曲がり角でぶつかった少女に回復魔法を使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれてた

夏見ナイ

文字の大きさ
65 / 100

第65話 光の魔法

しおりを挟む
「君に伝えたいことがあるんだ」

俺の静かで真剣な声。
それが合図だった。
俺は跪いたまま、そっと右手の指を鳴らした。
パチン、と乾いた小さな音が静まり返った湖畔に響き渡る。

その瞬間、世界は光に包まれた。

最初に輝いたのは、俺たちの頭上にある大きな樫の木だった。
その幹や枝に仕掛けられていた何百という小さな魔晶石が、一斉に柔らかな光を灯し始めたのだ。
それはまるで、木に満天の星が降り注いだかのような幻想的な光景だった。

「まあ…!」

ルナが驚きに息を呑む。
だが、奇跡はまだ始まったばかりだった。
樫の木から放たれた光は、まるで意思を持ったかのように一つ、また一つとふわりと宙に舞い上がった。
そして蝶の形をとり、夜の訪れを待つ薄紫色の空へとゆっくりと羽ばたいていったのだ。

一つではない。
十でも百でもない。
何千、何万という無数の光の蝶たちが、次から次へと湖畔の至る所から生まれてくる。
俺たちが歩いてきた小道から。湖畔の草むらから。そして静かな湖面そのものから。
クラリスと友人たちがこの日のために仕掛けてくれた魔法の全てが、今一斉に花開いたのだ。

光の蝶たちは様々な色に輝いていた。
月の光のような白銀。夕焼けの名残のような黄金。そしてルナの瞳を思わせる澄んだ空色。
それらが互いに混じり合いながら巨大な光の竜巻となって、俺たち二人を中心にゆっくりと優雅に舞い始めた。

ルナはもう言葉を発することもできなかった。
ただ目の前で繰り広げられる、あまりにも幻想的で、あまりにも非現実的な光景に完全に心を奪われていた。
その美しい空色の瞳は、驚きと感動と、そして信じられないという戸惑いで大きく見開かれている。
光の蝶が一匹、彼女の白い指先にそっと止まった。
その光は彼女の肌を透かし、まるで彼女自身が光を発しているかのようにきらきらと輝かせた。

湖面は光の蝶たちを映し込み、巨大な万華鏡と化していた。
空も湖も、そして俺たちがいるこの大地さえも全てが柔らかな光で満たされている。
ここはもう現実の世界ではない。
夢物語の中にしか存在しない、魔法の国の秘密の庭。
そんな錯覚さえ覚えるほどの完璧な美しさだった。

「ユキ…これは…」
彼女がようやく絞り出した声は震えていた。
彼女はゆっくりと俺の方へと視線を戻した。
その瞳には「どうして」と一つの問いが浮かんでいた。

俺はそんな彼女にただ静かに微笑み返した。
そして彼女にしか聞こえない優しい声で告げた。
「これが、君に贈りたかった景色だよ」

その一言で彼女は全てを理解した。
この奇跡のような光景が偶然ではないこと。
ただ一人自分だけのために、俺が用意してくれた最高のプレゼントであること。
そのあまりにも大きく、そしてあまりにも甘い愛情。

彼女の瞳から一筋、透明な涙が静かに流れ落ちた。
その涙の雫は、舞い踊る蝶たちの光を浴びて虹色に輝いた。

「ああ…」
彼女の口から感嘆のため息が吐息のように漏れる。
「綺麗…綺麗ですわ…」

俺はそんな彼女の涙に濡れた美しい顔を、目に焼き付けるようにじっと見つめた。
最高の舞台は整った。
世界で一番美しい景色の中で、世界で一番愛おしい君に、俺の全ての想いを伝える。

俺は手に持っていたビロードの小さな箱に視線を落とした。
そしてその蓋にゆっくりと指をかけた。
カチリ、と小さな、しかし確かな音が光の舞いの中で響き渡る。
いよいよ、その時が来たのだ。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

【完結】不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。

猫正宗
ファンタジー
白羽明星は気付けば異世界転移しており、背に純白の六翼を生やした熾天使となっていた。 もともと現世に未練などなかった明星は、大喜びで異世界の大空を飛び回る。 すると遥か空の彼方、誰も到達できないほどの高度に存在する、巨大な空獣に守られた天空城にたどり着く。 主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。 ――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました―― 風景が目まぐるしく移り変わる。 天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。 移り変わる景色こそは、 第一天 ヴィロン。 第二天 ラキア。 第三天 シャハクィム。 第四天 ゼブル。 第五天 マオン。 第六天 マコン。 それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。 気付けば明星は、玉座に座っていた。 そこは天の最高位。 第七天 アラボト。 そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。 ――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...