曲がり角でぶつかった少女に回復魔法を使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれてた

夏見ナイ

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第79話 ウェディングドレスは天使の羽衣

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結婚式の準備が着々と進んでいく中で。
俺たちには一つ、大きな、そして何よりも楽しみなイベントが残されていた。
ルナのウェディングドレス選びだ。
もちろん、その重要な役目には俺も「花嫁が最も美しく見えるドレスを選ぶ、花婿の神聖な義務」と称して同行することになっていた。(主にクラリスとアルフォンス公爵によって強制的に)

その日、俺たちが訪れたのは王都でも最高級と名高い、オーダーメイドのウェディングドレス専門店だった。
シルフィード公爵家御用達というその店は完全予約制で、店内には俺たち以外誰もいなかった。
白で統一された、夢のように美しい空間。
そこには目も眩むような純白のドレスの数々が、まるで芸術品のように飾られていた。

「まあ…!」
ルナは、その光景に感嘆のため息を漏らした。
その瞳は、幼い頃にお姫様のおとぎ話を読んだ少女のようにキラキラと輝いている。
女性にとってウェディングドレスというものがどれほど特別で神聖なものであるか。
その横顔を見ているだけで、俺にもひしひしと伝わってきた。

「ようこそおいでくださいました、ユウキ様、ルナリア様」
店の奥から現れたのはマダムと呼ばれる、品の良い初老の女性デザイナーだった。
彼女は長年シルフィード家の女性たちのドレスを手掛けてきた、伝説的な職人らしい。
「ルナリアお嬢様の晴れの日のお衣装を、この手でお仕立てできること、生涯の誉れにございます」
彼女はそう言うと、深々と優雅に一礼した。

ドレス選びは、まずマダムによるカウンセリングから始まった。
「お嬢様はどのようなドレスがお好みでいらっしゃいますか? クラシカルなもの、モダンなもの、可憐なもの…」
様々なデザイン画を見せられながら、ルナは少しだけ迷っていた。
だがやがて、彼女は一つの答えを見つけ出したようだった。
彼女は俺の方をちらりと見た。
そして少しだけ頬を染めながら、マダムに告げた。

「…ユウキが一番喜んでくれるドレスが、よろしいですわ」

そのあまりにも健気で、あまりにも愛おしい答え。
俺の心臓は、きゅう、と甘く締め付けられた。
マダムは、そのやり取りを微笑ましそうに見ていた。
「かしこまりました。でしたら、まずはいくつかお気に召しそうなものをご試着いただくのがよろしいでしょう。旦那様にはぜひ、その目で最高の一着を見つけて差し上げてくださいませ」

こうして、俺の人生で最も過酷で、そして最も幸福な試練の時間が始まった。
ルナはマダムに付き添われ、店の奥にある巨大な試着室へと消えていった。
俺は部屋の中央に置かれたビロード張りのソファに深く腰を下ろした。
心臓が落ち着かない。
これから俺は、一体どんな光景を目にすることになるのだろうか。

待つこと数分。
その時間は永遠のようにも感じられた。
やがて、試着室の重厚なカーテンが静かにゆっくりと開かれた。

最初に俺の目に飛び込んできたのは、無数の真珠が縫い付けられたクラシカルなロングスリーブのドレスだった。
気品があり清楚で、まさに公爵令嬢にふさわしい完璧な一着。
その姿は、息を呑むほど美しかった。

「…どう、でしょうか…?」
不安そうに尋ねる彼女に、俺はかろうじて声を絞り出した。
「…すごく綺麗だ。まるでお姫様みたいだ」

俺の言葉に、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
だが試練はまだ始まったばかりだった。
「では、次はこちらを」
マダムの悪魔のような囁きと共に、カーテンは再び閉じられる。

次に現れたのは、肩を大胆に露出したマーメイドラインのドレスだった。
彼女の女性らしいしなやかな体のラインを完璧に映し出す、そのデザイン。
先ほどの可憐さとは違う、息が詰まるような大人びた色香。
俺はもう言葉を発することもできず、ただ固まることしかできなかった。

次から次へと。
カーテンが開かれるたびに、俺の目の前には全く違う魅力を持った天使が現れた。
スカート部分が何層にも重なったチュールで雲のように広がる、プリンセスラインのドレス。
シンプルながらも背中が大きく開いた、モダンなデザインのスレンダードレス。
そのどれもが完璧に彼女の美しさを引き出していた。

俺はもう自分が何を言ったのか覚えていない。
ただひたすらに「綺麗だ」「可愛い」「すごい」といった、語彙力の欠片もない魂からの呟きを繰り返すだけだった。
俺の心臓はもう限界だった。

そして最後の一着。
マダムが「これはお嬢様のために、わたくしが密かにデザインしておりました特別な一着でございます」と自信ありげに言った、そのドレス。

カーテンが開かれる。
その瞬間、俺は本当に呼吸が止まった。

そこに立っていたのは、もはやただの美しい花嫁ではなかった。
天から舞い降りた光の女神、そのものだった。

ドレスは極めてシンプルなAラインのシルエット。
だがその生地全体に、俺が彼女に贈った指輪の宝石と同じ「月光石」を粉末状にしたものが織り込まれていたのだ。
店内の柔らかな光を浴びて、ドレス全体がまるで内側から発光しているかのように淡い虹色の輝きを放っている。
それはまるで天使の羽衣。
あるいは星屑を紡いで作られた神々の衣。
そのあまりにも幻想的で、神々しいまでの美しさ。

ルナは、その輝きに包まれながら少しだけはにかんで俺に微笑みかけた。
その笑顔は、これまで見たどんな笑顔よりも尊く、そして愛おしかった。

俺の瞳から一筋、温かい何かが静かに流れ落ちた。
ああ、俺はこの女神と結婚するのだ。
この世界で一番美しい花嫁を、俺が生涯をかけて守っていくのだ。
そのあまりにも大きな、そしてあまりにも幸せな事実に、俺の心は完全に満たされていた。

「…ユキ?」
俺が何も言わずにただ涙を流しているのを見て、彼女が心配そうに声をかけてくる。
俺は、ようやく声を絞り出した。
その声は感動で震えていた。

「…それに、しよう」

俺のその一言。
それが答えだった。
ルナのウェディングドレスは、この天使の羽衣に決まった。
彼女は俺の涙の意味を正確に理解して、今日一番の、そして人生で最高の幸せに満ち溢れた笑顔で微笑み返した。
その笑顔は彼女が身に纏うドレスの輝きにも決して負けないほどの、強い強い光を放っていた。
俺たちの結婚式への道のりは、また一つ最高の思い出と共にその歩みを進めたのだった。
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