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第六十二話 リリアナへの凶報
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エルフの森イルミナシルは、外から見た神聖な印象とは裏腹に、静かな悲鳴を上げていた。
一歩足を踏み入れただけで、俺たちはその異変に気づいた。
生命力に満ち溢れているはずの空気が、どこか淀んでいる。木々の間を流れる小川の水は、わずかに黒ずんでいた。
森が、病んでいる。
「……ひどい。こんな……」
リリアナが、震える声で呟いた。彼女の表情は、故郷が穢されていることへの悲しみと、それを為した者への静かな怒りで強張っていた。
彼女が地面に手を触れると、世界樹の杖が微かに反応し、森の現状を彼女に伝えてくる。
「……森の奥深く、世界樹の周辺から、強力な瘴気が発生しています。その瘴気が、森全体を少しずつ蝕んでいるようです」
「教団の連中、もう根城を築いてやがるのか」
ガロウが、ウォーハンマーを握りしめ、警戒を解かずに言った。
俺たちは、森の奥へと続く、エルフだけが知るという隠された小道を進み始めた。
リリアナの案内がなければ、俺たち人間には到底見つけられないような、巧妙に自然と一体化した道だった。
道中、俺たちは森の惨状を目の当たりにした。
瘴気に当てられ、黒く枯れ果てた木々。不気味な紫色の苔に覆われた岩。そして、本来この森には存在しないはずの、凶暴化した魔物たちの姿。
教団は、旧神の欠片の力で、この聖なる森を、自らの領域へと作り変えようとしていた。
「……許せない」
リリアナの口から、氷のように冷たい声が漏れた。
彼女の全身から、これまで感じたことのないほどの、静かで、しかし強大な魔力が溢れ出す。
森の木々が、彼女の怒りに呼応するように、ざわめいた。
エルフの王女は、自らの故郷を穢す者に対し、その真の力を解放しようとしていた。
数時間、森を進んだだろうか。
俺たちは、森の中に築かれたエルフたちの前線基地へとたどり着いた。
そこは、巨大な木の洞を改造したもので、数十人のエルフの戦士たちが、緊張した面持ちで詰めている。
彼らは、リリアナの姿を認めると、驚きと、そして安堵の表情を浮かべた。
「リリアナ様! ご無事でしたか!」
エルフの部隊長らしき、壮年の男が駆け寄ってきた。
「ライエル。あなたも無事だったのですね。状況を説明してください」
リリアナは、王女としての威厳を取り戻し、冷静に問うた。
ライエルと名乗った部隊長は、悔しげに顔を歪めた。
「……申し訳ありません。我々は、不覚を取りました。一月ほど前、森の奥深くで強力な魔力の発生を感知し、調査隊を派遣したのですが……誰一人として、戻ってきませんでした」
「その後、世界樹の周辺は急速に瘴気に覆われ、我々では近づくことすらできない聖域と化してしまいました。そして、そこを拠点として、教団の者たちが、森を内側から汚染し始めたのです」
「女王陛下は、ご無事なのですか」
リリアナの問いに、ライエルは頷いた。
「はい。女王陛下をはじめ、民のほとんどは、里の中心にある結界の中で保護されています。ですが、その結界も、瘴気の侵食によって、日に日にその力を弱めています。もって、あと数日かと……」
それは、事実上の凶報だった。
故郷は、陥落寸前。
リリアナの顔から、血の気が引いていくのが分かった。
彼女は、唇を強く噛み締め、その場に崩れ落ちそうになるのを、必死で堪えていた。
俺は、そんな彼女の肩に、無言で手を置いた。
温かい体温が、俺の手を通して彼女に伝わっていく。
リリアナは、はっとしたように俺の顔を見上げた。
その瞳には、絶望の淵に立たされた者の、か細い光が揺らめいていた。
「……一人で背負うな」
俺は、短く言った。
「俺たちが、いる」
その言葉に、隣に立つガロウも、力強く頷いた。
「そうだぜ、リリアナ。お前の故郷は、俺たちの故郷も同然だ。てめえらの好きにはさせねえよ」
仲間たちの、力強く、そして温かい言葉。
それが、リリアナの折れかけた心を、再び繋ぎ止めた。
彼女の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。だが、それは絶望の涙ではなかった。
仲間への、感謝の涙だった。
「……ありがとうございます」
彼女は、涙を拭うと、顔を上げた。
その顔には、もはや迷いも、弱さもなかった。
一人の王女として、一人の戦士として、故郷を救うことを決意した、鋼の意志が宿っていた。
「ライエル。これより、反撃を開始します」
彼女は、エルフの部隊長に、凛とした声で告げた。
「このお二方は、私の最も信頼する仲間、『闘神旅団』。人類最強の戦士たちです。我々は、この森を蝕む邪悪の根源を、完全に断ち切ります」
その言葉は、絶望の淵にいたエルフの戦士たちの心に、新たな希望の火を灯した。
彼らの目に、再び闘志の光が宿る。
こうして、俺たちの新たな戦いの目的が、明確になった。
ただ、教団を叩き潰すのではない。
リリアナの故郷を、この美しい森を、絶望の淵から救い出す。
そのために、俺たちは戦う。
俺は、森の奥深く、瘴気が渦巻く中心部を見据えた。
そこに、どんな強敵が待っていようとも、もはや俺たちを止めることはできない。
仲間と、故郷を守る。
その決意が、俺たちの力を、さらなる高みへと引き上げていくのを、俺は確かに感じていた。
戦いの時は、来た。
一歩足を踏み入れただけで、俺たちはその異変に気づいた。
生命力に満ち溢れているはずの空気が、どこか淀んでいる。木々の間を流れる小川の水は、わずかに黒ずんでいた。
森が、病んでいる。
「……ひどい。こんな……」
リリアナが、震える声で呟いた。彼女の表情は、故郷が穢されていることへの悲しみと、それを為した者への静かな怒りで強張っていた。
彼女が地面に手を触れると、世界樹の杖が微かに反応し、森の現状を彼女に伝えてくる。
「……森の奥深く、世界樹の周辺から、強力な瘴気が発生しています。その瘴気が、森全体を少しずつ蝕んでいるようです」
「教団の連中、もう根城を築いてやがるのか」
ガロウが、ウォーハンマーを握りしめ、警戒を解かずに言った。
俺たちは、森の奥へと続く、エルフだけが知るという隠された小道を進み始めた。
リリアナの案内がなければ、俺たち人間には到底見つけられないような、巧妙に自然と一体化した道だった。
道中、俺たちは森の惨状を目の当たりにした。
瘴気に当てられ、黒く枯れ果てた木々。不気味な紫色の苔に覆われた岩。そして、本来この森には存在しないはずの、凶暴化した魔物たちの姿。
教団は、旧神の欠片の力で、この聖なる森を、自らの領域へと作り変えようとしていた。
「……許せない」
リリアナの口から、氷のように冷たい声が漏れた。
彼女の全身から、これまで感じたことのないほどの、静かで、しかし強大な魔力が溢れ出す。
森の木々が、彼女の怒りに呼応するように、ざわめいた。
エルフの王女は、自らの故郷を穢す者に対し、その真の力を解放しようとしていた。
数時間、森を進んだだろうか。
俺たちは、森の中に築かれたエルフたちの前線基地へとたどり着いた。
そこは、巨大な木の洞を改造したもので、数十人のエルフの戦士たちが、緊張した面持ちで詰めている。
彼らは、リリアナの姿を認めると、驚きと、そして安堵の表情を浮かべた。
「リリアナ様! ご無事でしたか!」
エルフの部隊長らしき、壮年の男が駆け寄ってきた。
「ライエル。あなたも無事だったのですね。状況を説明してください」
リリアナは、王女としての威厳を取り戻し、冷静に問うた。
ライエルと名乗った部隊長は、悔しげに顔を歪めた。
「……申し訳ありません。我々は、不覚を取りました。一月ほど前、森の奥深くで強力な魔力の発生を感知し、調査隊を派遣したのですが……誰一人として、戻ってきませんでした」
「その後、世界樹の周辺は急速に瘴気に覆われ、我々では近づくことすらできない聖域と化してしまいました。そして、そこを拠点として、教団の者たちが、森を内側から汚染し始めたのです」
「女王陛下は、ご無事なのですか」
リリアナの問いに、ライエルは頷いた。
「はい。女王陛下をはじめ、民のほとんどは、里の中心にある結界の中で保護されています。ですが、その結界も、瘴気の侵食によって、日に日にその力を弱めています。もって、あと数日かと……」
それは、事実上の凶報だった。
故郷は、陥落寸前。
リリアナの顔から、血の気が引いていくのが分かった。
彼女は、唇を強く噛み締め、その場に崩れ落ちそうになるのを、必死で堪えていた。
俺は、そんな彼女の肩に、無言で手を置いた。
温かい体温が、俺の手を通して彼女に伝わっていく。
リリアナは、はっとしたように俺の顔を見上げた。
その瞳には、絶望の淵に立たされた者の、か細い光が揺らめいていた。
「……一人で背負うな」
俺は、短く言った。
「俺たちが、いる」
その言葉に、隣に立つガロウも、力強く頷いた。
「そうだぜ、リリアナ。お前の故郷は、俺たちの故郷も同然だ。てめえらの好きにはさせねえよ」
仲間たちの、力強く、そして温かい言葉。
それが、リリアナの折れかけた心を、再び繋ぎ止めた。
彼女の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。だが、それは絶望の涙ではなかった。
仲間への、感謝の涙だった。
「……ありがとうございます」
彼女は、涙を拭うと、顔を上げた。
その顔には、もはや迷いも、弱さもなかった。
一人の王女として、一人の戦士として、故郷を救うことを決意した、鋼の意志が宿っていた。
「ライエル。これより、反撃を開始します」
彼女は、エルフの部隊長に、凛とした声で告げた。
「このお二方は、私の最も信頼する仲間、『闘神旅団』。人類最強の戦士たちです。我々は、この森を蝕む邪悪の根源を、完全に断ち切ります」
その言葉は、絶望の淵にいたエルフの戦士たちの心に、新たな希望の火を灯した。
彼らの目に、再び闘志の光が宿る。
こうして、俺たちの新たな戦いの目的が、明確になった。
ただ、教団を叩き潰すのではない。
リリアナの故郷を、この美しい森を、絶望の淵から救い出す。
そのために、俺たちは戦う。
俺は、森の奥深く、瘴気が渦巻く中心部を見据えた。
そこに、どんな強敵が待っていようとも、もはや俺たちを止めることはできない。
仲間と、故郷を守る。
その決意が、俺たちの力を、さらなる高みへと引き上げていくのを、俺は確かに感じていた。
戦いの時は、来た。
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