無能と罵られ追放された落ちこぼれ魔術師、実は世界で唯一【言語魔法】を使える最強賢者だった〜古代魔法と失われた知識で成り上がり見返してやる!~

夏見ナイ

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第6話:辺境の街「フロンティア」到着

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古代遺跡を後にしてから、リオはひたすら東を目指して歩き続けた。鬱蒼とした森は依然として続いていたが、彼の足取りは以前よりもずっと確かだった。理由はいくつかある。一つは、明確な目的地「フロンティア」が定まったこと。そしてもう一つは、新たに手に入れた古代魔法の存在だ。

特に【ルミナ・スフィア】は、彼の旅を劇的に変えていた。夜になっても、暖かな黄金色の光球が彼の周囲を漂い、闇を遠ざけてくれる。松明のように煙たくなく、初級魔法の【ライト】のように頻繁に魔力を込め直す必要もない。おかげで夜間の移動も比較的安全に行えるようになり、以前よりも格段に早く距離を稼ぐことができた。

もちろん、危険がなくなったわけではない。辺境の森は、夜行性の魔物たちの領域でもある。ある夜、低い唸り声と共に、鋭い爪を持つ大型の狼のような魔物が数匹、リオの前に姿を現した。血走った目で、明らかに敵意を剥き出しにしている。

(来たか……!)

リオは咄嗟に身構えた。【ライトニング・ランス】を放てば一掃できるかもしれない。だが、遺跡での経験から、あの魔法の魔力消費の激しさは身に染みていた。ここで無闇に消耗するわけにはいかない。それに、可能なら戦闘は避けたい。

(待てよ……【言語魔法】は、言葉を理解する力だ。それは、人間や古代の言語に限らないのでは?)

ふと、そんな考えが頭をよぎった。魔物にも、彼らなりの意思疎通の方法があるはずだ。もし、【言語魔法】でその「言葉」――唸り声や仕草に込められた意図――を読み解き、そしてこちらの意図を伝えることができたなら?

危険な賭けかもしれない。だが、試してみる価値はある。リオは【言語魔法】を静かに発動させ、目の前の狼たちの唸り声や威嚇するような仕草に意識を集中させた。

『……縄張り……侵入者……排除……』
『……飢え……獲物……』
『……危険……?……未知……匂い……』

断片的ではあるが、彼らの思考が流れ込んでくる。縄張りを侵されたことへの怒り、空腹、そしてリオから発せられる魔力や、おそらくは古代遺跡で纏ったであろう古い匂いに対する警戒心。

(通じる……! ならば……!)

リオは、魔力を込めて、しかし威圧的にならないように、ゆっくりと言葉を発した。それは人間の言葉ではない。【言語魔法】を通じて感じ取った、狼たちの「言葉」の響きに近い音、そして明確な「意図」を乗せた思念波のようなものだった。

『……敵意……なし……通りすがり……求める……通過……』
『……危険……犯さない……見逃せ……』

リオの意図が伝わったのか、狼たちの唸り声がわずかに変化した。警戒心は解かれていないが、先ほどまでの剥き出しの敵意は少し和らいだように見える。彼らは互いに顔を見合わせ、鼻を鳴らしている。

『……強い……匂い……魔力……逆らう……危険……?』
『……関わらない……方が……いい……』
『……去らせる……深追い……しない……』

彼らの思考が、リオにも伝わってくる。どうやら、リオから発せられる魔力の質や、古代魔法の残り香のようなものが、彼らにとって本能的な警戒心を抱かせるものだったらしい。そして、明確な敵意がないことを確認し、無用な争いを避けることを選んだようだ。

やがて、リーダー格と思しき一際大きな狼が、低く一度唸ると、踵を返し、森の奥へと姿を消した。他の狼たちも、それに倣って次々と闇の中へ溶け込んでいく。

「……行ったか」

リオは安堵のため息をついた。冷や汗が背中を伝う。【ライトニング・ランス】を使うことなく、魔物を退けることができた。【言語魔法】の新たな可能性――魔物との対話(あるいは、それに近い意思疎通)――を発見できたのは大きな収穫だった。もっとも、すべての魔物にこれが通用するとは思えないが、無用な戦闘を避ける手段が増えたのは間違いない。

(しかし、あの狼たち……何か別のものを恐れているような気配もあったな……)

去り際に感じた、彼らの思考の断片。この森のさらに奥深くに、彼らですら恐れるような、もっと強大な「何か」が存在するのかもしれない。それは、今後の探索で注意すべき点だろう。

そんな出来事を経ながらも、リオの旅は続いた。森はようやく途切れ、視界が開けてきた。緩やかな丘陵地帯が広がり、遠くには乾燥した風が吹き抜ける荒野が見える。王都周辺の緑豊かな風景とは全く違う、厳しくも雄大な景色だ。

道も、獣道から次第に人の往来を感じさせる街道へと変わっていった。時折、武装した商人や、屈強な体つきの冒険者らしき人々とすれ違うようになる。彼らは一様にリオを値踏みするような視線で見てくるが、特に絡んでくることはなかった。辺境では、下手に他人に干渉しないのが暗黙のルールのようだった。

そして、ついに地平線の向こうに、目的地の街が見えてきた。

「あれが……フロンティア……!」

遠目にも、かなりの規模を持つ街であることが分かる。王都アークライトのような洗練された美しさはないが、荒野の中に力強く根を下ろした、生命力に満ちた街という印象だ。壁は石ではなく、太い丸太を組み合わせて作られた頑丈そうな柵で囲まれている。その上には見張り台がいくつも設けられ、兵士らしき者たちの姿が見えた。

街道を進むにつれて、街の輪郭はますますはっきりと、そして大きく見えてくる。門の前には、荷物を満載した馬車や、様々な人種の人々が列を作っていた。人間だけでなく、屈強なドワーフ、しなやかな獣人、そして数は少ないがエルフらしき姿も見える。まさに、様々な文化と種族が交差する、辺境の拠点といった雰囲気だ。

リオも列の最後尾に加わり、順番を待った。周囲の会話に耳を傾けると、やはり魔物の情報や、最近発見された遺跡の噂、あるいは高額な依頼の話などが飛び交っている。活気はあるが、どこかピリピリとした緊張感も漂っている。ここでは、自分の身は自分で守るのが当たり前なのだろう。

やがてリオの順番が来た。門を守る衛兵は、無骨な鎧に身を包み、鋭い目つきでリオを上から下までじろりと見た。

「新顔か? 目的は?」
「はい。冒険者として登録し、この街で活動したいと考えています」

リオは、追放された身の上を隠し、当たり障りのないように答えた。

「冒険者志望ね。まあ、この街に来る奴の半分はそんなもんだ。だが、甘く見るなよ。フロンティアは自由だが、同時に危険な街でもある。実力がなけりゃ、野垂れ死ぬだけだ。分かってるな?」
「はい、覚悟の上です」

衛兵は、リオの落ち着いた態度に少し意外そうな顔をしたが、それ以上は何も言わず、無言で顎をしゃくって通るように促した。

「よし、通れ。街の中での揉め事は御法度だ。問題を起こせば、即刻叩き出すからな」
「承知しました。ありがとうございます」

リオは一礼し、巨大な木製の門をくぐった。

門の内側に広がっていたのは、混沌としたエネルギーに満ちた世界だった。土埃の舞う広い通りには、露店が所狭しと並び、威勢の良い呼び込みの声が響き渡っている。鍛冶屋の金槌の音、酒場の喧騒、荷馬車の車輪の軋む音。様々な匂い――スパイス、獣の皮、汗、そして微かな血の匂い――が混じり合っている。

行き交う人々の服装も様々だ。旅人風のローブを着た者、革鎧で身を固めた戦士、怪しげな薬を売る商人、屈強な荷運び人夫。誰もが、自分の目的のために懸命に生きている、そんな力強さが感じられた。

王都の整然とした美しさとは対極にある、荒々しくも自由な雰囲気。リオは、この街の空気を深く吸い込んだ。

(ここが、フロンティア……。俺の新しい始まりの場所だ)

追放された失意は、もはや過去のものとなっていた。目の前には、無限の可能性と、乗り越えるべき困難が広がっている。古代遺跡で手に入れた力、そして【言語魔法】という唯一無二の能力。これらを武器に、彼はこの街で生きていくのだ。

まずは、冒険者ギルドを探さなければならない。そして、宿を見つけ、最低限の装備を整える。やるべきことは山積みだ。

リオは、雑踏の中に一歩を踏み出した。まだ右も左も分からない異邦人。しかし、彼の心は、新たな挑戦への期待感で満ち溢れていた。このフロンティアという街で、リオ・アシュトンの物語は、新たな章を迎えようとしていた。彼の未来が、この活気と混沌の中で、どのように形作られていくのか。それは、これからの彼自身の行動にかかっていた。
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