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第六十四話 初めての仲間、最後の孤独
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リゼット主催のお茶会への招待状が届いた日の夕刻、私は作戦司令室に呼ばれた。
部屋の中にはゼノン公爵、ギルバート、そしてレオンハルトの三人が、巨大な相関図を前にすでに集まっていた。その顔は決戦前の司令部のそれのように、厳しい緊張感に満ちている。
私が部屋に入ると、三人の視線が一斉に私へと注がれた。
それはもう私を試すような視線ではなかった。これから始まる作戦の最も重要な鍵を握る仲間へ向けられた、絶対的な信頼の眼差しだった。
「来たか、アリーシャ」
ゼノン公爵が静かに言った。
「お前のための舞台の準備は整った」
ギルバートが一歩前に進み出た。
「お茶会は三日後。クライノート伯爵家の庭園にて行われます。参加者はリゼット嬢の取り巻きである若い令嬢たちが中心ですが、その中にはアルフォンス王子派の有力貴族の娘たちも数名含まれております」
彼は手にした羊皮紙を読み上げながら、淡々と報告を続ける。
「おそらく、彼女たちはリゼT嬢に指示され、アリーシャ様を精神的に追い詰めるための言葉の罠を仕掛けてくるでしょう。我々が掴んだ情報によれば、彼らはアリーシャ様を『エルヴァイン公爵に見捨てられた哀れな女』として扱い、その心を乱そうと計画しているようです」
その言葉にレオンハルトの拳が、ぎしりと音を立てて握りしめられた。
「…なんという、卑劣な」
彼の心から静かな怒りに満ちた、低い不協和音が響く。
しかし、私は落ち着いていた。
「想定通りですわね」
私の冷静な反応に、三人の男たちはわずかに驚いたように私を見た。
「リゼットの狙いはわたくしを孤立させ、精神的に追い詰めること。そして、わたくしが取り乱す姿を他の令嬢たちに見せつけ、自らの優位性を誇示すること。彼女の虚栄心を満たすための分かりやすい筋書きです」
「…アリーシャ様。本当に、よろしいのですか」
レオンハルトが心配そうな声で尋ねた。
「あなた様お一人で敵の巣に飛び込むなど…」
「一人ではありませんわ」
私はきっぱりと首を振った。
そして、彼の目を、そしてギルバートの目を、最後にゼノン公爵の目を順番にしっかりと見つめた。
「わたくしには、あなた方がいます」
その言葉は私の心からの本心だった。
今まで、私はずっと一人だった。
不協和音の嵐の中で誰にも理解されず、ただ一人で耐え忍んできた。
しかし、今は違う。
私の背後には、この国で最も頼もしい仲間たちがいる。
私の耳が捉えた情報を正確に分析し、次の戦略を立ててくれるギルバートがいる。
私の身に危険が迫れば、どんな敵からも命を賭して守ってくれるレオンハルトがいる。
そして。
私がどんなに深い闇に迷い込んでも、その絶対的な静寂で私を必ず引き戻してくれるゼノン公爵がいる。
「わたくしは一人で戦うのではありません。あなた方が築き上げてくれたこの完璧な包囲網の中で、わたくしはただ自分の役割を果たすだけです」
私の言葉に、司令室は静かな感動に包まれた。
レオンハルトは感極まったようにその目を潤ませている。
ギルバートもまた、その鉄仮面の下で深く、そして満足げに頷いていた。
「…アリーシャ様」
やがてレオンハルトが震える声で言った。
「このレオンハルト、必ずやあなた様を無事にお連れ戻しいたします。この命に代えましても」
「うむ。我々も全ての事態を想定し、万全の態勢であなた様をお支えいたしますぞ」
ギルバートもまた力強く続けた。
彼らの心から響いてくるのは、もうただの忠誠ではない。
私という仲間への熱い友情と、家族にも似た温かい愛情の和音だった。
胸が熱くなった。
生まれて初めて、私は「仲間」というものの本当の意味を知った。
孤独ではない。
その事実がこれほどまでに人の心を強くするものだなんて。
私は込み上げてくる涙を堪えながら、二人に深く、深く頭を下げた。
「…よろしくお願いいたします」
そして顔を上げ、最後にゼノン公爵に向き直った。
彼は何も言わなかった。
ただ、その金色の瞳で私を、そして私たちの姿を静かに見守っている。
その瞳の奥に、彼が長年抱えてきた深い孤独の影がほんの少しだけ和らいでいるのを、私は見逃さなかった。
彼もまた孤独だったのだ。
絶対的な支配者として、常に一人で決断し、一人で戦ってきた。
しかし、今、彼の周りには彼と心を一つにして戦う揺るぎなき仲間たちがいる。
「…行くぞ」
彼は短くそれだけを言った。
しかし、その声には今まで聞いたこともないほどの確かな力が宿っていた。
それは孤独な王が初めて信頼できる騎士団を得た瞬間の、力強い鬨の声のようだった。
作戦会議は終わった。
しかし、私たちの戦いはまだ始まったばかりだ。
部屋を出る間際、私はふと自分の過去を振り返った。
クライノート家で過ごした孤独な日々。
不協和音に苛まれ、心を閉ざし、誰も信じることができなかったあの頃の私。
あの時の孤独はもうここにはない。
これが私の最後の孤独からの卒業式なのだ。
私は晴れやかな気持ちで仲間たちと共に司令室を後にした。
胸の中にはこれから始まる戦いへの恐怖よりも、信頼できる仲間たちと共に戦えることへの熱い喜びだけが力強く燃え盛っていた。
部屋の中にはゼノン公爵、ギルバート、そしてレオンハルトの三人が、巨大な相関図を前にすでに集まっていた。その顔は決戦前の司令部のそれのように、厳しい緊張感に満ちている。
私が部屋に入ると、三人の視線が一斉に私へと注がれた。
それはもう私を試すような視線ではなかった。これから始まる作戦の最も重要な鍵を握る仲間へ向けられた、絶対的な信頼の眼差しだった。
「来たか、アリーシャ」
ゼノン公爵が静かに言った。
「お前のための舞台の準備は整った」
ギルバートが一歩前に進み出た。
「お茶会は三日後。クライノート伯爵家の庭園にて行われます。参加者はリゼット嬢の取り巻きである若い令嬢たちが中心ですが、その中にはアルフォンス王子派の有力貴族の娘たちも数名含まれております」
彼は手にした羊皮紙を読み上げながら、淡々と報告を続ける。
「おそらく、彼女たちはリゼT嬢に指示され、アリーシャ様を精神的に追い詰めるための言葉の罠を仕掛けてくるでしょう。我々が掴んだ情報によれば、彼らはアリーシャ様を『エルヴァイン公爵に見捨てられた哀れな女』として扱い、その心を乱そうと計画しているようです」
その言葉にレオンハルトの拳が、ぎしりと音を立てて握りしめられた。
「…なんという、卑劣な」
彼の心から静かな怒りに満ちた、低い不協和音が響く。
しかし、私は落ち着いていた。
「想定通りですわね」
私の冷静な反応に、三人の男たちはわずかに驚いたように私を見た。
「リゼットの狙いはわたくしを孤立させ、精神的に追い詰めること。そして、わたくしが取り乱す姿を他の令嬢たちに見せつけ、自らの優位性を誇示すること。彼女の虚栄心を満たすための分かりやすい筋書きです」
「…アリーシャ様。本当に、よろしいのですか」
レオンハルトが心配そうな声で尋ねた。
「あなた様お一人で敵の巣に飛び込むなど…」
「一人ではありませんわ」
私はきっぱりと首を振った。
そして、彼の目を、そしてギルバートの目を、最後にゼノン公爵の目を順番にしっかりと見つめた。
「わたくしには、あなた方がいます」
その言葉は私の心からの本心だった。
今まで、私はずっと一人だった。
不協和音の嵐の中で誰にも理解されず、ただ一人で耐え忍んできた。
しかし、今は違う。
私の背後には、この国で最も頼もしい仲間たちがいる。
私の耳が捉えた情報を正確に分析し、次の戦略を立ててくれるギルバートがいる。
私の身に危険が迫れば、どんな敵からも命を賭して守ってくれるレオンハルトがいる。
そして。
私がどんなに深い闇に迷い込んでも、その絶対的な静寂で私を必ず引き戻してくれるゼノン公爵がいる。
「わたくしは一人で戦うのではありません。あなた方が築き上げてくれたこの完璧な包囲網の中で、わたくしはただ自分の役割を果たすだけです」
私の言葉に、司令室は静かな感動に包まれた。
レオンハルトは感極まったようにその目を潤ませている。
ギルバートもまた、その鉄仮面の下で深く、そして満足げに頷いていた。
「…アリーシャ様」
やがてレオンハルトが震える声で言った。
「このレオンハルト、必ずやあなた様を無事にお連れ戻しいたします。この命に代えましても」
「うむ。我々も全ての事態を想定し、万全の態勢であなた様をお支えいたしますぞ」
ギルバートもまた力強く続けた。
彼らの心から響いてくるのは、もうただの忠誠ではない。
私という仲間への熱い友情と、家族にも似た温かい愛情の和音だった。
胸が熱くなった。
生まれて初めて、私は「仲間」というものの本当の意味を知った。
孤独ではない。
その事実がこれほどまでに人の心を強くするものだなんて。
私は込み上げてくる涙を堪えながら、二人に深く、深く頭を下げた。
「…よろしくお願いいたします」
そして顔を上げ、最後にゼノン公爵に向き直った。
彼は何も言わなかった。
ただ、その金色の瞳で私を、そして私たちの姿を静かに見守っている。
その瞳の奥に、彼が長年抱えてきた深い孤独の影がほんの少しだけ和らいでいるのを、私は見逃さなかった。
彼もまた孤独だったのだ。
絶対的な支配者として、常に一人で決断し、一人で戦ってきた。
しかし、今、彼の周りには彼と心を一つにして戦う揺るぎなき仲間たちがいる。
「…行くぞ」
彼は短くそれだけを言った。
しかし、その声には今まで聞いたこともないほどの確かな力が宿っていた。
それは孤独な王が初めて信頼できる騎士団を得た瞬間の、力強い鬨の声のようだった。
作戦会議は終わった。
しかし、私たちの戦いはまだ始まったばかりだ。
部屋を出る間際、私はふと自分の過去を振り返った。
クライノート家で過ごした孤独な日々。
不協和音に苛まれ、心を閉ざし、誰も信じることができなかったあの頃の私。
あの時の孤独はもうここにはない。
これが私の最後の孤独からの卒業式なのだ。
私は晴れやかな気持ちで仲間たちと共に司令室を後にした。
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