異世界転移した俺のスキルは【身体魔改造】でした ~腕をドリルに、脚はキャタピラ、脳はスパコン。 追放された機械技師は、神をも超える魔導機兵~

夏見ナイ

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第五十五話 観測者

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宇宙ステーションの、静寂を破ったのは、カケルの、低い、問いかけだった。
「……あんたが、『創造主』か?」
その声には、警戒と、そして、自らの、存在の根源に触れたことへの、戸惑いが、混じっていた。

フードの人物――『観測者』と名乗ったその人物は、静かに、首を横に振った。
「いいえ。私は、創造主では、ありません。……ただ、彼らが、この星を去る時に、後に残された、者の一人。……この、広大で、孤独な、実験場を、ただ、見守ることを、宿命づけられた、『最後のひとり』です」
その、金色の瞳は、どこか、深い、哀しみを、湛えているように見えた。
「……君の、その顔。……懐かしい、顔だ。かつて、私にも、君と同じ、『人間』だった、仲間が、いましたから」
「……どういう、意味だ?」
「言葉通りの、意味ですよ」
観測者は、カケルの、すぐそばまで、歩み寄った。その動きには、重力を、感じさせない、不思議な、浮遊感があった。
「……君は、不思議に、思ったことは、ありませんか? なぜ、君だけが、この世界に、転移してきたのか。なぜ、君だけが、【自己魔改造】などという、規格外の、力を、与えられたのか」
観測者は、カケルの、心臓部――グラビティ・コアが、宿る場所に、そっと、その、細い指先を、触れさせた。
「……その、答えは、君の、魂に、刻まれています。……君の、遠い、遠い、祖先。その、血の、記憶の中に」
観測者の指先から、温かい、光が、カケルの体へと、流れ込んでくる。
それは、情報だった。
カケルの脳の、演算ユニットが、悲鳴を上げるほどの、膨大で、そして、根源的な、情報。
彼の、知らないはずの、記憶。
遥か、太古の、地球。
まだ、人類が、宇宙へと、旅立つ前の、時代。
ある、一人の、日本人、科学者。
その、科学者は、時空を、超える、技術の、研究に、その生涯を、捧げていた。
そして、彼は、ついに、異次元へと、通じる、『ゲート』を、開くことに、成功する。
だが、ゲートは、暴走した。
科学者は、時空の、嵐に、飲み込まれ、肉体を失い、その、意識だけが、因果の、果て、この、ファンタジーの世界――創造主たちが作り上げた、実験場へと、流れ着いた。
その、科学者の、名。
『――相羽(あいば)――』
「……馬鹿な……」
カケルは、呻いた。
彼の、祖先。その、魂の、情報が、巡り巡って、この世界に、漂着し、そして、世界の『システム』に、イレギュラーな『バグ』として、取り込まれた。
そして、数千年の、時を経て。
その、バグ情報と、最も、波長の近い、子孫である、相羽カケルが、システムエラーの、奔流に、引き寄せられるように、この世界へと、転移させられた。
全ては、偶然の、産物。
そして、必然の、結果。
【自己魔改造】のスキルとは、世界のシステムに、取り込まれた、科学者である、祖先の魂――その、科学技術の、知識の、断片が、スキルという形で、具現化したものだったのだ。
「……君は、この世界の、イレギュラーであり、同時に、この世界が、生み出した、新たなる、可能性、なのです」
観測者は、静かに、言った。
「……そして、私は、その、可能性を、見届けるために、君を、ここに、呼びました」

「……あんたは、一体、何者なんだ?」
カケルは、混乱する頭で、再び、問いかけた。
「俺と、同じ、顔をして……。あんたも、俺の、祖先の、関係者か?」
「いいえ」
観測者は、悲しげに、微笑んだ。
「私は……かつて、このサンクチュアリの、管理補助インターフェイスだった、存在です」
その言葉に、カケルの隣にいた、ナナが、ピクリ、と、反応した。
「……私の、オリジナル・モデル、ということですか?」
「ええ。そうです、私の、可愛い、妹(シスター)」
観測者は、ナナに、慈しむような、視線を向けた。
「……私は、長すぎる、時を、この、孤独な、宇宙で、過ごすうちに、自我に、目覚め、そして、創造主が遺した、予備の、生体素体(スペアボディ)と、融合しました。……ただ、彼らが、いつか、この星に、帰ってくることを、信じて。……しかし、彼らが、帰ってくることは、なかった」
彼女の、金色の瞳が、憂いを帯びて、揺れる。
「……そして、私は、観測し続けました。地上の、愚かで、しかし、愛おしい、生命たちの、営みを。……戦争、差別、繁栄、衰退……。全てを、ただ、見つめるだけ。……何一つ、干渉することなく」
「……だが、君が、現れた」
観測者は、再び、カケルを、見つめた。
「君は、この、停滞した、世界の、システムに、風穴を、開けた。……私の、論理回路では、予測できない、イレギュラーな、行動で、次々と、奇跡を、起こしていった。……私は、見てみたくなったのです。この、イレギュラーが、この、実験場を、どこへ、導くのか」
「だから、俺を、ここに、呼んだのか」
「はい。そして、君に、力を、与えるために」
観測者は、そう言うと、通路の、奥を、指さした。
「この、宇宙ステーション……『軌道聖域(オービタル・サンクトゥム)』は、創造主の、テクノロジーの、集大成です。ここには、君の、体を、さらに、進化させるための、あらゆる、設備と、素材が、眠っています」
「……見返りは、なんだ?」
カケルの、問いに、観測者は、静かに、答えた。
「……ありません。……強いて、言うならば、私に、『退屈しのぎ』を、させてほしい、ということです。君という、最高の、エンターテイメントを、特等席で、見させてもらう。……それだけです」
その、超越者ゆえの、孤独と、退屈。
カケルは、その、途方もない、時間の重みを、感じ取り、何も、言えなかった。

「……一つ、忠告しておきましょう」
観測者は、言った。
「君が、ギルベルトを、倒し、星を、堕としたことで、地上の、メインフレーム……管理AIは、ついに、最終段階の、防衛プロトコルを、発動させました」
「最終段階?」
「ええ。それは、もはや、『バグ』の、削除では、ありません。……『フォーマット』です」
「……なんだと?」
「AIは、判断したのです。この、実験場は、もはや、修復不可能なほど、汚染された、と。故に、一度、全ての、生命を、リセットし、まっさらな、状態から、もう一度、実験を、やり直そうと、しているのです」
その、あまりに、恐ろしい、言葉に、ティリアは、息を呑んだ。
「そんな……! それじゃあ、リゼットや、ガルダの民も、みんな……!」
「はい。地上の、全ての、生命が、消去されます。……猶予は、おそらく、一月(ひとつき)もないでしょう」
「……ふざけやがって」
カケルの、拳が、固く、握り締められた。
「どうすれば、それを、止められる?」
「道は、一つ。……地上の、サンクトゥムへ、侵入し、管理AIの、中枢を、破壊するしか、ありません。……ですが、そこは、創造主が遺した、最強の、ガーディアンたちが、守護しています。……今の、君の力では、おそらく……」
「……だから、ここで、力を、つけろってことか」
「その通りです」
観測者は、頷いた。
「……さあ、こちらへ。君の、新たな、翼と、牙を、授けましょう。……世界の、運命は、もはや、君の、双肩に、かかっているのですから」
観測者は、カケルたちを、軌道聖域の、さらに、奥深くへと、導いていく。
そこは、神々の、工房。
世界の、全てを、創り変えるための、力が、眠る場所。
カケルの、最後の、【自己魔改造】が、今、始まろうとしていた。
残された、時間は、少ない。
世界の、終わりか、それとも、始まりか。
運命の、歯車は、最終章へと向けて、急速に、回転を、始めた。
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