死闘を求めた戦闘狂、異世界で最強スキル【闘神】を授かる 〜強敵と戦うほど無限に強くなるので、神だろうが殴りに行きます〜

夏見ナイ

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第六十四話 アッシュの影

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最初の目標地点『嘆きの泉』までは、前線基地から半刻ほどの距離だった。
だが、その道中は既に敵の領域だった。
瘴気によって狂暴化した森の魔物たちが、次から次へと俺たちに襲いかかってくる。黒い粘液を滴らせる巨大な蜘蛛、目が赤く充血した猪、そして本来は温厚なはずの森の精霊までもが、憎しみを剥き出しにして牙を剥いた。

「……ここまで汚染が進んでいるとは」
リリアナが苦渋の表情で杖を振るう。
彼女は敵を殺すのではなく、浄化の魔法でその狂気を鎮め、眠らせていく。故郷の生き物を自らの手で傷つけたくないという彼女の優しさだった。

「リリアナ、お前は下手に動くな! 魔力は温存しとけ!」
ガロウが大盾で魔物たちの突進を受け止めながら叫ぶ。
「こいつらは俺とジンで片付ける!」

俺たちは、もはや一体一体の敵に構ってはいなかった。
ただ最短距離で目標地点へと突き進む。
行く手を阻むものはガロウがウォーハンマーで薙ぎ払い、俺がその隙間を縫って駆け抜け、急所を的確に破壊していく。
それは、もはや戦いというより障害物競走に近かった。

やがて、俺たちの目の前に開けた場所が見えてきた。
かつては森で最も美しいと謳われた泉があった場所。
だが今、そこは見るも無惨な光景と化していた。

泉の水はヘドロのように黒く濁り、毒々しい紫色の泡をぶくぶくと立てている。
周囲の木々は全て枯れ果て、地面には動物たちの骨が散らばっていた。
そして、その泉の中央。
祭壇のように組まれた岩の上で、一人の男が何やら不気味な儀式を行っていた。

黒いローブを纏った痩せこけた男。黄昏の教団の呪術師だ。
その周囲には無数の生贄にされたであろう動物たちの死骸が転がり、そこから吸い上げられた生命力が泉の中へと注ぎ込まれている。
この泉そのものを巨大な呪いの釜へと変え、森全体を呪殺しようとしているのだ。

「……見つけたぞ、ドブネズミが」
ガロウが地の底から響くような声で唸った。

呪術師は俺たちの存在に気づくと、ゆっくりと振り返った。
その顔は包帯でぐるぐる巻きにされ、目元だけが覗いている。その瞳は狂信者のそれだった。
「……ほう。招かれざる客か。よくぞここまでたどり着けたものだ。だが、もう遅い。我が偉大なる主、旧神に捧げる呪詛は既に完成しつつある」

呪術師が杖を掲げると、毒の泉からヘドロでできた巨大なゴーレムが姿を現した。
その体からは、触れるもの全てを腐らせるであろう強力な呪いの瘴気が放たれている。

「まずは、その汚れた肉体を我が呪いの泥に沈めてくれるわ!」
呪術師の号令と共に、ヘドロゴーlemが地響きを立ててこちらへ迫ってきた。

「……つまらん」
俺は静かに呟いた。
あんな鈍重なだけの塊、俺たちの敵ではない。
俺が前に出ようとした、その時だった。

ザンッ、という鋭い風切り音。
次の瞬間、ヘドロゴーlemの巨大な頭部が胴体から綺麗に滑り落ちていた。
そして、その背後。
音もなく一つの人影が立っていた。

黒いマント。
腰に下げられた飾り気のない長剣。
そして全ての感情を拒絶するかのような、漆黒の仮面。
間違いない。
アッシュだ。

「……な、何者だ、貴様は……!」
呪術師が狼狽の声を上げる。
俺たちもまた、その突然の闖入者に息を呑んでいた。

アッシュは呪術師の問いには答えなかった。
ただ、その仮面の奥から冷たい視線を俺に向けた。
「……ジン。まだ生きていたか」
その声には何の感情も籠っていなかった。

「お前こそ。こんな場所で何をしている」
俺の問いに、アッシュはゆっくりとリリアナの方へと視線を移した。
いや、彼が見ているのはリリアナではない。
彼女が背負う世界樹の杖だ。

「……俺の目的も、お前たちと同じだ。黄昏の教団を叩き潰す」
アッシュはそれだけを告げると、再び呪術師へと向き直った。
その姿がブレた。
次の瞬間、彼は呪術師の目の前に立っていた。

「ひっ……!」
呪術師が恐怖に引きつった悲鳴を上げる。
だが、その声は途中で途切れた。
アッシュの剣が閃光のように煌めき、呪術師の心臓を正確に貫いていたからだ。
呪術師は声もなく崩れ落ち、その体は黒い塵となって消滅した。

あまりにあっけない幕切れだった。
あれほど邪悪な気配を放っていた呪術師が、一撃。

アッシュは倒した敵には一瞥もくれず、その剣を鞘に納めた。
そして再び俺たちへと向き直る。
「……邪魔が入ったな。だが好都合だ。お前たちと馴れ合うつもりはない。俺は俺のやり方で教団を潰す。ついてくるな」
彼はそう言い放つと、森の奥深くへとその姿を消そうとした。

「待て、アッシュ!」
俺は叫んだ。
「お前の目的は何だ! なぜ教団を狙う!」

アッシュの足が止まった。
彼は振り返らない。
ただ冷たい声だけが、森に響いた。
「……奴らは俺から全てを奪った。それだけだ」

その声には底知れない憎しみと、そして深い悲しみが滲んでいた。
彼は俺に背を向けたまま、静かに続けた。
「……ジン。お前はまだ弱い。だが、少しはマシになったようだな。死にたくなければ、これ以上俺に関わるな」

それが彼が残した最後の言葉だった。
アッシュの姿は完全に森の闇の中へと消えていった。

後に残されたのは静けさを取り戻した泉と、そして俺たちの心の中に生まれた大きな謎だけだった。
アッシュ。
彼は敵なのか、味方なのか。
そして彼の言う「全てを奪われた」過去とは、一体何なのか。

確かなことは一つだけ。
俺たちの、そして教団の運命の歯車に、アッシュという予測不能な存在が加わったということ。
この森での戦いは俺たちが思っているよりも、ずっと複雑で、そして過酷なものになるだろう。

俺はアッシュが消えていった闇を静かに見据えていた。
次に会う時は、必ず決着をつける。
その誓いを俺は新たに心に刻んだ。
俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ。
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