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第71話 祝福の中の卒業式
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婚約披露パーティーから季節は巡り、木々の葉が色づき、そして舞い落ちる頃。
俺たちの学園生活は、その最終日を迎えようとしていた。
卒業式の朝。
俺はタウンハウスの鏡の前で、学園の正装である特別な礼服の襟を整えていた。
隣では同じように純白のドレスに身を包んだルナが、少しだけ寂しそうに、そしてどこか誇らしげに俺の姿を見つめている。
「なんだか、あっという間だったな」
俺が感慨深げに呟くと、彼女はこくりと頷いた。
「はい。ユウキと出会ってから、毎日が夢のように過ぎていきましたから」
彼女はそっと俺の胸元に飾られたコサージュに触れた。
「初めて学園の門をくぐった日が、まるで昨日のことのようですわ。あの時はユウキの腕にしがみついていなければ、立っていることもできませんでしたのに」
「今じゃ俺の方が、君に支えられてばかりだよ」
俺たちが顔を見合わせて、小さく笑い合う。
嵐のように始まった俺の学園生活も、こうして穏やかで甘い時間の中でその幕を閉じようとしていた。
◇
王立魔法学園の大講堂は、卒業生とその家族、そして在校生たちで埋め尽くされ、厳粛な雰囲気に包まれていた。
パイプオルガンの荘厳な音色が響く中、俺とルナは卒業生たちの最前列に並んで座っていた。
俺は特待生筆頭として、そしてルナは公爵令嬢として、この晴れの舞台に臨んでいた。
式の最中、俺はそっと隣に座るルナの手を握った。
彼女もまた優しく、そして力強く俺の手を握り返してくる。
俺たちはもう離れることはない。
この卒業は終わりではなく、新しい始まりなのだから。
式は国王陛下からの祝辞、学園長からの式辞と滞りなく進んでいった。
そして、いよいよ卒業生代表による答辞の時間となった。
壇上へと一人の女子生徒が、凛とした足取りで上がっていく。
燃えるような真紅の髪を、今日は優雅な夜会巻きに結い上げたクラリス・フォン・ヴァレンシュタイン。
彼女はこの学園を首席で卒業するのだ。
マイクの前に立ったクラリスは、深々と一礼すると卒業生、そして会場全体を見渡した。
その翠色の瞳には、いつもの勝ち気な光だけでなく、深い感謝と、そしてわずかな感傷の色が浮かんでいた。
「本日、うららかなる春光の中、私たち卒業生一同は輝かしい卒業の日を迎えることができました…」
彼女の答辞は完璧だった。
教師たちへの感謝、後輩たちへの激励、そして自分たちを支えてくれた家族への心からの想い。
その流れるように美しい言葉の数々に、会場中の誰もが感銘を受けたように聞き入っていた。
さすがはクラリスだ。
俺は誇らしい気持ちで、壇上の彼女の姿を見つめていた。
答辞が終盤に差し掛かる。
クラリスは一度言葉を切った。
そして次に彼女が紡いだ言葉は、誰もが予想しないものだった。
「…そして、わたくしにはこの場を借りて、どうしても感謝を伝えなければならない二人の大切な友がおります」
その声は少しだけ震えていた。
会場がわずかにざわめく。
答辞という公の場で特定の個人名を挙げるのは異例のことだったからだ。
だが、クラリスは構わなかった。
彼女の視線が、まっすぐに俺の隣に座るルナへと注がれる。
「一人は、私のたった一人のかけがえのない親友。ルナリア・フォン・シルフィード」
その声に、ルナの肩がびくりと小さく震えた。
「病に伏し、光を失っていたあなたが再びその輝きを取り戻し、こうして私の隣で共に卒業の日を迎えられたこと…これ以上の喜びはありません」
クラリスの瞳から一筋、透明な涙が静かに流れ落ちた。
「あなたのいない学園生活など、わたくしには考えられませんでした。戻ってきてくれて、本当にありがとう…!」
その魂からの叫び。
ルナの瞳からも大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちていく。俺はそんな彼女の肩をそっと抱き寄せた。
そしてクラリスの視線が、今度は俺へと向けられた。
その瞳には、深い深い感謝の色が浮かんでいた。
「そして、もう一人。最初はどこの馬の骨とも知れぬ、不届き者だと思っておりましたわ。ユウキ・アスカワ」
その少しだけ意地悪な言い方に、会場からくすりと小さな笑いが起こる。
「ですが、貴方様こそ私の大切な親友に本当の笑顔を、そして光り輝く未来を与えてくださった唯一無二の殿方でした」
彼女は俺に向かって、壇上から深々と頭を下げた。
「貴方様が現れてくださらなければ、今日のこの日はありませんでした。心から感謝いたします。…わたくしの、もう一人の大切な友よ」
その思いがけない言葉に、俺の胸も熱くなった。
いつの間にか、俺たちはただのクラスメイトではなく、本当の「友」になっていたのだ。
クラリスは涙を拭うこともせず、顔を上げた。
そして、俺たち二人に向かって最高の笑顔で叫んだ。
「ユウキ様! ルナ! このクラリス・フォン・ヴァレンシュタイン、生涯をかけてお二人の幸せを応援し、見守っていくことをここに固く誓いますわ!」
彼女はそこで一度息を吸い込んだ。
そして、ありったけの想いを込めてその言葉を締めくくった。
「どうか…! どうか、世界で一番幸せになってちょうだい!」
そのあまりにも個人的で、あまりにも温かいスピーチ。
しんと静まり返っていた会場は、次の瞬間、割れんばかりの温かい拍手に包まれた。
それは彼女の友情と、そして俺たち二人の未来を祝福する心からの拍手だった。
教師たちも生徒たちも、皆涙ぐみながらその美しい友情の形に感動していた。
式が終わり、俺たちが大講堂から出るとたくさんのクラスメイトたちに囲まれた。
「卒業おめでとう!」「クラリスのスピーチ、最高だったぜ!」「お前ら、絶対結婚式には呼べよな!」
その温かい言葉のシャワーを浴びながら、俺はこの学園で過ごした短くも濃密な日々の終わりを実感していた。
やがて人垣を分けて、クラリスが少し照れくさそうな顔で俺たちの元へやってきた。
「…柄にもないことをしてしまいましたわ」
「そんなことない。最高の答辞だったよ。ありがとう、クラリス」
俺が心からの感謝を述べると、彼女は「ふん」とそっぽを向いた。その耳は真っ赤に染まっている。
「これで心置きなく、お二人を送り出せますわ」
彼女はそう言うと、いつもの自信に満ちた笑顔で俺たちを見た。
「さあ、感傷に浸っている暇はありませんわよ。貴方たちにはこれから新しい生活が待っているのですから!」
その力強い言葉に、俺とルナは顔を見合わせた。
そして確かな未来への期待を込めて、力強く頷いた。
学園生活は終わった。
だが、俺たちの物語はまだ始まったばかりだ。
これから始まる、二人だけの新しい生活。
その輝かしい序曲が、今、高らかに鳴り響こうとしていた。
俺たちの学園生活は、その最終日を迎えようとしていた。
卒業式の朝。
俺はタウンハウスの鏡の前で、学園の正装である特別な礼服の襟を整えていた。
隣では同じように純白のドレスに身を包んだルナが、少しだけ寂しそうに、そしてどこか誇らしげに俺の姿を見つめている。
「なんだか、あっという間だったな」
俺が感慨深げに呟くと、彼女はこくりと頷いた。
「はい。ユウキと出会ってから、毎日が夢のように過ぎていきましたから」
彼女はそっと俺の胸元に飾られたコサージュに触れた。
「初めて学園の門をくぐった日が、まるで昨日のことのようですわ。あの時はユウキの腕にしがみついていなければ、立っていることもできませんでしたのに」
「今じゃ俺の方が、君に支えられてばかりだよ」
俺たちが顔を見合わせて、小さく笑い合う。
嵐のように始まった俺の学園生活も、こうして穏やかで甘い時間の中でその幕を閉じようとしていた。
◇
王立魔法学園の大講堂は、卒業生とその家族、そして在校生たちで埋め尽くされ、厳粛な雰囲気に包まれていた。
パイプオルガンの荘厳な音色が響く中、俺とルナは卒業生たちの最前列に並んで座っていた。
俺は特待生筆頭として、そしてルナは公爵令嬢として、この晴れの舞台に臨んでいた。
式の最中、俺はそっと隣に座るルナの手を握った。
彼女もまた優しく、そして力強く俺の手を握り返してくる。
俺たちはもう離れることはない。
この卒業は終わりではなく、新しい始まりなのだから。
式は国王陛下からの祝辞、学園長からの式辞と滞りなく進んでいった。
そして、いよいよ卒業生代表による答辞の時間となった。
壇上へと一人の女子生徒が、凛とした足取りで上がっていく。
燃えるような真紅の髪を、今日は優雅な夜会巻きに結い上げたクラリス・フォン・ヴァレンシュタイン。
彼女はこの学園を首席で卒業するのだ。
マイクの前に立ったクラリスは、深々と一礼すると卒業生、そして会場全体を見渡した。
その翠色の瞳には、いつもの勝ち気な光だけでなく、深い感謝と、そしてわずかな感傷の色が浮かんでいた。
「本日、うららかなる春光の中、私たち卒業生一同は輝かしい卒業の日を迎えることができました…」
彼女の答辞は完璧だった。
教師たちへの感謝、後輩たちへの激励、そして自分たちを支えてくれた家族への心からの想い。
その流れるように美しい言葉の数々に、会場中の誰もが感銘を受けたように聞き入っていた。
さすがはクラリスだ。
俺は誇らしい気持ちで、壇上の彼女の姿を見つめていた。
答辞が終盤に差し掛かる。
クラリスは一度言葉を切った。
そして次に彼女が紡いだ言葉は、誰もが予想しないものだった。
「…そして、わたくしにはこの場を借りて、どうしても感謝を伝えなければならない二人の大切な友がおります」
その声は少しだけ震えていた。
会場がわずかにざわめく。
答辞という公の場で特定の個人名を挙げるのは異例のことだったからだ。
だが、クラリスは構わなかった。
彼女の視線が、まっすぐに俺の隣に座るルナへと注がれる。
「一人は、私のたった一人のかけがえのない親友。ルナリア・フォン・シルフィード」
その声に、ルナの肩がびくりと小さく震えた。
「病に伏し、光を失っていたあなたが再びその輝きを取り戻し、こうして私の隣で共に卒業の日を迎えられたこと…これ以上の喜びはありません」
クラリスの瞳から一筋、透明な涙が静かに流れ落ちた。
「あなたのいない学園生活など、わたくしには考えられませんでした。戻ってきてくれて、本当にありがとう…!」
その魂からの叫び。
ルナの瞳からも大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちていく。俺はそんな彼女の肩をそっと抱き寄せた。
そしてクラリスの視線が、今度は俺へと向けられた。
その瞳には、深い深い感謝の色が浮かんでいた。
「そして、もう一人。最初はどこの馬の骨とも知れぬ、不届き者だと思っておりましたわ。ユウキ・アスカワ」
その少しだけ意地悪な言い方に、会場からくすりと小さな笑いが起こる。
「ですが、貴方様こそ私の大切な親友に本当の笑顔を、そして光り輝く未来を与えてくださった唯一無二の殿方でした」
彼女は俺に向かって、壇上から深々と頭を下げた。
「貴方様が現れてくださらなければ、今日のこの日はありませんでした。心から感謝いたします。…わたくしの、もう一人の大切な友よ」
その思いがけない言葉に、俺の胸も熱くなった。
いつの間にか、俺たちはただのクラスメイトではなく、本当の「友」になっていたのだ。
クラリスは涙を拭うこともせず、顔を上げた。
そして、俺たち二人に向かって最高の笑顔で叫んだ。
「ユウキ様! ルナ! このクラリス・フォン・ヴァレンシュタイン、生涯をかけてお二人の幸せを応援し、見守っていくことをここに固く誓いますわ!」
彼女はそこで一度息を吸い込んだ。
そして、ありったけの想いを込めてその言葉を締めくくった。
「どうか…! どうか、世界で一番幸せになってちょうだい!」
そのあまりにも個人的で、あまりにも温かいスピーチ。
しんと静まり返っていた会場は、次の瞬間、割れんばかりの温かい拍手に包まれた。
それは彼女の友情と、そして俺たち二人の未来を祝福する心からの拍手だった。
教師たちも生徒たちも、皆涙ぐみながらその美しい友情の形に感動していた。
式が終わり、俺たちが大講堂から出るとたくさんのクラスメイトたちに囲まれた。
「卒業おめでとう!」「クラリスのスピーチ、最高だったぜ!」「お前ら、絶対結婚式には呼べよな!」
その温かい言葉のシャワーを浴びながら、俺はこの学園で過ごした短くも濃密な日々の終わりを実感していた。
やがて人垣を分けて、クラリスが少し照れくさそうな顔で俺たちの元へやってきた。
「…柄にもないことをしてしまいましたわ」
「そんなことない。最高の答辞だったよ。ありがとう、クラリス」
俺が心からの感謝を述べると、彼女は「ふん」とそっぽを向いた。その耳は真っ赤に染まっている。
「これで心置きなく、お二人を送り出せますわ」
彼女はそう言うと、いつもの自信に満ちた笑顔で俺たちを見た。
「さあ、感傷に浸っている暇はありませんわよ。貴方たちにはこれから新しい生活が待っているのですから!」
その力強い言葉に、俺とルナは顔を見合わせた。
そして確かな未来への期待を込めて、力強く頷いた。
学園生活は終わった。
だが、俺たちの物語はまだ始まったばかりだ。
これから始まる、二人だけの新しい生活。
その輝かしい序曲が、今、高らかに鳴り響こうとしていた。
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