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第二十四話 激突、二つの理(ことわり)
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平原の空気が、凍りついたように静止した。
二千の軍勢も、ただ息を呑んで、天と地に立つ二人の男を見上げるだけだった。彼らは、これから始まる戦いが、自分たちの理解を遥かに超えたものであることを、本能で感じ取っていた。
空中のカケルは、ギルベルトから立ち上る、尋常ならざる魔力の奔流に、肌がピリピリと粟立つのを感じていた。
(……なんだ、この魔力は。これまでの奴らとは、桁が違う)
平原で戦った指揮官や魔道士たちの魔力が、せいぜいロウソクの炎だとしたら、ギルベルトのそれは、全てを焼き尽くす太陽のそれに近かった。
「……面白い」
カケルは、口の端を吊り上げた。困難な状況であればあるほど、彼の闘争心は燃え上がる。
彼は、ブースターの出力を微調整し、ゆっくりと高度を下げ始めた。
地上のギルベルトは、抜き放った剣を、静かに正眼に構えた。
「グリフォン騎士団、全隊に告ぐ。手を出すな」
彼の、凛とした声が響く。
「この戦いは、私と、あの鉄の化け物との一騎打ちだ。何人たりとも、邪魔をすることは許さん」
その言葉は、絶対的な自信の表れだった。彼は、カケルという未知の脅威に対し、ただ一人で臨むことを、微塵も躊躇っていなかった。
「……しかし、ギルベルト様!」
側近の騎士が、案じるように声を上げるが、ギルベルトはそれを冷たい視線で制した。
彼は、カケルを見据えたまま、静かに告げた。
「我が名は、ギルベルト・ヴァイスマン。神聖ソレイユ魔法王国が聖騎士団長である」
「……カケルだ。ただの、機械技師だよ」
空と地。遥か百メートルを隔てて、二人は初めて、言葉を交わした。
「技師、か。その鋼鉄の身体で、よく言う」
ギルベルトは、フ、と鼻で笑った。
「世界の理を乱す、禁忌の存在よ。貴様の存在は、神が定めたもうた、この世界の調和を破壊する『エラー』だ。故に、私が、ここで貴様を削除する」
「神だか、エラーだか知らねえがな」
カケルは、言い返した。
「俺は、俺のやり方で、俺の信じるものを守るだけだ。あんたらの神様が、それに文句があるってんなら、俺が相手になってやる」
「……問答は、無用か」
ギルベルトは、剣の切っ先を、わずかにカケルに向けた。
「ならば、その歪んだ鉄屑の体ごと、光に還るがいい」
次の瞬間、ギルベルトの全身から、凄まじい光が迸った。
「《ホーリー・ジャベリン》!」
彼の剣先に、凝縮された聖なる魔力が、巨大な光の槍となって形成される。その長さは、十メートルを超え、まるで天を突く光の塔のようだった。
そして、その光の槍が、カケルに向かって、音もなく撃ち出された。
(速い!)
カケルは、咄嗟にブースターを吹かし、空中をスライドするようにして回避行動を取った。
光の槍は、カケルがいた空間を通り過ぎ、遥か上空の雲を貫いて、消えていった。
だが、ギルベルトの攻撃は、それで終わりではなかった。
「逃がさん」
彼の剣が、再び閃く。
二本、三本、四本……。
立て続けに放たれる光の槍が、空を埋め尽くし、カケルに回避の隙を与えない、完璧な弾幕を形成した。
「チッ!」
カケルは、舌打ちしながら、ブースターの性能を最大限に引き出す。
急上昇、急降下、錐揉み回転。彼の体は、まるでエースパイロットが駆る戦闘機のように、超高速で空を舞い、光の槍の雨を紙一重で躱し続ける。
その光景は、ソレイユの兵士たちにとって、信じがたいものだった。ギルベルト様の、あれほどの連続攻撃を、全て避けきるだと……?
「……なるほど。その飛翔能力、実に厄介だ」
ギルベルトは、一旦攻撃の手を止め、冷静に分析する。
「だが、空にいる限り、貴様の攻撃手段は限られる。所詮は、逃げ回ることしかできん、空飛ぶ的だ」
ギルベルトの言う通りだった。カケルは、今のところ、回避に専念するしかない。キャタピラによる体当たりも、地上にいなければ使えない。右腕のバイブロ・ブレードも、この距離では届かない。
(……このままじゃ、ジリ貧だ)
カケルは、攻勢に転じるための活路を探った。
(奴を、地上から引き剥がすか? いや、無理だ。奴の狙いは、あくまで俺一人。俺が空にいる限り、奴は動かん。ならば……!)
答えは、一つしかない。
地上に降り、接近戦に持ち込む。
だが、それはあまりに危険な賭けだった。地上に降りた瞬間、カケルはギルベルトの剣の間合いに入ることを意味する。そして、空を飛ぶアドバンテージを、自ら捨てることになる。
「……やるしか、ねえか」
カケルは、覚悟を決めた。
彼は、ブースターの推力を逆噴射させ、急ブレーキをかけると、一直線に、ギルベルトのいる地上目指して、突っ込んできた。
それは、まるで自爆攻撃を仕掛ける、隕石のようだった。
「ほう……愚かな。自ら、死地へ飛び込んでくるとは」
ギルベルトは、迫り来るカケルを、冷静に見据えていた。彼の周りの大地が、魔力に呼応して、わずかに隆起し始める。
カケルは、地上に激突する寸前、ブースターを最大噴射させ、着地の衝撃を殺した。
ガシャアアン!
キャタピラが、地響きを立てて、大地を踏みしめる。
カケルとギルベルトの距離は、わずか二十メートル。
互いの表情が、はっきりと見える距離だった。
「ようやく、降りてきたか。鉄の鳥よ」
「お喋りは、もう終わりだ」
カケルは、右腕のバイブロ・ブレードを展開した。ブーン、という高周波の振動音が、戦場の空気を震わせる。
彼は、キャタピラを駆動させ、ギルベルトに向かって突進した。
「死ねえええ!」
ブレードが、ギルベルトの心臓を狙って、真っ直ぐに突き出される。
ギルベルトは、動かなかった。
ただ、その身に纏う魔力を、さらに高める。
「無駄だ」
彼の剣が、カケルのブレードを迎え撃った。
キィィィィィン!
凄まじい金属音と、火花。
カケルの全力の突きは、ギルベルトの剣によって、いともたやすく受け止められていた。
「なっ!?」
カケルは、信じられないものを見る目で、自分のブレードを見つめた。刃が、ギルベルトの剣に、まるで吸い付くように止められている。
「言ったはずだ。無駄だと」
ギルベルトの剣には、聖なる魔力が、分厚いオーラとなって纏わりついている。それが、バイブロ・ブレードの振動を完全に殺し、その切れ味を無効化していたのだ。
「貴様のその鉄の爪が、魔獣や並の騎士には通用したのだろう。だが、この私には、届かん」
ギルベルトは、カケルのブレードを弾き返すと、流れるような動きで反撃に転じた。
その剣閃は、速く、鋭く、そして、あまりに美しい。
カケルは、咄嗟に後退し、キャタピラで距離を取ろうとする。
だが、ギルベルトの速度は、それを上回っていた。
シュンッ!
剣が、空気を切り裂く。
カケルは、左腕を盾にして、その一撃を受け止めた。
ガキン!
硬質な音が響く。カケルの対魔法障壁が、剣に宿る魔力を減衰させる。
だが。
ズブリ、と。
ギルベルトの剣は、障壁を貫通し、その下の黒鉄装甲を、バターのように切り裂いた。
「ぐ……うっ!」
カケルの左腕に、初めて、深い傷が刻まれた。激痛が、彼の全身を駆け巡る。
「……ほう。この剣を受けて、腕が落ちんか。その装甲、確かに硬いな」
ギルベルトは、少しだけ感心したように言った。
「だが、何度でも斬るまでだ」
彼の剣が、再び閃く。
カケルは、必死に防御するが、一撃、また一撃と、その黒鉄の体に、深い傷が刻まれていく。胸に、肩に、キャタピラの装甲に。
対魔法障壁は、確かに機能している。でなければ、今頃、彼の体は両断されていただろう。
だが、ギルベルトの剣技と、その剣に込められた純粋なまでの物理的な力は、障壁の防御力を、わずかに上回っていた。
(……クソが! 速すぎる……! 重すぎる……!)
カケルは、焦りを覚えていた。これが、王国最強。平原で戦った騎士たちとは、次元が違う。
「終わりだ、禁忌の者よ」
ギルベルトは、カケルの動きが鈍ったのを見逃さなかった。
彼は、大きく踏み込み、渾身の一撃を、カケルの胴体めがけて、薙ぎ払った。
それは、回避不能の、必殺の一撃。
カケルは、死を覚悟した。
だが、その瞬間。
彼の背中のブースターが、彼の意志とは関係なく、自動的に、最大出力で噴射された。
緊急回避システム。カケルが、万が一のために、無意識の領域にプログラムしておいた、最後の安全装置だった。
ゴオオオッ!
カケルの体は、後ろ向きに、凄まじい勢いで吹き飛ばされた。
ギルベルトの剣は、カケルの体を掠め、その胸部装甲を、大きく、深く、抉り取った。
「ぐあああああっ!」
カケルは、吹き飛ばされながら、絶叫した。胸の傷から、火花と、赤い液体――冷却液か、あるいは彼の血か――が、飛び散る。
彼は、なすすべもなく、後方の、ガルダ軍の陣地へと墜落していった。
轟音と共に、地面に叩きつけられ、巨大なクレーターを作る。
「カケル!」
ティリアの悲痛な叫び声が、戦場に響き渡った。
カケルの体は、黒煙を上げ、ぴくりとも動かない。
ギルベルトは、剣を振るい、付着した液体を払うと、静かに、その無残な姿を見下ろした。
「……ふん。所詮は、鉄のガラクタか」
彼は、カケルに、それ以上の興味を示さなかった。
彼にとって、勝負は、もう決したのだ。
カケルは、初めて、完膚なきまでに、敗れた。
その事実は、彼の心と体に、消えることのない、深い傷跡を刻みつけた。
二千の軍勢も、ただ息を呑んで、天と地に立つ二人の男を見上げるだけだった。彼らは、これから始まる戦いが、自分たちの理解を遥かに超えたものであることを、本能で感じ取っていた。
空中のカケルは、ギルベルトから立ち上る、尋常ならざる魔力の奔流に、肌がピリピリと粟立つのを感じていた。
(……なんだ、この魔力は。これまでの奴らとは、桁が違う)
平原で戦った指揮官や魔道士たちの魔力が、せいぜいロウソクの炎だとしたら、ギルベルトのそれは、全てを焼き尽くす太陽のそれに近かった。
「……面白い」
カケルは、口の端を吊り上げた。困難な状況であればあるほど、彼の闘争心は燃え上がる。
彼は、ブースターの出力を微調整し、ゆっくりと高度を下げ始めた。
地上のギルベルトは、抜き放った剣を、静かに正眼に構えた。
「グリフォン騎士団、全隊に告ぐ。手を出すな」
彼の、凛とした声が響く。
「この戦いは、私と、あの鉄の化け物との一騎打ちだ。何人たりとも、邪魔をすることは許さん」
その言葉は、絶対的な自信の表れだった。彼は、カケルという未知の脅威に対し、ただ一人で臨むことを、微塵も躊躇っていなかった。
「……しかし、ギルベルト様!」
側近の騎士が、案じるように声を上げるが、ギルベルトはそれを冷たい視線で制した。
彼は、カケルを見据えたまま、静かに告げた。
「我が名は、ギルベルト・ヴァイスマン。神聖ソレイユ魔法王国が聖騎士団長である」
「……カケルだ。ただの、機械技師だよ」
空と地。遥か百メートルを隔てて、二人は初めて、言葉を交わした。
「技師、か。その鋼鉄の身体で、よく言う」
ギルベルトは、フ、と鼻で笑った。
「世界の理を乱す、禁忌の存在よ。貴様の存在は、神が定めたもうた、この世界の調和を破壊する『エラー』だ。故に、私が、ここで貴様を削除する」
「神だか、エラーだか知らねえがな」
カケルは、言い返した。
「俺は、俺のやり方で、俺の信じるものを守るだけだ。あんたらの神様が、それに文句があるってんなら、俺が相手になってやる」
「……問答は、無用か」
ギルベルトは、剣の切っ先を、わずかにカケルに向けた。
「ならば、その歪んだ鉄屑の体ごと、光に還るがいい」
次の瞬間、ギルベルトの全身から、凄まじい光が迸った。
「《ホーリー・ジャベリン》!」
彼の剣先に、凝縮された聖なる魔力が、巨大な光の槍となって形成される。その長さは、十メートルを超え、まるで天を突く光の塔のようだった。
そして、その光の槍が、カケルに向かって、音もなく撃ち出された。
(速い!)
カケルは、咄嗟にブースターを吹かし、空中をスライドするようにして回避行動を取った。
光の槍は、カケルがいた空間を通り過ぎ、遥か上空の雲を貫いて、消えていった。
だが、ギルベルトの攻撃は、それで終わりではなかった。
「逃がさん」
彼の剣が、再び閃く。
二本、三本、四本……。
立て続けに放たれる光の槍が、空を埋め尽くし、カケルに回避の隙を与えない、完璧な弾幕を形成した。
「チッ!」
カケルは、舌打ちしながら、ブースターの性能を最大限に引き出す。
急上昇、急降下、錐揉み回転。彼の体は、まるでエースパイロットが駆る戦闘機のように、超高速で空を舞い、光の槍の雨を紙一重で躱し続ける。
その光景は、ソレイユの兵士たちにとって、信じがたいものだった。ギルベルト様の、あれほどの連続攻撃を、全て避けきるだと……?
「……なるほど。その飛翔能力、実に厄介だ」
ギルベルトは、一旦攻撃の手を止め、冷静に分析する。
「だが、空にいる限り、貴様の攻撃手段は限られる。所詮は、逃げ回ることしかできん、空飛ぶ的だ」
ギルベルトの言う通りだった。カケルは、今のところ、回避に専念するしかない。キャタピラによる体当たりも、地上にいなければ使えない。右腕のバイブロ・ブレードも、この距離では届かない。
(……このままじゃ、ジリ貧だ)
カケルは、攻勢に転じるための活路を探った。
(奴を、地上から引き剥がすか? いや、無理だ。奴の狙いは、あくまで俺一人。俺が空にいる限り、奴は動かん。ならば……!)
答えは、一つしかない。
地上に降り、接近戦に持ち込む。
だが、それはあまりに危険な賭けだった。地上に降りた瞬間、カケルはギルベルトの剣の間合いに入ることを意味する。そして、空を飛ぶアドバンテージを、自ら捨てることになる。
「……やるしか、ねえか」
カケルは、覚悟を決めた。
彼は、ブースターの推力を逆噴射させ、急ブレーキをかけると、一直線に、ギルベルトのいる地上目指して、突っ込んできた。
それは、まるで自爆攻撃を仕掛ける、隕石のようだった。
「ほう……愚かな。自ら、死地へ飛び込んでくるとは」
ギルベルトは、迫り来るカケルを、冷静に見据えていた。彼の周りの大地が、魔力に呼応して、わずかに隆起し始める。
カケルは、地上に激突する寸前、ブースターを最大噴射させ、着地の衝撃を殺した。
ガシャアアン!
キャタピラが、地響きを立てて、大地を踏みしめる。
カケルとギルベルトの距離は、わずか二十メートル。
互いの表情が、はっきりと見える距離だった。
「ようやく、降りてきたか。鉄の鳥よ」
「お喋りは、もう終わりだ」
カケルは、右腕のバイブロ・ブレードを展開した。ブーン、という高周波の振動音が、戦場の空気を震わせる。
彼は、キャタピラを駆動させ、ギルベルトに向かって突進した。
「死ねえええ!」
ブレードが、ギルベルトの心臓を狙って、真っ直ぐに突き出される。
ギルベルトは、動かなかった。
ただ、その身に纏う魔力を、さらに高める。
「無駄だ」
彼の剣が、カケルのブレードを迎え撃った。
キィィィィィン!
凄まじい金属音と、火花。
カケルの全力の突きは、ギルベルトの剣によって、いともたやすく受け止められていた。
「なっ!?」
カケルは、信じられないものを見る目で、自分のブレードを見つめた。刃が、ギルベルトの剣に、まるで吸い付くように止められている。
「言ったはずだ。無駄だと」
ギルベルトの剣には、聖なる魔力が、分厚いオーラとなって纏わりついている。それが、バイブロ・ブレードの振動を完全に殺し、その切れ味を無効化していたのだ。
「貴様のその鉄の爪が、魔獣や並の騎士には通用したのだろう。だが、この私には、届かん」
ギルベルトは、カケルのブレードを弾き返すと、流れるような動きで反撃に転じた。
その剣閃は、速く、鋭く、そして、あまりに美しい。
カケルは、咄嗟に後退し、キャタピラで距離を取ろうとする。
だが、ギルベルトの速度は、それを上回っていた。
シュンッ!
剣が、空気を切り裂く。
カケルは、左腕を盾にして、その一撃を受け止めた。
ガキン!
硬質な音が響く。カケルの対魔法障壁が、剣に宿る魔力を減衰させる。
だが。
ズブリ、と。
ギルベルトの剣は、障壁を貫通し、その下の黒鉄装甲を、バターのように切り裂いた。
「ぐ……うっ!」
カケルの左腕に、初めて、深い傷が刻まれた。激痛が、彼の全身を駆け巡る。
「……ほう。この剣を受けて、腕が落ちんか。その装甲、確かに硬いな」
ギルベルトは、少しだけ感心したように言った。
「だが、何度でも斬るまでだ」
彼の剣が、再び閃く。
カケルは、必死に防御するが、一撃、また一撃と、その黒鉄の体に、深い傷が刻まれていく。胸に、肩に、キャタピラの装甲に。
対魔法障壁は、確かに機能している。でなければ、今頃、彼の体は両断されていただろう。
だが、ギルベルトの剣技と、その剣に込められた純粋なまでの物理的な力は、障壁の防御力を、わずかに上回っていた。
(……クソが! 速すぎる……! 重すぎる……!)
カケルは、焦りを覚えていた。これが、王国最強。平原で戦った騎士たちとは、次元が違う。
「終わりだ、禁忌の者よ」
ギルベルトは、カケルの動きが鈍ったのを見逃さなかった。
彼は、大きく踏み込み、渾身の一撃を、カケルの胴体めがけて、薙ぎ払った。
それは、回避不能の、必殺の一撃。
カケルは、死を覚悟した。
だが、その瞬間。
彼の背中のブースターが、彼の意志とは関係なく、自動的に、最大出力で噴射された。
緊急回避システム。カケルが、万が一のために、無意識の領域にプログラムしておいた、最後の安全装置だった。
ゴオオオッ!
カケルの体は、後ろ向きに、凄まじい勢いで吹き飛ばされた。
ギルベルトの剣は、カケルの体を掠め、その胸部装甲を、大きく、深く、抉り取った。
「ぐあああああっ!」
カケルは、吹き飛ばされながら、絶叫した。胸の傷から、火花と、赤い液体――冷却液か、あるいは彼の血か――が、飛び散る。
彼は、なすすべもなく、後方の、ガルダ軍の陣地へと墜落していった。
轟音と共に、地面に叩きつけられ、巨大なクレーターを作る。
「カケル!」
ティリアの悲痛な叫び声が、戦場に響き渡った。
カケルの体は、黒煙を上げ、ぴくりとも動かない。
ギルベルトは、剣を振るい、付着した液体を払うと、静かに、その無残な姿を見下ろした。
「……ふん。所詮は、鉄のガラクタか」
彼は、カケルに、それ以上の興味を示さなかった。
彼にとって、勝負は、もう決したのだ。
カケルは、初めて、完膚なきまでに、敗れた。
その事実は、彼の心と体に、消えることのない、深い傷跡を刻みつけた。
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