鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第31話:聖なる泉の試練

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精霊の月光草を前に、俺たちはしばらく言葉を失っていた。それはただの植物というより、まるで光そのものが形になったかのような、神々しいまでの美しさを放っていた。

「……これが」

シルフィが震える声で呟く。彼女の瞳は、目の前の奇跡に釘付けになっていた。

俺はそっと月光草に近づき、懐から取り出した清浄な布でその茎を優しく包むようにして摘み取った。根を傷つけないよう細心の注意を払う。手にした月光草は、まるで生きているかのように温かい光を放っていた。

「よし、一つ目は手に入れたな」

俺は特別な革袋にそれを丁寧にしまい、シルフィに向き直った。

「次の目的地は、『聖なる泉』だ」

シルフィはまだ夢見心地のような表情で、こくりと頷いた。彼女の俺を見る目は、もはや疑念ではなく、畏敬に近い色を帯び始めている。

【シルフィからアレンへの好感度:50/100(信頼と期待/明るい紫色)】

好感度がまた一段階上がっていた。彼女の心の氷が、少しずつ溶け始めている証拠だ。

俺たちは迷いの森を、来た時と同じように俺のナビゲーションで難なく脱出した。森の外に出た時、シルフィは「まるで狐につままれたようだ」と呆然と呟いていた。

聖なる泉の場所については、俺のスキルがすでに新たな情報を提示してくれていた。それは、迷いの森からさらに北へ、険しい山脈を越えた先にあるという。

俺たちは近くの村で馬を借り、山脈を目指した。道中は険しかったが、三人のパーティーならば野盗や魔物の襲撃も問題なく切り抜けられた。シルフィの魔剣、ルナの速さ、そして俺の指揮。俺たちの連携は、旅を重ねるごとに洗練されていった。

そして、旅立つこと五日。俺たちはついに、目的の地にたどり着いた。

そこは、雪を頂いた険しい山々の懐に抱かれた神秘的な湖だった。湖の水は信じられないほど透明で、空の青をそのまま映し込んでいる。そして、湖の中央にある小さな島から絶えず清らかな水が湧き出て、滝となって湖に注がれていた。あれが『聖なる泉』に違いない。

「なんて……美しい場所なんだ」

シルフィが感嘆のため息を漏らす。この場所は、俗世から完全に切り離された聖域そのものだった。

問題は、どうやってあの島まで行くかだ。ボートのようなものは見当たらない。泳いで渡るには距離がありすぎるうえに、水が恐ろしく冷たい。

俺が思案していると、湖の水面がにわかに揺らめき、中から一体の美しい存在が姿を現した。

それは、水の衣をまとった女性の姿をしていた。髪は流れる水そのもので、瞳は湖の底のように深い青色をしている。彼女は、この泉を守る精霊だろう。

『この聖域に、何の用ですかな、人の子らよ』

その声は、水が奏でる音楽のように心地よく脳内に響いた。

俺は一歩前に出て、深々と頭を下げた。

「我々は、呪いを解くためにあなたの泉から湧き出る聖なる水を、少しだけ分けていただきたく参りました。どうか、お許しを」

俺が事情を話すと、水の精霊は静かに俺たちを見つめた。その視線は、全てを見透かすかのように鋭い。

『呪い……。なるほど、そのエルフの娘が持つ剣。確かに、古く邪悪な呪いが宿っていますね』

精霊は、シルフィの魔剣を一目で見抜いたようだった。

『ですが、この泉の水は誰にでも与えられるものではありません。水を授かるにふさわしいか、試練を受けてもらいます』

「試練、ですか」

『さよう。試練は一つ。あなたたちの『真実の心』を見せなさい』

真実の心。あまりにも漠然とした問いだった。

シルフィが焦ったように前に出ようとするのを、俺は手で制した。

「俺が受けます」

俺は覚悟を決め、精霊に向き直った。

『よろしい。では、問います。人の子よ、あなたは何故その娘を助けようとするのですか? 見返りも、名誉も、何も得られぬかもしれぬというのに』

精霊の問いが、俺の心の奥底に突き刺さる。

俺はなぜシルフィを助けようとしているのか。最初はただの興味だったかもしれない。彼女の抱える秘密と、その悲しい瞳が気になった。

だが、今は違う。

俺は、自分の心に正直に言葉を紡いだ。

「彼女が、仲間だからです」

シルフィの肩がびくりと震えるのが分かった。「仲間になったつもりはない」と、あれほど言っていた彼女だ。だが、俺にとってはもう彼女は紛れもない仲間だった。

「俺は、かつて仲間だと思っていた者たちに裏切られ、全てを失いました。もう二度と誰かと深く関わることはないと思っていました」

俺は、追放された日のことを思い出しながら静かに語った。

「でも、ルナと出会い、そしてシルフィ、あなたと出会って、俺はもう一度誰かのために力になりたいと、そう思ったんです。あなたが仲間を想う気持ちが、痛いほど分かったから。あなたの孤独を、俺が終わらせてやりたい。見返りなんていらない。ただ、仲間が苦しんでいるのを黙って見ていたくないだけです」

俺の言葉に嘘偽りはなかった。それが、俺の『真実の心』だった。

俺が語り終えると、水の精霊は、その美しい顔にふっと穏やかな笑みを浮かべた。

『……見事です、人の子よ。あなたの心は、この泉の水よりも澄み切っています』

その言葉と共に、精霊がすっと手を差し伸べると、湖の水がひとりでに盛り上がり、俺たちの前に一つの水の器を形作った。その中には、泉から湧き出たばかりの清らかな水が満たされている。

『試練は終わりです。その水をお持ちなさい。きっと、あなたの助けとなるでしょう』

俺は差し出された水の器を、恭しく両手で受け取った。ひんやりとした水は、まるで生命そのもののように温かいエネルギーを放っていた。

「ありがとうございます、精霊様」

俺が深く頭を下げると、精霊は満足そうに頷き、再び静かに水の中へと姿を消していった。

俺は、手にした聖水を持ってシルフィとルナの元へ戻った。

シルフィは顔を真っ赤にして俯いていた。先ほどの俺の『仲間』という言葉が、彼女の心を激しく揺さぶったのだろう。その耳の先まで赤くなっているのが、なんとも可愛らしい。

「アレンさん、かっこよかったです……!」

ルナは瞳をキラキラと輝かせ、俺を尊敬の眼差しで見つめていた。

「さあ、これで材料は二つ揃った。あとは儀式だけだ」

俺は少し照れくささを感じながらも、二人に力強く言った。

呪いの解放は、もう目前に迫っていた。俺たちは新たな希望を胸に、聖なる泉を後にするのだった。
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