追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ

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第42話:辺境からの報せ、王宮の動揺

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アークライト王国の宰相、グランデル公爵は、執務室で山積みになった報告書に目を通していた。その多くは、各地の代官から送られてくる定型的なもので、税収の報告、治安状況、そして辺境地域からの魔物の出現報告や天候不順による不作の嘆願など、目新しいものはほとんどない。

(また辺境からの泣き言か…勇者パーティーがもう少ししっかりしていれば、こうも魔物が活性化することもなかったろうに…)

グランデル公爵は内心でため息をつきながら、西の辺境地域からの報告書を手に取った。これも例年通り、厳しい状況を訴える内容だろうと高を括っていた。だが、読み進めるうちに、彼の眉間にわずかな皺が寄った。

報告書には、例年通りの不作や魔物の小競り合いに関する記述に混じって、奇妙な内容が含まれていたのだ。特定の地域――テル村とその周辺――において、「原因不明の局地的な豊作が見られる」「住民が協力し、大規模な建造物を建設中」「先日、強力な魔物の大群が出現したが、謎の力によって撃退された」など、にわかには信じがたい記述が散見される。

「豊作? 建造物? 魔物の大群を撃退? …辺境の役人が、支援を引き出すために大袈裟に書いているだけだろうな」

グランデル公爵はそう判断し、その報告書を脇に置いた。辺境の、それも名もない小さな村で起こっていることなど、王国の政(まつりごと)全体から見れば些事に過ぎない。

しかし、その数日後、宰相の元には、再び西の辺境に関する不可解な報告が届けられた。今度は、テル村周辺の別の村に住む猟師からの目撃情報だった。「北の丘に、見たこともないような頑丈な石の壁が築かれている」「村に出入りする者の中に、銀色の髪をした美しいエルフと、赤い髪をした活発そうな狼の獣人がいる」という内容だ。

さらに追い打ちをかけるように、先日テル村に立ち寄り、魔物の襲撃騒ぎに巻き込まれかけたという旅の薬師からも、同様の報告がもたらされた。「テル村は以前訪れた時とは比較にならないほど活気に満ちていた」「薬草の質が異常に高く、指導者らしき若い男は驚くほど博識だった」「魔物の大群を、その男とエルフ、獣人の三人が中心となって撃退した」と。

複数の、異なる立場からの報告。しかも、内容には奇妙な具体性がある。「銀髪のエルフ」「赤髪の獣人」「黒髪の若い指導者」「堅牢な石壁」。これらが偶然の一致であるとは、もはや考えにくかった。

グランデル公爵は、情報分析を担当する部下に命じ、これらの報告を精査させた。そして、一つの可能性に思い至り、眉をひそめた。
「赤髪の狼獣人…まさか、少し前にグランフェルトで逃亡したという、あの月光狼の奴隷ではあるまいな? そして、黒髪の若い指導者…? 報告によれば、名はカイトと…」

カイト・アッシュフィールド。一年ほど前、勇者パーティーから追放され、同時に王国からも追放処分となった、あの【鑑定】スキル持ちの貴族の三男。アッシュフィールド侯爵家の厄介者として、半ば忘れ去られていた存在だ。

(まさか、あの男が辺境で…? いや、しかし【鑑定】スキルだけで魔物の大群を撃退できるはずがない。それに、エルフや獣人を従えているだと? 何かの間違いだろう…)

だが、無視するには引っかかる点が多すぎる。グランデル公爵は、この件を次回の御前会議で議題として取り上げることに決めた。

数日後、国王臨席の御前会議。グランデル公爵が辺境での不審な動きと、カイト・アッシュフィールドの名が挙がっていることを報告し、詳細な調査隊の派遣を進言すると、予想通りの反応が返ってきた。

「辺境の噂だと? 宰相、我々にはもっと優先すべきことがあるはずだ!」
声を荒げたのは、勇者アルドだった。彼はダンジョン攻略の失敗続きで立場が悪くなっており、辺境の些事よりも、自分たちへの支援強化を求めていた。
「そうだ。辺境の蛮族や魔物のことなど、今は構っておれん。それよりも、勇者パーティーの装備を刷新すべきだ」
アルドに同調する武闘派の貴族もいる。また、カイト追放に関与した貴族たちは、今更その件に触れられたくないのか、押し黙っているか、アルドの意見に賛同する姿勢を見せた。

「しかし、報告によれば、その辺境の一角は急速に力をつけ、強力な魔物を退けているとのこと。もしこれが事実ならば、放置しておくのは危険では?」
グランデル公爵は冷静に反論するが、アルドたちは聞く耳を持たない。
「ふん、辺境の魔物など、我々が出向けば一瞬で蹴散らせるわ! それよりも、より価値のあるダンジョン攻略こそが、王国への貢献となるのだ!」

議論は平行線を辿り、明確な結論は出ない。国王も、勇者の意見を無下にはできず、また辺境への関心も薄いため、「…ひとまず、状況を注視する」という曖昧な言葉で会議を締めくくった。調査隊の派遣は、見送られることになった。

会議の後、グランデル公爵は自室に戻り、一人、苦々しい表情で窓の外を眺めていた。
(アルドめ、自分の都合しか考えておらん…だが、あの辺境の動きは、やはり気になる…)

調査隊派遣は叶わなかったが、諦めるつもりはなかった。彼は信頼できる部下に、密かに辺境の情報を収集し続けるよう命じた。

「カイト・アッシュフィールド…追放された【鑑定】スキル持ちか。才能は平凡と聞いていたが…もしや、我々は何かを見誤っていたというのか? いや、まさかな…そんなはずは…」

宰相の胸の中に生まれた小さな疑念の種。それは、まだ確信には遠い、漠然としたものだった。しかし、王都の権力中枢に、辺境の地テル村と、そこにいるカイト・アッシュフィールドという存在への、微かな、しかし無視できない関心と警戒心が芽生え始めた瞬間だった。

静かに、しかし確実に、王国の目は辺境へと向き始めていた。それが吉と出るか、凶と出るか、今はまだ誰にも分からなかった。

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