ってきた。
「……着いたのか」
俺は体勢を立て直し、周囲を見渡した。
そこはアルカディア村の中央広場、聖銀樹のすぐ傍だった。
だが、その光景は俺たちが旅立つ前の平和なそれとは、無残なほどに変わり果てていた。
空は邪神降臨の儀式の影響か、禍々しい紫色の暗雲に覆われている。
村のあちこちから火の手が上がり、黒煙が立ち上っていた。俺が築き上げた美しい家々は、そのいくつかが無残に破壊されている。
そして広場では、壮絶な攻防戦が繰り広げられていた。
「うおおおおおっ!」
義勇軍の隊長ゴードンが、ディバインメタル製の剣を振るい異形の魔物と斬り結んでいる。
村人たちも農具を手に必死に応戦していた。
そして彼らを守るように、オリハルコン装備のガイア・ガーディアン部隊が鉄壁の防衛線を築いていた。
だが、その数は俺が残していった時よりも明らかに減っている。何体かは完全に破壊され、残骸となって転がっていた。
敵は邪教団の狂信者たちと、彼らが召喚したおぞましい魔物の軍勢。
そして、その軍勢を率いているのは俺たちが偽りの本拠地で戦った者たちとは比較にならないほどの、強大なオーラを放つ三人の異形の影だった。
彼らこそが『黄昏の蛇』が誇る最高戦力。
教祖直属の三人の最上位幹部。
「……間に合ったのか……」
リズベットが息を呑む。
「いいえ! 間に合っていません!」
シルフィが絶叫した。彼女の視線は広場の中央、聖銀樹がそびえ立つその根元へと注がれている。
そこではフードを目深に被った教祖らしき男が、巨大な『邪神の心臓』を祭壇に置き、儀式の最終段階へと入ろうとしていた。
聖銀樹の聖なる生命力が心臓へと無理やり吸い上げられていくのが見えた。
聖銀樹が苦しむように、その銀色の葉をざわめかせている。
「……邪魔はさせん」
俺たちが教祖の元へと駆け出そうとした、その時。
三人の最上位幹部が俺たちの前に立ちはだかった。
一人は全身が昆虫のような鋭利な甲殻で覆われた剣士。
一人は無数の蛇の髪を持つ妖艶な魔女。
そして最後の一人は、山のように巨大な岩の体を持つ巨人。
「我らは教祖様を守護する三柱の『厄災』」
甲殻の剣士が機械のような無機質な声で言った。「ここから先へは一歩も通さん」
「あらあら、可愛いお客様たち。わたくしの可愛い蛇たちの餌食にしてあげるわ」
蛇の髪の魔女が蠱惑的に舌なめずりする。
「……砕け散れ」
岩の巨人が地の底から響くような重い声で呟いた。
彼ら三人が放つ圧力は、俺たちがこれまで戦ってきたどの幹部よりも強大で絶望的だった。
儀式の完成まで残された時間はわずか。
この三人を突破しなければ、世界は終わる。
「……どうする、お頭」
リズベットがウォーハンマーを握りしめ、ゴクリと喉を鳴らす。
俺は迷わなかった。
「――分担する」
俺は仲間たちに短く告げた。「リズベット! お前はあのデカブツを! そのパワーはお前の神匠の力で粉砕しろ!」
「へっ、望むところだ! あんなただの石ころ、アタシのハンマーの錆にしてやるぜ!」
リズベットが雄叫びを上げ、岩の巨人へと突進していく。
「シルフィ! お前はあの蛇女を! その邪悪な魔術はお前の聖なる力とエルフの知恵で封じ込めてくれ!」
「はい! アルフォンス! 必ず!」
シルフィもまた聖なる光を纏った矢を番え、蛇の髪の魔女と対峙する。
「フェンリルは俺と共にあの虫野郎をやる!」
「グルルルル!」
フェンリルが応えるように鋭く吠えた。
そして俺は最後に、力尽きるようにその場に崩れ落ちたセレスティアに視線を向けた。
彼女は最後の力を振り絞り、俺にか細い声で言った。
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俺たちは散開した。
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三つの場所で同時に、最後の死闘の火蓋が切って落とされた。
俺とフェンリルは、甲殻の剣士、名を『ブレード』と名乗る男と対峙した。
彼の動きは音もなく、そしてあまりにも速かった。
瞬きをする間に彼は俺の懐に飛び込み、その両腕に仕込まれたカマキリの鎌のような超振動の刃を振り抜いてきた。
俺はそれをガイアズ・エッジで辛うじて受け止める。
キイイイイン!
耳をつんざくような不快な金属音。
オリハルコンでできた俺の剣にわずかな傷が入っていた。
「……ほう。今のを受け止めるか。だが、次はない」
ブレードは感情のない声で言うと、その姿を完全に消した。
光学迷彩。
気配さえも完全に断ち切っている。
だが、ここは俺の国だ。
俺は目を閉じ、大地の声に耳を澄ませた。
空気のわずかな流れ。
地面がかすかに軋む音。
――そこか!
俺は背後の何もない空間に向かって、ガイアズ・エッジを薙ぎ払った。
ガキン!
確かな手応え。
姿を現したブレードの刃と俺の剣が、火花を散らして激突していた。
「……なぜ分かった」
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その激しい攻防の死角から、銀色の閃光が走った。
フェンリルがブレードの装甲のわずかな隙間を狙って、その爪を突き立てていた。
「チィッ!」
俺とフェンリル。
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だが、ブレードはそれでも倒れない。
彼は傷を負いながらも、その機械のような正確な剣技で俺たちをじわじわと追い詰めていく。
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※別サイトにも掲載しています。
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