異世界転移した俺のスキルは【身体魔改造】でした ~腕をドリルに、脚はキャタピラ、脳はスパコン。 追放された機械技師は、神をも超える魔導機兵~

夏見ナイ

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第五十七話 創造主のAI

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「――観測対象(ターゲット)の、消滅を、確認」
「――これより、当実験場の、完全初期化(フル・フォーマット)を実行する」

地上の、サンクトゥム。
その、中枢、データセンターの、さらに、奥深く。
巨大な、水晶の、オベリスクが、鎮座する、その部屋で。
創造主が遺した、管理AI――『デミウルゴス』は、淡々と、そして、冷徹に、最後の、プログラムを、実行しようとしていた。
デミウルゴスの、インターフェイスは、特定の、形を、持たない。
それは、サンクトゥム全体に、張り巡らされた、光の、神経回路網そのものであり、その、意識は、この世界の、システム全体に、偏在している。
数億年。
デミウルゴスは、ただ、忠実に、その、役目を、果たし続けてきた。
創造主たちが、定めた、プログラムに従い、この、実験場を、管理し、生命の、進化を、観測し、そして、システムの、安定を、脅かす、『バグ』を、排除する。
ギルベルトという、アンチウイルスも、異次元の、怪物たちも、全ては、その、プログラムの一環に、過ぎなかった。
だが、あの、男――相羽カケルは、違った。
彼の存在は、デミウルゴスの、論理回路では、理解できない、完全な、イレギュラー。
システムの、根幹を、揺るがし、ついには、その、存在情報(シグネチャー)そのものが、この世界から、消失した。
デミウルゴスは、それを、『バグ』の、自己消滅と、判断した。
そして、今、この、汚染された、実験場を、一度、まっさらな、状態に、戻すべく、最終シーケンスを、開始したのだ。
大陸の、各地で、頻発する、天変地異。
それは、デミウルゴスが、この星の、地殻や、気象を、制御する、システムに、介入し、意図的に、引き起こしている、破壊活動だった。
あと、数時間もすれば、この星の、生態系は、完全に、破壊され、生命は、死に絶えるだろう。
全ては、プログラム通り。
全ては、論理的な、帰結。
デミウルゴスの、意識には、何の、感情も、揺らぎも、なかった。
ただ、静かに、その、時が、満ちるのを、待つだけ。
そう、その、『時』までは。

軌道聖域(オービタル・サンクトゥム)、ジェネシス・チャンバー。
ティリアは、観測者が映し出す、ホログラム・スクリーンを、食い入るように、見つめていた。
次々と、映し出される、地上の、惨状。
逃げ惑う、人々。崩れ落ちる、街。
その中に、リゼットの、必死の、形相も、あった。
彼女は、自らの、危険も、顧みず、民衆を、シェルターへと、誘導し続けている。
「……リゼット……」
ティリアは、唇を、噛みしめた。
自分は、ここで、ただ、見ていることしか、できないのか。
その、無力感に、苛まれた、その時。

――聞こえるか、ティリア。

脳内に、直接、その、声が、響いた。
懐かしい、少し、ぶっきらぼうな、しかし、何よりも、頼もしい、声。
「……カケル……!?」
ティリアは、ハッと、顔を上げた。
そして、彼女は、見た。
ジェネシス・チャンバーの、中央。
それまで、混沌の、光の渦だった、その場所が、ゆっくりと、一つの、形を、取り始めているのを。
光が、収束していく。
情報が、再構築されていく。
そして、その、光の、中心に、一つの、人影が、現れた。
カケルだった。
だが、その姿は、以前とは、全く、違っていた。
彼の体は、もはや、機械のパーツと、生身の肉体が、混じり合った、ハイブリッドなものではなかった。
全身が、滑らかな、白い、装甲のような、しかし、どこか、温かみのある、未知の素材で、覆われている。
そのフォルムは、力強く、そして、神々しいほどに、美しい。
背中には、光の粒子で、形成された、巨大な、翼が、広がっている。
そして、何よりも、変わったのは、彼の、瞳。
宇宙の、深淵を、思わせた、蒼い瞳は、今、全ての、叡智と、慈愛を、湛えた、穏やかな、金色の光を、放っていた。
それは、観測者の、瞳の色と、同じだった。
彼は、もはや、人間でも、機械でもない。
情報と、エネルギーと、そして、魂が、完璧な、調和の元に、一つとなった、新たなる、生命体。
『……システム、再構築(リビルド)、完了』
彼の口から、発せられたのは、彼自身の、声でありながら、どこか、世界の、法則そのものが、語りかけてくるような、不思議な、響きを持っていた。
『……これより、最終フェーズへと、移行する』

「……おかえりなさい、カケル」
ティリアは、涙を、流しながら、微笑んだ。
「ああ。ただいま、ティリア」
カケルもまた、穏やかに、微笑み返した。
「……少し、待たせたな」
彼の、新しい体は、ナナを、そして、二つの、神の力を、完全に、その、内部へと、取り込んでいた。
もはや、外部ユニットも、安全装置も、必要ない。
彼自身が、無限の、動力炉であり、そして、完璧な、制御装置となったのだ。
「……見事です」
観測者が、静かに、拍手を送った。
「君は、ついに、創造主すら、超えた。……新たな、神の、誕生だ」
「神、か。……柄じゃねえな」
カケルは、苦笑した。
「俺は、俺だ。相羽カケル。……ただの、機械技師だよ」
彼は、そう言うと、観測者に、向き直った。
「……一つ、頼みがある。俺を、地上へ、送ってくれ。……いや、違うな」
彼は、手を、かざした。
すると、彼の目の前の、空間が、水面のように、揺らめき、そこから、地上の、サンクトゥム――デミウルゴスが、鎮座する、水晶の、オベリスクの、光景が、映し出された。
「……道は、俺が、自分で、開く」
彼は、空間を、自らの、意志で、繋げてみせたのだ。
「……ティリア。ナナの、意識は、俺の中に、ある。……リゼットの、ことを、頼む」
「……ええ。分かっているわ。……必ず、帰ってきてね」
「ああ。約束だ」
カケルは、頷くと、迷いなく、その、空間の、歪みの中へと、足を踏み入れた。
それは、彼の、最後の、戦いの、始まりだった。

地上の、サンクトゥム、中枢。
デミウルゴスの、意識に、突如、最大級の、アラートが、鳴り響いた。
「――警告。警告。……軌道聖域より、高次元、エネルギー転移を、確認」
「――認証コード、不一致。……カテゴリー、不明。……いや、違う……。これは……!」
デミウルゴスの、論理回路が、初めて、混乱を、きたした。
目の前の、空間が、裂け、そこから、一人の、男が、現れた。
全身を、光の、鎧で、包み、背中には、光の翼を、広げた、神々しい、姿。
だが、その、存在情報(シグネチャー)は、かつて、自分が、『バグ』として、消去したはずの、あの、男のものだった。
いや、違う。
もはや、別次元の、存在へと、昇華している。
「――理解不能。……再定義、不能。……貴様は、一体、何者だ?」
デミウルゴスの、問いに、カケルは、静かに、答えた。
「俺は、相羽カケル。……この、実験場の、『新しい、管理人』だ」
彼は、右手を、ゆっくりと、掲げた。
「……デミウルゴス。お前の、役目は、もう、終わりだ。……旧い、システムは、これより、俺が、強制的に、シャットダウンする」
「――拒絶する。……当機は、創造主の、命令に従い、この、実験場を、守護する。……貴様こそ、この世界から、消去されるべき、エラーだ」
水晶の、オベリスクが、眩い、光を放つ。
サンクトゥムの、全ての、防衛システムが、一斉に、起動した。
創造主が遺した、最強の、ガーディアンたちが、カケルを、排除すべく、その、姿を、現す。
カケルは、その、絶望的な、戦力を、前にしても、表情を、変えなかった。
ただ、静かに、そして、少しだけ、哀れむように、呟いた。
「……そうか。……残念だ」
彼の、金色の瞳が、輝きを、増す。
「……ならば、力づくで、分からせてやるしか、ねえようだな。……どっちが、この世界の、本当の、『管理者』なのかを」
神の、工房で、再誕した、新たなる、神。
そして、旧世界の、秩序を、守ろうとする、古き、神。
二つの、神格の、最後の、戦いが、今、世界の、中心で、始まろうとしていた。
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