Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第47話 リバース・ペイン

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「カイ!」
ソフィアの悲痛な叫びが、地下の祭壇に響き渡った。カイの体が力なく崩れ落ちる光景は、アレンにとっても、ソフィアにとっても、悪夢そのものだった。
初めて仲間が、目の前で致命傷を負った。その事実は、彼らの冷静さを容赦なく奪い去る。

「……まずは一匹。実に呆気ないものだな」
ザルガスは、カイの亡骸を一瞥すると、心底つまらなそうに呟いた。そして、その蛇のような瞳を、怒りに震えるソフィアと、顔面蒼白のアレンに向けた。
「さて、次はお前たちだ。どちらから死にたい?」

「てめえええええっ!」
ソフィアが、理性を失ってザルガスへと突進しようとする。
だが、その肩を、強い力が掴んで引き止めた。

「待て、ソフィア」
声の主は、アレンだった。彼の顔は血の気を失い、唇はわなわなと震えている。だが、その瞳の奥には、悲しみや怒りとは違う、冷たく、そして燃え盛るような、静かな光が宿っていた。

「……離せ、アレン!あいつを、俺が斬る!」
「駄目だ。あんたまで、カイと同じ轍を踏むつもりか」
アレンの声は、有無を言わせぬ響きを持っていた。ソフィアは、その気迫に押され、ぐっと歯を食いしばる。

アレンは、ゆっくりとカイの亡骸に歩み寄った。そして、その前に膝をつくと、震える手でカイの胸に突き刺さったままの、呪われた短剣に触れた。
指先に、ぞわりとした悪寒が走る。生命力を根こそぎ奪い去る、強力な呪い。アレンの《ヒール》ですら、この呪いを完全に浄化するには時間がかかる。その間に、カイの魂は肉体から完全に離れてしまうだろう。

(……間に合わない)

絶望的な事実が、アレンの頭を殴りつけた。
【完全蘇生】を使えば、カイを生き返らせることはできる。だが、そのためには、まず目の前のザルガスを倒さなければならない。スキルを発動するには、膨大な魔力と集中力が必要だ。戦闘中に使えるような代物ではない。

(どうすれば……)

アレンの脳が、高速で回転する。
この呪いを、どうにかできないか。浄化するのではなく、もっと別の方法で。
ヒールが『与える』力なら、その逆は?
ヒュドラ戦で見せた、回復魔法の反転。あれは、対象の生命力を暴走させるものだった。
では、呪いは?
呪いとは、負のエネルギーだ。それを、もし『跳ね返す』ことができたなら……?

アレンの脳裏に、彼の魂に刻まれたスキルのリストが浮かび上がった。【完全蘇生】の覚醒と共に、まだ彼自身も完全には理解しきれていない、いくつかの派生スキル。その中に、一つの可能性があった。

『――汝、受けた傷を、汝を傷つけし者に還すべし』

それは、スキルが覚醒した時に聞こえた、荘厳な声の一部だった。
アレンは、賭けに出ることにした。
仲間を失った悲しみと、敵への怒り。その激しい感情が、彼の精神を極限まで研ぎ澄ませていく。

「……面白い。仲間の死体の前で、祈りでも捧げるか?感傷に浸っている暇があるなら、せいぜい延命の策でも練るがいい」
ザルガスが、嘲笑を浮かべてアレンを見下している。

アレンは、その嘲笑を無視した。彼は、カイの胸からゆっくりと呪いの短剣を引き抜くと、それを強く握りしめた。短剣から放たれる呪いが、アレン自身の腕を黒く染め上げていく。激痛と、生命力が吸い取られていく感覚が、彼を襲う。

「アレン!何を!?」
ソフィアが、彼の無謀な行動に叫ぶ。
アレンは、歯を食いしばってその苦痛に耐えた。そして、全ての意識を、自分の魂の奥深くへと集中させる。

『神々の枷』が、また一つ、音を立てて砕け散った。
新たな力が、奔流となって彼の全身を駆け巡る。

脳内に、システムメッセージが響き渡った。
`……適合条件を確認。`
`第二の試練『仲間の喪失』を達成。`
`――ユニークスキル【リバース・ペイン】が完全解放されます。`

「……還すぞ、お前に」

アレンは、黒く染まった腕を、ザルガスへと突き出した。
その瞬間、アレンの腕を蝕んでいた呪いが、まるで逆再生されるかのように、彼の体から離れていく。そして、それは黒い稲妻となって、ザルガスへと殺到した。

「なっ……!?」
ザルガスは、初めて驚愕の表情を浮かべた。彼は咄嗟に黒い障壁を展開する。
だが、呪いの稲妻は、その障壁をいとも容易く貫通し、ザルガスの胸へと突き刺さった。

「ぐ……あああああっ!?」
ザルガスから、これまで聞いたこともないような、苦悶の絶叫が迸った。
彼が放った呪いが、何一つ薄まることなく、完全に彼自身へと跳ね返ってきたのだ。
彼の体は、自らが作り出した呪いによって、内側から猛烈な勢いで蝕まれ始めた。肌は黒く変色し、その体からは生命力が急速に失われていく。

「馬鹿な……ありえん……!我が呪いを、跳ね返しただと……!?貴様、一体、何者だ……!」
ザルガスは、信じられないといった目でアレンを睨みつけながら、後ずさる。

アレンは、その問いには答えなかった。彼の目は、すでにザルガスを捉えていない。彼の意識は、ただ一点、足元で冷たくなっていく、仲間の亡骸へと注がれていた。
呪いを跳ね返したことで、カイの体から呪いの影響は消えた。だが、失われた生命力は戻らない。彼は、まだ死んだままだ。

「……ソフィア」
アレンは、立ち上がった。その顔には、一切の感情がなかった。まるで、能面のように。
「カイを、頼む」

アレンはソフィアにカイを任せると、一人、苦しむザルガスへと歩み寄った。
ザルガスは、呪いの苦痛に耐えながらも、最後の力を振り絞って懐から黒い水晶を取り出した。
「……覚えておけ、忌まわしきヒーラー……!我らが主は、必ずや……!」
彼が水晶を握り潰すと、その体は黒い煙となって霧散し始めた。転移の魔道具だ。

だが、アレンはそれを逃しはしなかった。
彼がザルガスの消えゆく体に手をかざすと、その体から緑色の光――生命エネルギーが、強制的に吸い出されていく。

「な……貴様、我が魂まで……!」
ザルガスの断末魔の叫びが、祭壇に響き渡った。
アレンは、ザルガスが完全に消滅するまで、その手を下ろさなかった。

やがて、ザルガスの気配が完全に消え失せる。
アレンは、吸い出した生命エネルギーを、カイの亡骸へと注ぎ込んだ。
そして、彼は両手をカイの亡骸にかざし、静かに目を閉じた。

「――戻ってこい、カイ」

彼の体から、神々しい金色の光が溢れ出した。
禁忌のスキル、【完全蘇生】が、今、発動される。
絶望の淵で、アレンは仲間の魂を現世へと呼び戻すための、最後の奇跡を紡ぎ始めた。
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