俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ

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第43話 最強ギルドの始動

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ヴァルハラ宮殿、円卓の間。
そこに集うのは、ギルド『神々の黄昏』が誇る、最強の幹部たちだった。
最前線でタンクを務める重騎士、一撃で戦況を覆す大魔導師、影から敵を討つアサシンマスター。サーバーのランキングボードの上位を、その名で埋め尽くす、まさに伝説級のプレイヤーたち。
その彼らが、一様に緊張した面持ちで、玉座に座る一人の男を見つめていた。

ヴォルカン。
彼は、ゆっくりと立ち上がると、集まった幹部たちを見渡し、静かに、しかし、ホール全体に響き渡る声で言った。

「諸君。我々の世界が、見えざる敵に蝕まれている」

彼の言葉に、幹部たちの間に、緊張が走る。
ヴォルカンは、これまでの経緯を、簡潔に、しかし力強く語り始めた。
市場の崩壊。初心者たちの混乱。そして、ランキングを不自然な速度で駆け上がり、しかし、その姿は誰にも目撃されたことのない、謎のプレイヤー『レン』の存在。

「この『レン』と名乗る亡霊は、我々が築き上げてきた、この世界の秩序に対する、明確な挑戦者だ。いや、挑戦者ですらない。正々堂々と名乗りもせず、陰からシステムを弄び、世界を混乱させる、卑劣な破壊工作員だ」

ヴォルカンの声に、熱が帯びていく。
「私は、このような存在を、断じて許すことはできない。我々『神々の黄昏』の使命は、この世界の頂点に立ち、その秩序を守護することにある。今こそ、その使命を果たす時だ」

彼は、円卓の上に、一枚の古い地図を広げた。
それは、彼が情報屋アルクから、自らの愛剣一本と引き換えに手に入れた、たった一枚の『ヒント』だった。

「全ての元凶は、ここにある」
ヴォルカンが指し示した場所。そこには、ただ一言、こう記されていた。

『ゴブリンの巣穴』

その名前を聞いて、幹部の一人が、訝しげな声を上げた。
「ゴブリンの巣穴…? まさか。あそこは、レベル10にも満たないプレイヤーが、最初に訪れるだけの、何の価値もないダンジョンのはずですが…」
「常識で考えるな」
ヴォルカンは、その言葉を、鋭く遮った。
「我々の敵は、常識の外側から攻撃を仕掛けてきている。ならば、我々もまた、常識を捨てて、その深淵を覗き込まねばならない」

彼の目に、揺るぎない決意が宿る。
「これより、ギルドの総力を挙げ、この『ゴブリンの巣穴』の完全攻略、及び、そこに潜む『レン』の正体の解明を開始する。これは、ギルドクエスト『秩序の守護者』として、最高優先度の任務と位置づける」

「おお…!」
幹部たちの間から、どよめきが起こった。
ギルドクエスト。それは、ヴォルカンがギルド全体に発令する、最重要ミッション。その発令は、これまで、高難易度ダンジョンの初攻略や、大規模な戦争の時など、数えるほどしかなかった。
彼らのマスターが、本気だ。その事実が、幹部たちの士気を、一気に最高潮へと引き上げた。

ヴォルカンは、次々と指示を飛ばし始めた。
「まず、偵察部隊を編成する。メンバーは、ギルド最高のアサシンである、シャドウ。そして、最強の斥候である、シルフィ。お前たち二人だ。誰にも気づかれることなく『ゴブリンの巣穴』に潜入し、内部の構造、敵の配置、そして何よりも、『レン』に繋がる痕跡を探し出せ」
「御意」
影の中から、二つの返事が、静かに響いた。

「次に、分析チーム。シャドウたちから送られてくる情報を、リアルタイムで解析せよ。敵の行動パターン、システムの脆弱性、あらゆる可能性をシミュレートし、最適な攻略プランを立案するのだ」
「はっ!」
眼鏡のエルフ魔術師が、力強く頷いた。

「そして、残りのメンバーは、いつでも出撃できるよう、臨戦態勢に入れ。敵が、我々の想像を超える罠を仕掛けている可能性も考慮し、ポーション、解毒剤、あらゆる消耗品を、万全の状態に整えておけ」

ヴォルカンの号令一下、『神々の黄昏』という名の、巨大な戦争機械が、音を立てて動き始めた。
情報収集、分析、兵站、そして戦闘。
それぞれの部門が、完璧に連携し、一つの目的のために機能する。
これこそが、彼らがサーバー最強と呼ばれる所以だった。

その夜。
二つの影が、アークライトの街を疾風のように駆け抜け、丘陵地帯へと向かっていった。
一人は、影に溶け込むような、漆黒のレザースーツに身を包んだ男、シャドウ。
もう一人は、風のように軽やかな足取りで、森の木々を飛び移っていく、エルフの少女、シルフィ。

彼らは、何の疑いも持っていなかった。
これから向かう場所が、ただのゴブリンの巣穴であると。
そして、自分たちのスキルと経験をもってすれば、どんな罠があろうと、容易に突破できると。
最強ギルドに所属する、トッププレイヤーとしての、絶対的な自信。

その、彼らの『慢心』こそが、レンが仕掛けた最初の罠の、最高の餌食となることを、彼らはまだ知らなかった。

遠く離れた、静かなダンジョンの中。
レンの司令室のコンソールに、ほんの一瞬だけ、ログが表示された。

`[NOTICE: PROBE_DRONE DETECTED] source: unknown / action: MONITORING`

それは、シルフィが放った、偵察用の極小ドローンを、レンの防衛システムが検知したことを示すログだった。
しかし、そのログは、レンが設定した『脅威レベル』には達していなかったため、彼に直接アラートとして通知されることはなかった。
システムの片隅に、静かに記録されただけ。

完璧なはずのレンの城に、最強の敵が、その最初の指をかけた。
レン自身が、まだそれに気づかないうちに。
物語の歯車は、もはや後戻りのできない速度で、回転を始めていた。
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