無能と罵られ追放された落ちこぼれ魔術師、実は世界で唯一【言語魔法】を使える最強賢者だった〜古代魔法と失われた知識で成り上がり見返してやる!~

夏見ナイ

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第四章:古代の脅威と集う力

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第71話:平穏の終わり、深淵からの呼び声

「賢者の学院」がフロンティアの地に根を下ろしてから、五年という歳月が流れた。かつて辺境と呼ばれた街は、今や大陸全土から知識と才能が集まる学術の中心地となり、その活気は王都アークライトをも凌ぐほどだった。

リオ・アシュトンは、学院の長「賢者」として、穏やかながらも充実した日々を送っていた。彼は古代魔法の理論を体系化し、その後継者となる若者たちを育てることに情熱を注いでいた。彼の講義は常に満席で、その分かりやすさと、何よりも魔法に対する真摯な姿勢は、多くの学生から尊敬を集めていた。

リリアナは学術部門の最高責任者として、世界各地から集められた古代文献の解析と、アストライオスとの共鳴魔法を用いた世界のエネルギーバランスの研究に没頭していた。グレイは、学院の影の守護者として、その存在をほとんど知られることなく、組織に迫る脅威を未然に排除し続けていた。

世界は、安定していた。宰相オルダスの野望が打ち砕かれて以来、大きな戦乱はなく、各地で頻発していた遺跡の異常活性化も沈静化していた。人々は、この平和が永遠に続くかのように、日々の暮らしを営んでいた。

リオ自身も、この穏やかな日常が、仲間たちと共に勝ち取ったかけがえのない宝物だと感じていた。もう、巨大な陰謀や、世界の運命を賭けた戦いに身を投じることはないだろう。そう、思っていた。

その日の夜まで、彼は。

その夜、リオはリリアナと共に、学院の最上階にある天文台で、星々の運行を観測していた。美しい星空は、あの日、「星降りの夜」を思い出させる。

「……綺麗ね」リリアナが、リオの肩にそっと寄りかかりながら呟いた。「この平和が、ずっと続くといいのだけれど……」
「ええ……。俺たちが、それを守っていかなければ」

リオがそう応えた、その瞬間だった。

彼の脳裏に、直接、鋭い警鐘のような思念が叩きつけられた。それは、遠く離れた「静寂の森」にいるはずのアストライオスからの、リリアナの共鳴魔法を介した、緊急警告だった。

『……警告……! 主よ、巫女よ……! 世界のエネルギーバランスに、極めて巨大な負の特異点が発生……! これまでの異変とは比較にならぬ、強大で、邪悪な波動……!』

アストライオスの思念は、かつてないほどの緊張と危機感に満ちていた。

「アストライオス……!?」リリアナも同時にその警告を受け取り、顔を青くした。「場所はどこ!?」
『……座標……フロンティア北東……。あの場所……『忘れられた谷』……その最深部より……!』

「忘れられた谷」――その名を聞いた瞬間、リオの背筋に冷たいものが走った。グレイの一族が守り、そして、古代の「遺物」が眠るとされる、あの場所。

「まさか……! 封印が破られたのか……!?」

リオとリリアナは顔を見合わせた。次の瞬間には、二人は天文台を飛び出し、学院の地下にある、グレイの私室へと駆け込んでいた。

「グレイさん!」

グレイは、リオたちのただならぬ様子を見て、既にロングソードを手にしていた。

「……何か、あったようだな」
「はい。『忘れられた谷』で、何かが起こりました。アストライオスが、これまでにない規模の、邪悪な波動を感知した、と……」

リオは、簡潔に状況を説明した。グレイの表情が、一瞬にして戦士のそれへと変わる。

「……『忘れられた谷』の……最深部か。やはり、あの『遺物』が関係しているのかもしれんな」グレイは、苦々しげに呟いた。「賢者の迷宮にあった記述……『最後の守護者』という言葉も気になる」

三人は、緊急で作戦会議を開いた。宰相オルダスのような人間の陰謀とは、明らかに質の違う脅威。それは、もっと古く、もっと根源的な、世界の理そのものを脅かすような「邪悪」の気配だった。

「私、アストライオスと共鳴して、もっと詳しい情報を探ってみるわ」リリアナが言った。「波動の性質や、規模の変化……何かわかるかもしれない」
「俺は、ダリウス騎士団長に連絡を取ってみます。王国の騎士団も、この異常な波動には気づいているかもしれない。情報共有ができれば……」
「俺は、装備の準備と、信頼できる数名に声をかけておく」グレイが言った。「もし、これが本当に世界の危機であるなら、もはや我々三人だけで対処できる問題ではないかもしれん」

かつての仲間たちの顔が、それぞれの脳裏に浮かぶ。ドワーフのボルガン、砂漠の民のライラ、そしてエルフの長老エルダリオン。彼らの力も、必要になるかもしれない。

準備を進める三人の背後で、フロンティアの夜空が、一瞬だけ、血のような不吉な赤色に染まった。それは、ほんの一瞬の出来事で、ほとんどの住民は気づかなかった。しかし、その異常な現象は、リオたちの予感が正しいこと、そして、彼らが享受していた平穏な日々の終わりが、唐突に訪れたことを、明確に示していた。

深淵が、長い眠りから覚め、その口を開けようとしている。かつて世界を救った英雄たちは、再び、その運命の渦中へと引き戻されようとしていた。

リオは、窓の外の不吉な空を見上げながら、「真・星影の剣」の柄を強く握りしめた。

(……逃げることはできない。俺たちが、やらなければならないんだ)

彼の瞳には、再び、世界を守るための戦いに臨む、賢者の強い光が宿っていた。平穏は破られた。だが、仲間たちとの絆がある限り、絶望はない。

深淵からの呼び声に応えるように、リオ・アシュトンとその仲間たちは、新たな、そしておそらくは最後の戦いに向けて、再び集結し、動き始めるのだった。
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