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第61話 崩壊と脱出
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魔王ザルディアスの消滅は、絶対的な力の喪失を意味した。
彼一人の強大な魔力によって支えられていた魔王城は、主という楔を失いその存在を維持できなくなったのだ。
ゴゴゴゴゴ……!
儀式の間の天井に巨大な亀裂が走る。壁に嵌め込まれていたステンドグラスが、けたたましい音を立てて砕け散った。床が大きく傾き、立っていることさえままならない。
「城が……崩れるぞ!」
ダリウスの叫びが轟音にかき消されそうになる。
「早くここから出るんだ!」
アルフレッドは腕の中でぐったりとしているリディアを、強く抱きしめ直した。彼女の体は熱く呼吸は浅い。最後の戦いで、彼女もまた全ての力を使い果たしたのだ。
「アルフレッド様、こちらです!」
エルザが残った魔力で周囲の構造を解析し、かろうじて安全なルートを指し示した。
四人は互いを支え合いながら、崩れ落ちる儀式の間を後にした。
しかし彼らが登ってきた壮麗な螺旋階段は、既に行く手を阻む瓦礫の山と化していた。来た道を戻ることは不可能だった。
「くそっ、道が……!」
ダリウスが歯噛みする。
「止まってはいけません!」
イリーナが神聖な光の結界を展開し、降り注ぐ瓦礫から仲間たちを守った。「少しでも足を止めれば生き埋めになります!」
その時、城の奥から無数の不気味な咆哮が響き渡った。
主を失い制御不能となった魔物たちが、城の崩壊という最後の断末魔に狂い見境なく暴れ始めているのだ。
闇の中から異形の魔物たちが次々と姿を現す。
傷つき疲労困憊の四人に、最後の試練が襲いかかった。
「私が道を開きます!」
エルザが最後の魔力を振り絞り、前方の魔物の群れに氷の魔法を放つ。しかしその威力は全盛期に遠く及ばず、数体を足止めするのがやっとだった。
「囲まれる……!」
ダリウスがアルフレッドとリディア、そして回復役のイリーナを守るように立ち長剣を振るう。しかし彼の動きもまた度重なる戦闘で精彩を欠いていた。
絶体絶命。
誰もがそう思った瞬間だった。
「―――邪魔だ、雑魚どもがァッ!!」
凄まじい雷鳴と共に通路の壁が横から爆発四散した。
そして、その破壊された壁の向こうから紫電を纏った巨大な戦斧が竜巻のように振るわれる。
なぎ払われた魔物たちが悲鳴を上げる間もなく黒焦げになって吹き飛んでいった。
その圧倒的な暴力の嵐の中心に立っていたのは、岩のような巨躯を持つあの男だった。
「ガレス……!」
アルフレッドが驚きに目を見開いた。
「リディアを頼んだはずだぞ、勇者!」
ガレスは血走った目でアルフレッドを睨みつけた。その顔には怒りが浮かんでいるが、それ以上にリディアの無事な(?)姿を確認した安堵の色が浮かんでいる。「随分と無様な有様じゃないか!」
「助太刀は不要かね?」
ガレスの背後からもう一つの涼やかな声が響いた。
闇色の長衣を翻し知将レヴィが、まるで散歩でもしているかのように優雅な足取りで姿を現す。
「レヴィまで……! なぜ君たちがここに?」
「決まっているだろう」
レヴィはやれやれと肩をすくめた。「手のかかる姫君と、それを助けに来た無謀な王子様をお迎えに来たのさ。それに、このままでは僕の美しい書斎まで瓦礫の下だ。それは我慢ならないからね」
彼らは全てを知っていた。
そして、この最悪のタイミングで最高の助っ人として駆けつけてくれたのだ。
「ガレス! 前方の瓦礫を!」
レヴィの的確な指示が飛ぶ。
「言われるまでもねえ!」
ガレスは吼えると、行く手を阻む瓦礫の山に向かって巨大な戦斧を振り上げた。「吹き飛べえええっ!」
豪雷の一撃が瓦礫を粉々に砕き、新たな道を切り開いた。
「行くぞ、勇者! ぼさっとするな!」
ガレスに檄を飛ばされ、アルフレッドたちは我に返った。
「ああ!」
六人は一つのパーティーとなって、崩壊する魔王城の中を駆け抜けた。
ガレスがその圧倒的なパワーで障害物を破壊し、道をこじ開ける。
レヴィがその卓越した頭脳で、常に最短かつ安全なルートを導き出す。
その援護を受けアルフレッドたちは、リディアを守りながらただひたすらに出口を目指した。
敵であったはずの二人が、今は何よりも頼もしい仲間となっていた。
その事実にアルフレッドの胸は熱くなった。
やがて彼らの視界の先に、外の光が見えてきた。
城の通用口だ。
「あそこだ!」
アルフレッドが叫んだ、その時。
城全体が今までで一番大きく揺れた。ついに城の心臓部が完全に崩壊したのだ。
彼らの頭上の天井が、巨大な一枚岩となって落下してくる。
「くっ……!」
全員が死を覚悟した。
しかしその巨大な天井は、彼らの頭上に落ちてくることはなかった。
ガレスがただ一人、その落下をその双肩で受け止めていたのだ。
「ぐ……おおおおおおっ!」
彼の鋼の肉体がミシミシと悲鳴を上げる。足元の床が、その重さに耐えきれずにひび割れていく。
「ガレス!」
「早く行けえええっ!」
ガレスは血を吐きながら叫んだ。「リディアを……連れて……!」
「あなたも来るのです!」
イリーナが叫ぶ。
「馬鹿を言え! 俺が手を離せば全員お陀仏だ!」
ガレスは笑った。血に濡れた顔で満足そうに。「これが……俺の最後の役目だ。あいつの……兄貴分としてのな……」
「そんな……!」
「いいから行け、アルフレッド!」
レヴィがアルフレッドの腕を掴み、強く引いた。「彼の覚悟を無駄にするな!」
アルフレッドは唇を強く噛み締めた。
そして崩れ落ちそうな天井を一人で支える偉大な魔族に向かって、深く深く頭を下げた。
「……恩に着る、ガレス!」
彼はリディアを抱きかかえ直し、出口に向かって最後の疾走を開始した。
イリーナたちも涙を堪えながら、その後を追う。
最後に残ったレヴィはガレスの方を振り返ると、静かに言った。
「……達者でな、我が唯一の好敵手よ」
そして彼もまた、光の中へと走り出した。
一人残されたガレスは空を見上げた。
ゆっくりと彼の意識が遠のいていく。
(リディア……幸せに……なれよ……)
それが彼の最後の想いだった。
◇
アルフレッドたちが城の外へと転がり出た、その直後。
背後で天を揺るがすほどの、凄まじい轟音が響き渡った。
振り返ると、今まで彼らが死闘を繰り広げてきた巨大な魔王城が、ゆっくりとしかし確実に崩れ落ちていくところだった。
漆黒の尖塔が折れ、城壁が砕け、全てが巨大な土煙の中へと消えていく。
長く続いた戦いの絶対的な終わりを象徴する、壮絶な光景だった。
誰もが言葉を失い、ただその光景を見つめていた。
やがて土煙が晴れ始めた頃。
東の空から一条の光が差し込んだ。
夜が明けたのだ。
長い長い夜が終わり、新しい世界の夜明けが訪れた。
その朝日は傷つき、疲れ果てた彼らを優しくそして温かく照らし出していた。
アルフレッドは腕の中で微かに身じろいだリディアの、その額にそっと口づけをした。
戦いは終わった。
しかし、物語はまだ終わらない。
夜明けの光の中で、彼らはこれから始まる新しい時代の静かな、しかし確かな息吹を感じていた。
彼一人の強大な魔力によって支えられていた魔王城は、主という楔を失いその存在を維持できなくなったのだ。
ゴゴゴゴゴ……!
儀式の間の天井に巨大な亀裂が走る。壁に嵌め込まれていたステンドグラスが、けたたましい音を立てて砕け散った。床が大きく傾き、立っていることさえままならない。
「城が……崩れるぞ!」
ダリウスの叫びが轟音にかき消されそうになる。
「早くここから出るんだ!」
アルフレッドは腕の中でぐったりとしているリディアを、強く抱きしめ直した。彼女の体は熱く呼吸は浅い。最後の戦いで、彼女もまた全ての力を使い果たしたのだ。
「アルフレッド様、こちらです!」
エルザが残った魔力で周囲の構造を解析し、かろうじて安全なルートを指し示した。
四人は互いを支え合いながら、崩れ落ちる儀式の間を後にした。
しかし彼らが登ってきた壮麗な螺旋階段は、既に行く手を阻む瓦礫の山と化していた。来た道を戻ることは不可能だった。
「くそっ、道が……!」
ダリウスが歯噛みする。
「止まってはいけません!」
イリーナが神聖な光の結界を展開し、降り注ぐ瓦礫から仲間たちを守った。「少しでも足を止めれば生き埋めになります!」
その時、城の奥から無数の不気味な咆哮が響き渡った。
主を失い制御不能となった魔物たちが、城の崩壊という最後の断末魔に狂い見境なく暴れ始めているのだ。
闇の中から異形の魔物たちが次々と姿を現す。
傷つき疲労困憊の四人に、最後の試練が襲いかかった。
「私が道を開きます!」
エルザが最後の魔力を振り絞り、前方の魔物の群れに氷の魔法を放つ。しかしその威力は全盛期に遠く及ばず、数体を足止めするのがやっとだった。
「囲まれる……!」
ダリウスがアルフレッドとリディア、そして回復役のイリーナを守るように立ち長剣を振るう。しかし彼の動きもまた度重なる戦闘で精彩を欠いていた。
絶体絶命。
誰もがそう思った瞬間だった。
「―――邪魔だ、雑魚どもがァッ!!」
凄まじい雷鳴と共に通路の壁が横から爆発四散した。
そして、その破壊された壁の向こうから紫電を纏った巨大な戦斧が竜巻のように振るわれる。
なぎ払われた魔物たちが悲鳴を上げる間もなく黒焦げになって吹き飛んでいった。
その圧倒的な暴力の嵐の中心に立っていたのは、岩のような巨躯を持つあの男だった。
「ガレス……!」
アルフレッドが驚きに目を見開いた。
「リディアを頼んだはずだぞ、勇者!」
ガレスは血走った目でアルフレッドを睨みつけた。その顔には怒りが浮かんでいるが、それ以上にリディアの無事な(?)姿を確認した安堵の色が浮かんでいる。「随分と無様な有様じゃないか!」
「助太刀は不要かね?」
ガレスの背後からもう一つの涼やかな声が響いた。
闇色の長衣を翻し知将レヴィが、まるで散歩でもしているかのように優雅な足取りで姿を現す。
「レヴィまで……! なぜ君たちがここに?」
「決まっているだろう」
レヴィはやれやれと肩をすくめた。「手のかかる姫君と、それを助けに来た無謀な王子様をお迎えに来たのさ。それに、このままでは僕の美しい書斎まで瓦礫の下だ。それは我慢ならないからね」
彼らは全てを知っていた。
そして、この最悪のタイミングで最高の助っ人として駆けつけてくれたのだ。
「ガレス! 前方の瓦礫を!」
レヴィの的確な指示が飛ぶ。
「言われるまでもねえ!」
ガレスは吼えると、行く手を阻む瓦礫の山に向かって巨大な戦斧を振り上げた。「吹き飛べえええっ!」
豪雷の一撃が瓦礫を粉々に砕き、新たな道を切り開いた。
「行くぞ、勇者! ぼさっとするな!」
ガレスに檄を飛ばされ、アルフレッドたちは我に返った。
「ああ!」
六人は一つのパーティーとなって、崩壊する魔王城の中を駆け抜けた。
ガレスがその圧倒的なパワーで障害物を破壊し、道をこじ開ける。
レヴィがその卓越した頭脳で、常に最短かつ安全なルートを導き出す。
その援護を受けアルフレッドたちは、リディアを守りながらただひたすらに出口を目指した。
敵であったはずの二人が、今は何よりも頼もしい仲間となっていた。
その事実にアルフレッドの胸は熱くなった。
やがて彼らの視界の先に、外の光が見えてきた。
城の通用口だ。
「あそこだ!」
アルフレッドが叫んだ、その時。
城全体が今までで一番大きく揺れた。ついに城の心臓部が完全に崩壊したのだ。
彼らの頭上の天井が、巨大な一枚岩となって落下してくる。
「くっ……!」
全員が死を覚悟した。
しかしその巨大な天井は、彼らの頭上に落ちてくることはなかった。
ガレスがただ一人、その落下をその双肩で受け止めていたのだ。
「ぐ……おおおおおおっ!」
彼の鋼の肉体がミシミシと悲鳴を上げる。足元の床が、その重さに耐えきれずにひび割れていく。
「ガレス!」
「早く行けえええっ!」
ガレスは血を吐きながら叫んだ。「リディアを……連れて……!」
「あなたも来るのです!」
イリーナが叫ぶ。
「馬鹿を言え! 俺が手を離せば全員お陀仏だ!」
ガレスは笑った。血に濡れた顔で満足そうに。「これが……俺の最後の役目だ。あいつの……兄貴分としてのな……」
「そんな……!」
「いいから行け、アルフレッド!」
レヴィがアルフレッドの腕を掴み、強く引いた。「彼の覚悟を無駄にするな!」
アルフレッドは唇を強く噛み締めた。
そして崩れ落ちそうな天井を一人で支える偉大な魔族に向かって、深く深く頭を下げた。
「……恩に着る、ガレス!」
彼はリディアを抱きかかえ直し、出口に向かって最後の疾走を開始した。
イリーナたちも涙を堪えながら、その後を追う。
最後に残ったレヴィはガレスの方を振り返ると、静かに言った。
「……達者でな、我が唯一の好敵手よ」
そして彼もまた、光の中へと走り出した。
一人残されたガレスは空を見上げた。
ゆっくりと彼の意識が遠のいていく。
(リディア……幸せに……なれよ……)
それが彼の最後の想いだった。
◇
アルフレッドたちが城の外へと転がり出た、その直後。
背後で天を揺るがすほどの、凄まじい轟音が響き渡った。
振り返ると、今まで彼らが死闘を繰り広げてきた巨大な魔王城が、ゆっくりとしかし確実に崩れ落ちていくところだった。
漆黒の尖塔が折れ、城壁が砕け、全てが巨大な土煙の中へと消えていく。
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誰もが言葉を失い、ただその光景を見つめていた。
やがて土煙が晴れ始めた頃。
東の空から一条の光が差し込んだ。
夜が明けたのだ。
長い長い夜が終わり、新しい世界の夜明けが訪れた。
その朝日は傷つき、疲れ果てた彼らを優しくそして温かく照らし出していた。
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