92 / 99
第93話:それぞれの償い
アシュレイがバークレイ王国の暫定的な統治者、総督として派遣されるという決定はすぐさま実行に移された。
彼と共にレオナルド率いる帝国騎士団の一部と優秀な文官たちが王国へと向かった。その目的は、混乱を極める国の治安回復と政治機能の再建、そして全ての元凶となった者たちへの公正なる裁きを下すためだった。
リリアーナは帝都に残った。
アシュレイは出発の日の朝、彼女に固く言い渡した。
「お前が行く必要はない。お前の故郷への想いは複雑だろう。辛い記憶をわざわざ掘り返すことはない」
その言葉には、彼女を過去の苦しみから完全に切り離したいという彼の強い意志が込められていた。
「俺が全てに決着をつけてくる。お前は俺の帰りを待っていればいい」
リリアーナは、その言葉を素直に受け入れた。彼ならきっと最善の形で全てを収めてくれる。そう信じることができたからだ。
バークレイ王国に入ったアシュレイたちの仕事は迅速かつ的確だった。
騎士団は各地で暴徒と化していた難民を保護し、食料を与えることで鎮撫した。同時に魔物の討伐を組織的に行い、わずか数週間で国内の治安は劇的に改善された。
文官たちは腐敗しきっていた貴族たちから権限を取り上げ、帝国の法に基づいた公正で効率的な行政システムを構築していった。
民衆は帝国の圧倒的な力と公正な統治に、最初は戸惑いながらも次第に安堵と信頼を寄せるようになっていった。
そして、裁きの時が来た。
王城の一室に軟禁されていたセドリックと、地下牢に投獄されていたイザベラがアシュレイの前に引き出された。
二人ともかつての輝きは完全に失い、憔悴しきっていた。
セドリックはアシュレイの姿を見るなり震え上がった。
もはや彼に逆らう気力など残っていない。ただ、これから下されるであろう運命に怯えるだけだった。
イザベラはやつれた顔を伏せ、ただ小刻みに震えていた。
アシュレイは玉座に座ることなく、二人の前に静かに立った。
その青い瞳はなんの感情も映さず、ただ冷徹に二人を見据えている。
「お前たちに死罪は与えん」
アシュレイが静かに告げた。
その言葉にセドリックとイザベラは、わずかに安堵の表情を浮かべた。
しかし、アシュレイの言葉は続く。
「死ぬことは最も容易い逃避だ。お前たちにはその罪を、生涯をかけて償ってもらう」
彼は二人にそれぞれの罰を言い渡した。
「イザベラ・ロセッティ。お前は偽りの力で民を欺き、国を混乱に陥れた。その罪は重い。よってお前には生涯、この国で最も疫病が蔓延した地域で病人の看護にあたることを命じる。お前の持つ微弱な癒やしの力が本当に人の役に立つのか、その身をもって証明しろ」
それは彼女にとって最も過酷な罰だった。華やかな世界を夢見ていた彼女が、最も汚く最も絶望的な場所で生涯を終える。しかし、それは彼女が犯した罪に最もふさわしい償いの形でもあった。
次に、アシュレイはセドリックに向き直った。
「セドリック・バークレイ。お前は王族としての責務を放棄し、私情によって国を滅びの淵に追いやった。その罪は万死に値する」
セドリックは身を固くした。
「お前には王族としての全ての特権を剥奪する。そして一市民として、この国の復興事業に生涯従事することを命じる。最も過酷な北の開拓地で、自らの手で土を耕し石を運び、この国が再生していく様をその目に焼き付けろ」
それはプライドだけが支えだった彼にとって、死よりも辛い罰だったかもしれない。王子として生まれ何不自由なく生きてきた彼が、泥にまみれ汗を流し、民と同じ立場で働き続ける。
「お前たちが愛した民、そしてお前たちが見捨てた民がどのように生き、どのように苦しんでいるのか。その現実から決して目をそらすな。それこそがお前たちに与える唯一の救いだ」
アシュレイの裁きは冷徹だったが、その根底には彼なりの公正さと再生への道筋が示されていた。
ただ断罪するのではなく、償いの機会を与える。
セドリックとイザベラは何も言えなかった。
ただ、そのあまりにも公正で揺るぎない裁きの前に、深く、深く頭を垂れることしかできなかった。
それぞれの償いの道が始まった。
それは彼らにとって地獄のような日々になるだろう。
しかしその道のりの果てに、彼らがもしほんのわずかでも人間としての心を取り戻すことができるのなら。
それこそが、リリアーナという聖女を失った国に対するアシュレイからの最大限の慈悲だったのかもしれない。
彼と共にレオナルド率いる帝国騎士団の一部と優秀な文官たちが王国へと向かった。その目的は、混乱を極める国の治安回復と政治機能の再建、そして全ての元凶となった者たちへの公正なる裁きを下すためだった。
リリアーナは帝都に残った。
アシュレイは出発の日の朝、彼女に固く言い渡した。
「お前が行く必要はない。お前の故郷への想いは複雑だろう。辛い記憶をわざわざ掘り返すことはない」
その言葉には、彼女を過去の苦しみから完全に切り離したいという彼の強い意志が込められていた。
「俺が全てに決着をつけてくる。お前は俺の帰りを待っていればいい」
リリアーナは、その言葉を素直に受け入れた。彼ならきっと最善の形で全てを収めてくれる。そう信じることができたからだ。
バークレイ王国に入ったアシュレイたちの仕事は迅速かつ的確だった。
騎士団は各地で暴徒と化していた難民を保護し、食料を与えることで鎮撫した。同時に魔物の討伐を組織的に行い、わずか数週間で国内の治安は劇的に改善された。
文官たちは腐敗しきっていた貴族たちから権限を取り上げ、帝国の法に基づいた公正で効率的な行政システムを構築していった。
民衆は帝国の圧倒的な力と公正な統治に、最初は戸惑いながらも次第に安堵と信頼を寄せるようになっていった。
そして、裁きの時が来た。
王城の一室に軟禁されていたセドリックと、地下牢に投獄されていたイザベラがアシュレイの前に引き出された。
二人ともかつての輝きは完全に失い、憔悴しきっていた。
セドリックはアシュレイの姿を見るなり震え上がった。
もはや彼に逆らう気力など残っていない。ただ、これから下されるであろう運命に怯えるだけだった。
イザベラはやつれた顔を伏せ、ただ小刻みに震えていた。
アシュレイは玉座に座ることなく、二人の前に静かに立った。
その青い瞳はなんの感情も映さず、ただ冷徹に二人を見据えている。
「お前たちに死罪は与えん」
アシュレイが静かに告げた。
その言葉にセドリックとイザベラは、わずかに安堵の表情を浮かべた。
しかし、アシュレイの言葉は続く。
「死ぬことは最も容易い逃避だ。お前たちにはその罪を、生涯をかけて償ってもらう」
彼は二人にそれぞれの罰を言い渡した。
「イザベラ・ロセッティ。お前は偽りの力で民を欺き、国を混乱に陥れた。その罪は重い。よってお前には生涯、この国で最も疫病が蔓延した地域で病人の看護にあたることを命じる。お前の持つ微弱な癒やしの力が本当に人の役に立つのか、その身をもって証明しろ」
それは彼女にとって最も過酷な罰だった。華やかな世界を夢見ていた彼女が、最も汚く最も絶望的な場所で生涯を終える。しかし、それは彼女が犯した罪に最もふさわしい償いの形でもあった。
次に、アシュレイはセドリックに向き直った。
「セドリック・バークレイ。お前は王族としての責務を放棄し、私情によって国を滅びの淵に追いやった。その罪は万死に値する」
セドリックは身を固くした。
「お前には王族としての全ての特権を剥奪する。そして一市民として、この国の復興事業に生涯従事することを命じる。最も過酷な北の開拓地で、自らの手で土を耕し石を運び、この国が再生していく様をその目に焼き付けろ」
それはプライドだけが支えだった彼にとって、死よりも辛い罰だったかもしれない。王子として生まれ何不自由なく生きてきた彼が、泥にまみれ汗を流し、民と同じ立場で働き続ける。
「お前たちが愛した民、そしてお前たちが見捨てた民がどのように生き、どのように苦しんでいるのか。その現実から決して目をそらすな。それこそがお前たちに与える唯一の救いだ」
アシュレイの裁きは冷徹だったが、その根底には彼なりの公正さと再生への道筋が示されていた。
ただ断罪するのではなく、償いの機会を与える。
セドリックとイザベラは何も言えなかった。
ただ、そのあまりにも公正で揺るぎない裁きの前に、深く、深く頭を垂れることしかできなかった。
それぞれの償いの道が始まった。
それは彼らにとって地獄のような日々になるだろう。
しかしその道のりの果てに、彼らがもしほんのわずかでも人間としての心を取り戻すことができるのなら。
それこそが、リリアーナという聖女を失った国に対するアシュレイからの最大限の慈悲だったのかもしれない。
あなたにおすすめの小説
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される
沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。
「あなたこそが聖女です」
「あなたは俺の領地で保護します」
「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」
こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。
やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
〖完結〗聖女の力を隠して生きて来たのに、妹に利用されました。このまま利用されたくないので、家を出て楽しく暮らします。
藍川みいな
恋愛
公爵令嬢のサンドラは、生まれた時から王太子であるエヴァンの婚約者だった。
サンドラの母は、魔力が強いとされる小国の王族で、サンドラを生んですぐに亡くなった。
サンドラの父はその後再婚し、妹のアンナが生まれた。
魔力が強い事を前提に、エヴァンの婚約者になったサンドラだったが、6歳までほとんど魔力がなかった。
父親からは役立たずと言われ、婚約者には見た目が気味悪いと言われ続けていたある日、聖女の力が覚醒する。だが、婚約者を好きになれず、国の道具になりたくなかったサンドラは、力を隠して生きていた。
力を隠して8年が経ったある日、妹のアンナが聖女だという噂が流れた。 そして、エヴァンから婚約を破棄すると言われ……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
ストックを全部出してしまったので、次からは1日1話投稿になります。
婚約破棄された「無能」聖女、拾った子犬が伝説の神獣だったので、辺境で極上もふもふライフを満喫します。~捨てた国が滅びそう?知りません~
ソラ
ファンタジー
「エリアナ、貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」
聖女としての魔力を使い果たし、無能と蔑まれた公爵令嬢エリアナ。
妹に婚約者を奪われ、身一つで北の最果て、凍てつく「死の森」へと捨てられる。
寒さに震え死を覚悟した彼女が出会ったのは、雪に埋もれていた一匹の小さなしっぽ。
「……ひとりぼっちなの? 大丈夫、私が温めてあげるわ」
最後の手向けに、残されたわずかな浄化の力を注いだエリアナ。
だが、その子犬の正体は――数千年の眠りから目覚めた、世界を滅ぼす伝説の神獣『フェンリル』だった!
ヒロインの淹れるお茶に癒やされ、ヒロインのブラッシングにうっとり。
最強の神獣は、彼女を守るためだけに辺境を「極上の聖域」へと作り替えていく。
一方、本物の聖女(結界維持役)を失った王国では、災厄が次々と降り注ぎ、崩壊の危機を迎えていた。
今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくる王子たち。
けれど、エリアナの膝の上には、甘えん坊の神獣様(執着心MAX)が陣取っていて――。
「聖女の仕事? いえ、今は神獣様とのお昼寝の方が忙しいので」
無自覚チートな聖女と、彼女にだけはデレデレな神獣様による、逆転溺愛スローライフが幕を開ける!
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
〖完結〗記憶を失った令嬢は、冷酷と噂される公爵様に拾われる。
藍川みいな
恋愛
伯爵令嬢のリリスは、ハンナという双子の妹がいた。
リリスはレイリック・ドルタ侯爵に見初められ、婚約をしたのだが、
「お姉様、私、ドルタ侯爵が気に入ったの。だから、私に譲ってくださらない?」
ハンナは姉の婚約者を、欲しがった。
見た目は瓜二つだが、リリスとハンナの性格は正反対。
「レイリック様は、私の婚約者よ。悪いけど、諦めて。」
断った私にハンナは毒を飲ませ、森に捨てた…
目を覚ました私は記憶を失い、冷酷と噂されている公爵、アンディ・ホリード様のお邸のベッドの上でした。
そして私が記憶を取り戻したのは、ハンナとレイリック様の結婚式だった。
設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全19話で完結になります。
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。
「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。
木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。
しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。
さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。
聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。
しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。
それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。
だがその後、王国は大きく傾くことになった。
フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。
さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。
これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。
しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。