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第39話:才能開花
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フィオナの心に、再び小さな火が灯った。だが、トラウマという壁を完全に乗り越えるには、言葉だけでは足りない。彼女が自分自身の力で成功を掴み取り、「自分はできる」という確固たる自信を得る必要があった。
その機会は、意外にも早く訪れた。
翌日、俺たちがギルドを訪れると、ミリーが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「アレンさん、大変よ! ラトナ西の農村地帯に、オークの群れが現れたらしいの!」
オーク。ゴブリンよりも遥かに体格が良く、知能も高い強力な魔物だ。それが群れで現れたとなれば、村一つが壊滅しかねない。
「数は三十体以上。中には、リーダー格のオークジェネラルもいるっていう話よ! ギルドでも緊急で討伐隊を編成しているところなんだけど……」
Cランク冒険者でも、複数パーティーで挑まなければならない危険な相手。ミリーは俺たちに、討伐隊への参加を要請してきた。
俺は、これがチャンスだと思った。
「分かりました。その依頼、俺たちだけで受けます」
「ええっ!? アレンさん、正気!? いくらあなたたちでも、オークの群れを三人だけでなんて無謀すぎるわ!」
ミリーが仰天する。シルフィでさえも「おい、いくらなんでもそれは……」と眉をひそめた。
だが、俺には確信があった。この戦いは、フィオナが覚醒するために必要不可欠な試練なのだと。
俺は、震えているフィオナの肩に手を置いた。
「フィオナ。君の力が必要だ。君の魔法があれば、オークの群れだろうと一掃できる」
「で、でも、私……」
フィオナは、まだ恐怖に顔をこわばらせている。
「俺を信じろと言ったはずだ。俺が君の隣にいる。絶対に君を一人にはしない」
俺の真剣な眼差しに、フィオナはごくりと唾を飲んだ。そして、隣に立つルナとシルフィの顔を見る。二人もまた、覚悟を決めたように力強く頷いていた。
「……分かりました。やります」
フィオナは、震える声で、しかしはっきりとそう答えた。
俺たちはギルドの反対を押し切り、単独で依頼を受けると、馬を借りて西の農村地帯へと急行した。
村に近づくにつれ、黒い煙が立ち上っているのが見えた。オークたちがすでに村を襲い始めているのだ。
村の入り口では、数人の村人と駆けつけた衛兵たちが必死に防衛線を張っていたが、オークの圧倒的な力の前に、じりじりと後退させられている。
「グオオオ!」
巨大な棍棒を振り回し、家々を破壊していくオークたち。その中心には、一際大きな体躯を誇り、精巧な鎧を身に着けたオークジェネラルが堂々と陣取っていた。
俺たちは馬から飛び降り、戦場のまっただ中へと駆け込んだ。
「ルナは村人の救助と、側面から回り込んでくる雑魚の処理を! シルフィは俺と一緒にジェネラルの足止めをする!」
「了解!」
「分かった!」
二人が同時に散開する。俺はフィオナの手を引き、戦況が一番見渡せる、少し小高い丘の上へと走った。
「フィオナ、ここからだ。ここから君の魔法で、全てを終わらせるんだ」
俺は彼女の背中を力強く押した。
「で、でも……村の人たちが……! 私の魔法が暴走したら……!」
彼女の最大の恐怖は、自分の力が守るべき人々を傷つけてしまうことだった。
「大丈夫だ」
俺は彼女の隣に立ち、その震える手を自分の手で包み込んだ。
「俺が君の魔力をナビゲートする。俺の言う通りに魔力を流すんだ。俺を信じろ」
俺は【万物解析】を全開にし、フィオナの体内の魔力の流れと、眼下の戦場の状況、その全てを同時に把握する。脳に凄まじい負荷がかかるが、今は耐えるしかなかった。
「いくぞ、フィオナ。詠唱を始めろ。中級範囲攻撃魔法、【ライトニング・フィールド】だ」
雷の魔法を選んだのは、味方を巻き込む危険性が炎の魔法より少ないと判断したからだ。
「は、はい……!」
フィオナは、俺の手に支えられながら震える声で詠唱を始めた。彼女の体から嵐のような魔力が溢れ出す。
「落ち着け、フィオナ! 呼吸を合わせろ! 吸って……吐いて……!」
俺は、彼女の背中をさすりながら、魔力の流れを導いていく。
「違う、腰に力が入りすぎている! もっと大地に根を張るように……!」
「そうだ、そのイメージだ! 魔力が君の手足となって広がっていく……!」
俺の言葉が彼女の乱れかけた魔力を、少しずつ正しい形へと整えていく。彼女の心に巣食う恐怖の『黒いモヤ』が、俺の『信頼』を示す緑色の光によって払われていくのが見えた。
詠唱は最終段階に差し掛かっていた。フィオナの頭上に魔力が収束し、巨大な雷の渦が形成され始める。空がにわかに曇り、雷鳴が轟く。
眼下のオークたちも、その異常事態に気づき空を見上げていた。
「フィオナ、今だ! あのジェネラルを中心に、全ての敵を薙ぎ払え!」
「―――ッ!」
フィオナが叫びと共に杖を振り下ろした。
その瞬間、天から数十本もの雷の槍が、オークの群れへと降り注いだ。
ゴウッ、ゴウッ、ゴウッ!
耳をつんざくような轟音と共に、大地が揺れる。雷の槍はオークたちを正確に貫き、その体を黒焦げにしていく。村人や衛兵たちには一本も当たることなく、敵だけを的確に殲滅していく、完璧に制御された大魔法だった。
「グ……オオオ……!?」
オークジェネラルも数本の雷に貫かれ、黒い煙を上げながらその場に膝をついた。
たった一撃。たった一撃で、あれだけいたオークの群れが壊滅状態に陥ったのだ。
村人たちも、衛兵も、そして俺の指示で戦っていたルナとシルフィさえも、その圧倒的な光景に言葉を失っていた。
「……できた」
フィオナが震える声で呟いた。彼女は自分の杖と眼下の光景を、信じられないといった表情で見つめている。
「私……できたんだ……!」
彼女の瞳から再び涙が溢れ出した。だが、それはもう恐怖や悲しみの涙ではなかった。
自分の殻を破り、本当の力を手に入れた歓喜の涙だった。
彼女の心の壁は、今、完全に崩れ去った。黒いモヤは跡形もなく消え去り、そこにはどこまでも澄み切った、強大な魔術師の魂が輝いている。
フィオナ・フォン・ローズベルク、覚醒の瞬間だった。
俺は、そんな彼女の姿を心からの笑顔で見守っていた。
このパーティーに、最強の『切り札』が加わったのだ。
その機会は、意外にも早く訪れた。
翌日、俺たちがギルドを訪れると、ミリーが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「アレンさん、大変よ! ラトナ西の農村地帯に、オークの群れが現れたらしいの!」
オーク。ゴブリンよりも遥かに体格が良く、知能も高い強力な魔物だ。それが群れで現れたとなれば、村一つが壊滅しかねない。
「数は三十体以上。中には、リーダー格のオークジェネラルもいるっていう話よ! ギルドでも緊急で討伐隊を編成しているところなんだけど……」
Cランク冒険者でも、複数パーティーで挑まなければならない危険な相手。ミリーは俺たちに、討伐隊への参加を要請してきた。
俺は、これがチャンスだと思った。
「分かりました。その依頼、俺たちだけで受けます」
「ええっ!? アレンさん、正気!? いくらあなたたちでも、オークの群れを三人だけでなんて無謀すぎるわ!」
ミリーが仰天する。シルフィでさえも「おい、いくらなんでもそれは……」と眉をひそめた。
だが、俺には確信があった。この戦いは、フィオナが覚醒するために必要不可欠な試練なのだと。
俺は、震えているフィオナの肩に手を置いた。
「フィオナ。君の力が必要だ。君の魔法があれば、オークの群れだろうと一掃できる」
「で、でも、私……」
フィオナは、まだ恐怖に顔をこわばらせている。
「俺を信じろと言ったはずだ。俺が君の隣にいる。絶対に君を一人にはしない」
俺の真剣な眼差しに、フィオナはごくりと唾を飲んだ。そして、隣に立つルナとシルフィの顔を見る。二人もまた、覚悟を決めたように力強く頷いていた。
「……分かりました。やります」
フィオナは、震える声で、しかしはっきりとそう答えた。
俺たちはギルドの反対を押し切り、単独で依頼を受けると、馬を借りて西の農村地帯へと急行した。
村に近づくにつれ、黒い煙が立ち上っているのが見えた。オークたちがすでに村を襲い始めているのだ。
村の入り口では、数人の村人と駆けつけた衛兵たちが必死に防衛線を張っていたが、オークの圧倒的な力の前に、じりじりと後退させられている。
「グオオオ!」
巨大な棍棒を振り回し、家々を破壊していくオークたち。その中心には、一際大きな体躯を誇り、精巧な鎧を身に着けたオークジェネラルが堂々と陣取っていた。
俺たちは馬から飛び降り、戦場のまっただ中へと駆け込んだ。
「ルナは村人の救助と、側面から回り込んでくる雑魚の処理を! シルフィは俺と一緒にジェネラルの足止めをする!」
「了解!」
「分かった!」
二人が同時に散開する。俺はフィオナの手を引き、戦況が一番見渡せる、少し小高い丘の上へと走った。
「フィオナ、ここからだ。ここから君の魔法で、全てを終わらせるんだ」
俺は彼女の背中を力強く押した。
「で、でも……村の人たちが……! 私の魔法が暴走したら……!」
彼女の最大の恐怖は、自分の力が守るべき人々を傷つけてしまうことだった。
「大丈夫だ」
俺は彼女の隣に立ち、その震える手を自分の手で包み込んだ。
「俺が君の魔力をナビゲートする。俺の言う通りに魔力を流すんだ。俺を信じろ」
俺は【万物解析】を全開にし、フィオナの体内の魔力の流れと、眼下の戦場の状況、その全てを同時に把握する。脳に凄まじい負荷がかかるが、今は耐えるしかなかった。
「いくぞ、フィオナ。詠唱を始めろ。中級範囲攻撃魔法、【ライトニング・フィールド】だ」
雷の魔法を選んだのは、味方を巻き込む危険性が炎の魔法より少ないと判断したからだ。
「は、はい……!」
フィオナは、俺の手に支えられながら震える声で詠唱を始めた。彼女の体から嵐のような魔力が溢れ出す。
「落ち着け、フィオナ! 呼吸を合わせろ! 吸って……吐いて……!」
俺は、彼女の背中をさすりながら、魔力の流れを導いていく。
「違う、腰に力が入りすぎている! もっと大地に根を張るように……!」
「そうだ、そのイメージだ! 魔力が君の手足となって広がっていく……!」
俺の言葉が彼女の乱れかけた魔力を、少しずつ正しい形へと整えていく。彼女の心に巣食う恐怖の『黒いモヤ』が、俺の『信頼』を示す緑色の光によって払われていくのが見えた。
詠唱は最終段階に差し掛かっていた。フィオナの頭上に魔力が収束し、巨大な雷の渦が形成され始める。空がにわかに曇り、雷鳴が轟く。
眼下のオークたちも、その異常事態に気づき空を見上げていた。
「フィオナ、今だ! あのジェネラルを中心に、全ての敵を薙ぎ払え!」
「―――ッ!」
フィオナが叫びと共に杖を振り下ろした。
その瞬間、天から数十本もの雷の槍が、オークの群れへと降り注いだ。
ゴウッ、ゴウッ、ゴウッ!
耳をつんざくような轟音と共に、大地が揺れる。雷の槍はオークたちを正確に貫き、その体を黒焦げにしていく。村人や衛兵たちには一本も当たることなく、敵だけを的確に殲滅していく、完璧に制御された大魔法だった。
「グ……オオオ……!?」
オークジェネラルも数本の雷に貫かれ、黒い煙を上げながらその場に膝をついた。
たった一撃。たった一撃で、あれだけいたオークの群れが壊滅状態に陥ったのだ。
村人たちも、衛兵も、そして俺の指示で戦っていたルナとシルフィさえも、その圧倒的な光景に言葉を失っていた。
「……できた」
フィオナが震える声で呟いた。彼女は自分の杖と眼下の光景を、信じられないといった表情で見つめている。
「私……できたんだ……!」
彼女の瞳から再び涙が溢れ出した。だが、それはもう恐怖や悲しみの涙ではなかった。
自分の殻を破り、本当の力を手に入れた歓喜の涙だった。
彼女の心の壁は、今、完全に崩れ去った。黒いモヤは跡形もなく消え去り、そこにはどこまでも澄み切った、強大な魔術師の魂が輝いている。
フィオナ・フォン・ローズベルク、覚醒の瞬間だった。
俺は、そんな彼女の姿を心からの笑顔で見守っていた。
このパーティーに、最強の『切り札』が加わったのだ。
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