追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ

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第43話:静かなる変貌、テル村の日常

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あの満月の夜の激闘から、数ヶ月の時が流れた。テル村には秋が深まり、朝晩の空気はひんやりと肌を刺すようになっていた。木々は赤や黄色に色づき、収穫を終えた畑には、冬の訪れを待つ静けさが漂っている。

しかし、村の北側の丘だけは、季節の移ろいとは無関係に、熱気に満ちた槌音(つちおと)が響き続けていた。拠点建設は驚くほど順調に進み、村全体を囲むはずの外壁は、その大部分が完成に近づいていた。高く、厚く、そして堅牢な石の壁は、もはや単なる建造物ではなく、テル村の自信と未来への希望を象徴するかのようだ。壁の内側では、俺たちの住居となる母屋や、食料・資材を保管する倉庫の建設も本格的に始まっている。

この目覚ましい進捗は、村人たちの一致団結した努力の賜物だが、俺がもたらしたささやかな技術革新も、少なからず貢献していた。

「この『テル・ブリック』、本当に丈夫だな! 前のレンガとは比べ物にならん!」
村の男たちが、新しく完成した共同のパン焼き窯の出来栄えに感心している。俺がテル村の粘土の特性を解析し、最適な配合と焼成方法を編み出した改良レンガ『テル・ブリック』は、従来の土レンガよりも格段に硬く、耐火性・耐水性に優れていた。拠点の壁の要所や、母屋の暖炉、そしてこのパン焼き窯などに使用され、その性能は実証済みだ。

「カイトさんに作ってもらった新しい鋤(すき)のおかげで、今年の冬前の畑起こしは楽だったよ」
農夫たちも、俺が鍛冶屋の青年と協力して開発した改良型の農具の恩恵を受けていた。少量ながらも生産できるようになった質の高い鋼を使った鋤は、硬い土を深く、楽に耕すことができ、作業効率を大幅に向上させたのだ。頑丈な釘や蝶番(ちょうつがい)も、拠点建設の様々な場面で役立っている。

そして、拠点の中央部分では、井戸の掘削作業が始まっていた。【万物解析】で特定した最も安全で豊富な水脈を目指し、これまた俺が設計した効率的な掘削方法(滑車を使った土砂の搬出など)で作業が進められている。良質な水源の確保は、籠城戦になった場合だけでなく、平時の生活の質をも大きく向上させるだろう。

仲間たちの成長も著しい。シルフィは、精霊との対話を日課とし、その力をより繊細に扱えるようになっていた。薬草畑の植物の成長を促すだけでなく、風の流れを読んで数日先の天候を予測したり、井戸掘削に適した場所(水脈だけでなく、地盤の安定性なども考慮した場所)を精霊の助けを借りて特定したりと、その能力は多岐にわたって村に貢献していた。村人たちは、彼女を敬意と親しみを込めて「恵みのエルフ」と呼ぶようになっていた。

レナもまた、目覚ましい成長を遂げていた。力の制御は格段に向上し、満月に近い日でも、以前のように精神が不安定になることはほとんどなくなった。基礎体力も向上し、長時間の建設作業や森の警備任務も、疲れを見せずにこなしている。さらに、彼女は村の若者たちに、自身の経験に基づいた戦闘訓練――体術の基礎や、獣のような動きを取り入れた回避術、簡単な武器の扱い方などを教え始めていた。彼女の指導は実践的で厳しかったが、若者たちは皆、真剣に取り組み、村全体の防衛意識と実質的な戦闘力は着実に向上していた。

俺自身も、拠点建設の指揮を執る傍ら、自己研鑽を怠らなかった。夜、皆が寝静まった後、遺跡から持ち帰った石版の解読作業に没頭する。古代文字の読解には慣れてきたが、その内容は依然として難解で、断片的だ。しかし、「生命創造」に関する記述を読み進めるうちに、その技術が単に合成獣(キメラ)を生み出すだけでなく、生命の根幹に関わる、恐ろしくも魅力的な側面を持っていることを理解し始めていた。そして、同時に、それが孕む計り知れない危険性も。この知識は、決して悪用されてはならない。俺は改めて気を引き締めた。

『星見の欠片』や黒い魔石の解析は、残念ながら大きな進展はない。だが、それらが放つ異質な気配は、常に俺の意識の片隅にあり、警戒を怠ることはなかった。空間収納ボックスは非常に便利で、遺跡再訪のための装備――ロープや食料、松明、各種薬草などを少しずつ準備し、収納していた。

テル村は、静かに、しかし確実に変貌していた。物理的な拠点だけでなく、人々の心の中にも、未来への希望と、困難に立ち向かうための強い意志という「礎」が築かれつつある。俺たちがこの村にもたらした変化は、辺境の小さな村の運命を、大きく動かし始めていたのだ。

冬の訪れを間近に控えたある日の夕暮れ時。俺はシルフィ、レナと共に、完成に近づいた拠点の壁の上に立っていた。眼下には、家々の窓に温かな灯りがともり、夕餉の支度をする煙が立ち上る、穏やかなテル村の風景が広がっている。畑は冬支度を終え、静かに春を待っている。

「綺麗だな…」レナが、オレンジ色に染まる村を見下ろして、しみじみと呟いた。
「はい…私たちが、守ってきた場所…」シルフィの瞳にも、深い感慨が浮かんでいる。

この穏やかな日常。村の確かな発展。それは、俺たちがこれまでに成し遂げてきたことへの、何よりの証だ。だが、俺の心は完全には晴れなかった。石版から読み解いた古代の業(わざ)の危険性。未だ解明されぬ魔物襲撃の謎と、その背後にいるかもしれない存在。そして、王都の動向も気にかかる。

辺境の静かな変貌は、やがて来るであろう大きな時代のうねりへの、ささやかな備えなのかもしれない。俺は、隣に立つ頼もしい仲間たちの顔を見つめ、そして再び、夕日に染まる辺境の空を見上げた。今はただ、この一瞬の平和を噛み締め、そして次なるステップへ向けて、静かに気を引き締めよう。物語は、着実に次章へと向かっているのだから。




40.41話入れました。
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