鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第6話:スキルの検証と、見えてしまった本心

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馬車に揺られること数時間。ようやく前方に小さな街の明かりが見えてきた。宿場町「アルク」。王都と地方都市を結ぶ街道の中継点として、それなりに栄えているらしい。

馬車を降り、御者のバーナードに礼を言う。彼は「気をつけな」とだけ言って、夜の闇に消えていった。俺は一人、見知らぬ街の入り口に立つ。時刻はすでに深夜に近い。まずは今夜の寝床を確保しなければ。

通りには数軒の宿屋が看板を掲げている。以前の俺なら、一番安いという理由だけで薄汚い宿を選んでいただろう。だが、今の俺には【万物解析】がある。

俺はそれぞれの宿屋の建物にスキルを向けた。

【宿屋『木漏れ日亭』:建物は古いが清掃が行き届いている。宿泊料金は銀貨三枚。ベッドの寝心地は良い】
【宿屋『荒くれ者の寝床』:宿泊料金は銀貨一枚。ノミとダニの温床。盗難多発】

一目瞭然だった。俺は迷わず『木漏れ日亭』の扉を押す。

「いらっしゃいませ。お客様、お一人ですか?」

カウンターの奥から、人の良さそうな恰幅の良い主人が顔を出した。俺は彼にもスキルを使う。

【名称:ギルバート】
【職業:宿屋の主人】
【状態:健康、やや眠い】
【感情:同情、親切心】
【アレン・ウォーカーへの好感度:30/100(同情/薄い灰色)】
【思考:『若いのに随分と疲れた顔をしている。何か大変なことがあったんだろう。少しサービスしてやるか』】

思考まで読んだ上で、彼の親切心が本物だと分かり、少しだけ心が安らいだ。

「はい、一人です。一泊お願いします」

「あいよ。銀貨三枚だが……。おまけで簡単な朝食を付けておこう。二階の突き当たりの部屋を使ってくれ」

「ありがとうございます」

俺は礼を言って銀貨を払い、鍵を受け取った。好感度30というのは、おそらく初対面の相手に対する標準的な数値なのだろう。それが「同情」という感情の色を帯びている。追放されたばかりの俺の姿は、それほどまでに惨めに見えるらしかった。

部屋は狭いが、清潔だった。ギシギシと音を立てるベッドに鞄を放り出し、大きく息を吐く。ようやく一人になれた。

俺はすぐに感傷を振り払い、スキルの本格的な検証に取り掛かった。この力を正確に把握しなければ、この先、生きていくことはできない。

まずは、部屋の中にあるものからだ。ベッド、机、椅子、壁にかかった絵画。それら一つ一つに【万物解析】を使っていく。

【名称:オーク材の机】
【来歴:二十年前にこの街の家具職人が製作。五人の宿泊客を経て現在に至る。天板の右奥に小さな傷。これは三年前に宿泊した商人が、勘定をごまかそうとして主人ともみ合った際についたもの】

「……そんなことまで分かるのか」

俺は机の天板を撫でた。確かに、言われた通りの場所に小さな傷がある。まるで、この机自身が俺に過去を語りかけてくるようだ。このスキルは、物に宿る記憶すら読み取るのかもしれない。

次に、自分自身のステータスをもう一度詳しく見てみる。

【名称:アレン・ウォーカー】
【スキル:万物解析】
【詳細:森羅万象の情報を読み解く究極の解析能力。対象の物理的データ、来歴、構成要素、ステータス、スキル、感情、思考の断片、相互の好感度などを視認する。情報量が膨大な対象や、神性を持つ対象を解析する場合、術者の脳に多大な負荷がかかる。有効範囲は視認できる範囲内】

スキルの詳細情報も見えるようになっていた。やはり、脳への負荷というリスクは存在するらしい。むやみやたらに使い続ければ、どうなるか分からない。

俺は窓を開け、夜の通りを眺めた。幸い、まだ何人かの人々が歩いている。彼らを対象に、好感度表示の精度を確かめてみよう。

最初に目に入ったのは、何やら言い争いをしている中年の夫婦だった。

【夫から妻への好感度:45/100(不満/濁った青色)】
【妻から夫への好感度:40/100(憤慨/くすんだ赤色)】

夫の思考は『また小言か。いい加減にしてほしい』。妻の思考は『どうして私の気持ちを分かってくれないの!』。なるほど、好感度が低いと、感情の色もネガティブなものになるらしい。

次に、父親の肩車ではしゃいでいる小さな女の子。

【娘から父への好感度:90/100(大好き/輝く黄色)】
【父から娘への好感度:100/100(溺愛/暖かい橙色)】

見ているだけで、心が温かくなるような光景だった。数値と色が、彼らの絆を明確に示している。

そして、その時だった。宿屋の前を、若い男女が手を繋いで通り過ぎた。二人は互いを見つめ合い、幸せそうに微笑んでいる。俺がスキルを向けると、これまで見たことのない表示が目に飛び込んできた。

【男性から女性への好感度:100/100(愛/鮮やかな桃色)】
【女性から男性への好感度:100/100(愛/鮮やかな桃色)】

100。それが、この世界の好意の上限値なのかもしれない。二人の間には、一点の曇りもない、純粋な愛情が存在していた。彼らの頭上には、桃色の輝きがキラキラと舞っているようにさえ見える。

スキルの精度は、もはや疑いようがなかった。

俺は窓を閉め、ベッドにどさりと腰を下ろす。この力があれば、詐欺師に騙されることもない。危険な人物を事前に察知することもできる。金儲けの方法など、いくらでも思いつく。

だが同時に、一種の虚しさも感じていた。幸せそうな恋人たちの姿が、脳裏に焼き付いて離れない。俺は、あんな風に誰かと心を通わせることができるのだろうか。好感度という数値が見えてしまう俺に、純粋な人間関係を築くことなど、できるのだろうか。

人の本心が見えてしまうということは、見たくないものまで見てしまうということだ。それは、俺の心を少しずつ蝕んでいくのかもしれない。

「……今は、そんなことを考えている場合じゃないな」

俺は頭を振って、感傷的な思考を追い払った。

まずは、生き延びる。そして、この辺境の地で、誰にも邪魔されずに暮らせるだけの基盤を作ること。それが当面の目標だ。

幸い、この街は活気がある。冒険者ギルドもあるだろう。俺のスキルを活かせる場所が、きっとあるはずだ。

追放された鑑定士の人生は終わった。だが、【万物解析】を持つアレン・ウォーカーの人生は、今、始まったばかりなのだから。

俺は疲労の限界に達した体をベッドに横たえた。久しぶりに、少しだけ未来に希望が持てた気がした。深い眠りが、すぐに俺を包み込んでいった。
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