鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第28話:解呪の方法

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シルフィの過去の告白は、広間に重く響き渡っていた。彼女の肩をさするルナの優しさが、この冷たい石造りの空間で唯一の温もりだった。

俺は黙って立ち上がり、シルフィに手を差し伸べた。

「立てるか。まずはここから出よう。こんな場所に長居するのは危険だ」

シルフィは俺の手を一瞥したが、それを取ることはなかった。彼女は自力で、ゆっくりと石柱を支えに立ち上がる。まだ俺たちに完全に心を許したわけではない。その意地が、彼女をかろうじて支えているようだった。

「……お前たちの助けは借りない。ここからは、また私一人で」

弱々しい声だったが、その言葉にはまだ拒絶の棘があった。

「馬鹿を言うな。その体でこれ以上進めると思っているのか」

俺は呆れて言った。「それに、約束しただろう。あんたの呪いを解くと。そのためにはあんたの協力が必要不可欠だ」

俺の言葉に、シルフィはぐっと唇を噛んだ。彼女の思考が流れ込んでくる。『こいつは、一体何者なんだ……。私の心を、見透かしているような……』。

「……呪いを解く方法など、あるはずがない」

「あるかないかは俺が判断する。いいから、その魔剣をもう一度よく見せろ」

俺は有無を言わせぬ口調で言った。シルフィは一瞬ためらったが、やがて諦めたように腰に差していた魔剣『ソウルイーター』を抜き、俺の前に差し出した。ただし、その切っ先は用心深く地面に向けられている。

俺は剣そのものには触れず、その黒曜石のような刀身に意識を集中させた。

【万物解析】。今度は、ただ情報を読み取るのではない。『解呪』という明確な目的を持って、その核心へと深く潜っていく。

ズキン、と脳の奥が痛んだ。伝説級の呪具に込められた呪いは、想像以上に複雑で強力だった。膨大な負のエネルギーと、製作者の邪悪な思念が渦を巻いている。

「ぐっ……!」

思わず呻き声が漏れる。額に、じわりと汗が滲んだ。

「アレンさん!?」

ルナが心配そうな声を上げる。シルフィも、驚いたように俺の顔を見た。

「大丈夫だ……。少し情報量が多いだけだ」

俺は歯を食いしばり、さらに深く意識を潜行させる。呪いの構造、その成り立ち、力の流れ。それらを一つ一つ、パズルのピースをはめるように解析していく。

そして、ついに見つけた。どんなに強力な呪いにも、必ずそれを構成する核と、それを打ち消すための『理』が存在する。そのわずかな綻びを、俺のスキルは見逃さなかった。

数分にも、数時間にも感じられた集中の後、俺は大きく息を吐きながら顔を上げた。

「……分かったぞ」

俺の額からは滝のように汗が流れていた。脳への負荷は相当なものだったようだ。だが、その代償に見合うだけの確かな情報を手に入れた。

「何が……分かったというんだ」

シルフィが、信じられないといった表情で尋ねる。

「解呪の方法だ。三つの材料と、一つの儀式が必要になる」

俺は少し覚束ない足取りで立ち上がり、シルフィに告げた。

「一つは、『迷いの森』の最奥に咲く、精霊の祝福を受けた月光草」

「月光草……? そんなもので、この呪いが解けるというのか」

「ただの月光草じゃない。特別なものだ。次に必要なのは、『聖なる泉』から湧き出る浄化の水」

「聖なる泉……聞いたこともない」

シルフィの表情は、まだ疑念に満ちている。

「そして最後の一つが一番重要だ」

俺は彼女の目を真っ直ぐに見据えた。

「あんた自身の血だ。ただし、呪いに穢れていない、純粋な生命力を持った一滴の血。今のあんたの血ではダメだ。呪いを浄化する儀式の過程で、あんたの生命力を一時的に活性化させる必要がある」

俺が告げた内容に、シルフィは完全に言葉を失っていた。それは、あまりにも具体的で、そしてどこか神話めいた話だった。

「そんなものが……本当に存在するのか。それに、儀式とは……」

「儀式は、月光草を泉の水で煎じ、聖なる呪文を唱えながらあんたに飲ませる。そして、活性化したあんたの血を魔剣に垂らす。それだけだ。呪文は俺の頭の中にある」

【万物解析】は、古代言語で記された解呪の呪文すら俺の脳に焼き付けていた。

俺のよどみない説明に、シルフィの頑なな表情が少しずつ揺らいでいくのが分かった。

「……信じられると思うか。そんな御伽噺のような話を」

彼女はそう言ったが、その声には以前のような強い拒絶はなかった。そこにあるのは戸惑いと、そして抑えきれない希望の光だった。

「信じるか信じないかは、あんたが決めることだ。だが、俺はこの方法に賭ける価値はあると思っている」

俺はそう言って、ひとまずこの話に区切りをつけた。

「どちらにせよ、まずはこのダンジョンを攻略するのが先だ。街に戻らなければ材料探しも始められない」

俺の提案に、シルフィはしばらく黙り込んでいた。彼女の中で、様々な感情が葛藤しているのが伝わってくる。長年の孤独と絶望。そして、目の前に突然現れた、ありえないほどの希望。

やがて、彼女は小さく、しかしはっきりと頷いた。

「……分かった。お前たちの力を一時的に借りてやる」

それは、彼女なりの降伏宣言だった。

「ただし、勘違いするな。これはあくまで呪いを解くためだ。お前たちの仲間になったつもりはない」

付け加えられた言葉は、いかにも彼女らしかった。俺は思わず口元を緩める。

「ああ、分かっているさ」

こうして、俺たちのパーティーに一時的ではあるが強力な前衛が加わった。孤高を貫いていたエルフの魔剣士、シルフィ。彼女のアレンへの感情の色が、『警戒』を示す青色の中に、ほんのわずかだが『興味』と『期待』を示す水色の光が混じり始めたのを、俺は見逃さなかった。

俺たちは三人で、このダンジョンの最深部を目指して再び歩き始めた。背中を預け合う仲間がいる。その感覚は、シルフィにとって一体どれほど久しぶりのものだったのだろうか。

その背中はまだ少し硬かったが、ここに来た時のような悲壮な孤独の色は、少しだけ薄れているように見えた。
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