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第7話:『ようやく見つけた、私の光』
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これが、現実だ。
その認識が、温まり始めていた私の体を再び凍てつかせた。震えは寒さのせいだけではない。体の芯から湧き上がる、どうしようもない恐怖のせいだった。
目の前にいるのは、私の最推し、ギルバート・シュヴァルツ様。それは紛れもない事実だ。しかし、同時に彼はガルヴァニア帝国の辺境伯。エルミール王国とは緊張関係にある隣国の、重要人物。
そして私は、そのエルミール王国から追放された罪人だ。身分を証明するものは何もない。あるのは、このみすぼらしいワンピースと、悪女という不名誉な烙印だけ。
ゲームの中の彼は、規律を重んじ、不正を何よりも嫌う人物だった。エルミール王国の腐敗した貴族たちを、心の底から軽蔑していた。そんな彼が、私の正体を知ったらどう思うだろう。
王子に嫉妬し、か弱い令嬢をいじめた悪女。そんな醜聞にまみれた私を、彼はきっと汚らわしいものを見るような目で見るに違いない。この束の間の優しさも、憐れみも、全て消え失せるだろう。そして、今度こそ本当に、誰にも助けられることなく、この森に打ち捨てられるのだ。
その想像は、死ぬことよりも恐ろしかった。
最愛の推しに、軽蔑されることだけは耐えられない。
唇がカタカタと震え、持たされていた椀がこぼれそうになる。
「どうした。口に合わなかったか」
私の変化に気づいた彼が、静かに問いかける。その金の瞳が、心配そうに私を覗き込んでいた。
違う。そうじゃない。あなたのスープは、とても美味しい。私の心と体を温めてくれた。だからこそ、辛いのだ。この温かさを失うのが、怖いのだ。
「寒いのか」
私が何も答えられずにいると、彼は私の震えを寒さのせいだと判断したようだった。椀をそっと取り上げると、私の肩からずり落ちかけていた毛布を、首元までしっかりと引き上げてくれる。その何気ない仕草が、あまりにも優しくて、私の胸を締め付けた。
だめだ。このまま黙っていては。こんな優しい人を、騙すようなことになってしまう。軽蔑されるのは怖い。けれど、嘘をつき続けるのはもっと嫌だ。
私は覚悟を決めた。彼に見捨てられる前に、自分の口から全てを話そう。そうすれば、少なくとも、嘘つき呼ばわりはされずに済むかもしれない。
「あの、私は…!」
かすれた声で、私は口を開いた。
「私は、エルミール王国から…」
言いかけた私の言葉を、しかし彼は遮った。
「今は何も言わなくていい」
静かだが、有無を言わせぬ響きを持った声だった。彼は私の唇に、そっと人差し指を当てる。鎧に覆われていない指先は、ひんやりとしていた。
「傷が癒えるまで、ゆっくり休め。お前が何者で、どこから来たのかは、今は問わない」
え…?
私は彼の言葉の意味が理解できず、ただ瞬きを繰り返した。問わない?どうして?普通、森で倒れている見ず知らずの女を助けたら、まず素性を尋ねるものではないのだろうか。
彼の金の瞳が、じっと私を見つめている。それは、私という存在の奥底まで見透かすような、深く、そして吸い込まれそうな眼差しだった。
そして、彼は言った。まるで長年探し求めていた宝物を、ようやくその腕の中に見つけたかのように。慈愛と、どこか切実な響きを帯びた声で。
「ようやく見つけた」
その言葉に、私の心臓が大きく脈打つ。
見つけた?誰を?私のことを言っているの?ありえない。私たちは今日、ここで初めて会ったはずだ。
混乱する私の思考を置き去りにして、彼は続けた。
彼の唇が紡いだのは、私の人生で聞いた中で、最も甘く、そして最も信じられない言葉だった。
「私の光」
ひかり。
私の、光。
その言葉が、雷のように私の全身を貫いた。
頭が、真っ白になる。
何を言っているの、この人は。
ゲームのギルバート様は、こんなことは言わない。彼は誰にも心を開かない、孤高の騎士のはずだ。こんな、甘い愛の告白のような台詞を口にするキャラクターではなかったはずだ。
目の前の彼が、本当に私の知っているギルバート様なのか分からなくなる。もしかして、同名の別人?いや、でもこの容姿は、この声は、紛れもなく彼だ。
恐怖、安堵、混乱、そして、最推しから信じられない言葉をかけられたという、天にも昇るような歓喜。あらゆる感情が一気に押し寄せ、私の小さな器は、あっけなく限界を迎えた。
視界がぐにゃりと歪み、彼の顔が遠のいていく。ああ、まただ。また意識が…。
薄れゆく意識の中、最後に感じたのは、私を支える彼の腕に力が込められたこと。そして、「もう離さない」とでも言うように、強く、強く抱きしめられた感覚だった。
その認識が、温まり始めていた私の体を再び凍てつかせた。震えは寒さのせいだけではない。体の芯から湧き上がる、どうしようもない恐怖のせいだった。
目の前にいるのは、私の最推し、ギルバート・シュヴァルツ様。それは紛れもない事実だ。しかし、同時に彼はガルヴァニア帝国の辺境伯。エルミール王国とは緊張関係にある隣国の、重要人物。
そして私は、そのエルミール王国から追放された罪人だ。身分を証明するものは何もない。あるのは、このみすぼらしいワンピースと、悪女という不名誉な烙印だけ。
ゲームの中の彼は、規律を重んじ、不正を何よりも嫌う人物だった。エルミール王国の腐敗した貴族たちを、心の底から軽蔑していた。そんな彼が、私の正体を知ったらどう思うだろう。
王子に嫉妬し、か弱い令嬢をいじめた悪女。そんな醜聞にまみれた私を、彼はきっと汚らわしいものを見るような目で見るに違いない。この束の間の優しさも、憐れみも、全て消え失せるだろう。そして、今度こそ本当に、誰にも助けられることなく、この森に打ち捨てられるのだ。
その想像は、死ぬことよりも恐ろしかった。
最愛の推しに、軽蔑されることだけは耐えられない。
唇がカタカタと震え、持たされていた椀がこぼれそうになる。
「どうした。口に合わなかったか」
私の変化に気づいた彼が、静かに問いかける。その金の瞳が、心配そうに私を覗き込んでいた。
違う。そうじゃない。あなたのスープは、とても美味しい。私の心と体を温めてくれた。だからこそ、辛いのだ。この温かさを失うのが、怖いのだ。
「寒いのか」
私が何も答えられずにいると、彼は私の震えを寒さのせいだと判断したようだった。椀をそっと取り上げると、私の肩からずり落ちかけていた毛布を、首元までしっかりと引き上げてくれる。その何気ない仕草が、あまりにも優しくて、私の胸を締め付けた。
だめだ。このまま黙っていては。こんな優しい人を、騙すようなことになってしまう。軽蔑されるのは怖い。けれど、嘘をつき続けるのはもっと嫌だ。
私は覚悟を決めた。彼に見捨てられる前に、自分の口から全てを話そう。そうすれば、少なくとも、嘘つき呼ばわりはされずに済むかもしれない。
「あの、私は…!」
かすれた声で、私は口を開いた。
「私は、エルミール王国から…」
言いかけた私の言葉を、しかし彼は遮った。
「今は何も言わなくていい」
静かだが、有無を言わせぬ響きを持った声だった。彼は私の唇に、そっと人差し指を当てる。鎧に覆われていない指先は、ひんやりとしていた。
「傷が癒えるまで、ゆっくり休め。お前が何者で、どこから来たのかは、今は問わない」
え…?
私は彼の言葉の意味が理解できず、ただ瞬きを繰り返した。問わない?どうして?普通、森で倒れている見ず知らずの女を助けたら、まず素性を尋ねるものではないのだろうか。
彼の金の瞳が、じっと私を見つめている。それは、私という存在の奥底まで見透かすような、深く、そして吸い込まれそうな眼差しだった。
そして、彼は言った。まるで長年探し求めていた宝物を、ようやくその腕の中に見つけたかのように。慈愛と、どこか切実な響きを帯びた声で。
「ようやく見つけた」
その言葉に、私の心臓が大きく脈打つ。
見つけた?誰を?私のことを言っているの?ありえない。私たちは今日、ここで初めて会ったはずだ。
混乱する私の思考を置き去りにして、彼は続けた。
彼の唇が紡いだのは、私の人生で聞いた中で、最も甘く、そして最も信じられない言葉だった。
「私の光」
ひかり。
私の、光。
その言葉が、雷のように私の全身を貫いた。
頭が、真っ白になる。
何を言っているの、この人は。
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