5 / 75
第5話:初めての古代魔法【ライトニング・ランス】
しおりを挟む
粉塵がゆっくりと舞い落ち、穿たれた壁の穴から差し込む遺跡内部の淀んだ空気が、わずかに外の新鮮な空気と混じり合おうとしている。リオ・アシュトンは、自身の右手にまだ微かに残る紫電の痺れを感じながら、目の前の光景に立ち尽くしていた。
厚さ1メートルはあろうかという堅牢な石の壁が、まるで爆薬でも仕掛けられたかのように無残に砕け散っている。その中心には、彼が放った古代魔法【ライトニング・ランス】――雷の槍――が穿った、巨大な穴が黒々と口を開けていた。
「……これが、【ライトニング・ランス】の威力……」
呟いた声は、自分でも驚くほどにかすれていた。石碑の解読から発動に至るまで、興奮と集中でほとんど意識していなかったが、今になってどっと疲労感が押し寄せてくる。体内のマナが、ごっそりと持っていかれた感覚。立っているのがやっとで、膝がわずかに震えている。宮廷で使っていた初級・中級魔法とは、消費する魔力量の桁が違う。
(もし、あの槍が狙いを外れていたら……あるいは、暴発でもしていたら……)
ぞっとするような考えが頭をよぎる。古代魔法は、現代魔法よりも遥かに強力であると同時に、それだけ制御が難しく、危険を伴うものなのかもしれない。石碑の記述を読み解き、「真言」を唱えれば発動できる。それは事実だった。しかし、その力を完全に理解し、意のままに操るには、まだまだ経験と修練が必要だろう。
「少し、冷静にならないとな……」
リオは深呼吸をして、高ぶった気持ちを落ち着けようと努めた。古代魔法を発見し、その一端に触れることができたのは大きな前進だ。だが、ここで浮かれていては、いずれ大きな失敗を招くかもしれない。
彼は、破壊した壁の穴に近づき、その向こう側を覗き込んだ。【ライト】の光を向けると、そこには先ほどまでいた広間と同じような石造りの通路が続いているのが見えた。もしかしたら、この遺跡のさらに深部へと繋がる道なのかもしれない。しかし、今の疲労困憊の状態で、未知の領域に足を踏み入れるのはあまりにも危険だ。
(まずは、体力を回復させて、もう少し情報を集めよう)
リオは広間に戻り、比較的平らな壁際を選んで腰を下ろした。鞄から残り少ない干し肉を取り出し、ゆっくりと噛みしめる。水筒の水で喉を潤し、しばし休息を取ることにした。
目を閉じると、先ほどの【ライトニング・ランス】の感覚が蘇る。言葉が力となり、イメージが現実を穿つ。それは、これまでの魔法とは全く異なる、根源的でダイナミックな体験だった。
(あの感覚……【言語魔法】は、ただ言葉を理解するだけじゃない。言葉に込められた『意味』と『力』そのものにアクセスする鍵なんだ……)
石碑に刻まれていた「真言」「詠唱」「意図」といった言葉の意味が、体験を通じて腑に落ちていく。古代の魔術師たちは、言葉の一つ一つが持つ深遠な力を理解し、それを精密に組み合わせることで、世界の理に直接干渉していたのかもしれない。
(だとしたら、【ライトニング・ランス】のような強力な攻撃魔法だけじゃないはずだ。もっと基本的で、実用的な古代魔法も存在するはず……)
休息を取りながら、リオは再び広間を見渡した。中央の祭壇、そしてそれを取り囲むように林立する巨大な石碑。壁一面に描かれたレリーフ。この空間全体が、古代の知識を伝えるための巨大な書庫のようなものなのだ。
体力がいくらか回復したのを感じ、リオは再び立ち上がった。今度は、攻撃魔法以外の記述を探してみよう。彼は、【ライト】の魔法をより明るく輝かせながら、まだ詳しく調べていなかった石碑へと歩み寄った。
先ほど【ライトニング・ランス】の記述を見つけた石碑とは別のものだ。こちらの石碑には、より細かな図形や、生活用具のようなものの絵が多く描かれているように見えた。リオは再び【言語魔法】を発動させ、意識を集中させる。今度は、先ほどのような激しい魔力消費は避けたい。より繊細に、効率よく情報を読み取ることを意識する。
『……光(ヒカリ)……闇(ヤミ)を……払う……球(タマ)……』
『……ルミナ……スフィア……永続……』
(これは……光源魔法か?)
現代魔法にも【ライト】や【コンティニュアル・ライト】といった光源魔法は存在する。しかし、石碑の記述によると、この【ルミナ・スフィア】という古代魔法は、より少ない魔力で、より明るく、そして遥かに長い時間光り続けるという。まるで小さな太陽を作り出すかのような記述だ。
「試してみよう。【ルミナ・スフィア】……真言は……これか」
リオは石碑に記された短い「真言」を口にした。
「**――ルミナス・フォルマ!**」
すると、彼の掌の上に、柔らかな光を放つ球体がふわりと浮かび上がった。大きさは拳ほど。【ライト】の魔法が生み出す光が、どちらかと言えば白く鋭いのに対し、こちらは暖かみのある黄金色の光だ。そして、その明るさは【ライト】の数倍はあり、広間全体を以前よりもずっと明るく照らし出した。魔力の消費も、確かに【ライト】よりも少ないように感じられる。
「すごい……! これなら、松明も【ライト】も必要ないくらいだ」
リオは感嘆の声を上げた。【ルミナ・スフィア】は彼の周りをふわりと漂い、安定した光を放ち続けている。これで、遺跡内の探索はずっと楽になるだろう。
気を良くしたリオは、さらに別の記述を探した。今度は、何かを修復したり、組み立てたりするような魔法はないだろうか。宮廷にいた頃、壊れた魔法道具の修復などを手伝わされることがあったが、それは非常に手間のかかる作業だった。もし古代魔法で簡単にできれば、非常に役立つはずだ。
注意深く石碑を読み解いていくと、それらしき記述が見つかった。
『……欠片(カケラ)……繋ぎ……元(モト)へ……』
『……リペア……フラグメント……一時……結合……』
どうやら、完全に元通りにするのではなく、壊れたものを一時的に繋ぎ合わせる、応急処置のような魔法らしい。【ライトニング・ランス】で破壊した壁の破片で試してみることにした。
リオは、床に散らばっていた壁の破片の中から、手頃な大きさのものを二つ拾い上げた。そして、石碑に記された「真言」を唱える。
「**――コネクト・リート!**」
言葉と共に、リオの手から淡い光が放たれ、二つの破片を包み込む。すると、まるで磁石が引き合うように、破片がゆっくりと動き出し、ぴったりと元の割れ目で合わさった。接合部分がかすかに光り、そのまま固定される。
リオが手を離しても、破片は離れることなく繋がったままだった。力を込めて引っ張ってみると、ある程度の強度で結合されているのが分かる。しかし、石碑の記述通り、これはあくまで一時的なものだろう。強い衝撃を与えれば、また簡単に割れてしまいそうだ。
「完全な修復ではないけど……これも便利だな。道具の応急修理とかに使えそうだ」
【ルミナ・スフィア】と【リペア・フラグメント】。二つの実用的な古代魔法を習得できたことで、リオの自信はさらに深まった。同時に、古代魔法の多様性と奥深さを改めて実感する。【言語魔法】があれば、この遺跡に眠る知識を、自分の力として吸収していくことができるのだ。
しかし、とリオは考える。この遺跡はあまりにも広大で、謎が多すぎる。石碑に刻まれた情報だけでも、全てを解読するには途方もない時間がかかるだろう。壁画に描かれた異様な崇拝対象、レリーフに記された「禁断」や「災厄」といった言葉の意味……。それらを解き明かすには、もっと多くの知識と、そして時間が必要だ。
(それに、食料も尽きかけている。魔力も、まだ完全に回復したわけじゃない)
このまま遺跡の探索を続けるのは、賢明ではないだろう。今は一度外に出て、体勢を立て直すべきだ。幸い、【言語魔法】のおかげで、いくつかの強力で便利な古代魔法を身につけることができた。これなら、辺境での生活も、少しは楽になるかもしれない。
「よし、決めた。まずは辺境の街を目指そう。情報を集めて、装備を整えて……力をつけたら、必ずまたここに戻ってくる」
リオは固く決意した。この遺跡は、彼にとって原点であり、そして目指すべき場所となったのだ。
問題は、どうやって外に出るかだ。来た道を戻るのが一番確実だろうか? それとも、【ライトニング・ランス】で破壊した壁の向こうの通路が、別の出口に繋がっている可能性は?
リオは、広間の壁に刻まれた文字を、【言語魔法】を使って注意深く読み解いていった。出口や地図に関する情報はないか、と。
『……光……導く……道……』
『……試練……超え……外へ……』
断片的な情報しか得られないが、どうやら正規の出口のようなものが存在するらしい。しかし、「試練」という言葉が気になる。罠か、あるいは守護者のようなものがいるのだろうか。
(……いや、今は安全策を取るべきだ)
リオは考えを変え、来た道を引き返すことにした。【ライトニング・ランス】で開けた穴の向こうは、いずれ十分な準備をしてから探索することにしよう。
彼は【ルミナ・スフィア】を伴って、元来た通路へと足を踏み入れた。明るい光源のおかげで、行きよりもずっと周囲の様子がよく見える。壁のレリーフや文字を改めて観察しながら、慎重に戻っていく。
やがて、重厚な石の扉が見えてきた。彼が最初に開けた入り口だ。扉は、彼が内部に入った時と同じように、半開きの状態になっていた。
扉の隙間から外の光が差し込んでいるのが見える。森の匂い、土の匂い。数時間ぶりに触れる外の世界の気配に、リオは安堵のため息をついた。
石の扉を押し開き、外に出る。燦々と降り注ぐ太陽の光が眩しく、思わず目を細めた。濃い霧はすっかり晴れ、青空が広がっている。森の木々が風に揺れ、鳥たちがさえずっている。ついさっきまでいた、静謐で時間の止まったような遺跡内部とは、全く違う世界だ。
リオは遺跡の入り口を振り返った。苔と蔦に覆われた巨大な建造物の残骸。その奥には、計り知れないほどの知識と謎が眠っている。
「必ず、戻ってくるからな」
小さく呟き、リオは遺跡に背を向けた。
追放され、失意の底にあった数日前とは違う。今の彼には、確かな力と、明確な目標があった。【言語魔法】という唯一無二の能力、そして古代魔法という失われた叡智。これらを携え、彼は新たな道を歩き出すのだ。
目指すは、辺境の街「フロンティア」。そこで冒険者として登録し、生活の基盤を築きながら、さらなる古代遺跡の情報を集める。そしていつか、自分を追放した者たちに、この力の真価を見せつけてやる――。
リオは力強く一歩を踏み出した。太陽の光を浴びて輝く彼の瞳には、不安の色はもうなかった。辺境の地で始まる、彼の本当の物語が、今、始まろうとしていた。
厚さ1メートルはあろうかという堅牢な石の壁が、まるで爆薬でも仕掛けられたかのように無残に砕け散っている。その中心には、彼が放った古代魔法【ライトニング・ランス】――雷の槍――が穿った、巨大な穴が黒々と口を開けていた。
「……これが、【ライトニング・ランス】の威力……」
呟いた声は、自分でも驚くほどにかすれていた。石碑の解読から発動に至るまで、興奮と集中でほとんど意識していなかったが、今になってどっと疲労感が押し寄せてくる。体内のマナが、ごっそりと持っていかれた感覚。立っているのがやっとで、膝がわずかに震えている。宮廷で使っていた初級・中級魔法とは、消費する魔力量の桁が違う。
(もし、あの槍が狙いを外れていたら……あるいは、暴発でもしていたら……)
ぞっとするような考えが頭をよぎる。古代魔法は、現代魔法よりも遥かに強力であると同時に、それだけ制御が難しく、危険を伴うものなのかもしれない。石碑の記述を読み解き、「真言」を唱えれば発動できる。それは事実だった。しかし、その力を完全に理解し、意のままに操るには、まだまだ経験と修練が必要だろう。
「少し、冷静にならないとな……」
リオは深呼吸をして、高ぶった気持ちを落ち着けようと努めた。古代魔法を発見し、その一端に触れることができたのは大きな前進だ。だが、ここで浮かれていては、いずれ大きな失敗を招くかもしれない。
彼は、破壊した壁の穴に近づき、その向こう側を覗き込んだ。【ライト】の光を向けると、そこには先ほどまでいた広間と同じような石造りの通路が続いているのが見えた。もしかしたら、この遺跡のさらに深部へと繋がる道なのかもしれない。しかし、今の疲労困憊の状態で、未知の領域に足を踏み入れるのはあまりにも危険だ。
(まずは、体力を回復させて、もう少し情報を集めよう)
リオは広間に戻り、比較的平らな壁際を選んで腰を下ろした。鞄から残り少ない干し肉を取り出し、ゆっくりと噛みしめる。水筒の水で喉を潤し、しばし休息を取ることにした。
目を閉じると、先ほどの【ライトニング・ランス】の感覚が蘇る。言葉が力となり、イメージが現実を穿つ。それは、これまでの魔法とは全く異なる、根源的でダイナミックな体験だった。
(あの感覚……【言語魔法】は、ただ言葉を理解するだけじゃない。言葉に込められた『意味』と『力』そのものにアクセスする鍵なんだ……)
石碑に刻まれていた「真言」「詠唱」「意図」といった言葉の意味が、体験を通じて腑に落ちていく。古代の魔術師たちは、言葉の一つ一つが持つ深遠な力を理解し、それを精密に組み合わせることで、世界の理に直接干渉していたのかもしれない。
(だとしたら、【ライトニング・ランス】のような強力な攻撃魔法だけじゃないはずだ。もっと基本的で、実用的な古代魔法も存在するはず……)
休息を取りながら、リオは再び広間を見渡した。中央の祭壇、そしてそれを取り囲むように林立する巨大な石碑。壁一面に描かれたレリーフ。この空間全体が、古代の知識を伝えるための巨大な書庫のようなものなのだ。
体力がいくらか回復したのを感じ、リオは再び立ち上がった。今度は、攻撃魔法以外の記述を探してみよう。彼は、【ライト】の魔法をより明るく輝かせながら、まだ詳しく調べていなかった石碑へと歩み寄った。
先ほど【ライトニング・ランス】の記述を見つけた石碑とは別のものだ。こちらの石碑には、より細かな図形や、生活用具のようなものの絵が多く描かれているように見えた。リオは再び【言語魔法】を発動させ、意識を集中させる。今度は、先ほどのような激しい魔力消費は避けたい。より繊細に、効率よく情報を読み取ることを意識する。
『……光(ヒカリ)……闇(ヤミ)を……払う……球(タマ)……』
『……ルミナ……スフィア……永続……』
(これは……光源魔法か?)
現代魔法にも【ライト】や【コンティニュアル・ライト】といった光源魔法は存在する。しかし、石碑の記述によると、この【ルミナ・スフィア】という古代魔法は、より少ない魔力で、より明るく、そして遥かに長い時間光り続けるという。まるで小さな太陽を作り出すかのような記述だ。
「試してみよう。【ルミナ・スフィア】……真言は……これか」
リオは石碑に記された短い「真言」を口にした。
「**――ルミナス・フォルマ!**」
すると、彼の掌の上に、柔らかな光を放つ球体がふわりと浮かび上がった。大きさは拳ほど。【ライト】の魔法が生み出す光が、どちらかと言えば白く鋭いのに対し、こちらは暖かみのある黄金色の光だ。そして、その明るさは【ライト】の数倍はあり、広間全体を以前よりもずっと明るく照らし出した。魔力の消費も、確かに【ライト】よりも少ないように感じられる。
「すごい……! これなら、松明も【ライト】も必要ないくらいだ」
リオは感嘆の声を上げた。【ルミナ・スフィア】は彼の周りをふわりと漂い、安定した光を放ち続けている。これで、遺跡内の探索はずっと楽になるだろう。
気を良くしたリオは、さらに別の記述を探した。今度は、何かを修復したり、組み立てたりするような魔法はないだろうか。宮廷にいた頃、壊れた魔法道具の修復などを手伝わされることがあったが、それは非常に手間のかかる作業だった。もし古代魔法で簡単にできれば、非常に役立つはずだ。
注意深く石碑を読み解いていくと、それらしき記述が見つかった。
『……欠片(カケラ)……繋ぎ……元(モト)へ……』
『……リペア……フラグメント……一時……結合……』
どうやら、完全に元通りにするのではなく、壊れたものを一時的に繋ぎ合わせる、応急処置のような魔法らしい。【ライトニング・ランス】で破壊した壁の破片で試してみることにした。
リオは、床に散らばっていた壁の破片の中から、手頃な大きさのものを二つ拾い上げた。そして、石碑に記された「真言」を唱える。
「**――コネクト・リート!**」
言葉と共に、リオの手から淡い光が放たれ、二つの破片を包み込む。すると、まるで磁石が引き合うように、破片がゆっくりと動き出し、ぴったりと元の割れ目で合わさった。接合部分がかすかに光り、そのまま固定される。
リオが手を離しても、破片は離れることなく繋がったままだった。力を込めて引っ張ってみると、ある程度の強度で結合されているのが分かる。しかし、石碑の記述通り、これはあくまで一時的なものだろう。強い衝撃を与えれば、また簡単に割れてしまいそうだ。
「完全な修復ではないけど……これも便利だな。道具の応急修理とかに使えそうだ」
【ルミナ・スフィア】と【リペア・フラグメント】。二つの実用的な古代魔法を習得できたことで、リオの自信はさらに深まった。同時に、古代魔法の多様性と奥深さを改めて実感する。【言語魔法】があれば、この遺跡に眠る知識を、自分の力として吸収していくことができるのだ。
しかし、とリオは考える。この遺跡はあまりにも広大で、謎が多すぎる。石碑に刻まれた情報だけでも、全てを解読するには途方もない時間がかかるだろう。壁画に描かれた異様な崇拝対象、レリーフに記された「禁断」や「災厄」といった言葉の意味……。それらを解き明かすには、もっと多くの知識と、そして時間が必要だ。
(それに、食料も尽きかけている。魔力も、まだ完全に回復したわけじゃない)
このまま遺跡の探索を続けるのは、賢明ではないだろう。今は一度外に出て、体勢を立て直すべきだ。幸い、【言語魔法】のおかげで、いくつかの強力で便利な古代魔法を身につけることができた。これなら、辺境での生活も、少しは楽になるかもしれない。
「よし、決めた。まずは辺境の街を目指そう。情報を集めて、装備を整えて……力をつけたら、必ずまたここに戻ってくる」
リオは固く決意した。この遺跡は、彼にとって原点であり、そして目指すべき場所となったのだ。
問題は、どうやって外に出るかだ。来た道を戻るのが一番確実だろうか? それとも、【ライトニング・ランス】で破壊した壁の向こうの通路が、別の出口に繋がっている可能性は?
リオは、広間の壁に刻まれた文字を、【言語魔法】を使って注意深く読み解いていった。出口や地図に関する情報はないか、と。
『……光……導く……道……』
『……試練……超え……外へ……』
断片的な情報しか得られないが、どうやら正規の出口のようなものが存在するらしい。しかし、「試練」という言葉が気になる。罠か、あるいは守護者のようなものがいるのだろうか。
(……いや、今は安全策を取るべきだ)
リオは考えを変え、来た道を引き返すことにした。【ライトニング・ランス】で開けた穴の向こうは、いずれ十分な準備をしてから探索することにしよう。
彼は【ルミナ・スフィア】を伴って、元来た通路へと足を踏み入れた。明るい光源のおかげで、行きよりもずっと周囲の様子がよく見える。壁のレリーフや文字を改めて観察しながら、慎重に戻っていく。
やがて、重厚な石の扉が見えてきた。彼が最初に開けた入り口だ。扉は、彼が内部に入った時と同じように、半開きの状態になっていた。
扉の隙間から外の光が差し込んでいるのが見える。森の匂い、土の匂い。数時間ぶりに触れる外の世界の気配に、リオは安堵のため息をついた。
石の扉を押し開き、外に出る。燦々と降り注ぐ太陽の光が眩しく、思わず目を細めた。濃い霧はすっかり晴れ、青空が広がっている。森の木々が風に揺れ、鳥たちがさえずっている。ついさっきまでいた、静謐で時間の止まったような遺跡内部とは、全く違う世界だ。
リオは遺跡の入り口を振り返った。苔と蔦に覆われた巨大な建造物の残骸。その奥には、計り知れないほどの知識と謎が眠っている。
「必ず、戻ってくるからな」
小さく呟き、リオは遺跡に背を向けた。
追放され、失意の底にあった数日前とは違う。今の彼には、確かな力と、明確な目標があった。【言語魔法】という唯一無二の能力、そして古代魔法という失われた叡智。これらを携え、彼は新たな道を歩き出すのだ。
目指すは、辺境の街「フロンティア」。そこで冒険者として登録し、生活の基盤を築きながら、さらなる古代遺跡の情報を集める。そしていつか、自分を追放した者たちに、この力の真価を見せつけてやる――。
リオは力強く一歩を踏み出した。太陽の光を浴びて輝く彼の瞳には、不安の色はもうなかった。辺境の地で始まる、彼の本当の物語が、今、始まろうとしていた。
37
あなたにおすすめの小説
「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。
夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。
もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。
純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく!
最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!
Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。
故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。
一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。
「もう遅い」と。
これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!
竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。
この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている
夏見ナイ
恋愛
平凡な俺、相葉祐樹が手にしたのは、ありえないはずの超名門男子校『獅子王院学園』からの合格通知。期待を胸に入学した先は、王子様みたいなイケメンだらけの夢の空間だった!
……はずが、ある夜、同室のクールな完璧王子・橘玲が女の子であるという、学園最大の秘密を知ってしまう。
なんとこの学園、俺以外、全員が“訳アリ”の男装女子だったのだ!
秘密の「共犯者」となった俺は、慣れない男装に悩む彼女たちの唯一の相談相手に。
「祐樹の前でだけは、女の子でいられる……」
クールなイケメンたちの、俺だけに見せる甘々な素顔と猛アプローチにドキドキが止まらない!
秘密だらけで糖度120%の学園ラブコメ、開幕!
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい
夏見ナイ
ファンタジー
「お荷物」――それが、Sランク勇者パーティーで雑用係をするリアムへの評価だった。戦闘能力ゼロの彼は、ある日ついに追放を宣告される。
しかし、パーティーの誰も知らなかった。彼らの持つ強力なスキルには、使用者を蝕む”代償”が存在したことを。そして、リアムの持つ唯一のスキル【代償転嫁】が、その全てを人知れず引き受けていたことを。
リアムを失い、スキルの副作用に蝕まれ崩壊していく元仲間たち。
一方、辺境で「呪われた聖女」を救ったリアムは自らの力の真価を知る。魔剣に苦しむエルフ、竜の血に怯える少女――彼は行く先々で訳ありの美少女たちを救い、彼女たちと安住の地を築いていく。
これは、心優しき”お荷物”が最強の仲間と居場所を見つけ、やがて伝説となる物語。
地味スキル? いいえ、『法則操作』です。 ~落ちこぼれ探索者が現代科学でダンジョンをハックする話~
夏見ナイ
ファンタジー
ダンジョンが出現して10年。元物理学徒の神崎譲(かんざきゆずる)は、『状態保存』『現象観測』という地味スキルしか持てず、落ちこぼれ探索者として燻っていた。ある日、パーティーに見捨てられ死に瀕した彼は、土壇場でスキルの真髄――物理法則への限定的干渉力――に覚醒する。「時間停止もエネルギー固定も可能…これは『法則操作』だ!」譲は忘れかけた科学知識を総動員し、地味スキルを最強の武器へと昇華させる。状態保存で敵の攻撃を無効化し、現象観測で弱点を精密分析、化学知識で即席兵器を生成!常識外れの科学的ダンジョン攻略で、世界の法則(ルール)すらハックする!落ちこぼれからの知"的"成り上がり譚、ここに開幕!
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる