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第17話:覚悟と準備、交差する視線
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ゴブリン討伐――その言葉の響きは、リオにとって未知の危険と、そして自身の成長への期待を同時に感じさせるものだった。リリアナと共に研究室で古代の謎を探求する時間は充実していたが、それだけではこの厳しい辺境で生き抜くことはできない。チンピラに襲われた一件や、グレイの言葉が、彼にその現実を改めて突きつけていた。
「ゴブリン討伐の依頼、受けてみようと思います」
翌日、リオはリリアナにそう告げた。彼の瞳には、迷いではなく、確かな覚悟の色が宿っていた。
「そう……決めたのね。心配だけど、あなたが決めたことなら、私は応援するわ。それに、約束通り、私もできる限り協力するつもりよ」
リリアナは少しだけ心配そうな表情を見せながらも、力強く頷いた。
二人は冒険者ギルドへ向かい、ゴブリン討伐の依頼についてサラに詳細を確認した。依頼内容は「フロンティア東の森に出没するゴブリンの小規模な集落の掃討」。推奨ランクはF級(G級の一つ上)となっていたが、最近その活動が活発化しており、被害も出始めているため、ギルドとしても早急に対処したい案件らしかった。
「ゴブリンの数は、おそらく10~15匹程度。リーダー格のホブゴブリンがいる可能性もあります。単独でのG級冒険者には少し荷が重いかもしれませんが、リオさんなら……それに、リリアナ様が補助されるなら、なんとかなるかもしれませんね」
サラは少し不安げに説明したが、リオの決意が固いことを見て取ると、依頼書と、ゴブリンの目撃情報が記された地図を手渡した。報酬は銀貨5枚。危険度に見合った、それなりの額だ。
「ありがとうございます。必ず、達成してきます」
リオは依頼書を受け取り、気を引き締めた。初めての本格的な魔物討伐。失敗は許されない。
「まずは準備ね。装備を整えましょう」
リリアナがテキパキと言った。リオはこれまでの依頼で得た報酬と貯金を合わせ、装備を新調することにした。まずは防御力。布の服だけでは心許ない。彼は鍛冶屋へ行き、動きやすさを重視したシンプルな革鎧と、腕を守るためのレザーガードを購入した。決して高級品ではないが、それでも以前よりは格段に防御力が高まるはずだ。
次に武器。リオは基本的に魔法で戦うつもりだが、万が一マナが尽きた場合や、接近戦を強いられた時のために、最低限の武器は必要だろう。彼は悩んだ末、扱いやすそうな短い杖(メイスに近い、打撃用のもの)を選んだ。剣や槍のような専門的な技術は必要なく、いざとなれば振り回すだけでも牽制にはなるだろう、と考えたからだ。
その他、回復用のポーション数本、解毒薬、野営に必要な火口やロープ、保存食なども買い揃えた。リリアナも、自身の精霊魔法の効果を高めるための触媒(特殊な石やハーブ)や、予備の魔力回復薬などを準備していた。
全ての準備を終えると、リオの財布は再び軽くなったが、彼の心は充実感で満たされていた。これで、ようやく冒険者としての最低限の格好が整った気がした。
「よし、これで準備は万端ね。出発は明日の早朝にしましょう」
「はい」
リリアナと別れ、リオは宿に戻るために街を歩いていた。夕暮れ時のフロンティアは、一日の仕事を終えた人々で賑わいを見せている。そんな中、リオはふと、見慣れた後ろ姿を酒場の前に見つけた。グレイだ。彼は誰かと話しているようだったが、相手の男たちの雰囲気は、あまり友好的なものではないように見える。
(またトラブルか……?)
リオは足を止め、様子を窺った。男たちは3人組で、傭兵風の屈強な体つきをしている。彼らはグレイを取り囲むように立ち、何やら詰問しているようだった。
「おいグレイ、とぼけるなよ。あの遺跡から持ち出した『お宝』、どこへやった?」
「さっさと吐かねえと、痛い目見ることになるぜ?」
「……何の事だか、さっぱり分からんな」
グレイはいつものように、冷たく言い放った。その態度が、男たちの怒りを買ったようだ。
「この期に及んで……! やっちまえ!」
リーダー格の男が叫ぶと、3人は同時にグレイに襲いかかった。一人は剣を抜き、残りの二人は素手だが、その動きは明らかに手慣れている。連携も取れており、前回リオが遭遇したチンピラたちとはレベルが違う。
グレイは咄嗟に身をかわし、腰のロングソードを抜いた。カン!キン!と激しい金属音が響き渡る。グレイは一人で三人を相手にしながらも、巧みな剣捌きで攻撃を受け流し、時には鋭いカウンターを繰り出している。しかし、相手の連携は巧みで、グレイも徐々に押され始めているように見えた。特に、素手の二人がグレイの動きを封じようと巧みに立ち回り、剣を持った男が決定打を狙う、という戦法は厄介そうだ。
(まずい……! このままじゃ、グレイさんが……!)
リオは迷った。介入すれば、自分も危険に晒される。相手は明らかにプロの傭兵だ。しかし、目の前でグレイが窮地に陥っているのを見過ごすことはできなかった。彼には二度も助けられている。今度は、自分が助ける番ではないのか?
(俺にできることは……!)
リオは咄嗟に動いた。【ライトニング・ランス】のような派手な攻撃魔法は使えない。だが、習得した他の魔法なら……!
リオは物陰に隠れながら、状況を観察した。剣を持った男が、グレイの隙を突いて斬りかかろうとしている。
(今だ!)
リオは集中し、男の持つ剣に向けて古代魔法を発動させた。
「【リペア・フラグメント】!」
ただし、意図は修復ではない。逆だ。剣の構造に一時的な歪みを生じさせ、脆くすることを狙った。
リオの魔法が密かに剣に作用した瞬間、グレイの剣と相手の剣が激しく打ち合った。キィン!という甲高い音と共に、傭兵の剣が、真ん中から呆気なくポッキリと折れた!
「なっ!? 俺の剣が……!?」
傭兵は信じられないものを見た、という表情で絶句している。突然の出来事に、他の二人も動きを止めた。
グレイも一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに好機と判断したのだろう。彼は体勢を立て直し、折れた剣の傭兵に鋭い蹴りを叩き込んだ。傭兵は呻き声を上げて吹き飛び、壁に叩きつけられて動かなくなる。
残るは二人。グレイは素早く次の相手に向かう。しかし、その傭兵は懐から何かを取り出し、グレイに向かって投げつけた。それは、目くらまし用の煙玉だった。
ボンッ!
白い煙が辺り一面に広がり、視界を奪う。
「くそっ!」
グレイが舌打ちする声が聞こえた。煙の中で、残りの傭兵たちが何かをしようとしている気配がする。
(煙の中でも……【言語魔法】なら!)
リオは目を閉じ、【言語魔法】で周囲の気配を探った。煙の中にいる二人の傭兵の位置、動き、そして彼らの思考の断片を捉える。
『煙に紛れて……後ろから……!』
『賢者の情報……吐かせる……!』
(賢者……? 俺のことか!? こいつら、最初からグレイさんだけじゃなく、俺も狙っていたのか!?)
おそらく、リオの「賢者」としての評判と、グレイが以前リオを助けたことから、二人が何か関係があると考え、情報を引き出そうとしたのだろう。
(させない!)
リオは煙の中の傭兵たちの位置を把握し、グレイに向けて【言語魔法】で警告を送った。
『グレイさん! 後ろ! 二人とも!』
リオの声にならない声が、グレイの意識に直接届いたのか。グレイはハッとしたように振り返り、迫っていた傭兵たちの奇襲をギリギリで回避した。
「なっ!? なぜ分かった!?」
傭兵たちが驚愕の声を上げる。視界が悪い中で、なぜ奇襲を察知できたのか理解できないのだろう。
グレイは煙の中で体勢を低くし、まるで獣のような鋭い感覚で相手の位置を探っている。そして、一瞬の隙を突き、ロングソードを閃かせた。峰打ちだが、的確に相手の急所を捉えた一撃。二人の傭兵は短い悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちた。
煙がゆっくりと晴れていく。そこには、倒れた三人の傭兵と、剣を構えたまま静かに立つグレイ、そして物陰から姿を現したリオがいた。
グレイは倒れた傭兵たちを一瞥し、それからリオの方を見た。その表情は、驚きと、困惑と、そして何かを探るような複雑な色を浮かべていた。
「……お前、今……何をした?」
グレイの声には、鋭い問いかけの響きがあった。剣が折れたこと、そして煙の中での奇襲を察知したこと。それが偶然ではないことには、彼も気づいているはずだ。
「……少し、手助けをさせていただきました」
リオは正直に答えた。もう、隠し通せるものではないだろう。
「手助け……? あの剣……それにお前の声が……頭の中に……」
グレイは眉間に深い皺を寄せ、考え込んでいる。彼の常識では理解できない現象が、立て続けに起こったのだ。
「俺の魔法は、少し特殊なんです。物や言葉だけでなく、人の思考や気配も……ある程度は感じ取ることができます」
リオは【言語魔法】の一端を説明した。古代魔法については、まだ伏せておくべきだろう。
グレイはしばらく無言でリオを見つめていた。その視線は、以前よりもさらに鋭く、リオの内面まで見透かそうとしているかのようだ。
「……お前、一体何者だ?」
低い声で、グレイが再び問うた。それは、単なる好奇心からではない。彼の経験したことのない力を持つ存在に対する、警戒心と、そして無視できない興味が入り混じった問いかけだった。
「ただの……冒険者です。あなたと同じように、この街で生きているだけの」
リオは静かに答えた。その言葉に嘘はなかった。
グレイはふん、と息を吐き、構えていた剣をゆっくりと鞘に納めた。
「……そうか」
彼はそれ以上何も言わず、倒れている傭兵たちに近づいた。懐を探り、何かを取り出す。それは、小さな羊皮紙の切れ端だった。そこには、何かの紋章のようなものが描かれている。
「こいつら……やはり、あの組織の手先か……」
グレイは苦々しげに呟き、羊皮紙を握りつぶした。彼が追われている、あるいは因縁のある組織が存在するらしい。その一端が、垣間見えた瞬間だった。
グレイは再びリオの方を向いた。
「……お前、明日、東の森へ行くと言っていたな。ゴブリン討伐だったか?」
ギルドでの会話を聞いていたのだろうか。あるいは、他の冒険者から聞いたのかもしれない。
「え、ええ……そのつもりですが……」
「……」
グレイはしばらく黙っていたが、やがて決心したように口を開いた。
「……一つ、借りができた。それに、お前のその奇妙な力にも、少し興味がある」
彼は、少しだけ躊躇うように、しかしはっきりとした口調で続けた。
「……そのゴブリン討伐、俺も同行させてもらう。足手まといになるなよ」
それは、あまりにも唐突な、そしてグレイらしくない申し出だった。リオは驚き、言葉を失った。
「ゴブリン討伐の依頼、受けてみようと思います」
翌日、リオはリリアナにそう告げた。彼の瞳には、迷いではなく、確かな覚悟の色が宿っていた。
「そう……決めたのね。心配だけど、あなたが決めたことなら、私は応援するわ。それに、約束通り、私もできる限り協力するつもりよ」
リリアナは少しだけ心配そうな表情を見せながらも、力強く頷いた。
二人は冒険者ギルドへ向かい、ゴブリン討伐の依頼についてサラに詳細を確認した。依頼内容は「フロンティア東の森に出没するゴブリンの小規模な集落の掃討」。推奨ランクはF級(G級の一つ上)となっていたが、最近その活動が活発化しており、被害も出始めているため、ギルドとしても早急に対処したい案件らしかった。
「ゴブリンの数は、おそらく10~15匹程度。リーダー格のホブゴブリンがいる可能性もあります。単独でのG級冒険者には少し荷が重いかもしれませんが、リオさんなら……それに、リリアナ様が補助されるなら、なんとかなるかもしれませんね」
サラは少し不安げに説明したが、リオの決意が固いことを見て取ると、依頼書と、ゴブリンの目撃情報が記された地図を手渡した。報酬は銀貨5枚。危険度に見合った、それなりの額だ。
「ありがとうございます。必ず、達成してきます」
リオは依頼書を受け取り、気を引き締めた。初めての本格的な魔物討伐。失敗は許されない。
「まずは準備ね。装備を整えましょう」
リリアナがテキパキと言った。リオはこれまでの依頼で得た報酬と貯金を合わせ、装備を新調することにした。まずは防御力。布の服だけでは心許ない。彼は鍛冶屋へ行き、動きやすさを重視したシンプルな革鎧と、腕を守るためのレザーガードを購入した。決して高級品ではないが、それでも以前よりは格段に防御力が高まるはずだ。
次に武器。リオは基本的に魔法で戦うつもりだが、万が一マナが尽きた場合や、接近戦を強いられた時のために、最低限の武器は必要だろう。彼は悩んだ末、扱いやすそうな短い杖(メイスに近い、打撃用のもの)を選んだ。剣や槍のような専門的な技術は必要なく、いざとなれば振り回すだけでも牽制にはなるだろう、と考えたからだ。
その他、回復用のポーション数本、解毒薬、野営に必要な火口やロープ、保存食なども買い揃えた。リリアナも、自身の精霊魔法の効果を高めるための触媒(特殊な石やハーブ)や、予備の魔力回復薬などを準備していた。
全ての準備を終えると、リオの財布は再び軽くなったが、彼の心は充実感で満たされていた。これで、ようやく冒険者としての最低限の格好が整った気がした。
「よし、これで準備は万端ね。出発は明日の早朝にしましょう」
「はい」
リリアナと別れ、リオは宿に戻るために街を歩いていた。夕暮れ時のフロンティアは、一日の仕事を終えた人々で賑わいを見せている。そんな中、リオはふと、見慣れた後ろ姿を酒場の前に見つけた。グレイだ。彼は誰かと話しているようだったが、相手の男たちの雰囲気は、あまり友好的なものではないように見える。
(またトラブルか……?)
リオは足を止め、様子を窺った。男たちは3人組で、傭兵風の屈強な体つきをしている。彼らはグレイを取り囲むように立ち、何やら詰問しているようだった。
「おいグレイ、とぼけるなよ。あの遺跡から持ち出した『お宝』、どこへやった?」
「さっさと吐かねえと、痛い目見ることになるぜ?」
「……何の事だか、さっぱり分からんな」
グレイはいつものように、冷たく言い放った。その態度が、男たちの怒りを買ったようだ。
「この期に及んで……! やっちまえ!」
リーダー格の男が叫ぶと、3人は同時にグレイに襲いかかった。一人は剣を抜き、残りの二人は素手だが、その動きは明らかに手慣れている。連携も取れており、前回リオが遭遇したチンピラたちとはレベルが違う。
グレイは咄嗟に身をかわし、腰のロングソードを抜いた。カン!キン!と激しい金属音が響き渡る。グレイは一人で三人を相手にしながらも、巧みな剣捌きで攻撃を受け流し、時には鋭いカウンターを繰り出している。しかし、相手の連携は巧みで、グレイも徐々に押され始めているように見えた。特に、素手の二人がグレイの動きを封じようと巧みに立ち回り、剣を持った男が決定打を狙う、という戦法は厄介そうだ。
(まずい……! このままじゃ、グレイさんが……!)
リオは迷った。介入すれば、自分も危険に晒される。相手は明らかにプロの傭兵だ。しかし、目の前でグレイが窮地に陥っているのを見過ごすことはできなかった。彼には二度も助けられている。今度は、自分が助ける番ではないのか?
(俺にできることは……!)
リオは咄嗟に動いた。【ライトニング・ランス】のような派手な攻撃魔法は使えない。だが、習得した他の魔法なら……!
リオは物陰に隠れながら、状況を観察した。剣を持った男が、グレイの隙を突いて斬りかかろうとしている。
(今だ!)
リオは集中し、男の持つ剣に向けて古代魔法を発動させた。
「【リペア・フラグメント】!」
ただし、意図は修復ではない。逆だ。剣の構造に一時的な歪みを生じさせ、脆くすることを狙った。
リオの魔法が密かに剣に作用した瞬間、グレイの剣と相手の剣が激しく打ち合った。キィン!という甲高い音と共に、傭兵の剣が、真ん中から呆気なくポッキリと折れた!
「なっ!? 俺の剣が……!?」
傭兵は信じられないものを見た、という表情で絶句している。突然の出来事に、他の二人も動きを止めた。
グレイも一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに好機と判断したのだろう。彼は体勢を立て直し、折れた剣の傭兵に鋭い蹴りを叩き込んだ。傭兵は呻き声を上げて吹き飛び、壁に叩きつけられて動かなくなる。
残るは二人。グレイは素早く次の相手に向かう。しかし、その傭兵は懐から何かを取り出し、グレイに向かって投げつけた。それは、目くらまし用の煙玉だった。
ボンッ!
白い煙が辺り一面に広がり、視界を奪う。
「くそっ!」
グレイが舌打ちする声が聞こえた。煙の中で、残りの傭兵たちが何かをしようとしている気配がする。
(煙の中でも……【言語魔法】なら!)
リオは目を閉じ、【言語魔法】で周囲の気配を探った。煙の中にいる二人の傭兵の位置、動き、そして彼らの思考の断片を捉える。
『煙に紛れて……後ろから……!』
『賢者の情報……吐かせる……!』
(賢者……? 俺のことか!? こいつら、最初からグレイさんだけじゃなく、俺も狙っていたのか!?)
おそらく、リオの「賢者」としての評判と、グレイが以前リオを助けたことから、二人が何か関係があると考え、情報を引き出そうとしたのだろう。
(させない!)
リオは煙の中の傭兵たちの位置を把握し、グレイに向けて【言語魔法】で警告を送った。
『グレイさん! 後ろ! 二人とも!』
リオの声にならない声が、グレイの意識に直接届いたのか。グレイはハッとしたように振り返り、迫っていた傭兵たちの奇襲をギリギリで回避した。
「なっ!? なぜ分かった!?」
傭兵たちが驚愕の声を上げる。視界が悪い中で、なぜ奇襲を察知できたのか理解できないのだろう。
グレイは煙の中で体勢を低くし、まるで獣のような鋭い感覚で相手の位置を探っている。そして、一瞬の隙を突き、ロングソードを閃かせた。峰打ちだが、的確に相手の急所を捉えた一撃。二人の傭兵は短い悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちた。
煙がゆっくりと晴れていく。そこには、倒れた三人の傭兵と、剣を構えたまま静かに立つグレイ、そして物陰から姿を現したリオがいた。
グレイは倒れた傭兵たちを一瞥し、それからリオの方を見た。その表情は、驚きと、困惑と、そして何かを探るような複雑な色を浮かべていた。
「……お前、今……何をした?」
グレイの声には、鋭い問いかけの響きがあった。剣が折れたこと、そして煙の中での奇襲を察知したこと。それが偶然ではないことには、彼も気づいているはずだ。
「……少し、手助けをさせていただきました」
リオは正直に答えた。もう、隠し通せるものではないだろう。
「手助け……? あの剣……それにお前の声が……頭の中に……」
グレイは眉間に深い皺を寄せ、考え込んでいる。彼の常識では理解できない現象が、立て続けに起こったのだ。
「俺の魔法は、少し特殊なんです。物や言葉だけでなく、人の思考や気配も……ある程度は感じ取ることができます」
リオは【言語魔法】の一端を説明した。古代魔法については、まだ伏せておくべきだろう。
グレイはしばらく無言でリオを見つめていた。その視線は、以前よりもさらに鋭く、リオの内面まで見透かそうとしているかのようだ。
「……お前、一体何者だ?」
低い声で、グレイが再び問うた。それは、単なる好奇心からではない。彼の経験したことのない力を持つ存在に対する、警戒心と、そして無視できない興味が入り混じった問いかけだった。
「ただの……冒険者です。あなたと同じように、この街で生きているだけの」
リオは静かに答えた。その言葉に嘘はなかった。
グレイはふん、と息を吐き、構えていた剣をゆっくりと鞘に納めた。
「……そうか」
彼はそれ以上何も言わず、倒れている傭兵たちに近づいた。懐を探り、何かを取り出す。それは、小さな羊皮紙の切れ端だった。そこには、何かの紋章のようなものが描かれている。
「こいつら……やはり、あの組織の手先か……」
グレイは苦々しげに呟き、羊皮紙を握りつぶした。彼が追われている、あるいは因縁のある組織が存在するらしい。その一端が、垣間見えた瞬間だった。
グレイは再びリオの方を向いた。
「……お前、明日、東の森へ行くと言っていたな。ゴブリン討伐だったか?」
ギルドでの会話を聞いていたのだろうか。あるいは、他の冒険者から聞いたのかもしれない。
「え、ええ……そのつもりですが……」
「……」
グレイはしばらく黙っていたが、やがて決心したように口を開いた。
「……一つ、借りができた。それに、お前のその奇妙な力にも、少し興味がある」
彼は、少しだけ躊躇うように、しかしはっきりとした口調で続けた。
「……そのゴブリン討伐、俺も同行させてもらう。足手まといになるなよ」
それは、あまりにも唐突な、そしてグレイらしくない申し出だった。リオは驚き、言葉を失った。
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