無能と罵られ追放された落ちこぼれ魔術師、実は世界で唯一【言語魔法】を使える最強賢者だった〜古代魔法と失われた知識で成り上がり見返してやる!~

夏見ナイ

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第18話:不協和音なき行軍、森の奥へ

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グレイの突然の同行宣言に、リオは完全に意表を突かれた。驚きのあまり、しばらく言葉が出てこない。隣にいつの間にか追いついていたリリアナも、目を丸くしてグレイを見つめている。

「……本気、ですか?」

かろうじて、リオはそう尋ねた。

「俺は冗談は言わん」

グレイは相変わらずぶっきらぼうに答えた。その表情に、戯れの色は微塵もない。

「しかし……なぜ? あなたほどの人が、G級冒険者の、しかもゴブリン討伐のような依頼に……」
「言ったはずだ。借りができた、と。それにお前のその奇妙な力……少し、見極めさせてもらう」

グレイの視線が、リオの持つ未知の力――【言語魔法】(彼にとってはそうとしか認識していないが)――に向けられる。それは、純粋な好奇心というよりは、むしろ警戒心に近いものかもしれない。理解できない力を持つ存在を、そばで監視しておきたい、という意図もあるのだろうか。

「それに……」とグレイは付け加えた。「お前たちだけでは、少しばかり心許ない。ゴブリンとはいえ、数が集まれば厄介だ。特に、お前のような実戦経験の乏しい魔術師と、戦闘向きではないエルフの学者ではな」

その言葉は辛辣だったが、的を射ている部分もあった。リオとリリアナは、それぞれの分野では類稀な能力を持っているが、こと戦闘、特に集団戦となると、経験不足は否めない。グレイのような圧倒的な戦闘能力を持つ存在が加わることは、客観的に見て、依頼達成の確率を格段に高めるだろう。

「……分かりました。同行、お願いします。グレイさんの力は、非常に心強いです」

リオは頭を下げた。グレイの真意はまだ測りかねる部分がある。しかし、彼の申し出を断る理由もなかった。それに、彼の剣技を間近で見られることは、リオ自身の成長にとっても大きなプラスになるはずだ。

「……リオさん、本当にいいの?」

リリアナが、少し心配そうに小声で尋ねてきた。彼女はまだ、グレイの素性や評判を気にしているのだろう。

「大丈夫です、リリアナさん。彼の実力は確かですし、俺たちの助けになるはずです。それに……彼も何か、事情を抱えているのかもしれません」

リオは、先ほどのグレイの言葉や表情を思い出しながら答えた。

「……分かったわ。リオさんがそう言うなら」

リリアナはまだ少し不安げだったが、リオの判断を尊重してくれたようだ。

「ふん。話は決まったようだな」グレイは腕を組んだ。「明日の早朝、東門で待っている。遅れるなよ」

それだけ言うと、彼は再び背を向け、今度こそ本当に闇の中へと消えていった。

残されたリオとリリアナは、顔を見合わせた。

「……なんだか、すごい展開になってきたわね」
「ええ……。でも、これでゴブリン討 ঘাট も、少しは安心かもしれません」

リオはそう答えつつも、グレイという謎めいた存在が加わることに、一抹の不安と、それ以上の奇妙な期待感を覚えていた。

翌朝、日の出前の薄明かりの中、リオとリリアナは東門でグレイを待っていた。約束の時間ぴったりに、彼は音もなく現れた。昨日と変わらぬ、使い込まれた革鎧とロングソード。その佇まいには、やはり近寄りがたい雰囲気があった。

「……来たか。準備はいいようだな」

グレイは二人を一瞥し、短く言った。

「はい。いつでも出発できます」
「よし、行くぞ」

三人は無言で歩き始めた。目指すは、フロンティア東の森。ゴブリンの集落があるとされる場所だ。

朝日が昇り始め、森の中へと続く道を進む。先頭を歩くのはグレイだ。彼の歩き方には一切の無駄がなく、周囲への警戒を怠らない。時折、地面に残された獣の足跡や、折れた枝の向きなどを確認している。その姿は、まさに経験豊富な戦士、あるいは狩人のそれだった。

リオとリリアナは、その後ろを少し距離を置いてついていく。リオは【言語魔法】で周囲の気配を探り、リリアナは精霊魔法で微かな魔力の流れや、隠れた存在の気配を感じ取ろうと試みている。三者三様のやり方で、周囲への警戒を行っていた。

最初は重苦しい沈黙が続いていたが、しばらく歩くと、リリアナが意を決したようにグレイに話しかけた。

「グレイさん、あなたは以前、王国騎士団にいらっしゃったとか……。差し支えなければ、どのようなご活躍をされていたのか、お聞きしても?」

リリアナの質問は、純粋な好奇心と、彼の過去を探りたいという研究者的な探求心が混じったものだろう。

グレイは、ちらりとリリアナの方を見たが、すぐに前を向いた。

「……昔の話だ。語るほどのことはない」

予想通りの、そっけない返事だった。

「でも、あなたの剣技は素晴らしいわ。何か特別な流派を学ばれたのですか?」
「……自己流だ」

リリアナはさらに食い下がろうとしたが、グレイの纏う空気が、それ以上の質問を拒絶しているのを感じ取り、口を噤んだ。やはり、彼の過去に触れるのは容易ではないようだ。

リオは、二人のやり取りを黙って聞いていた。グレイの過去には興味がある。だが、無理に聞き出すことではないだろう。それよりも、今は目の前の任務に集中すべきだ。

「ゴブリンの痕跡が増えてきましたね」

リオが、地面に残された小さな足跡や、汚れた布切れなどを指差しながら言った。

「ああ。この先に、奴らのねぐらがある可能性が高い。ここからは、さらに慎重に進むぞ」

グレイの指示で、三人はさらに気配を殺し、森の奥へと進んでいく。木々が鬱蒼と茂り、昼間でも薄暗い。湿った土と腐葉土の匂いが漂っている。

その時、リオは前方の茂みの奥に、微かな動きと、悪意のこもった気配を感じ取った。【言語魔法】が、そこに潜む存在の思考を捉える。

『人間……獲物……!』
『油断……してる……襲う……!』

(ゴブリンだ! 待ち伏せか!)

「グレイさん、リリアナさん、伏せて! 前方の茂みに、ゴブリンが二匹!」

リオが警告を発するのとほぼ同時に、茂みの中から二匹のゴブリンが、錆びたナイフを振りかざして飛び出してきた。緑色の醜い肌、ずる賢そうな目。その動きは素早かったが、リオの警告のおかげで、三人は咄嗟に身を伏せ、奇襲を回避することができた。

「チッ、気づかれたか!」

ゴブリンたちは悪態をつきながら、再び襲いかかろうとする。

「俺がやる」

グレイが短く言い、一瞬で間合いを詰めた。ロングソードが閃き、ゴブリンの一匹が反応する間もなく、その首筋を峰打ちで強かに打たれた。ゴブリンは短い悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちる。

もう一匹のゴブリンは、仲間のやられた様を見て怯んだが、すぐに逆上してグレイに襲いかかった。しかし、グレイは冷静にその攻撃を捌き、最小限の動きで相手の体勢を崩すと、再び峰打ちで的確に意識を奪った。

あっという間の出来事だった。二匹のゴブリンは、グレイに何のダメージも与えることなく、完全に無力化されていた。

「……すごい……」

リオは思わず感嘆の声を漏らした。彼の剣技は、やはり尋常ではない。速さ、正確さ、そして一切の無駄がない動き。まるで舞うように敵を制圧するその姿は、芸術的ですらあった。

リリアナも、驚きに目を見開いている。

グレイは気絶したゴブリンたちを一瞥し、リオの方を見た。

「……今の警告、お前の力か?」
「はい。【言語魔法】で、彼らの気配と敵意を感じ取りました」
「……便利な力だな」

グレイはそう呟いたが、その表情はやはり硬い。便利な力であると同時に、得体の知れない力でもある、と感じているのかもしれない。

「よし、先を急ぐぞ。こいつらが斥候なら、本隊は近いはずだ」

グレイの言葉に、リオとリリアナは頷き、再び森の奥へと足を進めた。先ほどの遭遇で、ゴブリン討伐が現実の脅威であることを改めて認識し、緊張感が高まる。

道中、リオはグレイの戦闘を目の当たりにしたことで、自身の魔法の使い方について新たな考えを巡らせていた。グレイの前衛としての圧倒的な戦闘力。リリアナの後方からの索敵と補助。そして、自分は【言語魔法】による情報収集と、状況に応じた古代魔法による支援。三人が連携すれば、想像以上の力を発揮できるのではないか。

(例えば、【プロテクト・ウォール】でグレイさんを守りつつ、【言語魔法】で敵の位置や弱点を伝える……あるいは、【ヒーリング・ライト】で彼の消耗を抑えることもできるかもしれない)

そんなことを考えていると、前方を歩いていたグレイが、不意に足を止めた。

「……着いたぞ。あれが、奴らの集落らしい」

グレイが指差す先、木々の切れ間から、粗末な木の柵で囲まれた一角が見えた。中には、みすぼらしい小屋がいくつか建ち並び、焚き火の煙が上がっているのが見える。そして、その周囲をうろつく、緑色の小さな影――ゴブリンたちの姿があった。数は、ざっと見ただけでも10匹以上はいる。そして、その中には、一際体格の大きな、棍棒を持ったホブゴブリンらしき姿も見えた。

「思ったより数が多いな……。それに、ホブゴブリンまでいるとは」

グレイが眉をひそめた。

「どうしますか? 正面から行きますか?」
「いや、無策で突っ込むのは愚策だ。まずは、もう少し情報を集める。敵の配置、数、そして……何か、利用できるものはないか」

グレイは冷静に状況を分析する。リオは、【言語魔法】で集落全体の気配を探った。ゴブリンたちの数、配置、警戒レベル……。そして、何か引っかかるものを感じ取った。

(集落の奥……何か、妙な気配がする……? ゴブリンとは違う、もっと……古く、強い……?)

それはまだ朧げな感覚で、確信は持てない。だが、単なるゴブリンの集落ではない、何か別の要素が絡んでいる可能性を示唆していた。

「……どうやら、ただのゴブリン退治では済まないかもしれませんね」

リオは、感じ取った不穏な気配を、二人に伝えた。

森の奥深く、ゴブリンたちの喧騒が聞こえる中で、三人の冒険者は、これから始まるであろう戦いを前に、静かに互いの顔を見つめ合っていた。それぞれの能力、それぞれの思惑、そして共有された目標。不協和音を奏でそうな三人の組み合わせは、しかし、この先の困難を乗り越えるための、唯一の希望なのかもしれない。
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