私、魔王軍の四天王(紅一点)なんですが、敵であるはずの勇者が会うたびに口説いてきます

夏見ナイ

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第42話 王との対立

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アルフレッドの謹慎が解かれるよりも早く、王城は慌ただしい動きを見せていた。
魔王軍の戦線が、各地で後退を始めている。最強と謳われた「煉獄の魔女」の失脚と、それに伴う内部の混乱。その情報は、瞬く間に王国軍の知るところとなった。
千載一遇の好機。
この機を逃さず、一気に魔王軍本拠地まで攻め込むべきだ。
城内では、主戦派の声が日増しに大きくなっていた。

そして、ついに緊急の王国会議が招集された。
玉座の間に集ったのは、国王と大臣、そして騎士団の最高幹部たち。誰もが、これから始まる大攻勢を前に、僅かな興奮と緊張をその顔に浮かべていた。

その重厚な扉が、衛兵の制止を振り切って、勢いよく開かれた。

「失礼いたします」

現れたのは、そこにいるはずのない男だった。
謹慎中の身であるはずの、勇者アルフレッド。

彼の姿に、玉座の間がどよめいた。
しかし、人々が驚いたのは、彼が禁を破って現れたことだけではなかった。彼の纏う空気が、以前とはまるで違っていたからだ。
絶望に打ちひしがれていたはずの瞳には、地獄の底から這い上がってきたかのような、静かで燃える光が宿っている。その全身から放たれる気迫は、以前の彼が持っていた光り輝くカリスマ性とは異質の、鋼のような硬質さと鋭さを持っていた。

「アルフレッド! 何のつもりだ! お前は謹慎中の身であろうが!」
宰相が、怒りに顔を歪めて叫んだ。

しかし、アルフレッドはその声に耳を貸すこともなく、まっすぐに玉座へと歩みを進めた。そして、父である国王の前に立つと、静かに、しかしはっきりと告げた。

「魔王軍への総攻撃は、中止していただきたく」

その言葉に、玉座の間は水を打ったように静まり返った。
誰もが、自分の耳を疑った。

「……何を、言っている」
騎士団長が、呆れたように呟いた。「今こそ、我らが攻勢に出る絶好の機会。それを、中止しろと?」

「ええ」
アルフレッドは、淀みなく答えた。「それは、魔王の罠です」

彼は、レヴィから得た情報を、簡潔に、しかし力強く語り始めた。
リディアが魔王に嵌められた被害者であること。そして、魔王の真の目的が、世界の破壊と再創造にあること。

しかし、その衝撃的な内容は、凝り固まった大臣たちの心には届かなかった。

「馬鹿馬鹿しい!」
宰相が、一笑に付した。「魔女を庇うにも、程がある! そのような戯言、誰が信じるとお思いか!」
「魔族から得た情報など、我らを混乱させるための偽物に決まっておる!」
「勇者様は、まだあの魔女の呪いから覚めておいでではないらしいな!」

非難の嵐が、再びアルフレッドに吹き荒れる。
しかし、今の彼は、以前のように黙ってそれを受け止めはしなかった。

「では、皆さんはこのまま軍を進め、魔王の掌の上で踊るというのですか」
彼の声は、静かだったが、その場にいる誰よりも強い響きを持っていた。

「総攻撃など、無意味です。魔王の目的が世界の破壊である以上、奴の軍勢をいくら叩いても、根本的な解決にはなりません。奴を、魔王ザルディアスを直接叩き、その計画を阻止する。そして、その計画の鍵を握る『贄』、リディアを救出することが、我々が今なすべき、唯一にして最優先事項なのです」

彼の揺るぎない主張に、大臣たちは言葉を失った。
そのあまりにも現実離れした話と、彼の纏う凄まじい気迫に、ただ圧倒されていた。

これまで沈黙を守っていた国王アルベールが、玉座から身を乗り出すようにして、息子に問いかけた。その瞳には、怒りと、そして僅かな戸惑いが浮かんでいた。

「アルフレッドよ。その言葉は、ルクス王国の王太子としての発言か。それとも、一人の女にうつつを抜かす、ただの男としての私情か」

その問いに、アルフレッドは一瞬の迷いもなく答えた。

「その両方です、父上」

彼の答えは、玉座の間をさらに凍りつかせた。

「王太子として、この国と民を、世界の破壊という真の脅威から守るため。そして、一人の男として、不当に全てを奪われた、愛する女性を救うため。この二つは、私の中ではもはや、分かちがたく結びついております」

「私情を公の場に持ち込むな、愚か者!」
国王の怒りが、ついに爆発した。「お前の責務は、魔女一人を救うことではない! この王国と、そこに生きる全ての民を守ることだ! その順序を、履き違えるな!」

「履き違えてなどおりません!」
アルフレッドもまた、一歩も引かなかった。「リディアを救うことこそが、王国を守る唯一の道なのです! 魔王の術式が完成してしまえば、総攻撃で得た勝利など、何の意味も持たなくなります! 全てが、手遅れになるのです!」

父と子の視線が、火花を散らすように激突する。
王としての責務を説く父と、勇者としての真実を叫ぶ息子。
その溝は、あまりにも深く、決して埋まることはなかった。

長い、長い睨み合いの末、国王は深く息を吐くと、玉座に身を沈めた。その顔には、深い疲労と、そして息子への完全な失望の色が浮かんでいた。

「……決定は、覆らん」
国王は、非情な裁定を下した。「王国軍は、予定通り、明日未明より総攻撃を開始する。勇者アルフレッド、お前には引き続き、西塔での謹慎を命じる。これ以上、軍の士気を乱す言動は、断じて許さん」

それは、最終通告だった。
王国は、勇者の力を必要とせず、戦う道を選んだのだ。

アルフレッドは、その決定に、何も答えなかった。
ただ静かに目を伏せると、父に、そして玉座に背を向けた。
その背中は、敗北者のそれではなく、これから始まる本当の戦いに向かう、孤高の戦士の背中だった。

会議が終わり、玉座の間から退出するアルフレッドの元へ、イリーナたちが駆け寄った。

「アルフレッド……」
心配そうな彼女に、アルフレッドは静かに首を振った。

「これで、よかったんだ」

彼は、仲間たちの顔を一人一人見つめると、決意を込めて言った。

「僕は、僕のやり方で行く」

その瞳には、諦めなど微塵もなかった。
あるのは、燃えるような、静かな闘志だけ。

「国が、父上が認めてくれないのなら、僕たちだけで行くまでだ。リディアを、そしてこの世界を救うために」

王国の決定とは別に。
たった数人の仲間たちと共に、単身、魔王城へと乗り込む。
それは、あまりにも無謀で、自殺行為にも等しい決断。

しかし、彼の瞳には、一点の迷いもなかった。
絶望の淵から蘇った勇者の、本当の戦いが、今、静かに始まろうとしていた。
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