鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第14話:解放の首輪

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「待て、と言ったんだ」

ザックは椅子から立ち上がり、鬼の形相で俺を睨みつけていた。酒場中の視線が、俺たち二人に集中する。

「もう勝負はついたはずですが」

俺はあくまで冷静に、そして少し挑発的に返した。熱くなった人間を操るのは、実に容易い。

「もう一勝負だ! 次で必ず、俺が勝つ!」

「しかし、あなたにはもう賭ける金がないでしょう」

俺の言葉に、ザックはぐっと唇を噛んだ。彼の思考が、怒りと屈辱に染まっているのが分かる。『このまま引き下がれるか! 何か……何か賭けるものは……』。

俺は、彼が待ち望んでいたであろう言葉を、静かに口にした。

「金がないというなら、他のものでも構いませんよ。あなたが持っている『商品』……例えば、あの銀髪の猫獣人の奴隷。彼女を賭けるというのなら、考えてやらなくもない」

その瞬間、ザックの目が大きく見開かれた。そして、彼の思考は俺の思った通りに動いた。『奴隷だと? あの猫獣人は高く売れる……。だが、この負けを取り返せるなら……そうだ、こいつを叩きのめして、奴隷も金も俺のものにしてやればいい!』。

彼の顔に、下劣な笑みが浮かぶ。

「面白い……。いいだろう、小僧! その勝負、乗った! 次の勝負に俺が勝てば、お前が今日稼いだ金は全て俺のもの。そして、俺が負ければ……あの猫獣人はお前にくれてやる!」

ザックはそう叫んだ。周囲のギャラリーから「おいおい、マジかよ」「人間を賭けるなんて、外道だな」と囁き声が聞こえる。だが、熱に浮かされたザックの耳には、そんな声は届いていない。

「結構です。それで勝負しましょう」

俺は再び席に着いた。ディーラーが緊張した面持ちで新しいカードを配る。これが最後の勝負だ。負けることは、絶対に許されない。

カードが配られ、俺は【万物解析】を発動した。

ザックの手札は、悪くない。ツーペアが成立している。普通なら、十分に勝負できる手だ。しかし、俺の手元に配られたカードは、それを遥かに上回っていた。

フルハウス。ツーペアでは、絶対に勝てない。

俺は勝利を確信した。だが、油断はしない。勝負が終わるその瞬間まで、何が起こるか分からないのが人生だ。俺はポーカーフェイスを崩さず、冷静にゲームを進めた。

ザックは、自分の手が強いと信じ込んでいる。彼の思考は自信に満ち溢れていた。『今度こそ俺の勝ちだ! このガキの絶望する顔が目に浮かぶぜ!』。

彼は強気に賭けを進めてくる。俺はただ、静かにそれを受け続けるだけだった。

そして、最後のカードが交換され、最終的な賭けの段階になった。

「どうした、小僧! 降りるなら今のうちだぜ!」

ザックが勝利を確信したように叫ぶ。俺はゆっくりと顔を上げ、彼の目を見つめた。

「いいえ。俺は、あなたの全てを奪います」

俺はそう言って、自分の手札をテーブルに開いた。フルハウス。そのカードの組み合わせを見た瞬間、ザックの顔から全ての表情が消え去った。

彼の自信に満ちたツーペアが、俺のフルハウスの前では、まるで子供の遊びのように無力だった。

「…………は?」

ザックの口から、間抜けな声が漏れた。信じられない、という感情が彼の顔に浮かんでいる。そして、それはやがて絶望へと変わっていった。

「う……うそだ……。そんな……」

勝負は、ついた。酒場に満ちていた喧騒が、嘘のように静まり返っている。

俺はゆっくりと立ち上がった。

「約束通り、彼女は俺が引き取ります。鍵を、渡してもらおうか」

俺が言うと、ザックはわなわなと震えながら、よろよろと立ち上がった。

「ふ、ふざけるな! てめえ、やっぱりイカサマしやがったな! この勝負は無効だ!」

逆上したザックが、腰に下げていた錆びた短剣に手をかけた。周囲のギャラリーが、さっと身を引く。

だが、彼が短剣を抜き放つよりも早く、酒場の入り口から低い声が響いた。

「そこまでだ、ザック」

声の主は、酒場のマスターらしき、傷だらけの顔をした大男だった。彼は巨大な棍棒を肩に担ぎ、冷たい目でザックを睨みつけている。

「この店でイカサマを見抜けなかったお前が悪い。負けは負けだ。潔く認めな」

マスターの背後には、屈強な用心棒たちが数人控えている。ザックも、この店のルールを破ればどうなるか分かっているのだろう。彼は悔しそうに歯ぎしりし、短剣から手を離した。

「……チッ」

ザックは忌々しげに舌打ちすると、懐から一本の古びた鍵を取り出し、俺の足元に投げ捨てた。

「持ってけ、クソガキ! あんな役立たずの奴隷、くれてやるよ!」

俺は黙ってその鍵を拾い上げた。これが、ルナを縛る呪いからの解放の鍵だ。

俺は勝ち取った金と鍵を懐にしまうと、ザックにも、マスターにも一瞥もくれず、酒場を後にした。背後で、ザックの惨めな悪態が聞こえたが、もうどうでもよかった。

夜風が、火照った体を冷ましてくれる。俺は一刻も早くルナの元へ向かうため、あの薄暗い路地裏へと急いだ。

裏庭の扉を開けると、ルナは昼間と同じように、物置の壁に寄りかかって蹲っていた。物音に気づき、怯えたように顔を上げる。その大きな瞳が、俺の姿を捉えてわずかに見開かれた。

俺はゆっくりと彼女に近づき、その前に膝をついた。

「もう大丈夫だ」

俺はそう言って、拾った鍵を彼女の首輪の鍵穴に差し込んだ。カチリ、という乾いた音が、静かな夜の空気に響く。

鈍い金属音と共に、彼女を長年縛り付けていた隷属の首輪が、地面に落ちた。

解放の瞬間だった。

ルナは、何が起きたのか分からないといった表情で、自分の首元にそっと触れている。そして、俺の顔をじっと見つめた。その瞳には、恐怖や警戒心ではなく、戸惑いと、そして信じられないものを見るような色が浮かんでいた。

俺は彼女に向かって、できるだけ穏やかな声で言った。

「君はもう、自由だ」

その言葉が、ようやく彼女の心に届いたようだった。彼女の大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が零れ落ち始めた。それは悲しみの涙ではなく、長い苦しみから解放された、安堵の涙に見えた。

俺は何も言わず、ただ静かに、彼女が泣き止むのを待っていた。
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