お前のような地味な女は不要だと婚約破棄されたので、持て余していた聖女の力で隣国のクールな皇子様を救ったら、ベタ惚れされました

夏見ナイ

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第93話:それぞれの償い

アシュレイがバークレイ王国の暫定的な統治者、総督として派遣されるという決定はすぐさま実行に移された。
彼と共にレオナルド率いる帝国騎士団の一部と優秀な文官たちが王国へと向かった。その目的は、混乱を極める国の治安回復と政治機能の再建、そして全ての元凶となった者たちへの公正なる裁きを下すためだった。

リリアーナは帝都に残った。
アシュレイは出発の日の朝、彼女に固く言い渡した。
「お前が行く必要はない。お前の故郷への想いは複雑だろう。辛い記憶をわざわざ掘り返すことはない」
その言葉には、彼女を過去の苦しみから完全に切り離したいという彼の強い意志が込められていた。
「俺が全てに決着をつけてくる。お前は俺の帰りを待っていればいい」
リリアーナは、その言葉を素直に受け入れた。彼ならきっと最善の形で全てを収めてくれる。そう信じることができたからだ。

バークレイ王国に入ったアシュレイたちの仕事は迅速かつ的確だった。
騎士団は各地で暴徒と化していた難民を保護し、食料を与えることで鎮撫した。同時に魔物の討伐を組織的に行い、わずか数週間で国内の治安は劇的に改善された。
文官たちは腐敗しきっていた貴族たちから権限を取り上げ、帝国の法に基づいた公正で効率的な行政システムを構築していった。
民衆は帝国の圧倒的な力と公正な統治に、最初は戸惑いながらも次第に安堵と信頼を寄せるようになっていった。

そして、裁きの時が来た。
王城の一室に軟禁されていたセドリックと、地下牢に投獄されていたイザベラがアシュレイの前に引き出された。
二人ともかつての輝きは完全に失い、憔悴しきっていた。

セドリックはアシュレイの姿を見るなり震え上がった。
もはや彼に逆らう気力など残っていない。ただ、これから下されるであろう運命に怯えるだけだった。
イザベラはやつれた顔を伏せ、ただ小刻みに震えていた。

アシュレイは玉座に座ることなく、二人の前に静かに立った。
その青い瞳はなんの感情も映さず、ただ冷徹に二人を見据えている。
「お前たちに死罪は与えん」
アシュレイが静かに告げた。
その言葉にセドリックとイザベラは、わずかに安堵の表情を浮かべた。

しかし、アシュレイの言葉は続く。
「死ぬことは最も容易い逃避だ。お前たちにはその罪を、生涯をかけて償ってもらう」
彼は二人にそれぞれの罰を言い渡した。

「イザベラ・ロセッティ。お前は偽りの力で民を欺き、国を混乱に陥れた。その罪は重い。よってお前には生涯、この国で最も疫病が蔓延した地域で病人の看護にあたることを命じる。お前の持つ微弱な癒やしの力が本当に人の役に立つのか、その身をもって証明しろ」
それは彼女にとって最も過酷な罰だった。華やかな世界を夢見ていた彼女が、最も汚く最も絶望的な場所で生涯を終える。しかし、それは彼女が犯した罪に最もふさわしい償いの形でもあった。

次に、アシュレイはセドリックに向き直った。
「セドリック・バークレイ。お前は王族としての責務を放棄し、私情によって国を滅びの淵に追いやった。その罪は万死に値する」
セドリックは身を固くした。
「お前には王族としての全ての特権を剥奪する。そして一市民として、この国の復興事業に生涯従事することを命じる。最も過酷な北の開拓地で、自らの手で土を耕し石を運び、この国が再生していく様をその目に焼き付けろ」
それはプライドだけが支えだった彼にとって、死よりも辛い罰だったかもしれない。王子として生まれ何不自由なく生きてきた彼が、泥にまみれ汗を流し、民と同じ立場で働き続ける。

「お前たちが愛した民、そしてお前たちが見捨てた民がどのように生き、どのように苦しんでいるのか。その現実から決して目をそらすな。それこそがお前たちに与える唯一の救いだ」

アシュレイの裁きは冷徹だったが、その根底には彼なりの公正さと再生への道筋が示されていた。
ただ断罪するのではなく、償いの機会を与える。
セドリックとイザベラは何も言えなかった。
ただ、そのあまりにも公正で揺るぎない裁きの前に、深く、深く頭を垂れることしかできなかった。

それぞれの償いの道が始まった。
それは彼らにとって地獄のような日々になるだろう。
しかしその道のりの果てに、彼らがもしほんのわずかでも人間としての心を取り戻すことができるのなら。
それこそが、リリアーナという聖女を失った国に対するアシュレイからの最大限の慈悲だったのかもしれない。
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