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第四十八話 帰還、そして王国の凶兆
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無限の動力を手に入れたカケルの帰還は、あまりに静かだった。
彼は、リゼットたちを驚かせないように、アストリアから少し離れた森の中に着地すると、そこから、徒歩で城へと向かった。
彼の右腕があるべき場所に、美しい銀髪の人形が、まるで彼の影のように寄り添って歩く。その光景は、異様でありながら、どこか神話の一場面のような、不思議な調和を保っていた。
城の工房で、リゼットは、三人の帰りを、祈るような気持ちで待っていた。
扉が開き、カケルたちが姿を現した時、彼女は、安堵のあまり、その場にへたり込みそうになった。
「カケル殿……! ティリア……! ご無事で……!」
彼女は、カケルの、その新たな姿を見て、息を呑んだ。
右腕の位置に立つ、銀髪の人形。そして、カケル自身から放たれる、以前とは比較にならない、穏やかで、しかし、底知れない、圧倒的なエネルギー。
「……貴方は……また……」
「ああ。少し、バージョンアップしてきた」
カケルは、そう言って、悪戯っぽく笑った。その表情は、人間味に溢れ、リゼットの不安を、少しだけ、和らげてくれた。
ナナが、ガーディアン・コロッサスとの戦闘の顛末と、カケルの新たな力について、リゼットに、簡潔に報告した。
無限のエネルギーを生み出す、永久機関。
それを、ナナ自身を制御ユニットとして、外部接続したという、驚くべき事実。
リゼットは、もはや、驚くことにも、疲れてしまったようだった。この男は、常に、自分の想像と、常識の、遥か彼方を行く。
「……そうですか。ともかく、ご無事で、何よりです」
彼女は、心の底から、そう言った。
「それで、何か、分かったのですか? 世界の秘密について」
「ああ、少しな」
カケルは、ナナが得た、サンクチュアリのデータベースからの情報を、リゼットに共有した。
創造主の存在。魔法という名の『システム』。そして、彼らが、これから、世界のシステムそのものを、敵に回すことになるかもしれない、という、過酷な未来。
リゼットは、その、あまりに壮大な物語を、黙って聞いていた。
そして、全てを聞き終えた時、彼女の瞳には、恐怖ではなく、一人の君主としての、強い決意が宿っていた。
「……ならば、我々のやるべきことは、一つです」
彼女は、立ち上がった。
「カケル殿。貴方という『管理者』が、この世界のシステムを、より良いものへと『再構築(リビルド)』する、その時まで、私は、貴方を、この国を、全力で、守り抜きます。それが、旧い世界の『番人』であるソレイユに対する、我々の、新しい世界の『抵抗』です」
その言葉は、ガルダ公国の、新たな国是が、定まった瞬間だった。
だが、彼らが、未来への決意を固めていた、その裏で。
ソレイユ魔法王国は、次なる、そして、最も恐ろしい『凶兆』を、解き放とうとしていた。
ソレイユ王国の、王城の、最深部。
そこは、王族と、ごく一部の最高位の魔導士しか、立ち入ることのできない、禁断の祭壇だった。
中央には、黒曜石で作られた、巨大な石舞台。その表面には、血のように赤い、禍々しい魔法陣が、刻まれている。
国王は、その魔法陣の前に立ち、震える手で、一冊の、古文書を広げていた。
その古文書には、決して、表に出ることのない、禁忌の古代魔法の、全てが記されている。
ギルベルトが使った、魂を代償にする、黒き騎士への変貌。それすらも、この古文書に記された、数多の禁術の、ほんの序章に過ぎなかった。
「……もはや、これしか、ない……」
国王は、うわ言のように、呟いた。
ギルベルトの死後、彼は、世界の『システム』――管理AIから、最後通告を受けていたのだ。
『番人としての、役目を、果たせ。もし、できぬのなら、その資格を、剥奪する』
資格の剥奪。それは、ソレイユ王家が、代々、享受してきた、魔法の恩恵を、全て、失うことを意味する。それは、彼らにとって、死よりも、屈辱的な結末だった。
「我々は、神に見捨てられては、ならんのだ……!」
国王は、側近の魔導大臣たちに、命じた。
「……『儀式』を、始めるぞ」
「へ、陛下! お待ちください! 『アレ』を、呼び出してしまえば、この世界そのものが……!」
「黙れ!」
国王は、狂気に満ちた目で、一喝した。
「『バグ』を、削除するためなら、多少、プログラムが、破損しようとも、構わん! システムが、それを、望んでいるのだ!」
彼は、古文書の、最後の一ページを、開いた。
そこに描かれていたのは、おぞましい、異形の、怪物の姿。
そして、その怪物を、この世に、召喚するための、禁断の、儀式の術式。
『――異次元領域(アビス)より、終末の捕食者を、召喚する』
国王は、震える声で、その、呪われた、詠唱を、始めた。
魔導大臣たちも、恐怖に顔を引きつらせながら、その詠唱に、続く。
祭壇の、魔法陣が、禍々しい、血色の光を、放ち始めた。
空間が、歪む。
空気が、悲鳴を上げる。
世界の、法則が、無理やりに、こじ開けられていく。
そして、魔法陣の中央に、漆黒の、闇よりも深い、『亀裂』が、生まれた。
その亀裂の向こう側から。
この世界の、どんな生物とも違う、冒涜的な、気配が、溢れ出してくる。
それは、混沌。それは、終焉。
創造主たちが、最も、恐れた、システムの、完全な『崩壊』を、もたらす、存在。
ソレイユ王国は、自らの手で、パンドラの箱を、開けてしまったのだ。
その、異常な、エネルギーの発生を、アストリアの工房にいた、ナナが、即座に、感知した。
彼女の、青い瞳が、激しく、明滅する。
『……警告。警告。……ソレイユ王都の地下より、測定不能な、高次元エネルギー反応を、検知』
「なんだと!?」
カケルは、ナナの、ただならぬ様子に、身構えた。
『……これは……! 空間の、位相が、強制的に、転移させられています! ……世界の『壁』に、穴が、開けられている……!』
ナナの、合成音声に、初めて、明確な『焦り』が、混じった。
『……来ます! ……この世界の、理の外側から、何かが……!』
その言葉と、同時だった。
アストリアの、穏やかだった空が、突如、血のような、赤黒い色に、染まった。
大地が、激しく、揺れる。
城壁の外から、民衆の、絶叫が、響き渡った。
カケル、リゼット、ティリアは、慌てて、窓の外を見た。
そして、彼らは、言葉を失った。
アストリアの、街の、あちこちで。
空間そのものが、裂け、そこから、異形の、怪物たちが、まるで、悪夢が具現化したかのように、次々と、溢れ出してきていたのだ。
体は、粘液質の、不定形。
無数の、触手と、目が、蠢いている。
その姿は、見る者の、正気度を、根こそぎ、奪い去る、冒涜的な、デザイン。
「……なんだ……あれは……」
ティリアが、震える声で、呟いた。
『……システムの、バグ……。いや、それ以上の……。世界の『理』が、崩壊を始めたことによって、生まれた、『歪み』そのものです』
ナナが、絶望的な、声で、告げた。
異形の怪物たちは、手当たり次第に、建物や、人々を、襲い始めた。
ガルダの兵士たちが、応戦するが、彼らの剣も、矢も、怪物の、不定形の体には、ほとんど、効果がない。
阿鼻叫喚の、地獄絵図。
これが、ソレイユ王国が、解き放った、最後の、切り札。
自らの、秩序を守るため、世界そのものを、道連れにする、狂気の、一手。
「……野郎……!」
カケルは、歯を食いしばり、その瞳に、燃えるような、怒りの炎を、宿した。
「……やりやがったな、ソレイユ……!」
彼は、振り返り、リゼットと、ティリアに、告げた。
「……リゼット! 兵を指揮して、民の避難を! 一人でも、多くの命を、守れ!」
「ティリア! ナナ! お前たちは、俺と、一緒に来い! あの、ゴミどもを、掃除するぞ!」
彼の言葉に、迷いはなかった。
絶望的な、状況。
だが、彼の中には、揺るぎない、確信があった。
俺が、いる。
俺の力が、ある。
俺が、この世界を、この理不尽を、『再構築(リビルド)』するんだ。
「行くぞ!」
カケルの背中から、無限のエネルギーを秘めた、光の翼が、広がった。
それは、重力制御フィールドが、可視化したものだった。
鋼鉄の救世主は、今、混沌の空へと、舞い上がる。
世界の、終わりを、告げる、凶兆に、立ち向かうために。
彼の、本当の戦いが、今、まさに、始まろうとしていた。
彼は、リゼットたちを驚かせないように、アストリアから少し離れた森の中に着地すると、そこから、徒歩で城へと向かった。
彼の右腕があるべき場所に、美しい銀髪の人形が、まるで彼の影のように寄り添って歩く。その光景は、異様でありながら、どこか神話の一場面のような、不思議な調和を保っていた。
城の工房で、リゼットは、三人の帰りを、祈るような気持ちで待っていた。
扉が開き、カケルたちが姿を現した時、彼女は、安堵のあまり、その場にへたり込みそうになった。
「カケル殿……! ティリア……! ご無事で……!」
彼女は、カケルの、その新たな姿を見て、息を呑んだ。
右腕の位置に立つ、銀髪の人形。そして、カケル自身から放たれる、以前とは比較にならない、穏やかで、しかし、底知れない、圧倒的なエネルギー。
「……貴方は……また……」
「ああ。少し、バージョンアップしてきた」
カケルは、そう言って、悪戯っぽく笑った。その表情は、人間味に溢れ、リゼットの不安を、少しだけ、和らげてくれた。
ナナが、ガーディアン・コロッサスとの戦闘の顛末と、カケルの新たな力について、リゼットに、簡潔に報告した。
無限のエネルギーを生み出す、永久機関。
それを、ナナ自身を制御ユニットとして、外部接続したという、驚くべき事実。
リゼットは、もはや、驚くことにも、疲れてしまったようだった。この男は、常に、自分の想像と、常識の、遥か彼方を行く。
「……そうですか。ともかく、ご無事で、何よりです」
彼女は、心の底から、そう言った。
「それで、何か、分かったのですか? 世界の秘密について」
「ああ、少しな」
カケルは、ナナが得た、サンクチュアリのデータベースからの情報を、リゼットに共有した。
創造主の存在。魔法という名の『システム』。そして、彼らが、これから、世界のシステムそのものを、敵に回すことになるかもしれない、という、過酷な未来。
リゼットは、その、あまりに壮大な物語を、黙って聞いていた。
そして、全てを聞き終えた時、彼女の瞳には、恐怖ではなく、一人の君主としての、強い決意が宿っていた。
「……ならば、我々のやるべきことは、一つです」
彼女は、立ち上がった。
「カケル殿。貴方という『管理者』が、この世界のシステムを、より良いものへと『再構築(リビルド)』する、その時まで、私は、貴方を、この国を、全力で、守り抜きます。それが、旧い世界の『番人』であるソレイユに対する、我々の、新しい世界の『抵抗』です」
その言葉は、ガルダ公国の、新たな国是が、定まった瞬間だった。
だが、彼らが、未来への決意を固めていた、その裏で。
ソレイユ魔法王国は、次なる、そして、最も恐ろしい『凶兆』を、解き放とうとしていた。
ソレイユ王国の、王城の、最深部。
そこは、王族と、ごく一部の最高位の魔導士しか、立ち入ることのできない、禁断の祭壇だった。
中央には、黒曜石で作られた、巨大な石舞台。その表面には、血のように赤い、禍々しい魔法陣が、刻まれている。
国王は、その魔法陣の前に立ち、震える手で、一冊の、古文書を広げていた。
その古文書には、決して、表に出ることのない、禁忌の古代魔法の、全てが記されている。
ギルベルトが使った、魂を代償にする、黒き騎士への変貌。それすらも、この古文書に記された、数多の禁術の、ほんの序章に過ぎなかった。
「……もはや、これしか、ない……」
国王は、うわ言のように、呟いた。
ギルベルトの死後、彼は、世界の『システム』――管理AIから、最後通告を受けていたのだ。
『番人としての、役目を、果たせ。もし、できぬのなら、その資格を、剥奪する』
資格の剥奪。それは、ソレイユ王家が、代々、享受してきた、魔法の恩恵を、全て、失うことを意味する。それは、彼らにとって、死よりも、屈辱的な結末だった。
「我々は、神に見捨てられては、ならんのだ……!」
国王は、側近の魔導大臣たちに、命じた。
「……『儀式』を、始めるぞ」
「へ、陛下! お待ちください! 『アレ』を、呼び出してしまえば、この世界そのものが……!」
「黙れ!」
国王は、狂気に満ちた目で、一喝した。
「『バグ』を、削除するためなら、多少、プログラムが、破損しようとも、構わん! システムが、それを、望んでいるのだ!」
彼は、古文書の、最後の一ページを、開いた。
そこに描かれていたのは、おぞましい、異形の、怪物の姿。
そして、その怪物を、この世に、召喚するための、禁断の、儀式の術式。
『――異次元領域(アビス)より、終末の捕食者を、召喚する』
国王は、震える声で、その、呪われた、詠唱を、始めた。
魔導大臣たちも、恐怖に顔を引きつらせながら、その詠唱に、続く。
祭壇の、魔法陣が、禍々しい、血色の光を、放ち始めた。
空間が、歪む。
空気が、悲鳴を上げる。
世界の、法則が、無理やりに、こじ開けられていく。
そして、魔法陣の中央に、漆黒の、闇よりも深い、『亀裂』が、生まれた。
その亀裂の向こう側から。
この世界の、どんな生物とも違う、冒涜的な、気配が、溢れ出してくる。
それは、混沌。それは、終焉。
創造主たちが、最も、恐れた、システムの、完全な『崩壊』を、もたらす、存在。
ソレイユ王国は、自らの手で、パンドラの箱を、開けてしまったのだ。
その、異常な、エネルギーの発生を、アストリアの工房にいた、ナナが、即座に、感知した。
彼女の、青い瞳が、激しく、明滅する。
『……警告。警告。……ソレイユ王都の地下より、測定不能な、高次元エネルギー反応を、検知』
「なんだと!?」
カケルは、ナナの、ただならぬ様子に、身構えた。
『……これは……! 空間の、位相が、強制的に、転移させられています! ……世界の『壁』に、穴が、開けられている……!』
ナナの、合成音声に、初めて、明確な『焦り』が、混じった。
『……来ます! ……この世界の、理の外側から、何かが……!』
その言葉と、同時だった。
アストリアの、穏やかだった空が、突如、血のような、赤黒い色に、染まった。
大地が、激しく、揺れる。
城壁の外から、民衆の、絶叫が、響き渡った。
カケル、リゼット、ティリアは、慌てて、窓の外を見た。
そして、彼らは、言葉を失った。
アストリアの、街の、あちこちで。
空間そのものが、裂け、そこから、異形の、怪物たちが、まるで、悪夢が具現化したかのように、次々と、溢れ出してきていたのだ。
体は、粘液質の、不定形。
無数の、触手と、目が、蠢いている。
その姿は、見る者の、正気度を、根こそぎ、奪い去る、冒涜的な、デザイン。
「……なんだ……あれは……」
ティリアが、震える声で、呟いた。
『……システムの、バグ……。いや、それ以上の……。世界の『理』が、崩壊を始めたことによって、生まれた、『歪み』そのものです』
ナナが、絶望的な、声で、告げた。
異形の怪物たちは、手当たり次第に、建物や、人々を、襲い始めた。
ガルダの兵士たちが、応戦するが、彼らの剣も、矢も、怪物の、不定形の体には、ほとんど、効果がない。
阿鼻叫喚の、地獄絵図。
これが、ソレイユ王国が、解き放った、最後の、切り札。
自らの、秩序を守るため、世界そのものを、道連れにする、狂気の、一手。
「……野郎……!」
カケルは、歯を食いしばり、その瞳に、燃えるような、怒りの炎を、宿した。
「……やりやがったな、ソレイユ……!」
彼は、振り返り、リゼットと、ティリアに、告げた。
「……リゼット! 兵を指揮して、民の避難を! 一人でも、多くの命を、守れ!」
「ティリア! ナナ! お前たちは、俺と、一緒に来い! あの、ゴミどもを、掃除するぞ!」
彼の言葉に、迷いはなかった。
絶望的な、状況。
だが、彼の中には、揺るぎない、確信があった。
俺が、いる。
俺の力が、ある。
俺が、この世界を、この理不尽を、『再構築(リビルド)』するんだ。
「行くぞ!」
カケルの背中から、無限のエネルギーを秘めた、光の翼が、広がった。
それは、重力制御フィールドが、可視化したものだった。
鋼鉄の救世主は、今、混沌の空へと、舞い上がる。
世界の、終わりを、告げる、凶兆に、立ち向かうために。
彼の、本当の戦いが、今、まさに、始まろうとしていた。
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