鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第38話:信頼の言葉

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あの日以来、訓練場の空気は重く沈んでいた。フィオナは黙々と基礎訓練をこなしているが、その顔には以前のような輝きはない。大魔法の失敗とそれに伴うトラウマの再燃が、彼女から自信と笑顔を奪ってしまっていた。

ルナは心配そうにフィオナの隣に寄り添い、シルフィは少し離れた場所で腕を組みながら険しい顔でその様子を見守っている。

「……どうすりゃいいんだ、あれは」

シルフィが、吐き捨てるように言った。その声には苛立ちだけでなく、同じように過去に苦しんだ者としての、もどかしさが滲んでいる。

「フィオナさん、元気ないです……。私、何かできることないかな……」

ルナの大きな瞳が不安げに揺れる。

俺は、三人の様子を静かに見ていた。技術的な問題ではない。これは心の問題だ。フィオナが自分自身を信じられない限り、彼女は永遠にトラウマの檻から抜け出せないだろう。

ならば、俺が信じてやるしかない。俺の持つ、この絶対的な『真実』を見抜く力で。

その日の訓練が終わり、皆が帰り支度を始めた頃、俺はフィオナを呼び止めた。

「フィオナ、少し話がある」

俺の真剣な声に、フィオナの肩がびくりと震えた。「もう、見放されてしまうのだろうか」そんな不安が彼女の表情に浮かんでいた。

俺たちは二人きりで、夕日に染まる訓練場の隅に腰を下ろした。

「先生……ごめんなさい。私、やっぱりダメみたいです……。先生の期待に応えられなくて……」

フィオナは俯いたまま消え入りそうな声で言った。

「誰が、期待に応えろなんて言った?」

俺の言葉に、フィオナは驚いたように顔を上げた。

「君が失敗したのは君のせいじゃない。間違った教えと、君の才能を理解できない大人が押し付けた過剰な期待。それが、君を追い詰めただけだ」

俺は、彼女の瞳をまっすぐに見つめて言った。

「君の父親は、君を愛していなかったわけじゃないんだろう。ただ、その愛情の示し方を間違えただけだ」

【万物解析】で見た彼女の過去の記憶には、娘の才能を開花させられず焦り、苦悩する父親の姿も映っていた。彼はただ、どうすればいいか分からなかったのだ。

「……でも、私は失敗して、家を……」

「それは結果論だ。君は被害者なんだよ、フィオナ。自分を責めるのは、もうやめろ」

俺の言葉は、彼女がずっと誰かに言ってほしかった言葉だったのかもしれない。彼女の瞳から、堪えていた涙が再びぽろぽろとこぼれ落ちた。

俺は、彼女が泣き止むのを待ってから話を続けた。

「俺も、昔はそうだった」

俺は自分の過去を少しだけ話した。勇者パーティーで役立たずと蔑まれ、誰からも必要とされず追放されたこと。自分の存在価値が分からなくなり、絶望したこと。

「俺は自分のスキルを信じられなかった。周りの評価が全てだと思っていた。だが、違ったんだ。俺の価値は俺自身が決めるものだった。そして、俺の力を信じてくれる仲間が、俺に本当の強さを教えてくれた」

俺は隣で俺たちの様子を心配そうに見守っているルナとシルフィに、ちらりと視線を送った。

そして、再びフィオナに向き直る。

「フィオナ。君は自分を信じられないかもしれない。だが、俺は君を信じている」

俺は自分の胸を指差した。

「俺のスキルは、物事の本質を嘘偽りなく見抜く。その力が、君は本物の天才だとそう示しているんだ。君の魔力量、君の才能、それはこの国……いや、この大陸でも最高峰のものだ。それは、揺るぎようのない『真実』なんだ」

俺の言葉には一片の嘘も気休めもなかった。スキルが示す絶対的な事実を、俺はただ伝えているだけだ。

「だから、俺が保証する」

俺は彼女の震える両肩にそっと手を置いた。

「君なら、できる。君は落ちこぼれなんかじゃない。君は誰よりもすごい魔術師になれる。俺が、それを証明してみせる」

その力強い言葉は、フィオナの心の奥底まで確かに届いたようだった。

俺の視界の片隅で、俺からフィオナへと向けられた好感度が表示されていた。

【アレン・ウォーカーからフィオナへの好感度:80/100(絶対的な信頼/鮮やかな緑色)】

それは、師が弟子へ向ける揺るぎない信頼の色だった。

フィオナは涙で濡れた瞳で、俺の顔をじっと見つめていた。彼女の心の中で固く閉ざされていた扉が、ギシリと音を立てて少しだけ開いたのが分かった。

そこへ、ルナとシルフィが歩み寄ってきた。

「フィオ-フィオナさんなら、絶対できます! アレンさんが言うんだから、間違いありません!」

ルナが太陽のような笑顔で言う。

そして、シルフィもぶっきらぼうな口調ながら、その背中を押した。

「……フン。私もこいつに救われた身だ。お前のその訳の分からない力は、信じてみる価値はあるんだろうさ。……だから、いつまでもメソメソしてるんじゃないよ」

仲間たちの温かい言葉。それは、これまで孤独に戦ってきたフィオナにとって何よりも心強い支えとなっただろう。

フィオナは何度も何度も頷いた。そして、涙を拭うとまだ少し震えてはいたが、確かな意志を宿した瞳で俺を見上げた。

「……はい。私……もう一度やってみます。アレン先生と、皆を……信じてみます」

彼女の心の壁が完全に崩れたわけではない。トラウマという根深い呪いは、そう簡単には消えないだろう。

だが、その壁には確かに一つの大きな風穴が開いた。そこから、希望という名の光が差し込み始めている。

フィオナ・フォン・ローズベルクが、本当の意味で生まれ変わるための大きな、大きな一歩。

俺たちはその歴史的な瞬間を、確かに見届けたのだ。
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