異世界転移した俺のスキルは【身体魔改造】でした ~腕をドリルに、脚はキャタピラ、脳はスパコン。 追放された機械技師は、神をも超える魔導機兵~

夏見ナイ

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第四十九話 混沌の顕現、鋼鉄の審判

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アストリアの空は、悪夢の色に染まっていた。
空間の裂け目から、無限に湧き出る、異形の怪物たち。その冒涜的な姿は、人々の心に、根源的な恐怖を植え付け、街は、阿鼻叫喚の地獄と化していた。

「怯むな! 民を守るのが、我らガルダ騎士の務めだ!」
ハインケル隊長が、必死に檄を飛ばす。兵士たちは、恐怖に震えながらも、武器を手に、怪物たちに立ち向かう。だが、彼らの攻撃は、ほとんど効果がなかった。
剣で斬りつければ、粘液質の体は、すぐに再生する。
矢を射ても、不定形の体は、確かな手応えを残さない。
それどころか、怪物たちから伸びる触手に捕らえられた兵士は、その肉体を、ドロドロに溶かされ、吸収されていく。
「ぐわあああっ!」
断末魔の悲鳴が、街のあちこちで、木霊する。
戦況は、絶望的だった。

その、混沌の空を、切り裂いて。
一つの、光が、舞い上がった。
カケルだった。
彼の背中には、重力制御フィールドが、青白い、光の翼となって、広がっている。彼の右腕の位置には、守護天使のように、ナナが寄り添い、左腕には、巨大なパイルバンカーが、その出番を、静かに待っていた。
「……これが、ソレイユの、答えか」
カケルは、眼下に広がる、地獄絵図を、冷徹な瞳で見下ろした。
怒り。悲しみ。そして、世界の理を、己の都合で、捻じ曲げた者たちへの、静かな、しかし、底なしの、殺意。
彼の、演算ユニットと化した脳が、最適解を、弾き出す。
「……ナナ。奴らの、構造データを、スキャンしろ。弱点はあるはずだ」
『了解、マスター。……スキャン開始。……解析中……』
ナナの青い瞳が、高速で、明滅を繰り返す。
「ティリア!」
カケルは、自分の重力フィールドの中に、浮かぶ、ティリアに、声をかけた。
「お前は、上空から、逃げ惑う、民の、避難経路を、確保しろ! 奴らの、注意を、引きつけ、兵士たちが、動きやすいように、援護するんだ!」
「分かったわ!」
ティリアは、力強く頷くと、弓を構え、空中で、その身を翻した。彼女の矢が、光の雨となって、地上へと降り注ぎ、怪物たちの、触手を、次々と、射抜いていく。

「……マスター。解析完了」
数秒後、ナナが、報告した。
『彼らの体は、我々の宇宙の、物理法則に、完全には、準拠していません。ですが、その中心に、一つだけ、共通の、弱点が存在します』
ナナは、カケルの視界に、一体の怪物の、透視図を、投影した。
その、不定形の体の、ちょうど、中心部分。
そこに、一つだけ、高密度の、エネルギーでできた、『核(コア)』が、存在していた。
『……あれが、彼らを、この世界に、繋ぎ止めている、アンカーです。あの核を、破壊すれば、彼らは、その存在を、維持できなくなります』
「……なるほどな。心臓を、狙え、ってことか」
カケルは、ニヤリ、と笑った。
「単純(シンプル)で、分かりやすい。……俺の、性に、合ってるぜ」
彼は、一体の、巨大な怪物に、ターゲットを定めた。その怪物は、城壁に取り付き、その分厚い壁を、溶かそうとしている。
カケルは、音もなく、その背後に、回り込んだ。
そして、彼は、重力制御の、応用技を、初めて、実戦で、試みた。
「――《グラビティ・プレス》」
カケルが、意識を集中させると、怪物の、周囲の空間が、歪んだ。
その、不定形の体全体に、内側へ向かう、強烈な、重圧が、かかる。
「ギ……シャ……アアアア……!?」
怪物は、訳が分からない、というように、苦悶の声を上げた。その、だらしなく広がっていた体が、見えない力によって、無理やり、圧縮され、球体状に、固まっていく。
そして、その中心に、赤黒く、明滅する、『核』が、はっきりと、姿を現した。
「……見えたぜ」
カケルは、左腕の、パイルバンカーを、起動させた。
ゴウン、と、無限のエネルギーを秘めた、燃焼室が、唸りを上げる。
「――審判の、時間だ」
彼は、圧縮された怪物の、核めがけて、その、星辰鋼の杭を、撃ち出した。
轟音。
杭は、怪物の体を、貫通し、その中心にある、核を、木っ端微塵に、粉砕した。
核を失った怪物は、まるで、風船が、割れるように、その姿を、保つことができず、霧散し、消滅していった。

「……いける!」
カケルは、確かな、手応えを感じた。
彼は、次々と、ターゲットを変え、アストリアの空を、縦横無尽に、舞い始めた。
重力制御で、怪物を、圧縮し、動きを封じる。
そして、剥き出しになった、核を、パイルバンカーで、確実に、破壊する。
その光景は、もはや、戦闘ではなかった。
一方的な、『害虫駆除』。
鋼鉄の審判者が、天から舞い降り、混沌の化身たちに、次々と、鉄槌を、下していく。
空から、ティリアの援護の矢が、光の雨となって降り注ぎ、彼の死角を、完璧に、カバーする。
その、神々しくも、畏怖すべき光景に、地上で、絶望していた、ガルダの民や、兵士たちは、ただ、呆然と、空を見上げていた。
「……救世主様だ……」
「鉄の救世主様が、帰ってきた……!」
彼らの心に、再び、希望の光が、灯り始める。

だが、敵も、黙って、やられてはいない。
空間の裂け目から、一体、ひときわ巨大な、怪物が、姿を現した。
それは、他の個体とは、明らかに、格が違う。
その体は、まるで、小さな、山のように、巨大で、その中心には、太陽のように、赤く輝く、巨大な核が、脈動していた。
おそらく、このエリアの、ボス個体。
『――マスター。危険です。あの個体の、エネルギー量は、他の者たちとは、比較になりません。グラビティ・プレスでも、完全に、圧縮することは、不可能です』
ナナが、警告を発する。
その言葉を、証明するように、巨大な怪物は、その、無数の触手を、一本の、巨大な、槍のように、束ねると、それを、カケルめがけて、射出してきた。
その速度は、音速を、超えていた。
「チッ!」
カケルは、咄嗟に、重力フィールドで、防御する。
だが、触手の槍は、フィールドを、強引に、こじ開け、彼の、黒鉄装甲に、深々と、突き刺さった。
「ぐ……うっ!」
激痛が、走る。
無限のエネルギーを得たとはいえ、彼の、機体そのものの、物理的な強度が、追いついていないのだ。
『機体損傷! 胸部装甲、亀裂発生!』
「分かってる!」
カケルは、触手を、引きちぎると、一旦、距離を取った。
(……どうする。奴の核は、デカすぎて、そして、硬すぎて、パイルバンカーの一撃でも、破壊できるか、どうか……)
彼の、演算ユニットが、最適解を、探し求める。
そして、彼は、一つの、結論に、達した。
それは、彼が、ギルベルトを倒した時と、同じ。
しかし、その意味合いが、全く違う、究極の、一撃。
「……ナナ。ティリア」
カケルは、二人に、通信を入れた。
「……これから、俺は、とんでもねえ、馬鹿なことを、する。だが、信じて、ついてきてくれ」
彼の声には、一片の、迷いもなかった。
彼は、巨大な怪物を、真っ直ぐに見据えると、自らの、グラビティ・コアの、出力を、リミッターを、振り切れる、限界点まで、高め始めた。
彼の、光の翼が、アストリアの空全体を、覆い尽くすほど、巨大に、広がっていく。
彼が、何をしようとしているのか。
ティリアも、ナナも、そして、地上の、リゼットも。
誰もが、固唾を呑んで、その光景を、見守っていた。
鋼鉄の救世主は、今、神をも超える、奇跡を、起こそうとしていた。
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