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第2話:聖女の冷たい言葉
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長い見張りの時間が終わり、空が白み始める頃。俺はこわばった体をゆっくりと伸ばした。結局、一睡もしていない。疲労感だけが全身に重くのしかかっていた。
他のメンバーがまだ寝息を立てている中、一人だけ静かに身を起こす影があった。純白のローブをまとった聖女リリアだ。彼女は俺の幼馴染。このパーティーにいる唯一の、昔からの知り合いだった。
彼女は水筒を手にすると、俺の方へ歩いてくる。その足音はほとんど無音で、まるで幽鬼のようだった。一瞬、何か言葉をかけてくれるのかもしれないと淡い期待を抱いた俺が馬鹿だった。
「まだいたのですね」
凛とした、しかし氷のように冷たい声だった。俺のすぐ側で立ち止まった彼女は、その美しい顔をわずかに顰めて俺を見下ろしていた。昔、太陽のように笑っていた面影はどこにもない。
「……おはよう、リリア」
「馴れ馴れしく名前を呼ばないでください。あなたは勇者様のパーティーに仕えるただの鑑定士。私は聖女。立場をわきまえるべきです」
突き放すような言葉が、容赦なく胸に突き刺さる。俺と彼女の間には、見えない壁がそびえ立っていた。いや、彼女が一方的に築き上げた壁だ。
俺は唇を噛み、何も言えずに俯いた。
昔は違った。王都の片隅で、俺たちはいつも一緒だった。俺が鑑定士の才能の芽を見せ始めた頃、彼女は自分のことのように喜んでくれた。「アレンはすごいね!」「いつかきっと、立派な鑑定士になって私を助けてね」。そう言って無邪気に笑っていた。
彼女が聖女としての類稀なる才能を見出され、神殿に引き取られてから、俺たちの道は分かれた。それでも、俺は王宮鑑定士になるために必死で勉強した。いつか彼女の隣に立てるように。彼女との約束を、果たすために。
だが、再会した彼女は別人だった。勇者パーティーの一員として王宮で顔を合わせた時、彼女は俺を一瞥しただけで、知らない人間のように通り過ぎた。その瞳には、かつての温かさなど欠片も残っていなかった。
「あなたがいると、パーティー全体の士気が下がります。魔物と戦うこともできず、ただ後ろで怯えているだけ。そんな姿を見せられて、誰が気持ちよく戦えるというのですか」
「俺は、罠の解除やアイテムの鑑定で……」
「そんなものは、魔術師のサラでも代用できます。あなたでなければならない理由など、どこにもないのですよ」
リリアの言葉は、俺の存在意義そのものを否定していた。俺が必死に磨いてきたスキルを、ガラクタだと言っているのと同じだった。
俺は顔を上げ、彼女の瞳をまっすぐに見つめた。そこにあるのは、純粋な軽蔑だけではない。もっと深く、暗い何か。まるで、俺という存在そのものを憎んでいるかのような、粘りつくような感情が渦巻いているように見えた。
なぜだ。俺が、彼女に何をしたというんだ。
「分かったら、自ら身を引くべきです。勇者様は情け深いお方ですから、ご自分からは言い出せないだけ。あなたがこれ以上、勇者様や私たちの足を引っ張るのは、見過ごせません」
彼女はそれだけ言うと、踵を返して仲間たちの元へ戻っていく。そして、ちょうど目を覚ました勇者レオに気づくと、先程までの冷徹な表情を消し去り、慈愛に満ちた聖女の微笑みを浮かべた。
「おはようございます、勇者様。昨夜はよくお休みになれましたか?」
「ああ、リリアか。おはよう。君の祈りのおかげで、疲れもすっかり取れたよ」
レオがリリアに向ける声は、俺に対するものとは比べ物にならないほど優しい。パーティーの仲間たちも次々と起き出し、リリアの周りには自然と人の輪ができる。彼女はその中心で、誰からも愛される聖女として振る舞っていた。
俺は、その光景を遠くからただ眺めることしかできない。
彼女の言う通りなのかもしれない。俺は、このパーティーに必要ない存在なのだ。俺がいることで、皆を不快にさせている。足を引っ張っている。
じわりと、胸の奥が冷たくなっていく。幼馴染だった彼女にここまで拒絶されて、俺がここに居続ける理由など、もうどこにも残っていないのかもしれない。
俺は再び俯き、冷たい石の床を見つめた。今日一日の探索が終われば、勇者に自分からパーティーを抜けると伝えよう。そう、心に決めた。
もう、疲れたのだ。誰からも必要とされない場所に、しがみついているのは。
他のメンバーがまだ寝息を立てている中、一人だけ静かに身を起こす影があった。純白のローブをまとった聖女リリアだ。彼女は俺の幼馴染。このパーティーにいる唯一の、昔からの知り合いだった。
彼女は水筒を手にすると、俺の方へ歩いてくる。その足音はほとんど無音で、まるで幽鬼のようだった。一瞬、何か言葉をかけてくれるのかもしれないと淡い期待を抱いた俺が馬鹿だった。
「まだいたのですね」
凛とした、しかし氷のように冷たい声だった。俺のすぐ側で立ち止まった彼女は、その美しい顔をわずかに顰めて俺を見下ろしていた。昔、太陽のように笑っていた面影はどこにもない。
「……おはよう、リリア」
「馴れ馴れしく名前を呼ばないでください。あなたは勇者様のパーティーに仕えるただの鑑定士。私は聖女。立場をわきまえるべきです」
突き放すような言葉が、容赦なく胸に突き刺さる。俺と彼女の間には、見えない壁がそびえ立っていた。いや、彼女が一方的に築き上げた壁だ。
俺は唇を噛み、何も言えずに俯いた。
昔は違った。王都の片隅で、俺たちはいつも一緒だった。俺が鑑定士の才能の芽を見せ始めた頃、彼女は自分のことのように喜んでくれた。「アレンはすごいね!」「いつかきっと、立派な鑑定士になって私を助けてね」。そう言って無邪気に笑っていた。
彼女が聖女としての類稀なる才能を見出され、神殿に引き取られてから、俺たちの道は分かれた。それでも、俺は王宮鑑定士になるために必死で勉強した。いつか彼女の隣に立てるように。彼女との約束を、果たすために。
だが、再会した彼女は別人だった。勇者パーティーの一員として王宮で顔を合わせた時、彼女は俺を一瞥しただけで、知らない人間のように通り過ぎた。その瞳には、かつての温かさなど欠片も残っていなかった。
「あなたがいると、パーティー全体の士気が下がります。魔物と戦うこともできず、ただ後ろで怯えているだけ。そんな姿を見せられて、誰が気持ちよく戦えるというのですか」
「俺は、罠の解除やアイテムの鑑定で……」
「そんなものは、魔術師のサラでも代用できます。あなたでなければならない理由など、どこにもないのですよ」
リリアの言葉は、俺の存在意義そのものを否定していた。俺が必死に磨いてきたスキルを、ガラクタだと言っているのと同じだった。
俺は顔を上げ、彼女の瞳をまっすぐに見つめた。そこにあるのは、純粋な軽蔑だけではない。もっと深く、暗い何か。まるで、俺という存在そのものを憎んでいるかのような、粘りつくような感情が渦巻いているように見えた。
なぜだ。俺が、彼女に何をしたというんだ。
「分かったら、自ら身を引くべきです。勇者様は情け深いお方ですから、ご自分からは言い出せないだけ。あなたがこれ以上、勇者様や私たちの足を引っ張るのは、見過ごせません」
彼女はそれだけ言うと、踵を返して仲間たちの元へ戻っていく。そして、ちょうど目を覚ました勇者レオに気づくと、先程までの冷徹な表情を消し去り、慈愛に満ちた聖女の微笑みを浮かべた。
「おはようございます、勇者様。昨夜はよくお休みになれましたか?」
「ああ、リリアか。おはよう。君の祈りのおかげで、疲れもすっかり取れたよ」
レオがリリアに向ける声は、俺に対するものとは比べ物にならないほど優しい。パーティーの仲間たちも次々と起き出し、リリアの周りには自然と人の輪ができる。彼女はその中心で、誰からも愛される聖女として振る舞っていた。
俺は、その光景を遠くからただ眺めることしかできない。
彼女の言う通りなのかもしれない。俺は、このパーティーに必要ない存在なのだ。俺がいることで、皆を不快にさせている。足を引っ張っている。
じわりと、胸の奥が冷たくなっていく。幼馴染だった彼女にここまで拒絶されて、俺がここに居続ける理由など、もうどこにも残っていないのかもしれない。
俺は再び俯き、冷たい石の床を見つめた。今日一日の探索が終われば、勇者に自分からパーティーを抜けると伝えよう。そう、心に決めた。
もう、疲れたのだ。誰からも必要とされない場所に、しがみついているのは。
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