追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ

文字の大きさ
71 / 100

第71話:転送の果て、封印区画の扉

しおりを挟む
眩い光が収まり、体が地面に引き戻されるような感覚と共に、俺たちは見知らぬ場所に立っていた。転送装置は、無事に俺たちを別の場所へと送り届けたようだ。

そこは、これまで探索してきた遺跡のどの区画とも、明らかに雰囲気が異なっていた。周囲は金属質で継ぎ目のない壁に囲まれた通路で、空気はひんやりと澄み切り、まるで時間が止まっているかのような静寂に包まれている。床も壁も、塵一つなく磨き上げられており、ここが遺跡の中でも特に重要な区画であることを示唆していた。

「ここは…?」シルフィが、不安げに周囲を見回す。
「…なんか、空気が重いな。嫌な感じだぜ」レナも、警戒心を露わに鼻をひくつかせている。

俺はすぐに『星見の欠片』と【万物解析】で現在地を確認した。破損した遺跡の構造図データと照合すると、俺たちのいる場所が判明した。

「…間違いない。ここは、遺跡の深部…『封印区画』と呼ばれるエリアの入り口だ」
「封印区画…?」
俺の言葉に、シルフィとレナは息を呑んだ。その名の通り、何かを厳重に封じ込めている場所なのだろう。

通路を進むと、その感をさらに強くした。壁や床には、複雑怪奇な幾何学模様や、見たこともない古代文字がびっしりと刻まれている。それらは単なる装飾ではなく、【万物解析】によれば、それぞれが強力な魔力を帯びた封印術式の一部を構成しているようだった。幾重にも重ねられた術式が、この区画全体を巨大な結界のように覆い、外部からの侵入と、そしておそらくは内部からの何かの漏洩を、徹底的に防いでいるのだ。

通路の突き当たりには、他のどの扉とも比較にならないほど巨大で、重厚な金属製の扉が聳え立っていた。高さは5メートル以上、厚みも相当ありそうだ。表面には、通路の壁以上に複雑で強力な封印術式が幾重にも刻まれ、扉自体が膨大な魔力を放っている。物理的な力で破壊することなど、到底不可能に思えた。

「これが…封印区画の入り口か…」

俺は扉に近づき、【万物解析】を発動する。扉を開けるための方法を探る。

『対象: 超々高密度合金製・超弩級封印扉
状態: 完全封印状態。外部からの物理的・魔法的干渉に対する絶対的な耐性を持つ。
解除条件: 複合認証システムによる解除が必要。
1. 第一認証: 特定の高位魔力パターン(複数)の同時入力。
2. 第二認証: 声紋認証(登録された特定個人の音声)。
3. 第三認証: 認証キーアイテム(『星見の欠片』が該当する可能性が高いが、単体では不完全)。
4. 起動エネルギー: 上記認証と同時に、扉の機構を起動させるための膨大な魔力供給が必要。
備考: 通常の手段での解除は不可能。設計者レベルの権限、あるいはシステムへの直接介入が必要。ただし、封印術式の一部に経年劣化による微細な亀裂あり?』

「…複合認証に、膨大な魔力…おまけに声紋認証まであるのか」

解析結果を見て、俺は顔をしかめた。これは、俺たちの力だけでは、到底開けられそうにない。声紋認証の登録者など分かるはずもないし、必要な魔力量も、俺とシルフィ、レナの三人の魔力を合わせても足りるかどうか…。

(やはり、一旦村に戻るべきか…? 情報を持ち帰り、もっと準備を整えてから…)

この先に何が封印されているのか分からない以上、無理にこじ開けようとするのは危険すぎる。俺が撤退を考え始めた、その時だった。

『……助け……て……』

「!?」

微かに、しかし確かに、頭の中に直接響くような、か細い声が聞こえた気がした。それは若い女性の声のようにも聞こえ、悲痛で、切実な響きを帯びていた。

「カイト? どうしたんだ?」
「カイトさん…?」
俺の様子に気づいたレナとシルフィが、心配そうに顔を覗き込む。

「いや…今、何か…声が聞こえなかったか?」
「声? いや、何も聞こえなかったぜ?」
「私も…何も…」

二人には聞こえていないらしい。【万物解析】でも、音波や魔力的な通信は検知できない。精神的な呼びかけ…テレパシーのようなものだろうか?

『…お願い……ここから……出して……』

再び、声が響く。今度は、よりはっきりと。それは、間違いなく、あの巨大な封印扉の奥から聞こえてくる。

(扉の奥に、誰かいる…? しかも、助けを求めている…?)

一体誰なのか? 遺跡の事故で生き残った研究者? それとも、封印されているという「何か」自身なのか? 罠かもしれない。危険な存在を解き放ってしまうことになるかもしれない。

合理的に考えれば、無視して撤退すべきだ。だが、あの悲痛な声を聞いてしまった以上、俺は見過ごすことができなかった。もし、本当に助けを必要としている人がいるのなら…。

「…決めた」
俺は顔を上げ、シルフィとレナに向き直った。
「この扉を開ける。奥に誰がいるのか、確かめなければならない気がするんだ」
俺の突然の決意に、二人は驚いた顔をしたが、すぐにその瞳に覚悟の色を宿した。
「…カイトが決めたことなら」
「おう! やってやろうぜ!」

俺は『星見の欠片』を、扉の中央にある認証パネルらしき窪みにかざした。欠片が共鳴するように強く光り始める。
「シルフィ、レナ、俺に魔力を! 全力で!」

俺は自身の魔力を最大限に引き出し、同時に【万物解析】で特定した、不完全ながらも認証システムに干渉できそうな解除コードパターンを思い浮かべ、それを魔力に乗せて扉へと注ぎ込み始めた! シルフィとレナも、俺の背中に手を当て、彼女たちの持つ魔力を俺へと送り込んでくれる!

膨大な魔力が、扉の術式へと流れ込んでいく! 扉全体が軋むような音を立て始め、表面の術式が激しく明滅する!

ゴゴゴゴゴゴ……!!!

封印扉が、数千年の時を経て、ついに動き始めた兆候を見せた。果たして、扉は完全に開くのか? そして、その重い扉の先に、一体何が待ち受けているのか?

遺跡の最深部の秘密が、まさに暴かれようとしていた。俺たちは、固唾を飲んで、その瞬間を待っていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
クロード・ディスタンスは最強の魔法使い。しかしある日勇者パーティーを追放されてしまう。 勇者パーティーの一員として魔王退治をしてくると大口叩いて故郷を出てきた手前帰ることも出来ない俺は自分のことを誰も知らない辺境の地でひっそりと生きていくことを決めたのだった。

追放された荷物持ち、【分解】と【再構築】で万物創造師になる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーから「足手まとい」と捨てられた荷物持ちのベルク。しかし、彼が持つ外れスキル【分解】と【再構築】は、万物を意のままに創り変える「神の御業」だった! 覚醒した彼は、虐げられていた聖女ルナを救い、辺境で悠々自適なスローライフを開始する。壊れた伝説の剣を直し、ゴミから最強装備を量産し、やがて彼は世界を救う英雄へ。 一方、彼を捨てた勇者たちは没落の一途を辿り……。 最強の職人が送る、痛快な大逆転&ざまぁファンタジー!

処理中です...