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第45話 リーナの覚醒
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「今度は、俺が前に出る!」
アレンの決死の覚悟を込めた声が、水晶の洞窟に響き渡った。
ソフィアとカイは、一瞬ためらった。ヒーラーが、守られるべき支援職が、自ら最前線に立つ。それは、パーティ戦術の常識からあまりにも逸脱した、自殺行為に等しい選択だったからだ。
「正気か、アレン!あんたがやられたら、俺たちは終わりだぞ!」
ソフィアが、ひび割れた大盾を構えながら叫んだ。
「分かっている。だが、これしか手がない」
アレンの瞳は、狂気ではなく、冷静な計算と揺るぎない決意に満ちていた。
「俺の回復魔法(生命エネルギー)そのものを、あいつに直接叩き込む。物理的な衝撃ではなく、純粋なエネルギーの奔流なら、あいつの吸収能力を飽和させ、内側から暴走させられるかもしれない」
それは、あまりにも危険な賭けだった。失敗すれば、アレンの魔力は完全に枯渇し、廃人となる可能性さえある。
だが、ソフィアとカイは、もう何も言わなかった。彼らは、このリーダーがただの無謀で動く男ではないことを、これまでの戦いで嫌というほど知っていた。彼を信じる。それが、【黎明の翼】の戦い方だった。
「……分かった。何秒稼げばいい?」
カイが、短く問いかけた。
「五秒。いや、三秒でいい。その三秒間に、俺の全てを懸ける」
「上等だ!」
ソフィアは、最後の力を振り絞って立ち上がった。
「その三秒は、俺の命に代えても稼いでやる!」
二人は、アレンの覚悟に応えるように、再びガーディアンへと突撃した。ソフィアが大盾で光線を弾き、カイがその影を縫うようにして陽動を仕掛ける。それは、残された体力と精神力の全てを燃焼させる、捨て身の猛攻だった。
アレンは、仲間が作ってくれたその僅かな時間の中で、自身の内なる全ての魔力を、右腕の一点へと収束させていった。蒼い光が、彼の腕に渦を巻き、凝縮されていく。
――その、まさに同じ瞬間。
遠く離れた故郷、クレリア村。
エルフの少女リーナは、両親と共に村の小さな広場で、森の精霊と交感する訓練を行っていた。彼女の類稀な古代魔法の才能を、両親が少しずつ開花させようとしていたのだ。
しかし、リーナはうまく集中できなかった。胸騒ぎがする。アレンが旅立ってから、ずっと感じている漠然とした不安が、今日に限ってひどく強いのだ。
彼女は、アレンからもらった革の護符を、胸の前でぎゅっと握りしめた。
(アレン兄……無事でいて……)
その強い祈りが、引き金となった。
リーナが握りしめる護符が、突如としてまばゆい翠色の光を放ち始めたのだ。
「リーナ!?どうしたの!」
母親のシルヴィアが驚いて駆け寄る。
リーナの瞳は、しかし、もはや母親の姿を映してはいなかった。その翠色の瞳は、現実の世界ではない、どこか遠い場所を見つめている。
彼女の脳裏に、幻視が流れ込んできた。
暗く、美しい水晶の洞窟。巨大な光の巨人。そして、それに立ち向かい、今まさに命を散らそうとしている、三人の仲間の姿。
「――アレン兄が、危ない!」
少女の悲痛な叫び声が、村の空に響き渡った。
彼女の「守りたい」という純粋で強大な想いが、彼女の中に眠っていた古代魔法の源流を、強制的にこじ開ける。
リーナの小さな体から、村中の木々がざわめくほどの、膨大な魔力が溢れ出した。その魔力は、彼女が握りしめる護符へと吸い込まれ、空間を超えた奇跡を引き起こそうとしていた。
『――守護の古印、彼の地にて顕現せよ!』
少女の唇から、彼女自身も知らない古代の言の葉が紡がれる。
――静寂の神殿。
アレンが、凝縮した魔力をまさに解き放とうとした、その瞬間だった。
クリスタル・ガーディアンの動きが、突如として不自然に鈍ったのだ。
『……ナニ……カ……ガ……』
ガーディアンの思念に、初めて混乱の色が浮かぶ。
次の瞬間、何もない空間から、無数の翠色の光の鎖が出現し、ガーディアンの巨体を縛り上げていった。それは、まるで大樹の根が絡みつくかのように、その動きを完全に封じ込めていく。
「な、なんだこれは!?」
ソフィアが、目の前で起きた超常現象に驚愕の声を上げた。
アレンもまた、その光景に呆然としていた。だが、彼はすぐに気づいた。自分の首から下げた、リーナのお守りが、目の前の光の鎖と同じ、優しい翠色の光を放っていることに。
(リーナ……!?まさか、君が……!)
驚きと、胸を突くような温かい感情。だが、今は感傷に浸っている場合ではなかった。
これは、遠い故郷の少女が、命がけで作ってくれた千載一遇の好機なのだ。
「ソフィア!カイ!今だ!コアを狙え!」
アレンの絶叫が、洞窟に響き渡った。
彼は、右腕に溜め込んだ膨大な魔力を、攻撃ではなく、再び仲間の支援へと変換した。
「俺の力を、お前たちに預ける!」
アレンから放たれた蒼い光が、ソフィアの剣と、カイの短剣にそれぞれ宿った。二人の武器が、まばゆい光を放つ。
ソフィアとカイは、アレンの意図を即座に理解した。彼らは互いに頷き合うと、光の鎖に縛られ、身動きが取れなくなったガーディアンの、がら空きの胸部コアへと、同時に突撃した。
「これで、終わりだあああっ!」
「……貫け!」
ソフィアの長剣が、上から。
カイの短剣が、下から。
二人の、渾身の一撃が、巨大な魔力水晶のコアに、寸分の狂いもなく突き刺さった。
パリン、と澄んだ音がした。
コアに、蜘蛛の巣のような亀裂が走る。
そして、次の瞬間。
クリスタル・ガーディアンは、内部から凄まじい光を放つと、音もなく、無数の光の粒子となって霧散していった。
後に残されたのは、静寂と、床に散らばる光の残滓、そして、呆然と立ち尽くす三人の姿だけだった。
戦いは、終わった。
アレンは、光を失い、今はただ温もりだけが残るお守りを、強く握りしめた。
遠い故郷にいる少女の、計り知れない才能と、自分への強い想い。それが、この絶体絶命の窮地を救ってくれたのだ。
「……俺たちは、一人じゃなかったんだな」
アレンの呟きは、隣に立つ二人の仲間にも、確かに届いていた。
物理的な距離を超えて繋がる、仲間との絆。その奇跡を目の当たりにし、彼らは決意を新たにした。
この先に、どんな困難が待ち受けていようとも、自分たちは決して負けない。
三人は、光の粒子が舞う幻想的な洞窟の、さらに奥へと続く道筋を、力強い足取りで進み始めた。
アレンの決死の覚悟を込めた声が、水晶の洞窟に響き渡った。
ソフィアとカイは、一瞬ためらった。ヒーラーが、守られるべき支援職が、自ら最前線に立つ。それは、パーティ戦術の常識からあまりにも逸脱した、自殺行為に等しい選択だったからだ。
「正気か、アレン!あんたがやられたら、俺たちは終わりだぞ!」
ソフィアが、ひび割れた大盾を構えながら叫んだ。
「分かっている。だが、これしか手がない」
アレンの瞳は、狂気ではなく、冷静な計算と揺るぎない決意に満ちていた。
「俺の回復魔法(生命エネルギー)そのものを、あいつに直接叩き込む。物理的な衝撃ではなく、純粋なエネルギーの奔流なら、あいつの吸収能力を飽和させ、内側から暴走させられるかもしれない」
それは、あまりにも危険な賭けだった。失敗すれば、アレンの魔力は完全に枯渇し、廃人となる可能性さえある。
だが、ソフィアとカイは、もう何も言わなかった。彼らは、このリーダーがただの無謀で動く男ではないことを、これまでの戦いで嫌というほど知っていた。彼を信じる。それが、【黎明の翼】の戦い方だった。
「……分かった。何秒稼げばいい?」
カイが、短く問いかけた。
「五秒。いや、三秒でいい。その三秒間に、俺の全てを懸ける」
「上等だ!」
ソフィアは、最後の力を振り絞って立ち上がった。
「その三秒は、俺の命に代えても稼いでやる!」
二人は、アレンの覚悟に応えるように、再びガーディアンへと突撃した。ソフィアが大盾で光線を弾き、カイがその影を縫うようにして陽動を仕掛ける。それは、残された体力と精神力の全てを燃焼させる、捨て身の猛攻だった。
アレンは、仲間が作ってくれたその僅かな時間の中で、自身の内なる全ての魔力を、右腕の一点へと収束させていった。蒼い光が、彼の腕に渦を巻き、凝縮されていく。
――その、まさに同じ瞬間。
遠く離れた故郷、クレリア村。
エルフの少女リーナは、両親と共に村の小さな広場で、森の精霊と交感する訓練を行っていた。彼女の類稀な古代魔法の才能を、両親が少しずつ開花させようとしていたのだ。
しかし、リーナはうまく集中できなかった。胸騒ぎがする。アレンが旅立ってから、ずっと感じている漠然とした不安が、今日に限ってひどく強いのだ。
彼女は、アレンからもらった革の護符を、胸の前でぎゅっと握りしめた。
(アレン兄……無事でいて……)
その強い祈りが、引き金となった。
リーナが握りしめる護符が、突如としてまばゆい翠色の光を放ち始めたのだ。
「リーナ!?どうしたの!」
母親のシルヴィアが驚いて駆け寄る。
リーナの瞳は、しかし、もはや母親の姿を映してはいなかった。その翠色の瞳は、現実の世界ではない、どこか遠い場所を見つめている。
彼女の脳裏に、幻視が流れ込んできた。
暗く、美しい水晶の洞窟。巨大な光の巨人。そして、それに立ち向かい、今まさに命を散らそうとしている、三人の仲間の姿。
「――アレン兄が、危ない!」
少女の悲痛な叫び声が、村の空に響き渡った。
彼女の「守りたい」という純粋で強大な想いが、彼女の中に眠っていた古代魔法の源流を、強制的にこじ開ける。
リーナの小さな体から、村中の木々がざわめくほどの、膨大な魔力が溢れ出した。その魔力は、彼女が握りしめる護符へと吸い込まれ、空間を超えた奇跡を引き起こそうとしていた。
『――守護の古印、彼の地にて顕現せよ!』
少女の唇から、彼女自身も知らない古代の言の葉が紡がれる。
――静寂の神殿。
アレンが、凝縮した魔力をまさに解き放とうとした、その瞬間だった。
クリスタル・ガーディアンの動きが、突如として不自然に鈍ったのだ。
『……ナニ……カ……ガ……』
ガーディアンの思念に、初めて混乱の色が浮かぶ。
次の瞬間、何もない空間から、無数の翠色の光の鎖が出現し、ガーディアンの巨体を縛り上げていった。それは、まるで大樹の根が絡みつくかのように、その動きを完全に封じ込めていく。
「な、なんだこれは!?」
ソフィアが、目の前で起きた超常現象に驚愕の声を上げた。
アレンもまた、その光景に呆然としていた。だが、彼はすぐに気づいた。自分の首から下げた、リーナのお守りが、目の前の光の鎖と同じ、優しい翠色の光を放っていることに。
(リーナ……!?まさか、君が……!)
驚きと、胸を突くような温かい感情。だが、今は感傷に浸っている場合ではなかった。
これは、遠い故郷の少女が、命がけで作ってくれた千載一遇の好機なのだ。
「ソフィア!カイ!今だ!コアを狙え!」
アレンの絶叫が、洞窟に響き渡った。
彼は、右腕に溜め込んだ膨大な魔力を、攻撃ではなく、再び仲間の支援へと変換した。
「俺の力を、お前たちに預ける!」
アレンから放たれた蒼い光が、ソフィアの剣と、カイの短剣にそれぞれ宿った。二人の武器が、まばゆい光を放つ。
ソフィアとカイは、アレンの意図を即座に理解した。彼らは互いに頷き合うと、光の鎖に縛られ、身動きが取れなくなったガーディアンの、がら空きの胸部コアへと、同時に突撃した。
「これで、終わりだあああっ!」
「……貫け!」
ソフィアの長剣が、上から。
カイの短剣が、下から。
二人の、渾身の一撃が、巨大な魔力水晶のコアに、寸分の狂いもなく突き刺さった。
パリン、と澄んだ音がした。
コアに、蜘蛛の巣のような亀裂が走る。
そして、次の瞬間。
クリスタル・ガーディアンは、内部から凄まじい光を放つと、音もなく、無数の光の粒子となって霧散していった。
後に残されたのは、静寂と、床に散らばる光の残滓、そして、呆然と立ち尽くす三人の姿だけだった。
戦いは、終わった。
アレンは、光を失い、今はただ温もりだけが残るお守りを、強く握りしめた。
遠い故郷にいる少女の、計り知れない才能と、自分への強い想い。それが、この絶体絶命の窮地を救ってくれたのだ。
「……俺たちは、一人じゃなかったんだな」
アレンの呟きは、隣に立つ二人の仲間にも、確かに届いていた。
物理的な距離を超えて繋がる、仲間との絆。その奇跡を目の当たりにし、彼らは決意を新たにした。
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