死闘を求めた戦闘狂、異世界で最強スキル【闘神】を授かる 〜強敵と戦うほど無限に強くなるので、神だろうが殴りに行きます〜

夏見ナイ

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第六十八話 防衛準備

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賢者の塔を制圧したことで、森を覆っていた最後の呪いは解かれた。
だが、戦いは終わっていない。塔の最上階から見下ろしたエルフの里は、今この瞬間も教団本隊の猛攻に晒されていた。
俺たちは一刻の猶予もなく塔を駆け下り、最後の決戦の地、世界樹がそびえる里の中心部へと急行した。

森を駆け抜ける。
これまでの道中で感じた淀んだ空気は完全に消え失せ、森は本来の清浄な生命力を取り戻しつつあった。木々がざわめき、風が俺たちの背中を押す。まるで森全体が俺たちに味方し、その怒りを伝えているかのようだった。

やがて視界が開け、エルフの里が見えてきた。
そこは息を呑むほど美しい場所だった。
巨大な樹木と清らかな川の流れが一体となった自然の芸術品。家々は木々の中に溶け込むように建てられ、水晶の橋がそれらを結んでいる。
だが、その美しい光景は今、戦火によって無惨に蹂躙されつつあった。

里の外縁部では、エルフの戦士たちが必死の防衛線を築いていた。
彼らは弓を構え、あるいは剣を抜き、津波のように押し寄せる教団の軍勢と対峙している。
その数は数百か、あるいは千を超えるか。魔改造されたキメラのような魔獣、瞳に光のない洗脳された狂戦士たち、そしてそれらを指揮する黒いローブの教団員。
あまりにも絶望的な戦力差だった。

「ライエル!」
リリアナが防衛線の指揮を執っていた部隊長の名を叫んだ。
ライエルは血と泥に塗れながらもリリアナの姿を認めると、驚きと安堵の表情を浮かべた。
「リリアナ様! ご無事で! そして、三つの拠点を……!?」

「話は後です! 状況は!」
「……持ちこたえるのがやっとです。里を守る大結界も、敵の攻城兵器によってもはや限界に近い。結界が破られれば我々は……」

その言葉を裏付けるように、里の上空に張られていた半透明の結界がギシギシと悲鳴のような音を立て、激しく明滅した。
教団が持ち込んだ巨大な投石機のような兵器が、呪詛を込めた岩塊を絶え間なく撃ち込んでいるのだ。

「……間に合ったな」
俺は静かに呟いた。
最悪の状況。だが、まだ終わってはいない。

「ガロウ!」
「おう!」
俺たちはアイコンタクトだけで互いの役割を理解した。
ガロウが雄叫びを上げて最前線へと躍り出た。
「てめえら、雑魚は引っ込んでな!」

彼はエルフの戦士たちが形成していた盾の壁の、さらに前へ。
たった一人で千を超える軍勢の前に立ちはだかった。
そして、神砕の大盾『不動』を大地に突き立てる。
「獣王の城壁!」

ガロウの全身から凄まじい闘気が放たれ、大盾と一体化する。
それはもはやただの盾ではなかった。
どんな攻撃も通さない絶対的な防御の概念そのもの。
敵の攻撃が、魔法が、呪詛が、その一枚の盾の前に全て無力化されていった。

「な、なんだ、あの獣人は……!?」
敵の指揮官が狼狽の声を上げる。
ガロウという規格外の壁の出現によって、教団の猛攻がぴたりと止まったのだ。

「今です! 負傷者を後退させてください!」
リリアナが的確な指示を飛ばす。
彼女は戦いの指揮官としても卓越した才能を持っていた。
エルフの戦士たちはガロウが稼いだ時間を利用し、負傷者を後方の治療所へと運び、陣形を立て直す。

そして俺は動いていた。
敵の頭を叩くために。
俺は誰にも気づかれることなく、戦場の側面へと回り込んでいた。
そして敵の陣形の最も手薄な部分、後方でふんぞり返っている指揮官たちと、あの忌々しい攻城兵器へと狙いを定めた。

俺は影の中を疾駆した。
【闘神】のスキルは使わない。
この程度の相手に全力を出す必要はない。
ただ静かに、確実に、敵の機能を破壊していくだけだ。

最初に狙ったのは攻城兵器だ。
操作していた教団員たちの首を音もなく刎ねる。
そして兵器の心臓部である魔力炉に、闘気を込めた掌底を打ち込んだ。
内部から破壊された攻城兵器は、甲高い悲鳴のような音を立て沈黙した。

「な、なんだ!? 『破城槌』がなぜ止まった!?」
「報告! 後方より謎の襲撃者が!」

敵陣が混乱に陥る。
その混乱の中心で俺は死神のように舞っていた。
指揮官と思しきローブの男たちの首を、一人、また一人と正確に刈り取っていく。
彼らは自分たちが何に殺されたのかすら理解できないまま、絶命していった。

「……これで、終わりだ」
俺は最後の指揮官の背後に立つと、その心臓を背中から貫いた。

指揮官を全て失った軍勢は、もはやただの烏合の衆だった。
統率を失い、混乱し、互いに殺し合いを始める者すらいる。

「……今だ! 総員、突撃ィィィッ!!」
好機を逃さず、ライエルが号令を下した。
陣形を立て直したエルフの戦士たちが一斉に反撃に転じる。
ガロウもまた、防戦一方だった盾を捨てウォーハンマーを手に、その破壊の化身としての本領を発揮し始めた。

戦況は完全に逆転した。
それはもはや戦いではなく、一方的な掃討戦だった。

俺はその光景を少し離れた木の上から静かに見下ろしていた。
俺の役目は終わった。
後は彼らの戦いだ。

故郷を、仲間を、自らの手で守り抜く。
その経験こそが彼らをさらに強くするだろう。
エルフの戦士たちの目には先ほどまでの絶望の色はなく、誇りと闘志の炎が燃え盛っていた。

だが、俺は知っていた。
これはまだ本当の決戦ではない。
ただの前哨戦に過ぎない。

俺の視線は里の中心、天を突くようにそびえ立つ世界樹へと向けられていた。
あの場所から放たれる禍々しい気配。
ザラガスをも超えるであろう本物の強敵が、静かに俺たちを待ち構えている。

そして、もう一つ。
アッシュの気配。
彼はこの戦場にはいない。
だが、確かにこの森のどこかにいる。
奴は一体何を狙っているのか。

エルフの森の運命をかけた本当の戦い。
その舞台は整った。
俺は静かに木から飛び降り、仲間たちが待つ防衛線へとゆっくりと歩き始めた。
束の間の勝利の喧騒の中で俺の心は、次なる死闘の予感に静かに、しかし激しく高ぶっていた。
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