鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第1話:役立たずの鑑定士

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湿った空気が肌にまとわりつく。カビと土の匂いが混じった独特の悪臭が鼻をついた。松明の頼りない光が照らすのは、どこまでも続くかのような石造りの通路。古代遺跡のダンジョン、『忘れられた王墓』の第五階層。俺、アレン・ウォーカーはパーティーの最後尾で慎重に息を殺していた。

「アレン、前方はどうだ。何かあるか」

パーティーリーダーである勇者レオが、振り返りもせずに言った。その声には苛立ちが滲んでいる。彼の背中は、ミスリル銀で装飾された輝かしい鎧に守られている。伝説の聖剣を携えた、まさに選ばれし勇者。俺とは住む世界が違う人間だ。

俺は目を凝らし、意識を集中させる。脳裏に青白いウィンドウが浮かび上がり、前方の通路の情報が文字となって流れ込んできた。

【前方二十メートル地点、床に圧力感知式の毒矢トラップ。解除キーは右壁面の隠しスイッチ】

「毒矢の罠があります。右の壁に解除スイッチが」

「チッ、また罠か。面倒な」

勇者レオは舌打ち一つで俺の報告を片付ける。感謝の言葉など、もうずいぶん聞いていない。俺のスキル【鑑定】は、このパーティーにおいて唯一無二のものだ。罠の看破、アイテムの真贋判定、モンスターのステータス確認。それらがなければ、この難関ダンジョンをここまで進むことなど不可能だったはずだ。

だが、彼らが俺に向ける視線は、便利な道具に対するものと大差ない。いや、それ以下か。

「おいアレン、さっさと解除しろ。足手まといがモタモタするな」

パーティーの前衛を務める大男、戦士ガストンが吐き捨てる。彼の巨大な戦斧は、ゴブリンの血で鈍く黒ずんでいた。俺は彼の威圧的な視線から逃れるように俯き、小走りでパーティーの先頭へ向かう。

俺が壁の模様に紛れたスイッチに触れると、カチリと小さな音がして床下から何かが動く気配が消えた。これが俺の仕事。戦闘能力を持たない鑑定士に許された、唯一の存在価値だった。

「よし、進むぞ」

レオの号令で、パーティーは再び前進を始める。俺はまた、誰からも声をかけられることなく最後尾に戻った。これが日常。勇者パーティー『光の剣』における、俺の立ち位置だった。

しばらく進むと、通路が少し開けた空間に出た。そこには、緑色の醜い肌を持つ小鬼、ゴブリンが三体。涎を垂らしながら、錆びた剣を手にこちらを睨んでいる。

「雑魚だ。一気に片付けるぞ!」

レオが聖剣を抜き放つ。剣身から放たれるまばゆい光が、薄暗いダンジョンを昼間のように照らし出した。

「俺に任せな!」

ガストンが雄叫びを上げて突進し、戦斧を横薙ぎに振るう。ゴブリンの一体が、断末魔の叫びを上げる間もなく肉塊と化した。

「フン、遅いわね。【ファイアボール】」

紅一点の魔術師サラが、冷ややかに呟きながら杖を振るう。彼女の手から放たれた炎の塊が、残りのゴブリンの一体を正確に飲み込み、黒焦げにした。

最後のゴブリンは、勇者レオの聖剣によって一刀両断にされた。戦闘は、ほんの数十秒で終わった。彼らは強い。それは紛れもない事実だ。そして、その戦闘の間、俺は壁際に身を寄せ、ただ震えていることしかできなかった。短剣の一本は腰に差しているが、それでゴブリンと戦う勇気も技術もない。

「アレンがいると、実質三人で戦っているようなものね。負担が大きいわ」

サラがため息混じりに言う。その視線には、侮蔑の色が隠しようもなく浮かんでいた。俺は何も言い返せない。事実だったからだ。

「何かドロップしたか確認しろ。それくらいしかお前の使い道はないんだからな」

ガストンがゴブリンの死体をブーツの先で転がしながら言った。俺は黙って頷き、死体に近づいて【鑑定】を発動する。

【ゴブリンの魔石(小)。換金価値:低い】
【錆びた短剣。換金価値:ほぼ無し】

「魔石が一つだけです。あとはガラクタでした」

「チッ、しょっぱい獲物だ。お前がパーティーにいると運気まで下がるらしいな」

そんな理不尽な言葉にも、俺はもう慣れてしまっていた。黙って魔石を拾い上げ、革袋にしまう。これも俺の仕事だ。

俺がこのパーティーにいるのは、王宮からの命令だからだ。勇者レオが魔王討伐の旅に出るにあたり、王宮所属の鑑定士である俺がサポート役として付けられた。ただそれだけ。彼らが俺を選んだわけではない。

幼馴染の聖女リリアも、このパーティーの一員だ。彼女がいれば、もう少しマシな扱いをされると思っていた時期が、俺にもあった。だが、今の彼女は…。

その日の探索を終え、俺たちは比較的安全な小部屋で野営の準備を始めた。ガストンが火を起こし、サラが保存食を温める。レオは壁に寄りかかって聖剣の手入れをしている。そこには談笑があり、仲間としての輪があった。

もちろん、その輪の中に俺の居場所はない。

「アレン、見張りだ。一番眠たい時間帯をお前にやろう」

レオが当然のように言った。一番辛い時間帯の仕事を押し付けることに、何の躊躇もない。

「……分かりました」

俺はそう答えるのが精一杯だった。

彼らが食事を終え、仮眠を取り始める。俺は一人、出入り口に背中を預けて座り込んだ。松明の炎が揺らめき、壁に俺の長い影を映し出す。

なぜ、こんなことになってしまったのだろう。昔は、少なくともリリアとは、こんな関係ではなかったはずだ。もっと、笑い合える仲だった。いつからだろう。彼女が俺を、まるで汚い物でも見るような目つきで見るようになったのは。

勇者パーティーに選ばれた彼女と、地味な鑑定士の俺。その差が、俺たちの間に深い溝を作ってしまったのかもしれない。

俺は静かにため息をついた。冷たい石の壁が、体温を容赦なく奪っていく。腹の虫が小さく鳴ったが、俺に配給された食料は、彼らの残した固いパンと干し肉の切れ端だけ。それを口にする気にもなれなかった。

また明日が来る。そして、今日と同じように蔑まれ、足手まといだと罵られる一日が始まるのだ。そんな終わりの見えない日々に、俺の心はとっくにすり減って、ほとんど何も感じなくなっていた。

ただ、胸の奥深くで、何かが小さく燻っている。それは怒りなのか、悲しみなのか。それとも、諦めなのか。自分でも、もうよく分からなかった。

俺は揺れる炎を見つめながら、ただ静かに夜が更けていくのを待っていた。
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