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エピソード11:泥中の攻防と進化の輪郭
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腐臭の沼の奥深くへと進むにつれて、ゼロを取り巻く環境はさらに過酷さを増していた。霧は一層濃くなり、視界は常に数メートル先までしか効かない。地面の泥はもはや足首、場所によっては膝まで沈むほどで、【水中適応(低級)】スキルがなければ移動もままならなかっただろう。空気中に漂う腐敗臭も濃度を増し、時折、毒性のあるガスが溜まっているのか、呼吸(のようなガスの交換)をするたびにわずかなダメージを受けることさえあった。
だが、ゼロにとってこの環境は、必ずしも悪いことばかりではなかった。濃霧と泥濘は、優れた隠れ蓑となる。【擬態】Lv.2と組み合わせれば、ゼロの存在を探知するのは極めて困難だろう。そして何より、この過酷な環境に適応した、ユニークで強力なモンスターたちが、ゼロの進化の糧として潜んでいるのだ。
『気配が近づいてくる……複数? いや、巨大な単体か?』
ゼロは泥の中に体を半分ほど沈め、完全に動きを止めた。ゲル状の体は泥と同化し、気配を極限まで殺す。
ズシン……ズシン……
重々しい足音が、泥を揺らしながら近づいてくる。霧の向こうから、巨大な影が現れた。それは、沼の泥そのものが意志を持って動き出したかのような、人型の怪物だった。
『マッドゴーレム……!』
体長は3メートルを超えているだろうか。全身がぬかるんだ泥と枯れ木、そして恐らくはその中に取り込まれた生物の骨などで構成されている。明確な顔はないが、胴体部分に鈍く光る赤いコアのようなものが見える。あれが弱点か?
マッドゴーレムは、目標を定めずにゆっくりと周囲を見回しているように見えたが、不意にゼロが潜む方向を向き、動きを止めた。
(気づかれたか!?)
ゼロは即座に行動を起こした。泥の中から飛び出すと同時に【硬化】Lv.2を発動! 体表を硬質化させ、防御態勢を取る。
ゴオォォォッ!
マッドゴーレムが咆哮のような音を上げ、巨大な泥の腕を振り下ろしてきた! ゼロは素早さ『4』を生かしてかろうじて直撃を避けるが、腕が叩きつけられた衝撃で泥水が津波のように押し寄せ、ゼロの体を吹き飛ばす。
『重い! さすがにパワーが違う!』
体勢を立て直しながら、ゼロは反撃の糸口を探る。物理的な攻撃は、あの泥の巨体にはあまり効果がないだろう。【剣術(初級)】で形成した剣で斬りつけても、すぐに再生されてしまいそうだ。
ならば、とゼロは【酸液】Lv.1と【毒液(弱)】Lv.1を同時に発動! 二種類の液体を混ぜ合わせ、マッドゴーレムの胴体、コアがあると思われる付近に噴射した。
ジュウウウウッ! バチバチッ!
酸と毒の混合液は、マッドゴーレムの泥の体を激しく蝕み、溶解させていく。苦悶するような唸り声を上げ、マッドゴーレムはゼロから距離を取ろうとする。
『効いている!』
しかし、マッドゴーレムも黙ってはいない。両腕を地面に叩きつけ、周囲の泥を操作し始めた。泥が生き物のように隆起し、鋭い杭となってゼロ目掛けて次々と射出される!
ゼロは硬化した体で泥の杭を受け止め、弾きながら、回避行動を取る。だが、数が多すぎる。いくつかの杭が体に突き刺さり、HPが削られていく。【自己修復】Lv.3が必死に回復を試みるが、追いつかない。
『接近戦は不利だ。内部から攻めるしかないか?』
亀を倒した時のように、内部に侵入し、コアを直接破壊する。だが、あの巨体だ。どうやって内部に?
ふと、ゼロはマッドゴーレムの足元に目をやった。巨大な体を支える足は、常に沼の泥に深く沈み込んでいる。あの足元から、泥の中に潜り込み、内部へと侵入することはできないだろうか?
ゼロは、自身のゲル状の体という特性を最大限に活かすことにした。体を平たく、薄く伸ばし、泥の中に完全に潜行する。【擬態】で泥と同化し、【水中適応】で泥の中をスムーズに移動する。
マッドゴーレムは、突然姿を消したゼロを探して、戸惑うように周囲を見回している。その隙に、ゼロはマッドゴーレムの足元へと到達した。
そして、マッドゴーレムの足が泥に沈み込むその接点から、ゆっくりと、しかし確実に、その巨体内部へと侵入を開始した! 外殻となっている硬い泥や骨の層を【酸液】で溶かしながら、ゲル状の体を変形させてねじ込んでいく。
内部は、想像以上に複雑だった。取り込まれた様々な物質が混ざり合い、まるで迷宮のようだ。そして、中心に近づくにつれて、熱と強い魔力を感じる。あれがコアだ。
『もう少し……!』
ゼロは最後の力を振り絞り、コアへと続く経路を酸液で溶かしながら進む。マッドゴーレムも内部からの異常に気づいたのか、激しく身悶えし始めた。衝撃でゼロの体も揺さぶられる。
そして、ついにゼロはマッドゴーレムのコア――赤黒く脈打つ、不安定な魔力の塊――に到達した!
【捕食】開始!
ゴアアアアアアアッ!!
マッドゴーレムが断末魔の咆哮を上げる。コアから、膨大な魔力と、泥や土、そしてそれらに取り込まれていたであろう無数の生物の残留思念のようなものが、濁流となってゼロの中に流れ込んでくる。ゼロ自身の体も、そのエネルギー奔流に耐えきれず、激しく振動する。
やがて、マッドゴーレムの動きが完全に止まり、その巨体は形を維持できずに崩れ落ち、周囲の泥へと還っていった。後に残されたのは、一回りほど体が大きくなり、表面に泥のような質感をわずかに帯びたゼロだけだった。
【能力値】
体力: 16 → 22 (+6)
魔力容量: 7 → 12 (+5)
物理攻撃力: 5
物理防御力: 13 → 18 (+5)
魔法攻撃力: 3 → 5 (+2)
魔法防御力: 6 → 9 (+3)
素早さ: 4
【スキル】
・捕食 Lv.2 → Lv.3
・自己修復 Lv.3 → Lv.4
・擬態 Lv.2 → Lv.3
・酸液 Lv.1 → Lv.2
・硬化 Lv.2 → Lv.3
・闘気(微弱) Lv.1 → 闘気(弱) Lv.1
・水中適応(低級) Lv.1 → 水中適応(中級) Lv.1
・**土属性耐性 Lv.1 (New!)**
・**泥操作(初級) Lv.1 (New!)**
・**コア生成(不完全) Lv.1 (New!)**
凄まじい成長だ。ステータスが全体的に大幅上昇し、多くのスキルがレベルアップした。【闘気】は『微弱』から『弱』へ。【水中適応】も『低級』から『中級』になり、沼地での活動がさらに快適になるだろう。
そして、新たなスキル。【土属性耐性】は、マッドゴーレムの泥攻撃を受けた影響だろう。【泥操作(初級)】は、文字通り泥を操る能力か。これは沼地での戦闘や移動に役立ちそうだ。【コア生成(不完全)】。これは……? マッドゴーレムのコアを捕食したことで得られた、自分自身の核に関するスキルだろうか。まだ『不完全』とあるが、これが進化すれば、より安定した、強力な存在になれるのかもしれない。
ゼロは、自身の体に起こった変化を確かめていた。ゲル状の不定形であることは変わらない。だが、以前よりも体の輪郭がはっきりとし、中心部に確かな『核』――コアの存在を感じるようになった。これが【コア生成(不完全)】の影響か。体のサイズも、明らかに一回り大きくなっている。もはや、単なる『スライムみたいなの』とは言えない存在感を放ち始めていた。
これが、『名無し』の進化の一つの形なのかもしれない。特定の生物種に固定されるのではなく、捕食対象の特性を取り込みながら、より高次の不定形存在へと変貌していく。
『スライム系、と言っていいのか……? まあ、便宜上そう呼んでおくか』
ゼロは、強化された体と新たなスキルを試すように、軽く体を動かしてみた。【泥操作(初級)】を意識すると、足元の泥が意思を持ったように動き、ゼロの移動を補助するように形を変えた。これは面白い。
マッドゴーレムを倒したことで、このエリアの主がいなくなったのか、周囲のモンスターの気配が少し遠のいたように感じる。ゼロは、再び探索を再開した。目指すは、沼のさらに奥、あの遺跡の気配がする場所だ。
進むにつれて、人工的な石材の破片はますます多くなり、中には奇妙な紋様が刻まれたものも見られるようになった。そして、ついにゼロは、沼の水面から顔を出す、巨大な石造りの門のようなものを発見した。門の大部分は水没しており、全体像は掴めないが、明らかに古代の建造物の一部だ。
『ここが、遺跡の入り口……?』
門の周辺は、特に魔力の流れが強く、よどんでいる。そして、門を守るかのように、強力なモンスターの気配も複数感じられた。今のゼロの実力で、ここを突破するのはまだ難しいかもしれない。
ゼロは、一旦距離を取ることにした。無理に突入する必要はない。まずは、この沼地でさらに力をつけ、スキルを習熟させることが先決だ。特に【泥操作】や【コア生成】は、今後の進化の鍵になりそうだ。
沼のほとりで休息を取りながら、ゼロは自身のステータスを改めて確認した。最弱の『名無し』としてこの世界に放り出されてから、それほど長い時間は経っていないはずだ。だが、ゼロは既に、洞窟や森にいた頃とは比較にならないほどの力を手に入れていた。
それは、捕食と進化という、この異質な力のおかげだ。だが、力には代償が伴うことも、ゼロは学び始めていた。プレイヤー捕食による精神汚染の可能性、そして、強くなればなるほど、他のプレイヤーや、あるいはこの世界のシステムそのものから敵視されるリスク。
それでも、ゼロは進むことをやめないだろう。この力の先に何があるのか、この世界の真実は何なのか。それを知るまでは。
沼の霧の中に佇む孤独なスライム(仮)は、静かに、しかし確かな意志を持って、次なる進化への一歩を踏み出そうとしていた。その不定形の体には、無限の可能性と、計り知れない危うさが同居している。
---
名前: ゼロ
種族: 名無し
称号: なし
所属: 未定義
【能力値】
体力: 22
魔力容量: 12
物理攻撃力: 5
物理防御力: 18
魔法攻撃力: 5
魔法防御力: 9
素早さ: 4
【スキル】
・捕食 Lv.3
・自己修復 Lv.4
・擬態 Lv.3
・微光 Lv.2
・粘液分泌 Lv.1
・酸液 Lv.2
・硬化 Lv.3
・剣術(初級) Lv.1
・闘気(弱) Lv.1
・吸血(弱) Lv.1
・水中適応(中級) Lv.1
・毒耐性 Lv.2
・毒液(弱) Lv.1
・土属性耐性 Lv.1
・泥操作(初級) Lv.1
・コア生成(不完全) Lv.1
だが、ゼロにとってこの環境は、必ずしも悪いことばかりではなかった。濃霧と泥濘は、優れた隠れ蓑となる。【擬態】Lv.2と組み合わせれば、ゼロの存在を探知するのは極めて困難だろう。そして何より、この過酷な環境に適応した、ユニークで強力なモンスターたちが、ゼロの進化の糧として潜んでいるのだ。
『気配が近づいてくる……複数? いや、巨大な単体か?』
ゼロは泥の中に体を半分ほど沈め、完全に動きを止めた。ゲル状の体は泥と同化し、気配を極限まで殺す。
ズシン……ズシン……
重々しい足音が、泥を揺らしながら近づいてくる。霧の向こうから、巨大な影が現れた。それは、沼の泥そのものが意志を持って動き出したかのような、人型の怪物だった。
『マッドゴーレム……!』
体長は3メートルを超えているだろうか。全身がぬかるんだ泥と枯れ木、そして恐らくはその中に取り込まれた生物の骨などで構成されている。明確な顔はないが、胴体部分に鈍く光る赤いコアのようなものが見える。あれが弱点か?
マッドゴーレムは、目標を定めずにゆっくりと周囲を見回しているように見えたが、不意にゼロが潜む方向を向き、動きを止めた。
(気づかれたか!?)
ゼロは即座に行動を起こした。泥の中から飛び出すと同時に【硬化】Lv.2を発動! 体表を硬質化させ、防御態勢を取る。
ゴオォォォッ!
マッドゴーレムが咆哮のような音を上げ、巨大な泥の腕を振り下ろしてきた! ゼロは素早さ『4』を生かしてかろうじて直撃を避けるが、腕が叩きつけられた衝撃で泥水が津波のように押し寄せ、ゼロの体を吹き飛ばす。
『重い! さすがにパワーが違う!』
体勢を立て直しながら、ゼロは反撃の糸口を探る。物理的な攻撃は、あの泥の巨体にはあまり効果がないだろう。【剣術(初級)】で形成した剣で斬りつけても、すぐに再生されてしまいそうだ。
ならば、とゼロは【酸液】Lv.1と【毒液(弱)】Lv.1を同時に発動! 二種類の液体を混ぜ合わせ、マッドゴーレムの胴体、コアがあると思われる付近に噴射した。
ジュウウウウッ! バチバチッ!
酸と毒の混合液は、マッドゴーレムの泥の体を激しく蝕み、溶解させていく。苦悶するような唸り声を上げ、マッドゴーレムはゼロから距離を取ろうとする。
『効いている!』
しかし、マッドゴーレムも黙ってはいない。両腕を地面に叩きつけ、周囲の泥を操作し始めた。泥が生き物のように隆起し、鋭い杭となってゼロ目掛けて次々と射出される!
ゼロは硬化した体で泥の杭を受け止め、弾きながら、回避行動を取る。だが、数が多すぎる。いくつかの杭が体に突き刺さり、HPが削られていく。【自己修復】Lv.3が必死に回復を試みるが、追いつかない。
『接近戦は不利だ。内部から攻めるしかないか?』
亀を倒した時のように、内部に侵入し、コアを直接破壊する。だが、あの巨体だ。どうやって内部に?
ふと、ゼロはマッドゴーレムの足元に目をやった。巨大な体を支える足は、常に沼の泥に深く沈み込んでいる。あの足元から、泥の中に潜り込み、内部へと侵入することはできないだろうか?
ゼロは、自身のゲル状の体という特性を最大限に活かすことにした。体を平たく、薄く伸ばし、泥の中に完全に潜行する。【擬態】で泥と同化し、【水中適応】で泥の中をスムーズに移動する。
マッドゴーレムは、突然姿を消したゼロを探して、戸惑うように周囲を見回している。その隙に、ゼロはマッドゴーレムの足元へと到達した。
そして、マッドゴーレムの足が泥に沈み込むその接点から、ゆっくりと、しかし確実に、その巨体内部へと侵入を開始した! 外殻となっている硬い泥や骨の層を【酸液】で溶かしながら、ゲル状の体を変形させてねじ込んでいく。
内部は、想像以上に複雑だった。取り込まれた様々な物質が混ざり合い、まるで迷宮のようだ。そして、中心に近づくにつれて、熱と強い魔力を感じる。あれがコアだ。
『もう少し……!』
ゼロは最後の力を振り絞り、コアへと続く経路を酸液で溶かしながら進む。マッドゴーレムも内部からの異常に気づいたのか、激しく身悶えし始めた。衝撃でゼロの体も揺さぶられる。
そして、ついにゼロはマッドゴーレムのコア――赤黒く脈打つ、不安定な魔力の塊――に到達した!
【捕食】開始!
ゴアアアアアアアッ!!
マッドゴーレムが断末魔の咆哮を上げる。コアから、膨大な魔力と、泥や土、そしてそれらに取り込まれていたであろう無数の生物の残留思念のようなものが、濁流となってゼロの中に流れ込んでくる。ゼロ自身の体も、そのエネルギー奔流に耐えきれず、激しく振動する。
やがて、マッドゴーレムの動きが完全に止まり、その巨体は形を維持できずに崩れ落ち、周囲の泥へと還っていった。後に残されたのは、一回りほど体が大きくなり、表面に泥のような質感をわずかに帯びたゼロだけだった。
【能力値】
体力: 16 → 22 (+6)
魔力容量: 7 → 12 (+5)
物理攻撃力: 5
物理防御力: 13 → 18 (+5)
魔法攻撃力: 3 → 5 (+2)
魔法防御力: 6 → 9 (+3)
素早さ: 4
【スキル】
・捕食 Lv.2 → Lv.3
・自己修復 Lv.3 → Lv.4
・擬態 Lv.2 → Lv.3
・酸液 Lv.1 → Lv.2
・硬化 Lv.2 → Lv.3
・闘気(微弱) Lv.1 → 闘気(弱) Lv.1
・水中適応(低級) Lv.1 → 水中適応(中級) Lv.1
・**土属性耐性 Lv.1 (New!)**
・**泥操作(初級) Lv.1 (New!)**
・**コア生成(不完全) Lv.1 (New!)**
凄まじい成長だ。ステータスが全体的に大幅上昇し、多くのスキルがレベルアップした。【闘気】は『微弱』から『弱』へ。【水中適応】も『低級』から『中級』になり、沼地での活動がさらに快適になるだろう。
そして、新たなスキル。【土属性耐性】は、マッドゴーレムの泥攻撃を受けた影響だろう。【泥操作(初級)】は、文字通り泥を操る能力か。これは沼地での戦闘や移動に役立ちそうだ。【コア生成(不完全)】。これは……? マッドゴーレムのコアを捕食したことで得られた、自分自身の核に関するスキルだろうか。まだ『不完全』とあるが、これが進化すれば、より安定した、強力な存在になれるのかもしれない。
ゼロは、自身の体に起こった変化を確かめていた。ゲル状の不定形であることは変わらない。だが、以前よりも体の輪郭がはっきりとし、中心部に確かな『核』――コアの存在を感じるようになった。これが【コア生成(不完全)】の影響か。体のサイズも、明らかに一回り大きくなっている。もはや、単なる『スライムみたいなの』とは言えない存在感を放ち始めていた。
これが、『名無し』の進化の一つの形なのかもしれない。特定の生物種に固定されるのではなく、捕食対象の特性を取り込みながら、より高次の不定形存在へと変貌していく。
『スライム系、と言っていいのか……? まあ、便宜上そう呼んでおくか』
ゼロは、強化された体と新たなスキルを試すように、軽く体を動かしてみた。【泥操作(初級)】を意識すると、足元の泥が意思を持ったように動き、ゼロの移動を補助するように形を変えた。これは面白い。
マッドゴーレムを倒したことで、このエリアの主がいなくなったのか、周囲のモンスターの気配が少し遠のいたように感じる。ゼロは、再び探索を再開した。目指すは、沼のさらに奥、あの遺跡の気配がする場所だ。
進むにつれて、人工的な石材の破片はますます多くなり、中には奇妙な紋様が刻まれたものも見られるようになった。そして、ついにゼロは、沼の水面から顔を出す、巨大な石造りの門のようなものを発見した。門の大部分は水没しており、全体像は掴めないが、明らかに古代の建造物の一部だ。
『ここが、遺跡の入り口……?』
門の周辺は、特に魔力の流れが強く、よどんでいる。そして、門を守るかのように、強力なモンスターの気配も複数感じられた。今のゼロの実力で、ここを突破するのはまだ難しいかもしれない。
ゼロは、一旦距離を取ることにした。無理に突入する必要はない。まずは、この沼地でさらに力をつけ、スキルを習熟させることが先決だ。特に【泥操作】や【コア生成】は、今後の進化の鍵になりそうだ。
沼のほとりで休息を取りながら、ゼロは自身のステータスを改めて確認した。最弱の『名無し』としてこの世界に放り出されてから、それほど長い時間は経っていないはずだ。だが、ゼロは既に、洞窟や森にいた頃とは比較にならないほどの力を手に入れていた。
それは、捕食と進化という、この異質な力のおかげだ。だが、力には代償が伴うことも、ゼロは学び始めていた。プレイヤー捕食による精神汚染の可能性、そして、強くなればなるほど、他のプレイヤーや、あるいはこの世界のシステムそのものから敵視されるリスク。
それでも、ゼロは進むことをやめないだろう。この力の先に何があるのか、この世界の真実は何なのか。それを知るまでは。
沼の霧の中に佇む孤独なスライム(仮)は、静かに、しかし確かな意志を持って、次なる進化への一歩を踏み出そうとしていた。その不定形の体には、無限の可能性と、計り知れない危うさが同居している。
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名前: ゼロ
種族: 名無し
称号: なし
所属: 未定義
【能力値】
体力: 22
魔力容量: 12
物理攻撃力: 5
物理防御力: 18
魔法攻撃力: 5
魔法防御力: 9
素早さ: 4
【スキル】
・捕食 Lv.3
・自己修復 Lv.4
・擬態 Lv.3
・微光 Lv.2
・粘液分泌 Lv.1
・酸液 Lv.2
・硬化 Lv.3
・剣術(初級) Lv.1
・闘気(弱) Lv.1
・吸血(弱) Lv.1
・水中適応(中級) Lv.1
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