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第五十四話 蛇背渓谷の石舞台
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蛇背渓谷は、まさしく、大地の裂け目だった。
深く、そして、どこまでも続く、断崖絶壁。その谷底を、激しい流れの川が、轟音を立てて、流れている。
カケル、ティリア、ナナの三人は、その、渓谷の上空、数千メートルに、静止していた。
眼下には、月明かりに照らされた、壮大で、そして、荒々しい、自然の造形が、広がっている。
「……すごい……。本当に、蛇が、大地を這っているみたい……」
ティリアは、その光景に、畏敬の念を、抱いていた。
『マスターの、計算通りです』
ナナが、天体観測のデータを、カケルの視界に、投影する。
『あと、数分で、二つの月は、完全に、重なります。……月食の、始まりです』
カケルは、黙って、その時を、待った。
彼の、グラビティ・コアが、静かに、しかし、力強く、脈動している。周囲の、空間の、微細な、重力の変化を、彼の体は、敏感に、感じ取っていた。
やがて、その時は、来た。
赤みがかった、小さな月が、白く輝く、大きな月の、背後へと、完全に、隠れる。
地上に、訪れる、一瞬の、闇。
そして、次の瞬間。
月の、輪郭から、ダイヤモンドリングのような、眩い光が、溢れ出した。
その、神秘的な、光が、蛇背渓谷の、複雑な地形に、影を、落とす。
カケルの、予測通り。
巨大な、蛇の影が、まるで、生きているかのように、谷の、壁面を、駆け上り、天へと、昇っていく、巨大な、シルエットを、描き出した。
「……あれを、追うぞ」
カケルは、蛇の影の、先端を、追いかけ、ゆっくりと、降下を開始した。
影は、渓谷の、最も、深く、そして、最も、流れの激しい、一点を、指し示していた。
そこは、周囲から、完全に、孤立した、巨大な、岩の、舞台。
まさしく、古文書にあった、『石舞台』だった。
三人は、その、石舞台の上に、音もなく、着地した。
石舞台は、直径、百メートルほどの、ほぼ、完璧な、円形をしていた。
表面は、長年の、風雨に、晒されながらも、どこか、人工的な、滑らかさを、残している。
そして、その中央には。
「……これは……」
ティリアが、息を呑んだ。
そこには、巨大な、石の、サークルが、描かれていた。そして、そのサークルを、構成する、一つ一つの石には、彼女が、遺跡の門で見たものと、同じ、古代の、幾何学模様が、刻まれている。
『……古代の、転送装置(ゲート)です』
ナナが、即座に、結論付けた。
『ですが、エネルギー供給が、完全に、断たれており、現在は、機能していません』
「……だろうな。だが、古文書には、書いてあった。『道が、開かれん』、と」
カケルは、石のサークルの中央に、立った。
月食の、光が、彼の体を、そして、足元の、魔法陣を、神秘的に、照らし出す。
彼は、目を閉じ、意識を、集中させた。
自らの、体内に宿る、二つの、神の力。
グラビティ・コアと、ゼロポイント・リアクター。
その、エネルギーを、足元の、魔法陣へと、流し込むことは、できないだろうか。
彼の、演算ユニットが、可能性を、探る。
『……危険です、マスター』
ナナが、警告した。
『この転送装置は、創造主の、時代の、ものです。貴方の力と、古代のシステムが、衝突すれば、何が、起こるか、予測できません。最悪の場合、空間そのものが、崩壊する、可能性も……』
「やらなきゃ、道は、開けん」
カケルの、決意は、固かった。
彼は、ひざまずき、その、再生された、右手を、魔法陣の、中央に、置いた。
そして、自らの、無限のエネルギーの、一部を、解放した。
「――システム、強制起動(フォース・ブート)」
カケルの体から、青白い、エネルギーの奔流が、迸り、魔法陣へと、注ぎ込まれていく。
ゴゴゴゴゴ……!
数千年、沈黙していた、石舞台が、地響きを立てて、震え始めた。
魔法陣を構成する、一つ一つの石が、内側から、光を放ち、古代の紋様が、次々と、起動していく。
「カケル!」
ティリアが、叫ぶ。
カケルの体は、凄まじい、エネルギーの、フィードバックを受けて、激しく、痙攣していた。
だが、彼は、手を、離さなかった。
「……う……おおおおおっ!」
彼は、雄叫びを上げ、さらに、強大な、エネルギーを、注ぎ込む。
そして、ついに。
魔法陣の、全ての、紋様が、光を、放った、その瞬間。
石舞台の、中央の空間が、ぐにゃり、と、歪んだ。
そして、そこに、水面のように、揺らめく、光の、渦が、生まれた。
それは、別の、場所へと、繋がる、『道』。
転送ゲートが、数千年の、時を超えて、再び、その、機能を、取り戻したのだ。
同時に、カケルは、エネルギーを使い果たし、その場に、倒れ込んだ。
「カケル! しっかりして!」
ティリアが、駆け寄り、彼の体を、支える。
「……はぁ……はぁ……。大丈夫だ……。少し、疲れただけだ……」
カケルは、荒い息をつきながら、揺らめく、光の渦を、見つめた。
「……開いたな。『星の民への道』が」
「……この先に、何が、あるのかしら……」
ティリアは、不安と、期待の、入り混じった、表情で、渦を、見つめる。
「行ってみるしか、ねえだろ」
カケルは、ティリアの肩を借り、立ち上がった。
三人は、顔を見合わせ、頷くと、決意を固め、その、未知の、光の渦の中へと、足を踏み入れた。
全身が、分解され、再構築されるような、奇妙な、浮遊感。
そして、次の瞬間。
三人が、立っていたのは、全く、別の、場所だった。
そこは、星空だった。
いや、違う。
彼らは、ガラス張りのような、巨大な、通路の中に、立っていた。
そして、その、通路の、外には、漆黒の、宇宙空間と、そこに、浮かぶ、無数の、星々、そして、巨大な、二つの月が、広がっていたのだ。
「……ここは……」
ティリアは、言葉を失った。
『……衛星軌道上……。我々は、宇宙ステーションの、内部に、転送されたようです』
ナナが、冷静に、分析した。
ここは、創造主たちが、この星を、観測するために、作り上げた、巨大な、宇宙の、砦。
『星の民』とは、彼ら、創造主自身を、指す言葉だったのだ。
三人が、その、あまりに、壮大な、光景に、圧倒されている、その時。
通路の、奥から、静かな、足音が、近づいてきた。
それは、機械の、足音ではない。
生身の、人間の、足音。
やがて、闇の中から、その、人影が、姿を現した。
その人物は、カケルたちと、同じ、人間だった。
だが、その、身に纏う、雰囲気は、全く、異なっていた。
銀色の、ローブを、身に纏い、その顔は、フードで、隠されている。
だが、その、佇まいからは、何千年、いや、何万年という、悠久の時を、生きてきた、超越者の、風格が、漂っていた。
そして、その人物は、フードの、奥から、静かな、しかし、どこか、懐かしむような、声で、言った。
「――よく、ここまで、来たね。……我が、同胞にして、世界の、理を、乱す者よ」
その声は、男のものとも、女のものとも、つかない、中性的な、響きを持っていた。
そして、その人物が、フードを、ゆっくりと、外した時。
そこに、現れた、顔を見て、カケルたちは、息を呑んだ。
その顔は。
驚くほど、カケル自身の、顔に、似ていたのだ。
ただ、その瞳だけが、星々の、叡智と、悠久の、時を、宿した、深い、深い、金色に、輝いていた。
「……俺は、この、実験場の、最後の、『観測者』。……そして、君を、待っていた者だ」
謎の、人物は、そう言って、静かに、微笑んだ。
世界の、秘密の、さらに、奥深く。
カケルは、ついに、自らの、ルーツに、そして、この世界の、本当の、『創造主』に、邂逅したのだ。
深く、そして、どこまでも続く、断崖絶壁。その谷底を、激しい流れの川が、轟音を立てて、流れている。
カケル、ティリア、ナナの三人は、その、渓谷の上空、数千メートルに、静止していた。
眼下には、月明かりに照らされた、壮大で、そして、荒々しい、自然の造形が、広がっている。
「……すごい……。本当に、蛇が、大地を這っているみたい……」
ティリアは、その光景に、畏敬の念を、抱いていた。
『マスターの、計算通りです』
ナナが、天体観測のデータを、カケルの視界に、投影する。
『あと、数分で、二つの月は、完全に、重なります。……月食の、始まりです』
カケルは、黙って、その時を、待った。
彼の、グラビティ・コアが、静かに、しかし、力強く、脈動している。周囲の、空間の、微細な、重力の変化を、彼の体は、敏感に、感じ取っていた。
やがて、その時は、来た。
赤みがかった、小さな月が、白く輝く、大きな月の、背後へと、完全に、隠れる。
地上に、訪れる、一瞬の、闇。
そして、次の瞬間。
月の、輪郭から、ダイヤモンドリングのような、眩い光が、溢れ出した。
その、神秘的な、光が、蛇背渓谷の、複雑な地形に、影を、落とす。
カケルの、予測通り。
巨大な、蛇の影が、まるで、生きているかのように、谷の、壁面を、駆け上り、天へと、昇っていく、巨大な、シルエットを、描き出した。
「……あれを、追うぞ」
カケルは、蛇の影の、先端を、追いかけ、ゆっくりと、降下を開始した。
影は、渓谷の、最も、深く、そして、最も、流れの激しい、一点を、指し示していた。
そこは、周囲から、完全に、孤立した、巨大な、岩の、舞台。
まさしく、古文書にあった、『石舞台』だった。
三人は、その、石舞台の上に、音もなく、着地した。
石舞台は、直径、百メートルほどの、ほぼ、完璧な、円形をしていた。
表面は、長年の、風雨に、晒されながらも、どこか、人工的な、滑らかさを、残している。
そして、その中央には。
「……これは……」
ティリアが、息を呑んだ。
そこには、巨大な、石の、サークルが、描かれていた。そして、そのサークルを、構成する、一つ一つの石には、彼女が、遺跡の門で見たものと、同じ、古代の、幾何学模様が、刻まれている。
『……古代の、転送装置(ゲート)です』
ナナが、即座に、結論付けた。
『ですが、エネルギー供給が、完全に、断たれており、現在は、機能していません』
「……だろうな。だが、古文書には、書いてあった。『道が、開かれん』、と」
カケルは、石のサークルの中央に、立った。
月食の、光が、彼の体を、そして、足元の、魔法陣を、神秘的に、照らし出す。
彼は、目を閉じ、意識を、集中させた。
自らの、体内に宿る、二つの、神の力。
グラビティ・コアと、ゼロポイント・リアクター。
その、エネルギーを、足元の、魔法陣へと、流し込むことは、できないだろうか。
彼の、演算ユニットが、可能性を、探る。
『……危険です、マスター』
ナナが、警告した。
『この転送装置は、創造主の、時代の、ものです。貴方の力と、古代のシステムが、衝突すれば、何が、起こるか、予測できません。最悪の場合、空間そのものが、崩壊する、可能性も……』
「やらなきゃ、道は、開けん」
カケルの、決意は、固かった。
彼は、ひざまずき、その、再生された、右手を、魔法陣の、中央に、置いた。
そして、自らの、無限のエネルギーの、一部を、解放した。
「――システム、強制起動(フォース・ブート)」
カケルの体から、青白い、エネルギーの奔流が、迸り、魔法陣へと、注ぎ込まれていく。
ゴゴゴゴゴ……!
数千年、沈黙していた、石舞台が、地響きを立てて、震え始めた。
魔法陣を構成する、一つ一つの石が、内側から、光を放ち、古代の紋様が、次々と、起動していく。
「カケル!」
ティリアが、叫ぶ。
カケルの体は、凄まじい、エネルギーの、フィードバックを受けて、激しく、痙攣していた。
だが、彼は、手を、離さなかった。
「……う……おおおおおっ!」
彼は、雄叫びを上げ、さらに、強大な、エネルギーを、注ぎ込む。
そして、ついに。
魔法陣の、全ての、紋様が、光を、放った、その瞬間。
石舞台の、中央の空間が、ぐにゃり、と、歪んだ。
そして、そこに、水面のように、揺らめく、光の、渦が、生まれた。
それは、別の、場所へと、繋がる、『道』。
転送ゲートが、数千年の、時を超えて、再び、その、機能を、取り戻したのだ。
同時に、カケルは、エネルギーを使い果たし、その場に、倒れ込んだ。
「カケル! しっかりして!」
ティリアが、駆け寄り、彼の体を、支える。
「……はぁ……はぁ……。大丈夫だ……。少し、疲れただけだ……」
カケルは、荒い息をつきながら、揺らめく、光の渦を、見つめた。
「……開いたな。『星の民への道』が」
「……この先に、何が、あるのかしら……」
ティリアは、不安と、期待の、入り混じった、表情で、渦を、見つめる。
「行ってみるしか、ねえだろ」
カケルは、ティリアの肩を借り、立ち上がった。
三人は、顔を見合わせ、頷くと、決意を固め、その、未知の、光の渦の中へと、足を踏み入れた。
全身が、分解され、再構築されるような、奇妙な、浮遊感。
そして、次の瞬間。
三人が、立っていたのは、全く、別の、場所だった。
そこは、星空だった。
いや、違う。
彼らは、ガラス張りのような、巨大な、通路の中に、立っていた。
そして、その、通路の、外には、漆黒の、宇宙空間と、そこに、浮かぶ、無数の、星々、そして、巨大な、二つの月が、広がっていたのだ。
「……ここは……」
ティリアは、言葉を失った。
『……衛星軌道上……。我々は、宇宙ステーションの、内部に、転送されたようです』
ナナが、冷静に、分析した。
ここは、創造主たちが、この星を、観測するために、作り上げた、巨大な、宇宙の、砦。
『星の民』とは、彼ら、創造主自身を、指す言葉だったのだ。
三人が、その、あまりに、壮大な、光景に、圧倒されている、その時。
通路の、奥から、静かな、足音が、近づいてきた。
それは、機械の、足音ではない。
生身の、人間の、足音。
やがて、闇の中から、その、人影が、姿を現した。
その人物は、カケルたちと、同じ、人間だった。
だが、その、身に纏う、雰囲気は、全く、異なっていた。
銀色の、ローブを、身に纏い、その顔は、フードで、隠されている。
だが、その、佇まいからは、何千年、いや、何万年という、悠久の時を、生きてきた、超越者の、風格が、漂っていた。
そして、その人物は、フードの、奥から、静かな、しかし、どこか、懐かしむような、声で、言った。
「――よく、ここまで、来たね。……我が、同胞にして、世界の、理を、乱す者よ」
その声は、男のものとも、女のものとも、つかない、中性的な、響きを持っていた。
そして、その人物が、フードを、ゆっくりと、外した時。
そこに、現れた、顔を見て、カケルたちは、息を呑んだ。
その顔は。
驚くほど、カケル自身の、顔に、似ていたのだ。
ただ、その瞳だけが、星々の、叡智と、悠久の、時を、宿した、深い、深い、金色に、輝いていた。
「……俺は、この、実験場の、最後の、『観測者』。……そして、君を、待っていた者だ」
謎の、人物は、そう言って、静かに、微笑んだ。
世界の、秘密の、さらに、奥深く。
カケルは、ついに、自らの、ルーツに、そして、この世界の、本当の、『創造主』に、邂逅したのだ。
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