鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第7話:辺境の街へ

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翌朝、俺は鳥のさえずりで目を覚ました。窓から差し込む朝日が部屋を明るく照らしている。昨夜の深い眠りのおかげか、追放されてからずっと体にまとわりついていた鉛のような疲労感は、いくらか軽くなっていた。

約束通り、宿屋の主人は温かいスープと黒パンの朝食を用意してくれた。飾り気のない簡素な食事だったが、空っぽの胃には何よりのご馳走だった。

「兄ちゃん、今日はどうするんだい?」

カウンターで帳簿をつけていた主人のギルバートが、俺に尋ねた。

「少し情報を集めて、今後のことを決めようと思います」

「そうかい。この街には大きな本屋がある。地図や各地方の情報も手に入るだろう。頑張りなよ」

彼はそれ以上、俺の事情を詮索しようとはしなかった。そのさりげない気遣いがありがたい。俺は礼を言って宿を出た。

朝のアルクの街は活気に満ちていた。荷馬車が行き交い、商人たちの威勢の良い声が響く。俺はその流れに乗り、主人に教わった本屋へと向かった。

本屋は古いが、品揃えは豊富だった。俺は地理の棚から、この国で一番詳細だという地図を手に取る。そして、店主に気づかれないよう、そっと【万物解析】を発動した。

脳内に、地図に描かれた大陸の全体像が広がる。そして、主要な都市や街道の情報が、青白い文字となって次々と浮かび上がってきた。

【王都アヴァロン:王国の中心。政治経済の要。現在、勇者パーティー『光の剣』が拠点としている】

王都の名を見ただけで、胸に冷たいものが走る。あそこは、もう俺のいるべき場所ではない。

【商業都市ミストラル:南方に位置する交易の盛んな港町。富裕層が多く、物価が高い】

金のない俺が行っても、すぐに立ち行かなくなるだろう。

【城塞都市ヴォルガ:北方の国境に位置する軍事拠点。規律が厳しく、よそ者には排他的】

これも違う。俺は静かに暮らしたいだけだ。

いくつかの候補を頭の中で消していく。そして、地図の東の端、鬱蒼とした森と険しい山脈に囲まれた地域に、一つの街の名前を見つけた。

【辺境都市ラトナ:未開の地に近い冒険者の街。近年、新たな鉱脈が発見され、急速に発展中。魔物の活動も活発だが、高ランクの冒険者や貴族の干渉が少なく、実力さえあれば自由な暮らしが可能】

ラトナ。聞いたことのない名前だ。だが、その説明文は、今の俺にとって非常に魅力的だった。王都から遠く離れ、貴族の目も届きにくい。実力主義。未開の地が近いということは、俺の【万物解析】を活かせる未知の素材やダンジョンがあるかもしれない。

ここだ。俺が行くべき場所は。

俺は地図を購入し、本屋を後にした。目的地が決まれば、次に行うべきは旅の準備だ。追放時に渡された金は心許ないが、生き抜くためには最低限の装備が必要になる。

俺は街の武具屋が軒を連ねる一角へと足を向けた。その中でも一番大きな店を選び、中に入る。鉄と油の匂いが鼻をついた。壁には様々な種類の剣や鎧が掛けられているが、そのほとんどは冒険者向けの量産品だ。

「へい、らっしゃい。何を探してる?」

カウンターの奥から、無愛想な顔つきのドワーフの店主が顔を出した。俺は会釈しつつ、彼にスキルを向けた。

【名称:ドルガン】
【職業:武具職人兼店主】
【感情:値踏み、商売気】
【思考:『ひょろっとした兄ちゃんだな。金は持ってなさそうだ。安物の剣でも売りつけてやるか』】

分かりやすい思考に、思わず苦笑いが漏れる。俺は彼の考えを見透かしながら、店内を見て回るふりをした。もちろん、目についた商品全てを鑑定していく。

【鋼のロングソード:並の品。耐久性にやや難あり。値段は相場より二割増し】
【レザーアーマー:粗悪な革を使用。防御力は期待できない。典型的な安物買いの銭失い】

やはり、というべきか。素人目には分からない欠陥や、不当な値付けがされている商品ばかりだ。以前の俺なら、まんまと騙されていたことだろう。

一通り店内を見渡し、目ぼしいものがないことを確認した俺は、ふと、店の隅に無造実に立てかけられた一本の錆びついた短剣に気づいた。それは売り物というより、廃棄品のように見えた。

俺はそれに、何となく惹かれるものを感じて【万物解析】を使った。

【名称:名もなき職人の短剣】
【等級:逸品(ただし劣化が激しい)】
【来歴:五十年前に引退した伝説の職人”鉄心”が、遊び心で作った一本。素材はただの鉄だが、鍛え方と重心のバランスが神業の域に達している。切れ味はミスリル製に匹敵する】
【状態:手入れがされておらず、錆と刃こぼれが酷い。しかし、適切な研磨と手入れをすれば、本来の性能を取り戻す】
【潜在能力:所有者の魔力に馴染み、斬撃に属性を付与する可能性がある】

「……これは」

俺は息を呑んだ。こんな場所に、とんでもない掘り出し物が眠っていた。伝説の職人の名など聞いたこともないが、スキルがそう示すのなら間違いない。

俺はその短剣を手に取り、カウンターへ持っていく。

「店主、すみません。これはいくらですか?」

ドルガンは俺が持ってきた短剣を一瞥し、鼻で笑った。

「あん? なんだそりゃ。ああ、倉庫の掃除してたら出てきたガラクタだ。そんなもん、武器になるかよ」

彼の思考が流れ込んでくる。『なんだこの兄ちゃんは、見る目がないのか? まあいい、ただでやるのも癪だし、銅貨数枚で売りつけてやるか』。

「使い物にならないなら仕方ないですね。でも、俺にはこれくらいがお似合いかもしれません。銅貨五枚で譲ってはもらえませんか?」

「銅貨五枚だと? ハッ、物好きもいるもんだな。いいぜ、持ってきな!」

俺は笑顔で銅貨を払い、短剣を受け取った。店主は「ガラクタで儲けた」と満足げだったが、本当に得をしたのは俺の方だ。

同じ要領で、俺は防具も選んだ。客の目に付かない棚の奥に置かれていた、古い革鎧。鑑定すると、それは一見地味だが、沼トカゲの革という非常に頑丈な素材で作られた逸品だった。これも「古いだけの不用品」として、格安で手に入れることができた。

その他、旅に必要な水筒や保存食、砥石などを買い揃える。なけなしの金はほとんど尽きてしまったが、それ以上の価値がある装備を手に入れられた。これも全て、【万物解析】のおかげだ。

準備を終えた俺は、アルクの街の東門に立っていた。この門の先には、辺境都市ラトナへと続く長い道が伸びている。

振り返れば、俺がたった一日だけ滞在した街が見える。そして、そのさらに向こうには、俺が全てを失った王都がある。

もう、過去を振り返るのはやめにしよう。

俺がこれから歩むのは、誰にも決められていない、俺だけの道だ。この手にした力と、新しく得た武具だけが頼りだ。不安がないと言えば嘘になる。だが、それ以上に、これから始まる新しい人生への期待が胸を満たしていた。

「行くか」

小さく呟き、俺は新たな目的地に向けて、力強く第一歩を踏み出した。

空はどこまでも青く、澄み渡っていた。
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