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第38話 裏切りの魔女
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意識が闇に沈む寸前、私は確かに感じていた。
アルフレッドの腕の温もりと、彼が放つ聖なる光が、私の魂を優しく包み込むのを。このまま、彼に身を委ねていれば、きっと全てが良い方向へ向かう。そんな、何の根拠もない安堵感が、私の心を満たしていた。
しかし、その儚い希望は、突如として現れた絶対的な絶望によって、容赦なく打ち砕かれた。
ズシン、と。
大地が、一度だけ大きく揺れた。
それは、先ほどの魔力暴走による揺れとは質の違う、何か巨大で、計り知れない存在が、この地に降り立ったことを示す揺れだった。
薄れゆく意識の中、私はゆっくりと目を開けた。
そして、見てしまったのだ。
私とアルフレッドの前に、音もなく佇む、一つの影を。
その姿は、闇そのものを切り取って人の形にしたかのようだった。
強大すぎる魔力の影響で、その輪郭は常に揺らめき、顔を窺い知ることはできない。
しかし、その存在感を、私が間違えるはずがなかった。
「魔王……ザルディアス様……」
私の唇から、絶望の色を帯びた声が漏れた。
なぜ、この方が、ここに。
アルフレッドもまた、その圧倒的な存在感に気づき、私を抱きしめたまま、ゆっくりと顔を上げた。その顔には、今まで見たこともないほどの、最大限の警戒が浮かんでいる。
「……貴様が、魔王か」
アルフレッドの低い声が、静寂を破った。
玉座の上の影は、彼の問いには答えなかった。その視線は、ただ一点、私にだけ注がれているように感じられた。
そして、地の底から響くような、冷徹な声が、グレンデル平原に響き渡った。
「やはり、お前は裏切り者だったな、リディア」
その言葉は、まるで鋭い氷の刃のように、私の心を貫いた。
裏切り者。
その烙印が、絶対的な主の口から、ついに下された。
「違う!」
アルフレッドが、私を庇うように叫んだ。「彼女は、操られていただけだ! 全ては、貴様が仕組んだ罠じゃないか!」
「罠、だと?」
魔王様は、初めてアルフレッドの方に視線を向けたようだった。その声には、嘲笑の色が滲んでいる。「愚かな勇者よ。これは罠などではない。ただの、確認作業だ」
「何……?」
「この娘が、私の剣としてまだ使えるのか、それとも、もはやただの壊れた人形なのか。それを、確かめたに過ぎん」
魔王様は、ゆっくりと私の方へ一歩、足を踏み出した。その一歩だけで、周囲の空間が歪むほどのプレッシャーが放たれる。
「そして、結果は出た。この娘は、もはや不要だ。敵である貴様に心を売り渡し、自らの主の命令にさえ背く、ただの裏切り者。その上、自らの力さえ制御できずに暴走し、この地を破壊し尽くした。魔王軍の名を汚す、最大の汚点よ」
その言葉の一つ一つが、私という存在を、 mercilessly否定していく。
私は、魔王様にとって、もはや価値のない、ただの失敗作なのだ。
「違う……私は……」
何かを言おうとしても、言葉にならない。
魔王様は、そんな私の無様な姿を、まるでゴミでも見るかのような冷たい視線で見下ろしていた。
「この惨状を見ろ、勇者よ」
魔王様は、破壊され尽くした平原を、腕を広げて示してみせた。「これこそが、この娘の本質だ。破壊と混沌。お前が信じた光など、この娘の中には欠片も存在せぬわ」
「黙れ!」
アルフレッドが吼えた。「彼女を侮辱することは、僕が許さない!」
彼は私をそっと地面に横たえると、傷ついた体を引きずりながら、聖剣を構えて魔王様の前に立ちはだかった。
しかし、その姿はあまりにも痛々しかった。先ほどの魔力暴走を防いだことで、彼の力はほとんど残っていない。立っているのがやっとの状態だ。
「ほう。その体で、私に挑むか。勇者というのも、とんだ道化よな」
魔王様は、アルフレッドを全く意に介さず、ただ私に向かって手を伸ばした。
その手から、闇の鎖が伸び、私の体に絡みつく。抵抗する力など、私には残っていなかった。
「この騒ぎの責任は、全てこの裏切り者に負わせる」
魔王様は、高らかに宣言した。「煉獄の魔女リディアは、その身に余る力に溺れ、暴走した。そして、その結果、勇者アルフレッドに重傷を負わせた、と。人間たちにも、そう伝えてやろう。さすれば、お前たちが信じる希望も、脆く崩れ去るだろうからな」
それは、あまりにも狡猾で、残酷な筋書きだった。
全ての罪を、私一人に被せる。そして、人間と魔族の間の憎しみを、さらに煽る。
アルフレッドが、私を庇えば庇うほど、彼の立場は危うくなるだろう。
「待て……! 彼女を、どこへ連れて行く気だ!」
アルフレッドが、最後の力を振り絞って踏み込もうとする。
しかし、魔王様が指を鳴らすと、彼の足元から闇の棘が突き出し、その動きを封じた。
「この裏切り者には、相応しい役割を与えてやる」
魔王様の声が、私の耳元で響く。
「お前のその強大な魔力は、ただ破壊を振りまくだけでは惜しい。世界の理を書き換えるための、我が大願の『贄』として、有効に活用させてもらおう」
贄。
その言葉の意味を、私はまだ理解できなかった。
しかし、それが、死よりも辛い、永遠の苦しみを意味することだけは、本能で感じ取っていた。
魔王様は、これ以上アルフレッドに構うことなく、私に最後の言葉を告げた。
「さらばだ、リディア。お前が選んだ光の果てにある絶望を、その身で味わうがいい」
その言葉を最後に、闇の鎖が私を宙へと吊り上げた。
私の体は、意思とは無関係に、魔王様の元へと引き寄せられていく。
「リディアアアアアア!」
アルフレッドの、悲痛な絶叫が聞こえる。
私は、薄れゆく意識の中で、彼の方に手を伸ばそうとした。
しかし、その指先は、虚しく空を切るだけだった。
ごめんなさい、アルフレッド。
私は、あなたを守りたかっただけなのに。
結果として、あなたを、誰よりも深く傷つけてしまった。
私の視界が、魔王様が作り出した闇の渦に飲み込まれていく。
最後に見たのは、闇の棘に囚われ、絶望の表情でこちらに手を伸ばす、愛しい人の姿だった。
そして、私の意識は、完全に闇の中へと落ちていった。
裏切りの魔女。
その汚名を着せられたまま。
アルフレッドの腕の温もりと、彼が放つ聖なる光が、私の魂を優しく包み込むのを。このまま、彼に身を委ねていれば、きっと全てが良い方向へ向かう。そんな、何の根拠もない安堵感が、私の心を満たしていた。
しかし、その儚い希望は、突如として現れた絶対的な絶望によって、容赦なく打ち砕かれた。
ズシン、と。
大地が、一度だけ大きく揺れた。
それは、先ほどの魔力暴走による揺れとは質の違う、何か巨大で、計り知れない存在が、この地に降り立ったことを示す揺れだった。
薄れゆく意識の中、私はゆっくりと目を開けた。
そして、見てしまったのだ。
私とアルフレッドの前に、音もなく佇む、一つの影を。
その姿は、闇そのものを切り取って人の形にしたかのようだった。
強大すぎる魔力の影響で、その輪郭は常に揺らめき、顔を窺い知ることはできない。
しかし、その存在感を、私が間違えるはずがなかった。
「魔王……ザルディアス様……」
私の唇から、絶望の色を帯びた声が漏れた。
なぜ、この方が、ここに。
アルフレッドもまた、その圧倒的な存在感に気づき、私を抱きしめたまま、ゆっくりと顔を上げた。その顔には、今まで見たこともないほどの、最大限の警戒が浮かんでいる。
「……貴様が、魔王か」
アルフレッドの低い声が、静寂を破った。
玉座の上の影は、彼の問いには答えなかった。その視線は、ただ一点、私にだけ注がれているように感じられた。
そして、地の底から響くような、冷徹な声が、グレンデル平原に響き渡った。
「やはり、お前は裏切り者だったな、リディア」
その言葉は、まるで鋭い氷の刃のように、私の心を貫いた。
裏切り者。
その烙印が、絶対的な主の口から、ついに下された。
「違う!」
アルフレッドが、私を庇うように叫んだ。「彼女は、操られていただけだ! 全ては、貴様が仕組んだ罠じゃないか!」
「罠、だと?」
魔王様は、初めてアルフレッドの方に視線を向けたようだった。その声には、嘲笑の色が滲んでいる。「愚かな勇者よ。これは罠などではない。ただの、確認作業だ」
「何……?」
「この娘が、私の剣としてまだ使えるのか、それとも、もはやただの壊れた人形なのか。それを、確かめたに過ぎん」
魔王様は、ゆっくりと私の方へ一歩、足を踏み出した。その一歩だけで、周囲の空間が歪むほどのプレッシャーが放たれる。
「そして、結果は出た。この娘は、もはや不要だ。敵である貴様に心を売り渡し、自らの主の命令にさえ背く、ただの裏切り者。その上、自らの力さえ制御できずに暴走し、この地を破壊し尽くした。魔王軍の名を汚す、最大の汚点よ」
その言葉の一つ一つが、私という存在を、 mercilessly否定していく。
私は、魔王様にとって、もはや価値のない、ただの失敗作なのだ。
「違う……私は……」
何かを言おうとしても、言葉にならない。
魔王様は、そんな私の無様な姿を、まるでゴミでも見るかのような冷たい視線で見下ろしていた。
「この惨状を見ろ、勇者よ」
魔王様は、破壊され尽くした平原を、腕を広げて示してみせた。「これこそが、この娘の本質だ。破壊と混沌。お前が信じた光など、この娘の中には欠片も存在せぬわ」
「黙れ!」
アルフレッドが吼えた。「彼女を侮辱することは、僕が許さない!」
彼は私をそっと地面に横たえると、傷ついた体を引きずりながら、聖剣を構えて魔王様の前に立ちはだかった。
しかし、その姿はあまりにも痛々しかった。先ほどの魔力暴走を防いだことで、彼の力はほとんど残っていない。立っているのがやっとの状態だ。
「ほう。その体で、私に挑むか。勇者というのも、とんだ道化よな」
魔王様は、アルフレッドを全く意に介さず、ただ私に向かって手を伸ばした。
その手から、闇の鎖が伸び、私の体に絡みつく。抵抗する力など、私には残っていなかった。
「この騒ぎの責任は、全てこの裏切り者に負わせる」
魔王様は、高らかに宣言した。「煉獄の魔女リディアは、その身に余る力に溺れ、暴走した。そして、その結果、勇者アルフレッドに重傷を負わせた、と。人間たちにも、そう伝えてやろう。さすれば、お前たちが信じる希望も、脆く崩れ去るだろうからな」
それは、あまりにも狡猾で、残酷な筋書きだった。
全ての罪を、私一人に被せる。そして、人間と魔族の間の憎しみを、さらに煽る。
アルフレッドが、私を庇えば庇うほど、彼の立場は危うくなるだろう。
「待て……! 彼女を、どこへ連れて行く気だ!」
アルフレッドが、最後の力を振り絞って踏み込もうとする。
しかし、魔王様が指を鳴らすと、彼の足元から闇の棘が突き出し、その動きを封じた。
「この裏切り者には、相応しい役割を与えてやる」
魔王様の声が、私の耳元で響く。
「お前のその強大な魔力は、ただ破壊を振りまくだけでは惜しい。世界の理を書き換えるための、我が大願の『贄』として、有効に活用させてもらおう」
贄。
その言葉の意味を、私はまだ理解できなかった。
しかし、それが、死よりも辛い、永遠の苦しみを意味することだけは、本能で感じ取っていた。
魔王様は、これ以上アルフレッドに構うことなく、私に最後の言葉を告げた。
「さらばだ、リディア。お前が選んだ光の果てにある絶望を、その身で味わうがいい」
その言葉を最後に、闇の鎖が私を宙へと吊り上げた。
私の体は、意思とは無関係に、魔王様の元へと引き寄せられていく。
「リディアアアアアア!」
アルフレッドの、悲痛な絶叫が聞こえる。
私は、薄れゆく意識の中で、彼の方に手を伸ばそうとした。
しかし、その指先は、虚しく空を切るだけだった。
ごめんなさい、アルフレッド。
私は、あなたを守りたかっただけなのに。
結果として、あなたを、誰よりも深く傷つけてしまった。
私の視界が、魔王様が作り出した闇の渦に飲み込まれていく。
最後に見たのは、闇の棘に囚われ、絶望の表情でこちらに手を伸ばす、愛しい人の姿だった。
そして、私の意識は、完全に闇の中へと落ちていった。
裏切りの魔女。
その汚名を着せられたまま。
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