異世界転移した俺のスキルは【身体魔改造】でした ~腕をドリルに、脚はキャタピラ、脳はスパコン。 追放された機械技師は、神をも超える魔導機兵~

夏見ナイ

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第十二話 白き腕と再起の矢

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義手の製作は、カケルの全神経を集中させる作業だった。
彼は、まずティリアが口にした「鉄の塊」という言葉を、設計の根幹から排除することにした。彼女が生理的に受け付けないものを、無理やり押し付けても意味がない。最高の性能を発揮するには、使い手が心から信頼できるものでなければならない。

「リゼット、この国で一番硬い魔物の骨と、一番しなやかな木材を手配してくれ。それと、ミスリルのインゴットを少量」
カケルの要求に、リゼットはすぐさま応じた。
運び込まれたのは、純白の輝きを放つ「竜骨」、そして銀色の木目を持つ「霊銀樹」と呼ばれる木材だった。どちらも、並の鋼鉄を遥かに凌ぐ強度と、魔力への高い親和性を持つ、国宝級の素材だ。
「……これならいける」
カケルは素材を手に取り、その特性を確かめながら、満足げに頷いた。
設計図は、既に彼の頭の中で完成している。
フレームの主構造材には、軽量かつ高強度な竜骨を使用。表面には、エルフの肌に馴染むよう、霊銀樹を寸分の狂いもなく削り出して貼り合わせる。内部に組み込む人工筋肉は、ワイバーンの腱を加工した繊維と、ミスリルを編み込んだワイヤーを組み合わせたハイブリッド仕様。これにより、人間の筋力を超える張力と、矢を放つ瞬間の微細な振動を吸収するしなやかさを両立させる。
動力源兼制御ユニットには、サイズマンティスから回収した大ぶりの魔石を。これを心臓部として、ティリアの神経インパルスを読み取り、義手を動かす。

製作が始まると、工房はカケルの独壇場と化した。
炉の炎が、竜骨を加工できるギリギリの温度まで高められる。カケルは、分厚い革のエプロンと保護眼鏡を身につけ、長大なトングで赤熱した竜骨を掴み、金床の上に乗せた。
カン! カン! カン!
重いハンマーが、リズミカルに振り下ろされる。火花が滝のように舞い散る中、硬い竜骨が、少しずつ、しかし確実に形を変えていく。その光景は、荒々しくも、どこか神聖ですらあった。
ティリアは、工房の隅で、息を詰めてその様子を見つめていた。
最初は、不信感しかなかった。だが、カケルの仕事ぶりは、彼女の想像を絶していた。
彼は、ただの一度も図面を見ない。全ての工程が、彼の頭の中にある完璧な設計図に基づいて、寸分の狂いもなく進んでいく。竜骨を叩き、霊銀樹を削り、ミスリルを溶かす。その一つ一つの動作に、一切の無駄も、迷いもない。
それは、彼女が知るどんな職人とも違っていた。まるで、機械そのものが、別の機械を生み出しているかのような、絶対的な精度と合理性。
しかし、不思議なことに、その光景から冷たさを感じることはなかった。むしろ、目の前の素材と真摯に向き合い、その特性を最大限に引き出そうとする、熱い情熱のようなものが伝わってくる。
「……」
ティリアは、いつの間にか、彼の動きから目が離せなくなっていた。

数日が過ぎた。
ティリアは、毎日工房に通っていた。最初はリゼットに促されてだったが、今では自らの意志で足を運んでいた。カケルは、彼女に話しかけることはほとんどない。ただ、時折、計測のために彼女の肩や腕に触れるだけだ。
「少し痩せたか? ちゃんと食ってるのか」
ある日、カケルがノギスを当てながら、ぶっきらぼうに尋ねた。
「え……あ、はい。ちゃんと、食べてます」
ティリアは、予期せぬ言葉に慌てて答える。
「そうか。設計に誤差が出る。これ以上痩せるな」
それだけ言うと、カケルは再び作業に戻ってしまった。
ティリアは、自分の胸が少しだけ温かくなるのを感じた。彼は、自分をただの「素材」として見ているわけではない。自分の体の変化まで気にかけて、設計を微調整している。その不器用な気遣いが、ティリアの頑なだった心を、少しずつ溶かしていった。

そして、製作開始から一週間後。
義手は、完成した。
作業台の上に置かれたそれは、ティリアが想像していた「鉄の塊」とは、全くの別物だった。
白く輝く竜骨のフレームを、銀色の木目を持つ霊銀樹が優雅に覆っている。関節部分には、アクセントのようにミスリルの繊細な装飾が施され、まるで芸術品のような気品を漂わせていた。それは、無機質な機械ではなく、生命の息吹さえ感じさせる、美しい工芸品だった。
「……きれい」
ティリアの口から、思わず感嘆の声が漏れた。
「見た目はどうでもいい。問題は、こいつがお前の腕として機能するかどうかだ」
カケルは、こともなげに言いながら、ティリアの前に義手を差し出した。
「装着する。立て」
ティリアは、ごくりと喉を鳴らし、立ち上がった。
カケルは、義手の接続部をティリアの左肩に慎重に合わせる。ひやりとした感触。そして、カケルが接続部のスイッチを入れた瞬間。
「……っ!」
ティリアの全身に、微弱な電流のようなものが走った。
義手の内部に埋め込まれた魔石が淡く光り、彼女の肩に残された神経の末端と、義手の制御ユニットが接続されていく。
失われていた左腕の感覚が、まるで霧が晴れるように、脳内に蘇ってくる。
指がある。手首がある。肘がある。
物理的には存在しないはずの腕が、しかし、確かに「在る」。幻肢痛のような不快な感覚ではない。血が巡り、力がみなぎるような、生々しい感覚。
ティリアは、恐る恐る、意識を集中させた。
――指を、動かせ。
彼女の意志に呼応して、目の前の、白く美しい義手の指が、ゆっくりと握り込まれていく。
「……あ……」
声にならない声が漏れた。涙が、頬を伝う。
一年以上、動くことのなかった、失われたはずの腕。それが今、自分の意志で、完璧に動いている。
「基本的な動作確認は終わった。次は、実地試験だ。ついてこい」
カケルは、感動に浸るティリアを促し、工房の外へと向かった。

案内されたのは、城の裏手にある、だだっ広い訓練場だった。
そこには、ティリアが愛用していた、白樺の長弓と、矢筒が用意されていた。リゼットが、前もって準備していたのだろう。
「やれるか?」
カケルの問いに、ティリアは黙って頷いた。
彼女は、震える右手で、懐かしい弓を手に取った。そして、新しく得た左手で、その弓を握りしめる。
竜骨と霊銀樹でできた指が、弓のグリップに完璧にフィットした。まるで、自分の体の一部のように、しっくりと馴染む。
ティリアは、矢筒から一本の矢を引き抜き、弦につがえた。
深く、息を吸う。
そして、ゆっくりと、弦を引き絞った。
ギ、と弓がしなる音。義手の内部で、人工筋肉が静かに駆動し、ティリアの力をアシストする。驚くほど、軽い。かつて、全身の力を使って引き絞っていた強弓を、いともたやすく満月のように引くことができた。
「……!」
ティリアは驚きに目を見開いた。だが、感心している暇はない。
彼女は、百メートル先の的に照準を合わせた。エルフの優れた視力が、的の中心を明確に捉える。
心臓の鼓動が、静かになる。風の音、自分の呼吸、その全てが遠のいていく。
世界に、自分と、弓と、的だけが存在する。
一年ぶりに訪れた、至高の集中状態。
そして。
彼女は、弦を放った。
ヒュンッ! という鋭い風切り音と共に、矢は白い軌跡を描いて空を翔けた。
カケルの目が、その軌道を正確に追う。
矢は、一切のブレなく、一直線に的へと吸い込まれていった。
そして。
ドスッ!
矢は、百メートル先の的の、ど真ん中。その一点に、深々と突き刺さっていた。
「……やった……」
ティリアの目から、大粒の涙が溢れ出した。
信じられなかった。一年ものブランクがあったというのに、放った矢は、彼女が全盛期だった頃よりも、遥かに速く、鋭く、そして正確だった。
義手が、彼女の僅かな力のロスや、体のブレを完璧に補正し、持てる力の全てを矢に伝えていたのだ。
「まだだ」
カケルの、静かな声が響く。
「それは、ただのウォーミングアップだ。こいつの本当の力は、そんなもんじゃねえ」
カケルは、ティリアの義手に近づき、手首の辺りにある小さなダイヤルを操作した。
「神経接続の感度を上げる。次はお前の反応速度に、こいつが合わせる。考えるな。感じたままに、射て」
ティリアは、戸惑いながらも頷いた。
彼女は、再び矢をつがえる。今度は、考えるよりも先に、体が動いていた。
矢を番え、引き絞り、放つ。その一連の動作が、コンマ数秒の間に行われる。
ヒュン! ヒュン! ヒュン!
三本の矢が、立て続けに放たれる。
そして、三本全てが、的の中心に突き刺さった最初の一本に、寸分の狂いもなく命中し、その矢柄を次々と叩き割っていった。
「……すごい……」
もはや、ティリア自身の口から、感嘆の声しか出てこない。これは、もはや自分の知る弓術の領域を超えていた。
彼女は、自分の左腕を見つめた。白く輝く、美しい腕。
「……これは、鉄の塊なんかじゃない」
ティリアは、涙で濡れた顔で、カケルに向き直った。
「これは……私の、新しい腕だわ。あなたが、私にくれた……希望そのものよ」
彼女は、心の底からの笑顔を見せた。それは、一年間彼女を縛り付けていた絶望の鎖が、完全に断ち切られた瞬間だった。
「当たり前のことをしたまでだ」
カケルは、ぶっきらぼうにそう言って、そっぽを向いた。だが、その横顔は、少しだけ誇らしげに見えた。
鋼の技師が、一人のエルフに与えた、白き腕。
その一射は、彼女の再起を告げると共に、カケルの技術が、単なる殺戮の道具ではなく、人に希望を与える奇跡の力でもあることを、ガルダ公国の人々に強く、深く、印象付けた。
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